二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬

文字の大きさ
上 下
46 / 61

46

しおりを挟む
 さて、私も頑張らないと……と思ったけれど、初日からやり過ぎるのも身体に良くない。アッシャーを見て何ともなかったのだから、ナルさんも大丈夫でしょう。リオネット様と雨情は手術とかもあるし、ナルさんに訓練の予定立ててもらって……。

 考えながらお風呂に向かうと、いつも通りアンズさんもトコトコついてきた。

「……アンズ、一人でお風呂入れない?」
「み゛ゃっ?!」

 雷が落ちみたいな顔になった。

「なんで!どーして!」
「いや、アンズさん、人になったら男の子じゃん。……もしかして、ついてないとか?」

 外側が男性っぽいだけで、ついてないなら私の中ではセーフ。

「何が?」

 キョトンとするアンズさん。

「えーっと、おしっこするところってどうなってる?」
「え?ーーーピー[自主規制]」

 はい、残念。無理。

 むんずと掴んで洗面台へ。先にわしゃわしゃ洗ってあげる。洗い終わったら私もずぶ濡れになるから、私はその後にでもお風呂に入るわ。

 洗ってると、確かに以前と違って男の子になっちゃったことが分かった。

「どーしてダメなーのー?」
「流石に男の人の形になれるなら、獣状態でもお風呂は分けないと」
「寝る時は良いのにー?」
「寝るのも分けようか……」
「いや!だめ!カリン!今の忘れて!」

 人型に変身してない獣のままならそこまで気にしなくても良い気はする。でも、何か、今更なのにアンズに裸体を晒すのが恥ずかしいという感覚が私の中に生まれてる。はて?昔集団生活してた時、お風呂が男女別だったしかなぁ?

 軽く乾かすとアンズはどこかに出かけて行ってしまった。私はゆっくりとお風呂に入る。小狐アンズが口周りにチュッチュとしてきていたのは前からだし、私が色々気にしすぎなのかもしれない。思春期を難なく迎えた息子より戸惑いが酷い母親的な?うーん。

 お風呂から出て、ナルさん、と言うか索冥に相談してみることにした。ナルさんはなんかキラキラと輝いていた。

「眩しいね、ナルさん」
「申し訳ありません。我が君のご尊顔を拝見し、気持ちが昂ってしまい……」

 認知の歪みの弊害がここまできたか。

 当面の間は私は能力を整えるのと、アンズもチカラの調整、雨情は手術からの回復で、ナルさんは昂っても色香をコントロールできる様にする練習とかになりそう。

 アッシャーが居ない間も無駄がないなとか考えていたら、キラキラから手紙が差し出された。

「ご回復直後に失礼をいたしますが、兄ナギアより、手紙と言伝を預かっております」

 ナギア殿から?と不思議に思いながら、中をあらためて、更に謎が深まった。
 手紙の内容はナルさんのお見合いについて?

「今朝、カリン様が女性であった事と、聖女にあたわなかった事が女王陛下より公にされました。それに伴って、愚兄が私の見合いのパーティーを開きたいと申しております」
「え?私が女だって事と、ナルさんのお見合いに何の関係が?」
「百年ほど前のサンダーランドの主人がしもべに恋慕し、子孫を残さなかった例を危惧しているのだと思います」

 そういえば、そんな話があった。

「すでに何度も開かれている催しですので、それで見つかるとも思えないのですが、我が君が私を束縛していると勘違いさせると後々お手を煩わせる事になるかと思います。東へ早々に立ちたいと思っておりますが、愚兄の茶番のために出立を1週間遅らせていただけないでしょうか?」
「構わないよ。丁度やらなきゃいけない事があるから。雨情の手術やらもあるしね。ところで、少し索冥と話がしたいんだけど」
「恐れ入りますが、索冥は所用によりここを離れております。しばらく戻る予定もありません」
「しばらく?いつからいないの?」
「はい、すでにひと月以上前からは」

 そんなに長い期間?

「……ナルさん、使令が離れて寂しくないの?」
「寂しい……ですか?幼い頃は索冥が乳母の様な物でしたから寂しくありましたが、今は特に。もちろん側にいれば心強い仲間ですが、寂しいとは感じません。他の使令なども同様です」
「そうなんだ。私はアンズが側にいないと凄く寂しいから、驚いちゃった」
「カリン様は私が側に居ないと寂しいですか?」
「え?」

 寂しい、か。うーん。

「寂しいかと、聞かれれば寂しい様な?でもアンズに感じるのとは全然違うかな。ナルさんの言葉を借りると、ナルさんは私にとって仲間な感じ。リオネット様やアッシャーと同じ」

 ナルさんは微笑んだ。

「使令もしもべも突き詰めれば、主人にとってはただの道具です。不便だ、という意味で困る以外の感情は、使令や忠誠の域では無く、対個人への感情なのです。……正直に申しますと、アンズ殿が羨ましく思いますが、彼と我が君の絆の強さを思えば当然。むしろ、報いて思いを返す主人を私は誇らしく思います」

 私のアンズへの感情……か。

「我が君。リオネットが最近アンズ殿と懇意にしています。口止めまではされていませんが、我が君にはお伝えしていない様子。先程の女王陛下の発表も、リオネットが一枚噛んでいる様なので、念のため心にお留めください」
「え、ごめん。どういう事?」
「我が君が女性でいる事を表せば、我が兄の行動は予想されました。……リオネットは私の見合いのパーティーにカリン様や雨情、アンズ殿全員を出席させるつもりの様です」
「見合いに?まさか」
「見合いの席以外に、関係者も集まります。そこでは商談や情報のやり取りが行われる。カリン様のお披露目の意味もありましょうが……、念のためお心にお留めください」

 意味深だけど、意味が分からない。でも、リオネット様に直接聞いて教えてもらえそうにも思えない。


 雨情の手術は恙無く終わり、私達の訓練も予想通りに進められた。アッシャーからは連絡は来ず、そしてナルさんのお見合いの日はやって来た。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
フィア・リウゼンシュタインは、奔放な噂の多い麗しき女騎士団長だ。真実を煙に巻きながら、その振る舞いで噂をはねのけてきていた。「王都の人間とは絶対に深い仲にならない」と公言していたにもかかわらず……。出立前夜に、片思い相手の第一師団長であり総督の息子、ゼクス・シュレーベンと一夜を共にしてしまう。 宰相娘と婚約関係にあるゼクスとの、たしかな記憶のない一夜に不安を覚えつつも、自国で反乱が起きたとの報告を受け、フィアは帰国を余儀なくされた。リュオクス国と敵対関係にある自国では、テオドールとの束縛婚が始まる。 フィアを溺愛し閉じこめるテオドールは、フィアとの子を求め、ひたすらに愛を注ぐが……。 フィアは抑制剤や抑制魔法により、懐妊を断固拒否! その後、フィアの懐妊が分かるが、テオドールの子ではないのは明らかで……。フィアは子ども逃がすための作戦を開始する。 作戦には大きな見落としがあり、フィアは子どもを護るためにテオドールと取り引きをする。 テオドールが求めたのは、フィアが国を出てから今までの記憶だった――――。 フィアは記憶も王位継承権も奪われてしまうが、ワケアリの子どもは着実に成長していき……。半ば強制的に、「父親」達は育児開始となる。 記憶も継承権も失ったフィアは母国を奪取出来るのか? そして、初恋は実る気配はあるのか? すれ違うゼクスとの思いと、不器用すぎるテオドールとの夫婦関係、そして、怪物たちとの奇妙な親子関係。 母国奪還を目指すフィアの三角育児恋愛関係×あべこべ怪物育児ストーリー♡ ~友愛女王爆誕編~ 第一部:母国帰還編 第二部:王都探索編 第三部:地下国冒険編 第四部:王位奪還編 第四部で友愛女王爆誕編は完結です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...