Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
24 / 132
まだなの?

第23話 コランと夜の森

しおりを挟む
 森に入ったわたしはすぐに獣を見つけた。

 こんな暗闇の中だというのに獲物を見つけられた理由は簡単で、不思議と生き物が暖色に光って見えるのだ。

 わたしがまず最初に仕掛けたのは突進獣。
 夜でも元気に動き回っているが、奴らは前に直進することでしか速度を出せない上、それが唯一ゆいいつの攻撃手段だ。
 まだ狩り慣れしていないわたしでもねらえる良い獲物だろう。

 わたしが駆けだすと、奴らも気が付いたのかこちらに向かって突進してきた。

 互いに距離をめた為、このまま行けばものすごい勢いで衝突しょうとつする。
 正面からぶつかれば私の倍程はある、あの巨体に吹き飛ばされてしまうだろう。

 わたしは衝突の寸前に身をらし、刀身だけを突進獣の進路上に残して振りはらった。

 柔らかい土のせいで足場が悪く、速度を出していた為に上手くれない。

 もしかしたら押し負けるかもしれないと思ったが、刀身が突進獣の牙と頭に当たる瞬間、一瞬抵抗を感じただけ。
 後はあっさりとその体を両断してしまった。

 あまりにも呆気なく倒れる獣に唖然あぜんとしていると、その血の匂いにつられてか、茂みの向こう今度は大喰おおぐらいが現れた。
 いや、タイミングからしてこちらの様子をうかがっていたのかもしれない。

 黒い毛に覆われた巨体。
 その腕から繰り出される一撃は木の幹も砕くほどの威力だと聞いたことがある。
 移動速度も突進獣を直線距離で捕獲できるほど素早い。

 加えて、執念深しゅうねんぶかい性格の為、狙われた者は生きて森を出る事は出来ないと言われる程の存在だ。

 緊張した面持ちで大喰らいと対面するが、相手はこちらなどには興味がないと言った風に、両断された突進獣をむさぼり始めた。

 それはわたしの獲物だ!

 わたしは感情のままに大喰らいに刀身を振り下ろす。
 すると、その頭は簡単にくだけ、大喰らいは動かなくなった。

 …なんだ。簡単じゃない。

 わたしは今までの高揚こうようしていた感覚がふっと抜けるのを感じた。
 それと同時にどっと疲労感がこみあげてくる。

 今日はもう帰ろう。狩人ですら仕留められないような大物を狩ったんだ。これで十分だろう。

 獲物を背負って帰ろうとするが、何故か先程までの力が全く出なかった。

 …そういえば周囲の景色や動物も全く見えなくなっている。

 …力が無くなった?

 そう思うと今まで何とも思っていなかった、森の恐怖がわたしを襲う。

 何も見えない森。
 突進獣はわたしが今、見る事のできる数倍の距離でも、わたしを見つけ襲ってきた。
 闇の中から突然あの速度で突進されれば、力の無いわたしではすべがないだろう。

 大喰らいなどもっての外だ。
 勝てるわけがないし、逃げられるわけもない。
 今だって相手が油断していたから勝てたのであって、力があっても正面から勝てる保証などどこにもないのだ。

 もし捕まれば…奴は生きたままの相手でも喰らうという。
 考えるだけでも腰が抜けてしまった。

 その場にへたり込むともう動けなくなってしまう。
 それにこんなに怖いのに、とてつもなく眠い。

 ここで寝たら死んでしまう。
 そんなことは分かっているのにまぶたが言う事を聞かなかった。

 まどろむ意識の中、大きな白い影が私の前に現れた。
 逃げなければいけない。絶対に勝てないと本能が警鐘けいしょうを鳴らす。
 しかし悲しいかな、わたしには指一本動かす力も残っていなかった。

 もう終わった。そう思うと、そしてその白い影から小さな子が飛び降りてきた。
 綺麗な黒髪にをした彼はわたしの顔を覗き込んで…。

 そこで私の意識は完全に途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

二次ヒーロー. 私の親友は主人公の女性で、彼女が私を別の世界に引きずり込み、私は脇役になりました。

RexxsA
ファンタジー
私の名前はアレックス・ササキ。危機に瀕した世界を救うために友人とともに召喚されました。 しかし、この物語では親友のエミが主人公であり、私はドラマからは距離を置く脇役に過ぎません。 目立ちたくない私とは裏腹に、恵美はいつも私を問題に巻き込んでしまう。 私の能力は決して素晴らしいものではありません。私が成功の背後にあることを誰にも知られずに、周りの人たちを強化し、障害を克服するために必要な後押しを与えることができます。 エミが壮大な戦いや課題に直面している間、私は影に残り、脚光を浴びることなく意図せず手伝い

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...