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27 中品(ちゅうぼん)位のイメージ

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 女性になったからか、女性化の変化の過渡期だからか、力が弱い、体が小さい、踏ん張りが効かない。
 しかしその分、目と先読み力が高まっている。自分が出来なくなった事を確認しながらでも、先回り先回りで何とかいつも程度の食事はなんとか用意出来た。

「つ、疲れた……」
「おはよん!ってあんた、朝からそれ作ったの?まだ寝てなきゃ辛いでしょ?」

 エウディさんは部屋に入るなり、私のおでこに手を当てた。彼の手は少しひんやりと感じる。

「やっだぁ、熱あるじゃ無い。あたしがあんたの世話も、男どもの世話もやるから、ちゃんと休んでなさいよ」
「でも、そんな……」
「あんたの仕事は休む事!私の仕事はあんたの代わり!もちろん、報酬は弾んでもらってるわ。逆にあんたが早く治りきらないと破産するわよ、この船。あたしは構わないけど」

 うふっと笑った彼の顔を見て、早く回復するのが急務だと悟った。気遣いじゃなく、絶対本当に高待遇なやつだ。

「おはよーさん」
「アルバートさん……」
「ん?何や?サヤは体調もうええんか?」

 昨日の夜の事が嘘のように、いつもの調子でアルバートさんは部屋に入ってきた。

「は、はい……」

 それから、私は頭をポンポンと撫でられた。胸の奥がキュッとしまり、少し息苦しい。自分が発熱しているのも強く感じた。官能的な甘い香りを感じて、お腹が空いた時のような少し違うような、何かが欲しいという乾きもする。

「ちょっと!何あんたら二人で世界作ってんのよ?サヤはまだまだ発熱中!なのに朝食作ってあたしに叱られ中!だいたい、アルちゃんもまだ新月じゃないのに発作出すわ、すでに引いてるわってどういう事よ?」
「まぁ、色々あんねん。ところでエウディはなんで女装しとらへんの?」
「女装って何よ?あっちの方が可愛いし、色々気持ちいいのよ。でも、今回はクロノに雇われててこっちにしろってオーダーされたから仕方なしなの」
「でも、ねぇさん、そっちでも美人だよねー。おはよー」

 現れたリードさんの言葉に、プリプリしていたエウディさんは一瞬で機嫌を直した。リードさんならお世辞って事も無い。

「って、リンリンはコレ!」

 そしてまた、バッテンのシールが貼られている。

「もごもーご?」

 いや、もごもごでは私はリードさんの言いたい事は分からない。

「まぁ、実際熱もあるやろーけどな。……俺の適性のせいやろな、目の潤みとかは」

 アルバートさんは切なげに苦笑した。
 熱と目の潤み?ぼーっとした頭のまま、また少しアルバートさんに見惚れて気がついた。私の反応は体調不良だけでなく、グールの異性を惹きつける適性の影響のせいだ。

「ごめん、なさい」
「……謝んなや。こっちこそ堪忍な」

 アルバートさんは女性からの、無責任な好意の視線が不快だった。きっと、それを仲間から受けるのも不快なはず。むしろ、今までの信頼感を損なうようで、より深く傷つけてるかもしれない。
 私のせいにして私自身を嫌いになったりしない人だからこそ、アルバートさんが傷ついてしまう……。

「もごっもご?」
「あたし?あたしは耐性つけたもん」
「耐性?耐性つけられるの?」
「もごもごもー」
「いけません。サヤはまだ体調が戻っていないんですから」

 クロノさんがいつになく強い口調で割って入ってきた。

「サヤも今は体調を戻す事を第一に考えてください。良いですね?」

 クロノさんは時々見せる左手で自身の右肘をつかんで、右手で口もとをかくす仕草をしている……。私は「はい」と返事をしながら、周辺視野でエウディさんが「後でね」と口パクで伝えてきているのを確認した。

 食後、エウディさんを除く三人は仕事に向かい、エウディさんは家事業務、私は家事業務の補助をした。補助と言っても、どこに何があるとか、1日の仕事についてとか微々たるものだ。

「リンリンはあんたも耐性つけたら良いって言ったのよ」
「でも、クロノさんが禁止されたんじゃダメ、ですね」

 いつもは放任と言って良いほど皆の采配に任せられているが、エラスノのボスはクロノさんである。船内の規律やメンバーの管理はやはりクロノさんに従わなくてはならない。

「んー、一応、説明だけすると、別に体調の戻りが遅くなるようなものじゃあないのよね。ただ、少し負担はあるわ」
「どの程度ですか?」
「要は催淫剤に慣れるって事なの。前の香水みたいなの使うのよ。軽い幻覚もあるし、楽しいおクスリの時体調悪かったんでしょ?逆に今の心方面の不調は一時悪化するけど、要は慣れだから短期で治るって利点もあるのよ。ぐずぐず伸ばすより荒治療の方があたしは良いと思うのよね。サヤがやる気あるなら、クロノに口添えはできるわよ?あたしはここのメンバーじゃ無いし……一応、薬師だから」

 薬師……って、外科技術を使わずに病気を治す専門家のハズ。

「薬師って、確か楽しいおクスリの制限とか取り締まる側というイメージがあるんですけど」
「今の時代はね。おかげで帝国がのさばってから免許剥奪よ。返納はしてないから、モグリとか闇って言われるわー。でも、そもそも免許受けたの2個前の時代なんだから、帝国につべこべ言われる言われはないんだけどー。ていうか、おクスリは上手く使えば廃人にもならないし治療効果大なのよ!」

 薬師というのは本当らしく、エウディさんはつらつらと学術的な話を続けた。理解は追いつかないけど、薬師の指導の下なら依存性が出る事はないらしい。
 香水を使うとして……体が溶ける幻覚の方は、多分次は耐えられる。幻覚だと分かっていれば、大丈夫。どちらか言うと、淫らな方が実生活に引きずりそうだ。アルバートさんで変なの見てその後一方的にギクシャクすれば、更に彼に失礼になる。

 私は一旦はその提案を断った。しかし、その日の午後アルバートさんが仕事でしばらく船を離れたと聞いて、今しかないと感じてエウディさんに口添えをしてもらう事にした。

「それほどに、耐性をつけたいのですか?アルのために?」
「アルバートさんのため、と言うより、私がアルバートさんに向き合えないのは嫌なんです」
「実にサヤらしい」

 資料を揃えてエウディさんが交渉すると、クロノさんとエウディさんは専門的な会話を繰り広げた。半減期がどうとかクリアランス値がこうとか、全然分からない。

「代謝酵素の誘導がメインなんですね?」
「受容体の減少はこの濃度ならあり得ないわ」
「つまり、離脱症状も無いと?」
「そ」
「体への負担は……、やはり夜のあれですが……」
「あんたも男性化で経験済みでしょ、あれの激しいのが来るわね。緩和の手だては惜しまないわ」
「緩和……。サヤは昨夜夢を見ましたか?」
「え、と。記憶には無いですが、何かの夢は見たと思います」
「それって多分、恐怖系じゃない?起きた時の頭痛とか吐き気、寒気は?」
「頭痛も吐き気も無かったです。でも、寒気はありました」
「ね?多分この子、恐怖系の夢見続けるわよ」
「……」

 クロノさんはため息と共に催淫剤の使用を認めてくれた。
 続いてエウディさんと二人きりで治療の説明を受けた。簡単に言えば、寝る前に以前おクスリで見たクロノさんやエウディさんにあれやこれやされる幻覚を見るらしい。

「……サヤはさぁ、アルちゃんの方が好き?」
「へぁっ?!」
「いや、夢にクロノかアルちゃんが出るとして、選べるならどっちが良いかなぁって。もしかして、リンリンの方が良い?」

 アルバートさんとのそんなのを見たら、私は多分死んでしまう。

「選べるなら、クロノさんの方が良いです……」
「いや、選べないんだけどね」

 なら何故聞く?
 怨みを込めて睨むとエウディさんはうふふと笑っていた。からかわれた?

「んーん、ご存知だと思うけど、あたしとクロノは一応夫婦なの。んでも、どっちか言うと利害関係で結ばれてるだけ。あたしにとっては二人とも大事な子だから、番になるなら祝福するわ。あたしとクロノ長いけど、番どころか恋愛感情が生まれる兆候皆無だったから」

 ちょっと悲しそうにエウディさんは笑った。多分、エウディさんにとってクロノさんは数少ない対等な相手だったんだろう。けれど、それでも恋はできなかった。エウディさんはクロノさんが自分と同じ道を行かないようにしたいんだ……。

「エウディさん……」
「というわけで、夢の中でクロノが出ても煮るなり焼くなり最後までやるなりお気になさらず」
「最後までって……」
「おほほほほ」

 結局最後はからかわれて説明は終わった。
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