Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
8 / 132
おはよ。

第8話 メグルと嫉妬

しおりを挟む
 調味料を一切使わなかった鍋は思ったよりも美味しかった。

 骨と肉の濃厚な出汁にぷりぷりなスッポン。
 ミョウガが肉とスッポンの生臭さを消していて、初めて料理と言える料理ができたことに喜びを隠せなかった。

 マロウさんも大絶賛だいぜっさんで、二人してむように鍋をたいらげる。
 その後満足した僕たちは、水浴びの後、お昼休憩になった。

 初めの内は日陰ひかげの岩を背に、マロウさんと話をしていた僕。
 しかし、マロウさんがうつらうつらし始めた為、少し離れた木陰こかげで第二の石鹸せっけんづくりにいそしんでいた。

 今回は匂いの強い花をすり潰して動物油や香木こうぼくの灰と混ぜる。

 誰にも使われず、放置されていた石鹸の匂いをぐと、作った当初よりは匂いがおさえられていた。
 それならば、香りを混ぜて作った石鹸を数日程乾かせば、案外使い物になるかもしれないとの思惑おもわくだ。

 油は植物性のものが良いのだろうが、それは揚げ物に使いたい。
 明日当たり乾いた種を潰して調味料と共に、油がとれる実も探してみるつもりだが、石鹸が取れる程と集まるかと言われると…。
 調理後の廃油でも良いのだろうか?

 そんな事を考えて油肉を煮詰めていると狼が一匹、こちらに向かって歩いてきた。
 あの特徴を見るにシバのようだった。

 シバは挨拶のように体を何度か擦り付けてくると川の中に走っていった。
 しばらくの間、水浴びを楽しんでいたようだが、急に水中を見つめ始める。
 そしてジャンプ!次の瞬間には口に魚がくわえられていた。

 如何やら水遊びに見えていたのは魚を追い立てる行為で、浅く狭い場所に誘導してから捕まえたらしい。頭の良いやつだ。

 そしてその魚を食べるのかと思いきや、魚を咥えたままこちらにやってきて、僕の脚元に魚を置いた。

 その視線を見るに僕に対するほどこし。と言うわけではなさそうだ。
 遊んで欲しいのか、めてほしいのか…。僕はマロウさんのように以心伝心はできないので諦めて欲しい。

 代わりと言っては何だが、シバは珍しいものが大好きだ。
 持ってきた魚を木の枝で串差しにすると煮込んでいる油の横で火にかける。

 シバは火を不思議そうに見つめるが、危険な物だと本能が分かっているのかあまり近づいてくることはせず、僕の横に座った。
 如何やら体を乾かしているのようだ。

 魚を火から上げ、串を抜いてからシバの前に出す。
 シバは焼き魚を少し観察した後、小さな前足を使って少しづつ器用に食べた。
 熱いという事を理解しているのかもしれない。

 大人しいシバ相手に、僕は木で作ったくしを取り出す。
 シバはそれを不思議そうに見つめていたが、僕がそれで数度、背中をくと体を横たえた。

 どうしたのかとシバを見てみればシバもこちらを見つめている。
 …もっとやって欲しいらしい。

 シバを撫でつつ、鍋の中で分離した油を時たま掬って取り除いていく。
 シバより鼻の悪い僕でもこの作業は獣臭い。
 しかし、シバは気にした様子もなく口を大きく開けて欠伸をしていた。
 匂いがしない訳でもないだろうに…不思議だ。

 取り出した油を再度熱っする。
 そこに芳香剤代ほうこうざいがわりに植物達を潰したものと、それらを灰にしたものを混ぜていった。
 これで匂いがおさまればよいのだが…。

 そうこうしている間に、寝ていたマロウさんがピクリと動いた。
 シバも振り返りその様子を確認すると、重々し気に体を上げる。

 シバは「オゥ」と短く声を上げると、森の中にゆっくりと帰っていく。
 如何どうやらマロウさんが寝ているのを見つけて、僕を見守っていてくれたらしい。
 家族そろって優しい人たちだ。


 マロウさんが完全に覚醒するころには鍋も洗い終わったので、持ち物をすべて回収して家に帰る。

 因みに石鹸の香りは、僕なら耐えられるほどだったが、まだマロウさん達では気になるらしい。乾燥させて様子を見るしかなさそうだ。


 家に着いた頃にはもう日が傾いていた。
 時間としては四時、五時ほどだろうか。

 朝が早い僕はこの時間になると眠たくなってくるので、物を片付け、起きてきた兄弟たちに挨拶をすると入れ替わるように寝床に移動する。

 お昼寝をしていたマロウさんだけは兄弟たちと何か楽しそうに話をしている様子だった。

 僕の前ではあんなに楽しそうに、いっぱいお話してくれないのに…。
 そんな事を思うが、マロウさんが寝床に訪れたら訪れたで、あの寝相ねぞうおびえて眠れなくなってしまう。

 僕は少し不貞腐ふてくされたように毛布にくるまると、獣臭くてちょっとむせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...