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 ちょっと待ってと理解が追いつかない。私は自分の感情が訳わからないし、アンズがどういうつもりかも分からない。
 アンズは何か考えてって訳ではなさそうで、それなら本人も理解してない可能性まである。

 ぐるぐるしたままの一晩、帰宅した後も私は人型のアンズに抱かれながら一晩を過ごした。

 キスとか愛してるとか、受け入れて良かったのだろうか?

 すやぁと眠る明け方のアンズは出かける前と同じ位の幼さに戻っていて、少しだけホッとする。なのに、昨日まで感じなかったドキドキを、この寝顔からも感じてしまって、諦める。

 本当に、心の奥から残念なお知らせです。
 私、アンズを異性として好きらしい。

 自分にとって、子供や弟妹だと思っていた相手にそんな感情を持つことへの罪悪感が半端無い。

「大体、アンズが私の事、女性として好きならこんな……、寝らんなくない?」

 熟睡した彼のおでこを指で弾いても、無邪気にスヤスヤと寝息を立てていた。



「おはよー、カリン」

 明け方まで眠れなかったのに、そこからは寝たらしい、私。
 重い頭は持ち上げられなくて、同じく重い瞼をなんとか開ける。と、笑顔のアンズに組み敷かれていた。

「おはよ、カリン。今日もかわいー」

 ぺろっと唇を舐められる……。そう、これは小狐な時からの習慣です。

「おはよ、アンズ。小さくならない?」
「え、なんで?こっちの方が僕、便利なんだけど」

 私の胸に顔を埋める様にして抱き締められる……。

「だめ!アンズ!人型でそういうのはしないで!」
「昨日は良かったのに?」

 キョトンとされて、頭が痛くなる。可愛いアンズは、やはり獣で本能で生きすぎている。


 私が不満そうな態度を崩さなかったせいか「まぁ、いっか」と言ってアンズは小狐スタイルになって胸に飛び込んできた。もふもふは癒しだけど、人型のアンズの顔がチラついて、やはりなんだか落ち着きはしない。

 もやもやを背負ったまま、朝の支度をして食堂に行くと、サッパリとした顔のナルさんとリオネット様、多少疲れた感じの雨情が3人でお茶会を開いていた。

「おはようございます。このメンツでお茶を飲んでるのって珍しいですね」
「おはよーさん、何気に早起き得意組やねんで」
「今朝は私の朝のルーティンが早く終わりましたので」

 ナルさんは何故かいつにも増して爽やかさが溢れている。そう言えば朝弱いのはアッシャーだけか。

「その様子ですと、カリンもお茶飲まれますね」

 リオネット様はそう言って私の分も用意してくれる。こちらの朝に飲んでるお茶は何が入っているのか分からないが飲むと頭がかなりすっきるする物だ。

「ところで、ナルさんどうしてそんなに機嫌がいいの?」
「出禁になりました」

 は?

「ナルニッサは昨日、城を一部損壊した事から今後見合いの会への出席が認められなくなりした。また、結婚も無理だろうと判断されたため断髪も許されたそうです」
「髪切るの?」
「はい、朝食の後にでも」
「カリン。髪切るっちゅうのは、平民と意味ちゃうんやで?家を継がないという公式な表明や。廃嫡やぞ」

 はいちゃく?よく分からないけど、なんか大変な事っぽい?

「これで身も心もカリン様に捧げられます。心より嬉しく思います」

 大変だ!それは一大事だ!

「なんとか許してもらえたりしない、かな?」
「それは無理でしょう。……しかし、陛下から役目を賜っていますし、サンダーランドから勘当されたという訳では無い。身軽になっただけ、と前向きに考えましょう」

 ふふっと笑ったリオネット様が結局怖い。計画通りって顔なのが、もうなんとも言えない。
 そのリオネット様が扉をチラッと見た。つられて扉を見ると、アッシャーが入ってきた。

「うおっ、みんな早えな」
「おかえりなさい、アッシャー」

 「ただいま」と言いながら、アッシャーも席に着いた。というか、リオネット様はさっき私の分を入れる時に既にもう一杯も準備していた。
 起き抜けでない人には丁度良く冷めた物がアッシャーの前に準備されていて、どこまで先読みしてるのかと驚いてしまう。

「首尾は?」
「上々」

 その2人のやりとりは短くて、でもそれだけでアッシャーの問題は解決したのが皆にも伝わった。ナルさんはかすかに口角が上がってお茶に口をつけ、雨情も流れは読めた様だ。

「こちらが雨情のデータ、こっちはナルニッサ、アンズ、カリンの直近のデータです。
「さんきゅ」

 データ?

「ああ、森に着けば戦闘の可能性があんだろ?そん時に状態を知ってるのと知らないのでは大違いだ」
「なるほど」
「つーか、アンズの能力、リオンからの影響、モロに受けてんな」
「色々指導したので、その影響でしょう」

 色々ってなんだろう。含みがありそうで気になるが聞くのは怖い。

「リオネットは教えるのじょーず!」
「可愛い生徒ですね。アンズ殿も私の物になりますか?」

 カチンときた。冗談でもちょっと気分が悪い。

「アンズは……「ならないよ?」

 私が口出しするのと被ってアンズはキョトンとしてリオネット様にそう答えた。くるんっと跳ねると人型になって……、それは昨晩の大きい方の人間の姿だった。

「わっ」

 そして私を後ろから抱きしめて、髪にキスをした。

「だって、僕は尻尾の先から髪の毛の一本まで、全部カリンの物になったから」

 ブハッと雨情がお茶を吹いた。

「……という事です」とリオネット様が言い。
「あー、了解」とアッシャーが流す。

 つまり、これは、リオネット様が私とアンズの関係を皆に知らせるためにって事……?

 ナルさんは下僕の鑑と言わんばかりに羨望の眼差しでアンズを見てるし、雨情は何やら悟った目をしている。

「な、なんか誤解、されてない?」
「……あかんで、カリン。お前の真っ赤な顔が雄弁に語っとる」

 墓穴!

「ふふっ、さて、それでは東に向かいましょうか」

 全てはリオネット様の思惑通り、らしい。

 森を全部調べるにはそれなりの時間はかかる。だから大事な物とかは全て持っていく様にと言われて準備をしたが、城の雰囲気に少し違和感があった。整理整頓され過ぎているような気がする。ファイさんを含めた王都の屋敷の使用人の人達はみなマンチェスターの城の方に移っているし、緊張感が漂っている。まるで、これから魔王征伐に行くかの如くだ。

 午後になり一路東へとなったが、アンズさんは何故か人型で虎型の騎獣に乗っていた。

「え?アンズが騎獣に乗ってる?」
「私から貸与しました。アンズに貴女が乗って行けば、貴女達だけが先に着いてしまいます。あちらは貴族至上主義な土地であり、あなた方だけで先に着くのはよろしくない。案としてはアンズ殿にゆっくり飛んでもらう方法もあったのですか……」
「無理だと思います。ビューンって飛ぶの好きなので」
「ですよね」

 髪の毛を短く切ってもナルさんは貴族らしさが溢れているから、索冥がいれば並走して貰えばなんとかなったんだろうけどね。索冥がいなければ、アンズはぶっちぎりで早い。

「カリンは!僕の前に乗って!」

 アンズは他の騎獣に乗る事が無かったので楽しそうだし、まぁいいか。
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