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 すっかりと日が昇った頃、再び騎士団本部に戻ってきたコンフラットたちと合流する。
 しかし何やら様子がおかしい事になっていた。

「おい、コンフラット……あれはどういうことだ?」
「いや、何と言いますか……」

 エリスがディアにべったりで、いつのまにかディアの付き人のようになっているのだ。

「お姉さま! 喉は乾いていませんか?」

「大丈夫よ、エリス。それより今はレックス様のお話を聞きなさい」

「はい!」

 昨日までの態度とは違い至って従順……では無かった。俺にはまだ敵意を持った視線を向けて来る。

「……まぁいいが、鍛えてみてエリスはどうだったんだディア?」
「まだまだ荒削りな所がありますが、見所はあると思います」
「そうか……で、これは何があったのだ?」
「それはですね……」

 俺の指示通りディアとコンフラットでエリスを鍛え直していたそうなのだが、男社会な騎士団において今までに自分より強い女性騎士を見たことがなかったらしく、異様に懐かれてしまったそうだ。
 今もディア越しに俺を睨んできているが、ディアが振り向くと直ぐに姿勢を正している。

「……ならエリスのことはディアに任せるとして、これからの事について説明をするから聞いてくれ」

 という事で昨夜に知り得た情報を共有し、そして明日の明朝に騎士団が出立するので俺たちだけで王都を守らなくてはならないことを伝えた。

「私たちだけで本当に大丈夫なのでしょうか?」

「そんなことは実際にやってみなければ分からん。だがどんな敵であろうが立ち向かわなければいけないことは間違いない」

 ノモマ教団の連中が口にした魔神の存在もそうだが他にもどれだけの相手なのか全容が掴めない以上、不測の事態にならぬように準備は進めていかなくてはならない。

「準備と言いますが、一体何をすれば良いのですか?」

「そうだな……ダグラスが話を通してくれているはずだから、まずは冒険者ギルドに向かおうか」

 Aランク以上の目ぼしい冒険者は招集されているが、それ以外の冒険者も当然いる。
 華々しい実績を残していないかも知れないが、実力が大きく劣る訳ではないはずだ。ということで協力を取り付けるためにも王都にあるギルド本部へと向かう。
 ギルド本部は全てのギルドを束ねる場所であり通常のギルドのように依頼の受付などの業務は行なっていないので、武骨な冒険者の出入りも無く至って簡素な造りの建物である。

「君たち止まりなさい! ギルド本部に用があるのでしたら受付をお願いします」

 建物の正面から入り口に向かうと中に入る前に門番に止められた。
 そして本部の隣にある門番の駐在所らしき場所に連れて行かれる。

「何か身分を証明できる物はお持ちですか?」

「これでいいですか?」

 俺とディア、そしてコンフラットはギルドカードを出し、最後にエリスが騎士団員の証を見せる。

「なっ、騎士団のお方でしたか。これは失礼しました。こちらの方々はお連れですか?」

「ええ、そのようなものよ」

 エリスが俺の方を見てドヤ顔をしながら答える。
 社会的な立場では一介の冒険者より騎士団員の方が高いとはいえ、普通はまさか騎士団員の方が連れ回されているとは思わないのだろう。

「本日はどのようなご用件で、ギルド本部にいらしたのでしょうか?」

「騎士団長、ダグラス様からお話が通っているはずですが?」

 門番は何も知らないのか首を傾げ、そしてエリスは嘘を付いたのかと俺の方を見てくる。
 ダグラスが話を通していたとしてもさして時間は経っていないので、ギルド本部に話が通っていたとしても門番にまで話が伝わってはいないのだろう。

「ギルドマスターには話が通っている筈だから確認してきてくれるかな?」

「へ?」

 門番はまさか俺が指示を出すとは思っていなかったのか間抜けな声を上げる。
 そしてエリスの方を見て、本当に指示に従って良いのか確認を取る。

「いいから、聞いてきなさい」

「は、はい!」

 門番は慌てて飛び出して行き、確認に走っていく。
 普通は交代の者を呼んでからにすべきなのだが余程慌てていたのだろう。

「はぁ……」

「私がいて良かったわね」

「……そうだな」

 俺がそう言うとエリスは嬉しそうに笑みを浮かべる。
 本当は別の身分証を出せば話が早いのだが、ダグラスに釘を刺されたばかりなので自重しているだけとは伝えない方が良いのだろうな。

 こうして門番が再び戻って来るまでの間、いつもと変わらぬ生活を送る人々の往来を眺めながら待つのであった。
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