Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
9 / 132
おはよ。

第9話 メグルと梅雨

しおりを挟む
《ザァァァ》

 外は今日もザァザァ振り。
 ここ一週間まともに晴れたためしがない。

「クゥン・・・」

 ビーグが飽きたというようにのどを鳴らし、尻尾で床を叩く。

 それはみんなも同じようで、ハウンドの隣にたたずむステリア以外、皆一様にぐでーっとしている。

「梅雨ですね…」

 木の枠と葉っぱで作った扉のおかげで部屋の中にまで雨が入ってくることはないが、このジメジメとした空気はどうにもならない。

 現在僕はすすを混ぜた黒いうるしを、木から削り出したおわんに塗っているところだ。
 この体は漆に耐性がある様で、素手で扱っても全く手がかゆくなる事がなかった。

 と言っても葉一枚かませて漆に触るようにはしている。
 塗るのも鹿や猪、セッタの抜け毛を使った筆を使ってだ。
 あんまり触りすぎると急にアレルギーが出たりするらしいからね。

 雨のおかげで水汲みにもいかなくていいし、胡椒こしょうの代わりが見つかったので保管の効く干し肉もそれなりに用意できた。
 栄養化が偏るのは心配だが、もうしばらくは耐えられるだろう。

 漆を塗った器は一杯になった乾燥棚に乗せていく。
 正直、器を使うのは僕とマロウさんだけなのでそれほど数はいらないのだが、暇すぎて量産中なのだ。

 僕は一通り漆を塗り終わると外にある甲羅の水桶から水をすくい、手を洗う。
 ついでに空模様も確認してみるが、昼間なのに真っ暗。少なくとも日中に晴れる事はなさそうだった。

 部屋に戻った僕は棚の上から籠に入ったお手製のまりを取り出す。
 毬の中心には家の元食器を担当していた、直径20cm程の丸く硬い木の実が使われている。

 イメージとしてはココナッツと言ったところか。
 中に入っているのはドングリの様な、パサパサで苦い身なのが残念なところではあるが。

 そんな硬すぎるココナッツもどきの中身を抜き、外周を木の皮、そのまた外側を動物の皮で包んだ物がこの毬だ。

 作ったのは良いが結局遊びもしないので完全に忘れていた。

 丈夫でよく転がるのでコッカ―達なら良い暇つぶしになるかもしれない。
 試しにみんなの前に転がしてやると、皆の視線が一斉に毬に移った。



 始めに手を出したのは、ちょうど毬が目に前に来たビーグだった。
 押された毬はレトの方へ転がり始める。

 レトは興味なさ気に尻尾で毬を跳ね返す。今度はコッカ―の方へ。

 コッカ―はよし来た!と言わんばかりに毬に飛びつくと、毬を前足でいじくり始めた。

 中々毬が回ってこない事にしびれを切らしたビーグがコッカ―にからむと、しばらくのじゃれ合いの末、毬の取り合いが始まった。

 お互いの体を抑え込むことなく、毬だけを奪う。
 あれはあれで遊びとしてルールが成立しているようだった。

 セッタは相変わらずマロウさんを独り占めにしていて、それだけで満足なようだった。

 マロウさんもマロウさんでセッタを膝の上で撫でつつ、皆の様子を楽しそうに見守っている。

 ハウンドはコッカ―達を見てうずうずしているようだが、りんと佇むステリアの手前、動きだせないのか、悲しそうに尻尾を揺らしている。

 雨が続いているにもかかわらず、相変わらず帰ってこないシバは一体どうしているのだろう。
 そんなことを考えつつ、新しい籠を編み始めた僕を見てレトは退屈そうに欠伸をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*
ファンタジー
両親亡き後、叔父夫婦に冷遇されながら孤独に生きてきた少女・白銀葵。 道路に飛び出した子供を助けた事により命を落とした――はずだった。 神界で目を覚ました葵は時空の女神クロノスと出会い、自身の魂に特別な力が宿っていることを知る。 その答えを探すために異世界に転生することになった葵はシエル・フェンローズとして新たな人生を歩む事になった。 しかし転生召喚の儀式中、何者かに妨害され、危険区域ヴェルグリムの深森へと転送されてしまう。 危険区域の深層部で瀕死の神獣を救い、従魔契約を結ぶことになった。 森を抜ける道中で変異種の討伐に来た騎士団と出会い、討伐任務に参加することになったシエルと神獣。 異世界で次第に明かされていくシエルの正体。 彼女の召喚が妨害された背景には世界を巻き込む陰謀が隠されていた――。 前世で安易に人を信じられず、孤独だった少女が異世界で出会った仲間と共に陰謀を暴き、少しずつ成長していく物語――。

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

前世は冷酷皇帝、今世は幼女

まさキチ
ファンタジー
2、3日ごとに更新します! コミカライズ連載中!  ――ひれ伏せ、クズ共よ。 銀髪に青翡翠の瞳、人形のような愛らしい幼女の体で、ユリウス帝は目覚めた。数え切れぬほどの屍を積み上げ、冷酷皇帝として畏れられながら大陸の覇者となったユリウス。だが気が付けば、病弱な貴族令嬢に転生していたのだ。ユーリと名を変え外の世界に飛び出すと、なんとそこは自身が統治していた時代から数百年後の帝国であった。争いのない平和な日常がある一方、貧困や疫病、それらを利用する悪党共は絶えない。「臭いぞ。ゴミの臭いがプンプンする」皇帝の力と威厳をその身に宿す幼女が、帝国を汚す悪を打ち払う――!

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~

浜柔
ファンタジー
 魔王はダンジョンの奥深くでお茶をすすりながらのんびり暮らしている。  魔王は異世界の物を寸分違わぬ姿でコピーして手許に創出することができる。  今、お気に入りはとある世界のとある国のサブカルチャーだ。  そんな魔王の許にビキニアーマーの女戦士が現れて…… ※更新は19:30予定

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...