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《R-18》28 お薬の効用とプテラシスターズ《R-18》

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 渡された強めの香水を目の前に思わず正座をしてしまう。後は寝るだけ、の状態で香水一滴を水に溶かして飲んだ。

 以前飲んだおクスリよりは弱い。軽い高揚感と胸の高鳴り……体が熱くなってくる。

「サヤ?」

 いつのまにか、クロノさんが部屋の中に入ってきていた。

「あれ?お急ぎの仕事ですか?」

 反射的にそう答えて、そうじゃなかったことを思い出した。目の前のクロノさんは小さく吹き出した。

「いえ、呼ばれたので来ました」
「呼んだ覚えはありませんけど、えーっと、これは夢ですよね?」

 夢相手に夢かと聞くのもバカバカしい。クロノさんは「そうです」と言うと滑るように私の側まで来た。

「これは夢。全て忘れてしまえば良い」

 クロノさんの手が私の頰に添えられる。彼の手が冷たく感じて、確かに本物ではないなと分かる。
 エウディさんの指示では、抵抗はせず流れに身をまかせろとの事。元々が幻覚で自分が生み出したものらしいけど、感覚的には何をさせるのか分からないから緊張する。
 効果は緩いから、本当に無理だと思えば口頭で拒絶すれば幻覚は途中で止まるはずとも言われた。ただし、その分効果は期待できなくなる。

 クロノさんはそのまま私にキスをした。軽く何度も。前回より随分意識を保ってるせいか、緊張で吐きそうだ。
 緊張のドキドキは激しいけど、気持ち的には凄く可愛がっていた猫に顔を舐められた時に似ているような。はて?

「……あまり、効いてないみたいですね」

 クロノさんが何かを含んで私に口移しで何かを飲ませた……?幻覚の行為のはずなのに、どくん、と血がたぎる音が聞こえた。
 まさか、無意識に自分で、飲んだ?そんなはずは無いと思う。けど、それも何も分からなくなる。

「良い顔になりました」
「!」

 深くキスをされる。それは以前の幻覚の時の感覚に近くて……

「愛しています。サヤ」

 いつもの優しげな視線を向けられたのまま、私はクロノさんに愛撫される。

「っ!」

 幻覚はのクロノさんは何も動じないまま、服の上から私の胸を撫でた。

「感じましたか?」

 ゾクゾク、する。と同時に沸騰しかけた血がすぅっと甘く変化して体の芯の方を重だるくなった。クロノさんは甘えるように首筋を舐めて、私は何か下着が濡れていく感じがした。

「力を抜いて……」

 無理!無理です!目を瞑ると、ふっと笑い声が聞こえた。あれ?この笑い方、クロノさんぽくない。そう言えば、言葉の端々もクロノさんにしては何か変で、むしろ……。
 急に、これが幻覚だと実感できて、私はそれの指示するままに足を少し開いた。
 少しひやりとした手が下半身に触れて、そして

「んひゃっ」

 ただ彼の指が触れただけのはずなのに、私の体は意に反して跳ねた。小さく叫んだ口は、すぐに塞がれて、舌が絡んだ。

 とん、とんと指で叩かれてるだけなのに、甘い香りを吸って私の息は乱れてしまう。彼の指は下着から潜り、そこからぬちゃぬちゃと卑猥な音がして来た。

「んんっ」

 奥の方から何かが迫ってきて、下腹部が勝手に収縮して震えた。と同時に快感が走って脱力した。生理的な涙が溢れながら、深く口で繋がっている彼を見ると腹立たしいほど、表情に変化は無かった。視線に気づいた彼は口を離す。

「可愛い声でした」

 どこが?何が?と問いたいけれど、急激な眠気に襲わらてそれどころではない。眠りにつく瞬間、「上手くいった、かな?」と呟く声を聞いて、やはりクロノさんではありえないと、確信した。

――――――――――――――――――――――――――

「何よ?」

 サヤの部屋から出るエウディにクロノは冷たい視線を送る。

「このような事が必要だとは聞いておりませんが?」
「緩和の手だては惜しまないって言ったわよ?それに、あんたが気に入らないからって緩和の方辞める?それとも治療辞めるの?毎日うなされ苦しむサヤを見たいなら、そうすれば?ボスの命令ならあの子は従うわよ」
「……そんな事は言っていません。ただ、彼女はあなたとは違う」
「そりゃあ、私みたいな尻軽だとは思ってないし、こっちの世界に引っ張り込まないわよ。というか、やって良いなら数回やった方が耐性なんてあっという間につくわ。避けてるから、こうなるんでしょうが」

 クロノは左手で右肘を強く押さえた。

「……何なのよ、もう。そんなに気に入らないんなら、あんたが緩和してあげれば良いのに。とりあえず、明日のサヤの様子を見てみなさい」

 「おやすみ」とエウディはクロノの前を通り過ぎていった。残されたクロノはサヤの部屋のドアを見つめるしかなかった。

――――――――――――――――――――――――――

 はて?何の夢を見たやら?
 ぼんやりと意識が戻ると、昨夜のあれやこれやが思い出されてきて、布団に潜りたくなる。自分の夢が、結構いかがわしくて、なんだかショック。

 しかし、目覚めるとスッキリで頭も体も軽かった。昨日苦労した朝食作りもなんのその。

「おはよん!あら、顔色良いわね」
「おはようございます。凄く調子が良いんですよ」

 記憶を遡ると、確かに薬で血が沸騰しそうに辛かった瞬間もあるけれど、上手く幻覚によるあれやこれやで解消されていた気がする。

「おはよう、ございます」

 少し疲れの見えるクロノさんが部屋に入ってきた。が、恥ずかしいというより「昨日はどうもお世話になりました!」と言いたい心境に近かった。クロノさんは私が彼を幻覚に投影してるとはつゆ知らずなので、まさか言いはしないけど。

「サヤ!今日は調子良さそう……むぐぅ!」

 リードさんは未だバッテンシール解禁にならず。
 クロノさんは私の体調を細かく確認した。無理をしてないか、強がってないか、というのを伝えるのは少し難しくて、彼はまだ心配そうにしている。

 ピーピー

「交信ですね、珍しい」

 食後に他の船から交信が入った。救難信号とは違うし、心当たりはない。

 驚く事に交信はプテラ一座からだった。しかも内容がお裾分けがしたいとのこと。
 何か情報が必要なのかもしれないとの判断から、バッテンを引っぺがされたリードさんが彼女達を迎えた。音は拾えるようにして他は待機の指示が出る。

『……報酬にプラスアルファでりんごを頂いたのですが、食べきれないので』
『わぁ!ありがとうございます!』

 フィフィさんの右腕のアイラさんの声とリードさんの声が聞こえる。なんとも和やかな内容だ。と、突然視界が開けた。空間の真ん中に映像が現れて、それはどう考えてもリードさんとアイラさん、その横にフィフィさんがキョロキョロしているのが見えた。

『座長さん?誰か探してますか?』
『え、いや、そうね、アルバート様は?』
『今少し出ています』
『そう、残念だわ』

 しかし、私の見える映像では彼女はまだ何かを探している……。

『皆さまお変わりなく?』
『はい。何か情報がいるんですか?』
『そんなつもりは……』

 少し困った風の彼女を見て、もしかして私を探しているのかと思った。内容はあれな物だったが、プレゼントの感想も言っていない。

「すみません。私プレゼントのお礼を言いたいので出ても良いですか?」
「では、私もご挨拶に伺います」

 甲板に出ると先程また映像と寸分違わない状況だった。

「フィフィさん、こんにちは。アイラさんも……」
「ちょっと?あなたなんか縮んでない?」

 つかつかと近寄るフィフィさんと私の間にクロノさんは壁になるように立った。
 また、だ。クロノさんの向こう側にいるはずのフィフィさんの顔が見える。少し不快そうで、その表情をクロノさんに向けるには意外だった。

「彼女は今少し体調が思わしくないのでご遠慮願いたいですね」
「体調が悪いのですか?でしたら、何故こんな海上で留まってらっしゃるのかしら。帝都には向かわれませんの?」
「ご心配をおかけしております。ですが、こちらの事はこちらにお任せください」
「……部下の命を軽んじられるのいただけませんわ。特に防げるものならば」

 フィフィさんの声は静かな威厳が滲む。

「あたしがついてるから、大丈夫よ。今は雇われ薬師なの」
「エウディ様?!」

 アイラさんが「それなら安心ですわね」と両手をパチンと合わせた。

「……エウディ様はおいそれと船にお招きできるものではありません。つまり、そうせざるを得ないという事ですのね。承知しました。エラスノのボスには失礼しました」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「あの、フィフィさん!」

 少し傷ついた顔に見えたのであわてて声をかける。

「プレゼントありがとうございました。使いこなすのにはまだかかると思いますけど……」

 今度はクロノさんはフィフィさんが私の側に来るのを止めなかった。

「お加減は?」
「峠は過ぎましたし、治療の目処も立っています。ご心配ありがとうございます」
「りんごは滋養があるから、しっかり食べなさい。ここは男ばかりだから、繊細な所までは気が回らないでしょう」

 そう言って彼女たちはビロンギングカードと一緒に閉じている紙を一枚ちぎって私に渡した。

「エウディ様がいる、という事は軽いものでもすぐに治るものというわけでもないでしょ。薬代で破産したら、これで私達を呼ぶといいわ。女性は助ける主義なの」

 紙には連絡先と署名……

「エラスノに連絡がつかなかった場合に次に連絡する先に指定できるのよ。とりあえずビロンギングカードと一緒にしときなさいな」

 エウディさんに説明を受けて、フィフィさんに改めてお礼を言う。

「ありがとうございます」
「友達だしね。それじゃあ」

 プテラ一座はそう言って船に戻って行……。

「ねえねえ、フィフィさん?」

 リードさんがニコニコしながら、フィフィさんの前に顔をひょいと出した。

「何かしら?」
「君、可愛いね!」
「……ありがとう。それで?」

 困惑気味の彼女は予測不明なリードさんに少し警戒を示した。でもまぁ、彼女は確かに可愛い。それに、

「それに強くてカッコイイね。最高にクールだ」
「っ!」

 えへへと笑うリードさんは何か嬉しそうだ。フィフィさんの顔が、かっと紅く染まった。あ、と気がつく。彼女の容姿や、ふとした仕草は幼く可愛らしい。けれど、多分彼女が目指しているものは違って、それはリードさんの言った姿だ。

「わたくし、軽薄な男性は苦手ですの。ナンパは他所でなさいまし。ごめんあそばせ?」

 すぐに落ち着きを取り戻して、今度こそフィフィさん達は船から降りた。
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