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21 説明回その2それから売血
しおりを挟むフィフィさんは女性ばかりの万事屋の座長だそうだ。基本的にはエラスノと似た仕事もするが、女性としての魅力なるものを如何なく発揮できる仕事が多いそうだ。一体どんな仕事なんだろう。
そもそも今日はエウディさんはフィフィさんの話を聞かせようと酒場に私を連れてきてくれたらしい。初めて来たこの店は確かに昨日まで飲みに出かけていた所より女性が多めだ。
「そもそも番とはね!」
フィフィさんは第一印象より、篤い性格のようだ。アルコールが入っているせいもあるかもしれないけれど、愛とは恋とは語る彼女はなかなか面白い。
少し理想が固そうだけど、恋愛方面はかなり真面目に考えているらしい。その彼女によると、男女の結ばれ方は婚姻と番があるそうだ。
婚姻は世界の理に対して互いをパートナーとして慈しみあうという宣誓を行う事で成立する。一般的に夫婦というのはこちらの宣誓を行った者達を言うが、ビロンギングカードに現れる事で安否が分かる程度なので、どちらかいうと公的な扱いの時に便利であるものだ。
ただし、マンイーターの一部の種族は婚姻相手からの供物はかなり腹持ちが良く、相手の傷も治りが早いとか。種族によっては享受できる特典が他にもあるかもしれない。
一方、番というのは魂の繋がりらしい。らしい、というのは婚姻より更に不明な点が多く、前世からの繋がりとか運命とか言う学者もいれば、遺伝子上の最上の組合せ、と主張ししている学者もいる状態だ。相手と離れても安否を感じる事ができ、相手の居場所も感じる事ができる。
番は愛し合うことはもちろん、肉体的な結びつきによって成立し、それが解除される事は無い。人種によっては、見ただけで自分の番だと分かる場合もあるそうだ。
「それから、番になれば性別は無くなる!」
「無くなる?」
「無くなるって言うか、自分のパートナー以外に恋愛感情は催されないし、催さない。パートナー以外を相手に子をもうける事も出来なくなるわ」
「へー」
なんとなく、あまり興味は無いよ、という振りをしてしまった。頭ではアルバートさんの事を思う。デイノさんには番がいるって言ってたはず。
人種の勉強をしていると、異種間で生まれた子は基本的に片方の親の種族になるとされていた。だけど、種族としては片方にしかなれないとはいえ、能力には影響があるし、そもそも遠い種族同士は生活圏が被らないからか例が極端に少なく、本当のところは分かっていないという印象があった。もしかしたら、アルバートさんは夢魔の様な適性があるのかもしれない。それなら色々納得……。アルバートさんの魅力は、女性達に見せるあの仏頂面でも冷淡な対応でも無いのに、モテ方が異常だし。
なんとなくフィフィさんと仲良くなれて、彼女の仲間とも少し話ができた。酔いつぶれた彼女を返却して、私達も帰路に着く。
「今日は色々な人種について考える事ができました」
「え?そこなの?」
ビロンギングカードには一族名はあるけれど種族名は無い。相手の種族はよほど有名な一族でも無ければ、身体的特徴から察する事が多いけれど、それもあてにならない事を知れた。大きな前進だ。気付けるかどうか、ただそれだけが大きな違い。
「教科書どおりでない事。そもそも、教科書だって今現在知られている事がまとめられているだけで、絶対正しいって訳じゃない事が分かりました」
「どーしてそんな考察になるのか分かんないわ。変な子ねぇ。まぁ、いいわ。人種についての質問はある?」
「そうですね……長命、短命って具体的にはどの位なんでしょうか?平均は八十年程とは記載されてましたけど……。エウディさんは長命ですよね」
「そうよ。ルルーよりは長いわね。種族、当ててみる?」
「うーん、マンイーターは基本的に長命ってあったけど、エウディさんは鎖が無い……それ以外ならエルフか竜族でしょうか?」
「ぶっぶー、外れー。竜族はもう他の種族と接触絶ってるレベルで稀な一族よね。長命過ぎて分かんないのよ。エルフも森の奥で篭ってるけど八百年って言われてる。両方とも公的には未確認人種ってなってるわね。あたしはもっとメジャーで奴らより短いかな?今のところね。ほら、他にあるじゃん。長命っていうか、不老なのが」
「え、まさか、準神族……?」
「そうよ、あんたと一緒。ついでにクロノもね」
クロノさんも?
「準神族は恋をするまで性別が決まらないし、子を成すまで不老よ。ただ、あたしみたいに子供作らず長生きって人はあんまり見かけないわね」
「そんな人は少ない?」
「私レベルは見たことないわ。基本的に強くはない種だし、コロニーで生活しないとすぐ死んじゃうから。でも、長生きすればするほど、資質も才能も育つのよ。まぁ、そうなるとどこにも所属しにくくなる訳だけどさ。準神族の死にやすさも知ってるから、子供も欲しくないし」
「そう、ですか」
なんでもできる人だから、確かに慈しみ合うのは難しいかもしれない。準神族は未分化だから、資質や才能が大きく育てば逆になんでもできてしまう。それこそ、エルフや竜族位深い力を持った人じゃ無いと対等にはなれない。でも、その二種類は混血を禁じていたはず。
「あんまりおススメできない生き方よ。だから、サヤにはこれをあげちゃう」
渡されたのは香水だ。リードさんの持っていた香水の香りに似ているけど少し違う。
「恋愛体質になれる香水よ。ちょっとでもいいなって思う人を心に浮かべながら、夜にでも使ってみて。もちろん、私相手に妄想してくれてもいいのよ」
「それはちょっと」
「あはは」
最後は少し茶化されたけど、言葉には重みがあって、私はそれをありがたく使う事にした。
毎日、寝る前に少し身に纏う。好きな、人、か。頑張って女性の姿を頭に思い描くが、あまり上手く行かない。心の赴くままに、とやると船での出来事ばかり思い出してしまう。
数日試してみてやはり上手くいかずにエウディさんにその事を相談すると、クロノさんの話ばかりされた。真面目に男になりたいって相談してるのに!と抗議すると、「心に正直に生きなきゃ☆」とかわされる。お陰で夜は船での出来事が懐かしくなってしまう。
そもそも、この香水自体が少しクロノさんの香りに似ているのだ。クロノさんがエウディさんの香水をたっぷり纏えばこんな感じのはず。
もしこれが、アルバートさんを思い出す様なものだったら、難なく女性化してた気がする。
そうでなくても、クロノさんの話をされて香りをまとっているのに、私は眠りにつく頃にはいつも彼の金色の瞳を思い出しているのに。
「あなたはクロノが好きあなたはクロノが好き」
「もー、やめてくださいってば」
最早酒場での鉄板のからかいの言葉になり果ててしまったけれど、そのせいで本格的なホームシックになりそうだ。
エウディさんがトイレに立った隙に少しだけテラスに出てアルコールを抜く。こんなので、女性に分化してしまったら笑うに笑えない。店も客も馴染みができたので、私は少し油断していた。
「ねぇ、君?」
声を掛けてきたのはよく見るお客さん。
「血をね、くれないかな。100ccほど」
「え?」
「謝礼は弾むよ。君、未分化でしょ。イーター達の珍味。高く売れるんだよね」
珍味?そうか、未分化だからって安心安全という訳じゃ無かったのか。
「好きな人は好きらしくてさー、あ、レヴィさん!」
買血のお兄さんは外をふらふら歩いている人を呼び止めた。耳から口に鎖。そして、目が若干虚ろだ。確か今日うちに泊まる予定のお客様だったと思う。明らかに不安定じゃない?
「未分化の血、いかがっすか?」
「未分化って、それの?」
レヴィと呼ばれた人はふらふらと近づいてきて、私の匂いを嗅いだ。
「バカじゃないの。そんな恐ろしいマーキングされてる奴の血なんか飲めたものじゃない」
「ちょっと!サヤ!」
レヴィさんが離れるかどうかの瞬間にエウディさんが私を引き寄せた。
「あんた、一人でこんなとこ!危ないじゃない!次から連れションね!」
「えと、ごめんなさい」
レヴィさんは胡乱な目付きで下唇を噛んでいる。強く噛んだのか、唇から血が滲んでいた。
「エウディ、その子誰の婚約者?宿では気がつかなかったけど、害意バリバリじゃん。味見したら首飛びそう」
「は?それよか、レヴィ、あんた、ヤバくない?サービスで宿にお連れするわ。拒否権は無しよ」
そういうが早いか、エウディさんはレヴィさんの鎖を引っ張って……手刀で彼から意識を飛ばせた。そのまま肩に担ぎ上げ、今度は一連の流れが視覚で捉えられなかったであろう買血のお兄さんのネクタイを締め上げる。
「二度とサヤに近づかないでね」
笑顔が怖いです。買血のお兄さんはブンブンと頷いていた。
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