20 / 132
まだなの?
第19話 ミランと飢饉
しおりを挟む
そろそろ秋だ。冬になる前に食糧を貯えなければならない。
私、ミラン・バインは焦っていた。
いや、焦っているのは私だけではない。
村全体が燻るような焦りで満ちていた。
普段、森の奥にいる様な凶暴な生物達。
それらが村近くの、浅い森を徘徊している為に、森に入ることができないのだ。
畑等も野生生物に襲われ、収穫間近だった作物も大半が駄目になってしまった。
普段でも死者が出る事のある冬越え。
今年はどう足掻いても半数以上が飢えで死んでしまうだろう。
もうすでに何度か、穀物庫に忍び込んだ人たちが奴隷送りになっている。
それでも尚、穀物庫に忍び込もうとする人々が減らない理由。
それは山に入るよりも、このまま冬を越すよりも、そちらの方が助かる可能性が高いと睨んでいるからに他ならない。
それだけ今この村は危機的状況なのだ。
私の家の畑も動物と…。人の手によって荒らされてしまった。
未だに犯人は見つかっていないが、そんなものを見つけても仕方がない。
それに村の皆で疑い合ったり奪い合ったりするのは嫌だ…。
こんな状況でも無ければ今頃は皆で楽しく収穫祭の準備をしているはずなのだ。
農家は髭を垂らした黄金粒種を皆で刈り取り、加工屋がそれをお酒やパンに加工する。
狩人たちは危険な大型動物を狩り、皆に肉を振る舞って、芸達者な者達が演奏や踊り、大道芸などを披露してくれる。
小さいながら、皆で作る温かいお祭りになるはずだったのだ。
…今、夫は歩いて片道3日ほどの距離にある隣村に向かっている。
家の家具などを食料に替えてもらう為だ。
だが、他の村人も同じことを考える為、足元を見られる。
それに向こうの村も冬越えに食糧が必要なのは同じだ。それを考えると一家三人分の食糧には足りない可能性がある。
…いや、確実に足りないと言っても過言ではないだろう。
加えて家には今年8歳のコランがいるのだ。
育ち盛りで食べ盛り、残った畑の作物も税として差し押さえられてしまった今、夫の帰りを安易な考えで待つことはできなかった。
家族がいる以上、盗みをする事は出来ない…。
捕まったら私が奴隷送りにされるどころか、逆に食料を取り上げられてしまうかもしれない。
それだけは避けなければならないのだ。
となると、残るは村の背面を覆う森…。
今では狩人が入れないどころか、冬場に近づき食料を求めた動物たちが村まで下りてくる始末だ。
普段温厚な斧角を持つ者であってもこの時期は餌を求め襲い掛かってくる可能性が高い。
今、あの森に入るのは自殺行為だろう。
…少なくとも夫が帰ってくるまでは待つべきか。
そうでないとコランが一人ぼっちになってしまうし、もしかしたら冬越えに十分な食料を持って夫が帰ってくるかもしれない。
もし足りないようなことがあれば…。覚悟はできている。
納屋の隅で埃をかぶっていた薙刀。
久しぶりに手にすると、夫や仲間と共に旅をした頃を思い出した。
それは残酷な場面も多々あったし、辛いこともあった。
しかし今にして思っても心温まる冒険だったことに変わりはない。
ふと、コランと夫が楽しそうに料理を作っている姿が思い浮かぶ。
どう取り繕っても震える手は抑えられなかった。
私、ミラン・バインは焦っていた。
いや、焦っているのは私だけではない。
村全体が燻るような焦りで満ちていた。
普段、森の奥にいる様な凶暴な生物達。
それらが村近くの、浅い森を徘徊している為に、森に入ることができないのだ。
畑等も野生生物に襲われ、収穫間近だった作物も大半が駄目になってしまった。
普段でも死者が出る事のある冬越え。
今年はどう足掻いても半数以上が飢えで死んでしまうだろう。
もうすでに何度か、穀物庫に忍び込んだ人たちが奴隷送りになっている。
それでも尚、穀物庫に忍び込もうとする人々が減らない理由。
それは山に入るよりも、このまま冬を越すよりも、そちらの方が助かる可能性が高いと睨んでいるからに他ならない。
それだけ今この村は危機的状況なのだ。
私の家の畑も動物と…。人の手によって荒らされてしまった。
未だに犯人は見つかっていないが、そんなものを見つけても仕方がない。
それに村の皆で疑い合ったり奪い合ったりするのは嫌だ…。
こんな状況でも無ければ今頃は皆で楽しく収穫祭の準備をしているはずなのだ。
農家は髭を垂らした黄金粒種を皆で刈り取り、加工屋がそれをお酒やパンに加工する。
狩人たちは危険な大型動物を狩り、皆に肉を振る舞って、芸達者な者達が演奏や踊り、大道芸などを披露してくれる。
小さいながら、皆で作る温かいお祭りになるはずだったのだ。
…今、夫は歩いて片道3日ほどの距離にある隣村に向かっている。
家の家具などを食料に替えてもらう為だ。
だが、他の村人も同じことを考える為、足元を見られる。
それに向こうの村も冬越えに食糧が必要なのは同じだ。それを考えると一家三人分の食糧には足りない可能性がある。
…いや、確実に足りないと言っても過言ではないだろう。
加えて家には今年8歳のコランがいるのだ。
育ち盛りで食べ盛り、残った畑の作物も税として差し押さえられてしまった今、夫の帰りを安易な考えで待つことはできなかった。
家族がいる以上、盗みをする事は出来ない…。
捕まったら私が奴隷送りにされるどころか、逆に食料を取り上げられてしまうかもしれない。
それだけは避けなければならないのだ。
となると、残るは村の背面を覆う森…。
今では狩人が入れないどころか、冬場に近づき食料を求めた動物たちが村まで下りてくる始末だ。
普段温厚な斧角を持つ者であってもこの時期は餌を求め襲い掛かってくる可能性が高い。
今、あの森に入るのは自殺行為だろう。
…少なくとも夫が帰ってくるまでは待つべきか。
そうでないとコランが一人ぼっちになってしまうし、もしかしたら冬越えに十分な食料を持って夫が帰ってくるかもしれない。
もし足りないようなことがあれば…。覚悟はできている。
納屋の隅で埃をかぶっていた薙刀。
久しぶりに手にすると、夫や仲間と共に旅をした頃を思い出した。
それは残酷な場面も多々あったし、辛いこともあった。
しかし今にして思っても心温まる冒険だったことに変わりはない。
ふと、コランと夫が楽しそうに料理を作っている姿が思い浮かぶ。
どう取り繕っても震える手は抑えられなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
ファンタジー
完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
幼子は最強のテイマーだと気付いていません!
akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。
森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。
だが其がそもそも規格外だった。
この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。
「みんなーあしょぼー!」
これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる