Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
11 / 132
おはよ。

第11話 メグルと初めての夜歩き

しおりを挟む
 日が落ち、外は真っ暗だった。
 空はまだどんよりとした雲を抱え込んでいた事もあって、夜闇がさらに深くなる。

「この様子だと明日も降りそうだね…」
 セッタ姉さんの背に乗ったまま森の中を移動する僕は誰に言うわけでもなくそう呟いた。

 すると、姉さんが「おぅ」と、短く返事を返してくれる。
 これは肯定的こうていてきな返事のはずだ。

 もう何週間も一緒に過ごしているので簡単な意思表示は理解できるようになっている。
 マロウさんと比べれば足元にもおよばないけどね。

 兄弟皆人間の言葉をある程度理解しているので、意思疎通と言う点では僕が一番つたない。
 まぁ最年少だし許してくれるよね?

 セッタ姉さんを先頭に兄弟たちが付いてくる。

 いつも女性陣に翻弄ほんろうされているイメージのハウンド。
 ふざけ合っているコッカ―達が一糸乱れぬ隊列で辺りを警戒している姿を見ると、いつも家でゴロゴロしている父さんの仕事っぷりを見せつけられた気分だった。

 しかし、何故突然に僕を夜の森へと連れだしたのだろうか。
 それにどこに向かっているのかも気になる。
 何かを獲物を探っている様子もないので、目的地はあるのだろうが…。狩場か何かだろうか。

 疑問を声に出したいのは山々なのだが、いつも騒がしいコッカ―達までもが真剣に辺りを見回している様子を見ると、簡単に声は出せなかった。
 きっとそれ程に夜の森と言うのは恐ろしいのだろう。

 …というかさっきのセッタ姉さんの返事は本当に肯定だったのだろうか。
 実はいさめられていたりして…。ありうる…。

 心配になり姉さんを見つめるが、特に変わった様子はない。
 僕もあれから一言も発していないし、忠告を破ったことにはならないだろうが…。
 余計に声を掛けにくくなってしまった。

 無言でセッタ姉さんの背に揺られる事、数十分。物凄い勢いで水が流れる音が聞こえてきた。
 きっといつも使っている川が連日の大雨で氾濫はんらんしたのだろう。

 何故か姉さんたちはその音のする方向に近づいていく。
 氾濫した川になんて立ち寄って何をしようと言うのだろうか。
 流石にこれだけの轟音ごうおんの中では声を出しても大丈夫だろうと、口を開く。

「姉さんたちは何をするつもりなの?」

 しかし、返ってきたのは「わふ」と息を抜くような短い返事だけ。
 着けばわかるという事だろうか?

 そのまましばらく歩くと案の定、氾濫した川が見えてきた。
 いつも広く感じていた河原が、丁度氾濫区域だったのだろう。
 森の入り口まで濁流だくりゅうが押し寄せていたが、木がなぎ倒されている様子はなかった。
 …それでも危ないことに変わりはないが。

 姉さんたちは氾濫した川縁かわべりを上流へと向かって進んでいく。
 一体何があるというのだろうか。

 僕は”記憶”を引き出そうとするが、残念ながらこの山に関する物はない。
 まぁ、思い出そうとして思い出せる事などほとんど無いので、眠っているだけかもしれないが。

 姉さんたちはしきりに足元を気にしている。
 何かを探しているようだが、この様子だと、上から濁流によって運ばれてくる物を探しているようだ。

 しかし、お目当てのものがなかったのだろう。
 姉さんたちは探し物に熱中しているのか、どんどんと川をさかのぼって行く。

 その速度は徐々に増していき、僕はしがみ付くので精いっぱいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希
ファンタジー
 冒険者パーティに所属できる新人枠は二名まで。何故なら新人には、冒険者協会から人生でただ一度だけ使える『魂にスキルを刻む刻印のスクロール』が与えられるからだ。そして新人冒険者リクルのスキルは【レバレッジたったの1.0】という無意味な物だった。新しい新人確保のため、あっさりその場でパーティから放逐されたリクル。だが、そのスキルには大きな成長へと繋がる隠された秘密があったのだ。そしてエルフの聖女率いる上級冒険者パーティと共に北方の聖教国を目指す事になったリクルは、やがて成長し勇者を拝命する事になった。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

処理中です...