18 / 132
まだなの?
第17話 セッタと狩りの時間
しおりを挟む
はぁ…また母さんは…。
私は白い巨体を持ち上げると、メグルを抱えて離さない母さんの下に向かう。
今は夕方。
私たちが狩りに出る時間だ。
メグルはあの日以降、自主的に狩りについて来ようとするのだが、それを嫌がる母さんが駄々をこねる。
心配なのは分かるが、少し過保護すぎるというものだ。
唯一の救いはメグルが嫌がっていないというところだろうか。
流石の私でもあそこまでしつこくされたら苛立ってしまう。
しかし、そんなメグルも夜の時間だけは譲れないようで、母さんを説得して脱出を試みる。
それでも離れないときは…私の出番だ。
きっと昨晩、怪我をして帰ってきたのが気に入らないのだろう。
しかし、擦り傷の一つや二つ草むらの中を走れば当然できる。
そんなことは母さんも分かってはいるのだ、分かってはいるのに放したくない。
もう説得ではどうにもならないだろう。
私は母さんの首根っこを咥え、持ち上げる。
「あぁ!待ってメグル!私を置いていかないで!」
母さんは演技掛かった様子でメグルに手を伸ばすが、本気ではない。
きっと自分でも止めてほしかったのだろう。
そのまま奥の部屋に母さんを引きずり込むと、口を離す。
「まってセッタ!」
母さんが踵を返そうとした私にしがみついた。
私はいつものか…と思いながら顔を向ける。
「メグルの事お願いね?あの子は人間で、その上子どもだから貴方や私の何倍も弱いの。だからちゃんと守ってあげて?お願いね…」
そんな事は分かっている。
「ワゥ」と軽く声を上げると、丁度メグルが隣の部屋からやってきた。
メグルは少し気まずそうな表情で笑い「行ってきます」と言う。
母さんはそれを聞いて安心したような、それでもなお不安そうな、相反した表情で「行ってらっしゃい」と答えた。
私は母さんの気が変わる前にメグルを咥えて背負う。
母さんは小さな声で「あっ」と声を上げたが、それ以上何も言うことなく、笑みを浮かべた。
今生の別れと言うわけでもない…なんて軽い事は思わない。いつだって森は死と隣り合わせだ。
実際に死んでしまった兄弟もいる。
そのような事実を踏まえての見送りなのだ。
私達は洞窟を出ると、外で待っていた兄弟たちが後ろをついてくる。
森を抜け、川を越えればそこは私たちの狩場。
ハウンドがいち速く駆け抜け、夜闇の中に消えていく。
それに合わせて反対側の草むらにステリアが消えていった。
あの二人は獲物がいても襲いはしない。
私たちにしか聞こえない高い音を出して標的を知らせるのだ。
他の兄弟たちはレトを中心に固まって森の中に消えていく。
シバは少し距離を置き気味だが、あれはあれで、遊撃、待ち伏せ、追撃、何でもありの有能な狩人だ。
皆とは少しギスギスしているが…。
狩りの時にそのような様子を見せる程皆子供ではない。
私の仕事と言えば、皆の指示を待つだけだ。
こんな目立つ色の巨体で歩いては獲物が逃げて行ってしまう。それに皆と距離を置けば有事の時に対応できない。
私の仕事は敵と出くわすか、大物を仕留める時だけなのだ。
そしてその自由時間がメグルの目的。武具に見立てた動物の骨などに奇怪な模様を彫っていく。
そこに骨の粉や、石の削りカス、植物や獲物を乾燥させ粉末状にしたものを詰め込むと、最後に自身の血を吸わせて、固める。何度見てもおかしな光景だ。
メグルはそうして出来た棍棒の様な骨を握ると、死の沼に豪雨の時期にだけ打ち上げられる死体から感じる甘美な香りを漂わせ、骨を平行に振るった。
瞬間、骨がその振りに合わせて自身も移動するように加速。
メグルはその振りに耐えられなくなり、棍棒から手を離すと、腕を離れた棍棒は速度そのまま、少し飛行した後近くの木にぶつかり砕け散った。
実に危ない。絶対に母さんの目の前ではできないだろう。
もし一度でも見せようものなら今の監視が数倍、厳しくなる。
これでも最初の手元で大爆発していた頃に比べればましになっているというのだから、母さんからしたらたまったものではないだろう。
メグルは「あれぇ?」と頭を掻くと、地面に木の枝で奇怪な模様を描き始めた。
きっと失敗した理由を探しているのだろう。
私は砕け散って尚、甘美な香りのする骨を齧りながら、メグルを見守った。
私は白い巨体を持ち上げると、メグルを抱えて離さない母さんの下に向かう。
今は夕方。
私たちが狩りに出る時間だ。
メグルはあの日以降、自主的に狩りについて来ようとするのだが、それを嫌がる母さんが駄々をこねる。
心配なのは分かるが、少し過保護すぎるというものだ。
唯一の救いはメグルが嫌がっていないというところだろうか。
流石の私でもあそこまでしつこくされたら苛立ってしまう。
しかし、そんなメグルも夜の時間だけは譲れないようで、母さんを説得して脱出を試みる。
それでも離れないときは…私の出番だ。
きっと昨晩、怪我をして帰ってきたのが気に入らないのだろう。
しかし、擦り傷の一つや二つ草むらの中を走れば当然できる。
そんなことは母さんも分かってはいるのだ、分かってはいるのに放したくない。
もう説得ではどうにもならないだろう。
私は母さんの首根っこを咥え、持ち上げる。
「あぁ!待ってメグル!私を置いていかないで!」
母さんは演技掛かった様子でメグルに手を伸ばすが、本気ではない。
きっと自分でも止めてほしかったのだろう。
そのまま奥の部屋に母さんを引きずり込むと、口を離す。
「まってセッタ!」
母さんが踵を返そうとした私にしがみついた。
私はいつものか…と思いながら顔を向ける。
「メグルの事お願いね?あの子は人間で、その上子どもだから貴方や私の何倍も弱いの。だからちゃんと守ってあげて?お願いね…」
そんな事は分かっている。
「ワゥ」と軽く声を上げると、丁度メグルが隣の部屋からやってきた。
メグルは少し気まずそうな表情で笑い「行ってきます」と言う。
母さんはそれを聞いて安心したような、それでもなお不安そうな、相反した表情で「行ってらっしゃい」と答えた。
私は母さんの気が変わる前にメグルを咥えて背負う。
母さんは小さな声で「あっ」と声を上げたが、それ以上何も言うことなく、笑みを浮かべた。
今生の別れと言うわけでもない…なんて軽い事は思わない。いつだって森は死と隣り合わせだ。
実際に死んでしまった兄弟もいる。
そのような事実を踏まえての見送りなのだ。
私達は洞窟を出ると、外で待っていた兄弟たちが後ろをついてくる。
森を抜け、川を越えればそこは私たちの狩場。
ハウンドがいち速く駆け抜け、夜闇の中に消えていく。
それに合わせて反対側の草むらにステリアが消えていった。
あの二人は獲物がいても襲いはしない。
私たちにしか聞こえない高い音を出して標的を知らせるのだ。
他の兄弟たちはレトを中心に固まって森の中に消えていく。
シバは少し距離を置き気味だが、あれはあれで、遊撃、待ち伏せ、追撃、何でもありの有能な狩人だ。
皆とは少しギスギスしているが…。
狩りの時にそのような様子を見せる程皆子供ではない。
私の仕事と言えば、皆の指示を待つだけだ。
こんな目立つ色の巨体で歩いては獲物が逃げて行ってしまう。それに皆と距離を置けば有事の時に対応できない。
私の仕事は敵と出くわすか、大物を仕留める時だけなのだ。
そしてその自由時間がメグルの目的。武具に見立てた動物の骨などに奇怪な模様を彫っていく。
そこに骨の粉や、石の削りカス、植物や獲物を乾燥させ粉末状にしたものを詰め込むと、最後に自身の血を吸わせて、固める。何度見てもおかしな光景だ。
メグルはそうして出来た棍棒の様な骨を握ると、死の沼に豪雨の時期にだけ打ち上げられる死体から感じる甘美な香りを漂わせ、骨を平行に振るった。
瞬間、骨がその振りに合わせて自身も移動するように加速。
メグルはその振りに耐えられなくなり、棍棒から手を離すと、腕を離れた棍棒は速度そのまま、少し飛行した後近くの木にぶつかり砕け散った。
実に危ない。絶対に母さんの目の前ではできないだろう。
もし一度でも見せようものなら今の監視が数倍、厳しくなる。
これでも最初の手元で大爆発していた頃に比べればましになっているというのだから、母さんからしたらたまったものではないだろう。
メグルは「あれぇ?」と頭を掻くと、地面に木の枝で奇怪な模様を描き始めた。
きっと失敗した理由を探しているのだろう。
私は砕け散って尚、甘美な香りのする骨を齧りながら、メグルを見守った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる現代暗躍復讐譚~
三十三太郎
ファンタジー
10月31日 23:00 虹のように光る流星が夜空に流れる。異世界との世界間接続魔法による魔力流入の光を、人々が流星と錯覚したのだ。こうして異世界と繋がった平行世界の日本にて、魔法により居場所を得た男、墨谷七郎。仲間、かけがえのない友、その全てをある長い夜の中失ってしまう。後悔と憎悪を引きずりながら、狂気的な方法で失ったモノを取り戻そうとする七郎。その彼を慕う少女や彼に許しを請う者、彼女達が突き放され「もう手遅れだった。愛されない。許されない」と理解させられてゆく。明けない夜の中、幽かな光に縋りついた男の物語。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる