Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
16 / 132
おはよ。

第16話 メグルと魔法

しおりを挟む


だぁれだよぉ、お前! とか言いたくなった。

そんなセリフ、俺が言ったのか。

顔から火が出そうだ、朝っぱらから。

「学校行きたくねぇ」

まさかの理由で登校拒否したくなると思わなかった。

学校に行きたくないのは、あいつとした会話のこともそうだけど。

「…………はあぁぁーーーーー」

俺がやった行動が、俺的に大問題。

でも作家的にはナイスだったらしい。

しかも、あやうく車の中で18禁に突入するきっかけを起こされかかってたっていう……。

恋してんだろうなと神田に囁いた時、そのまま耳の後ろにわざとリップ音をたてながらキスをしてた俺。

「うあああああああ」

恥ずかしい!

そんなこと、絶対しない! お・れ・な・ら!

夢を見るように、自分がしたことを、作家曰く脳内再生でエンドリピってやつで知らされた。

その内容の中で、作家が俺がやめてくれ! って思うような展開を途中まで書いたりもして、何度か車内で時間の巻き戻しみたいな感覚があった。

自分が女を口説くところを、後々自分で鑑賞するハメになるって、どういう事態だよ。

俺の行動と発言のどこからどこまで、俺は干渉できるのか…いまだつかめていない。

どうにかして、最悪の事態は免れたい。

「この場合の最悪って、どこまでのことだろうな」

最近ため息ばっかりだ。

昨日のやり直しめいたことがなきゃ、彼女の耳裏にキスをした後、そのまま助手席を倒して。

「最後までとはいかずとも、服の上からあいつの……」

自分が意識していないところで触れて、書き直して、違う展開にして。

ってやったはずなのに、この手のひらに残っている気がして朝から頭の中がふしだらだ。

胸だけだったとはいえ、あいつの体に触れた。

展開が変わったはずなのに、あいつの口からもれた…女のアノ声。

どこか照れが混じった、決して普段聞くことがないはずの声。声っていうか、吐息?

それが耳について、離れない。

「……………………デカかったな」

手のひらに収まらなかった。

手のひらにも、その感触が残ってる。

「あぁ、もう」

もてあます歯がゆさに、頭を抱える。

たとえきっかけがどこぞの作者がよこした恋なんだとしても、俺があいつに対して好意を持っていることを消したいと思えない。

俺自身、もう…。

「好きになってんだろ」

最近増えたため息の理由わけは、あいつ一択。

それを不快に感じていない。

学校で自分がやらなきゃいけないことを順番に片していったとしても、サブリミナルみたいにあいつの顔や声や言葉が俺の中に必ず存在しつつある。

忘れないでと言われているような、自分に気づいてほしがっているような。

ノイズっぽい感覚もある。

今自分が置かれている状態が小説の中ってわかっていなきゃ、自分の中で何が起きているのかわからなくて、混乱してどう動いていいのかわからなくなっていただろう。

誰かに相談したかもしれない。

同期の保険医に聞いたかもしれないな。

俺の体がなんか変とか口走った可能性がある。

それをきっと笑われて終わっていたかも。

「そういや」

俺以外にも、この世界が二次小説って言われている場所だって知ってるのかな。

知ってて、自分が望む方にどうにかしようとするんだろうか。

とはいえ、異常なことではあるから、聞きまわるわけにもいかない。

「……それは、さておき」

やっぱり学校に行きたくない。

「会ったら、どんな顔してりゃいいんだ」

なんてボヤきつつ、タバコに手を伸ばした時だ。

「う…あっ」

目の前の景色が歪んだ。

見覚えのある景色。

(またかよ)

抗えなかった、今回も。

「先生ぇー、おはよ」

俺は学校の門のそばに立っていて。

「センセ、寝不足? 俺らより歳なんだから、無理すんなよ?」

「それな!」

「あっはははは」

見慣れたバスケ部のやつらに、からかわれていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...