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「その様な訳で、雨情の手術と回復に数日かかります。カリンもあちらではマインゴーシュ等を久しく使っていなかった様ですし、勘を取り戻す必要があります。今日は養生して、明日から訓練に勤しんでくださいね。それから、ナルニッサやアッシャーには今日は会わないように」
後から食べ始めた私の方が先にお皿を空にして、私はリオネット様に尋ねた、
「どうして、ナルさんに会ってはダメなんですか?」
「カリンはまだ本調子ではありません。ナルニッサやアッシャーの持つ色香の耐性が落ちている」
「何ですか?それ」
「めっちゃキラキラ見える」
「は?」
私の疑問答えたのは雨情で、そして何故か白くなっている。
「人を惹きつけるスキルですね。カリスマというかフェロモンというか。ナルニッサは元々持っていたスキルであり、アッシャーもその耐性をつける訓練をした時に弱いながら色香のスキルが付きました。私は嗜好に偏りがあるので2人の色香はほぼ無効なんですけど」
ぷぷっと笑いながら、リオネット様は雨情を見た。
「……言わんとってください」
「恥ずかしい事じゃ無いですよ?スキルのせいなんですから。おまけにナルニッサは主人が見つかって異常な高揚状態でした。事故ですよ」
「何?何が起きたの?」
事故と言いながら、リオネット様は超楽しそう。
「カリンが不用意にナルニッサに近づかない様に、教えてあげたらどうです?」
雨情が灰になりそうだ。たった1日でリオネット様は雨情の弱点を炙り出している……。
「……言うてもうてん」
「え?何?ごめん聞こえなかった」
「……さいって言うて、もうてん」
「さい?」
「抱いてくださいって言うてもうてん!」
……。
「あー」
「ほら!微妙な空気になったやんけ!せやから嫌やってん!」
リオネット様はお腹を押さえて苦しがっているし、雨情は涙目だし、私はなんとも言えないしの地獄。
「っくく。でも、ナルニッサは慣れたもんでしたよ。『すまない、スキルを強め過ぎていた』と雨情に謝っていたので」
「ぎゃー」
雨情が走り去って行った。いっそボケたり突っ込んだりして貰った方が助かる文化の人だから、真面目に返されてダメージ倍倍だったのでしょう。合掌。
「ところで、アンズが見当たらないのですけどどこにいるか知りませんか?」
リオネット様も食べ終わったので、お茶を淹れながら、ずっと気になっていたことを聞く。
「部屋の外で丸まっていますよ?」
「え?なんで?」
「連れてきましょうか?」
「は、はい、お願いします」
リオネット様はパタンとドアを開けて、手だけ部屋の外に伸ばしたかと思うと小狐を掴んで帰ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……アンズ?どうしたの?」
「ごめんにゃさい」
ベッドに置かれた獣がウルウルしながら、丸まっている。
「何が?」
「カリン、気絶させた」
ああ、あれか。
「どうやらアンズはカリンを大事にしたかったのに、泡吹いて伸びさせたのを悔いている様ですよ」
わたし、アンズの背中で泡吹いて伸びたのか。
「もう大丈夫?怒ってない?」
「怒ってないし、元気だよ。助けに来てくれてありがとう」
アンズの表情はパッと明るくなった。久しぶりのアンズだ。ぬいぐるみバージョンのモフモフ。
「……おいでアンズ。なでなでしよ?」
「カリン……」
両手を広げておいでと呼ぶと、アンズが飛び込んで来た。
目の前30センチで人型になって。
ドーンっと押し倒されて、両手でしっかり抱きしめられる。
「カリン!元気になった!嬉しい!大好き!」
すりすりぎゅーっとされてるけど!私が求めてたのはこれじゃ無い!フワフワケモケモの方!
「さて、では私はお暇しましょう。ついでにお皿も持っていきますね」
えと、ありがとうございます?いや、違う!獣に襲われてるんだから、助けてリオネット様!
私の声は届かなかったのか、リオネット様はパタンと扉を閉めて出て行ってしまった。
翌朝、体調は完全に戻ったので、朝一から鍛錬場で身体を動かしてみる。
やはり鈍っているか。得物との馴染みが悪く、けれどクナイのスキルは上がっている感覚が分かる。
小狐なアンズと追っかけっこをやってみると、動体視力は上がってる気はするんだけど……。
アンズさんが以前より早すぎて、いまいち分からない。
「朝早くから、精が出てるじゃねーか」
鍛錬場の入り口で、アッシャーが声をかけてきた。
「おはよ。身体の調子を確認したくて。アッシャーも?」
「いや、俺はもう少ししたら出かける。調子はどうだ?」
「体術の確認やってたんだけど、アンズの能力が伸びてて、そっちに驚いてた所だよ」
「そっか」
アッシャーは私を手招きした。
「アンズの状態だけ教えておくわ」
「いいの?出かけるんじゃ?」
「……しばらく帰らねえからな」
「え?どこに行くの?」
「ちょっと俺の心にケリをつけに行ってくる。ずっと前に言ってたアレだ。ようやく向き合える様になったからな。いつまでもリオネンの魔法で鈍くしてらんねぇし」
アッシャーの心に棲む、あのわだかまった汚泥の様な思いの事だ。アレにアッシャーは今から立ち向かう……?
アッシャーはそれからアンズの状態を説明してくれた。
アンズは魔法関連は魔力の出力をあげられるようになり強い魔法が使いやすくなったが、同時に慣れるまで細かい弱い魔法はミスが多くなっているらしい。
それと成獣ではあるが、獣の形態時の最大の大きさは魔力量に依存して大きくできるようになっているとの事。今なら民家並み迄大きくなれるそうだ。
「つう訳だ。魔法はアンズの力を使ったりしてたろ?コントロール出来る様にしとけよ」
ばいんばいんと飛び跳ねまわっているアンズを、微笑みながらアッシャーはそう言った。
「……うん」
「なんだよ、その顔は。一週間位で帰って来てやるよ。心配すんな」
「うん、アッシャーを信じて待ってる」
「おし」
アッシャーは背中を向けた。
「カリン、一発だけ背中叩いてくんね?」
背中を向けた、アッシャーの手が微かに震えている。その背中を平手で思いっきり叩いた。
「やれるよ、アッシャーなら。大丈夫!」
「おお、さんきゅーな。行ってくるわ」
知ってる。本当は、そんなに強い人じゃ無い。でも、弟子で弟の私に弱音吐ける人でも無い。
私が大丈夫と言ったから、大丈夫にするために戦える、そんな人だ。
私は鍛錬場からアッシャーを見送った。
後から食べ始めた私の方が先にお皿を空にして、私はリオネット様に尋ねた、
「どうして、ナルさんに会ってはダメなんですか?」
「カリンはまだ本調子ではありません。ナルニッサやアッシャーの持つ色香の耐性が落ちている」
「何ですか?それ」
「めっちゃキラキラ見える」
「は?」
私の疑問答えたのは雨情で、そして何故か白くなっている。
「人を惹きつけるスキルですね。カリスマというかフェロモンというか。ナルニッサは元々持っていたスキルであり、アッシャーもその耐性をつける訓練をした時に弱いながら色香のスキルが付きました。私は嗜好に偏りがあるので2人の色香はほぼ無効なんですけど」
ぷぷっと笑いながら、リオネット様は雨情を見た。
「……言わんとってください」
「恥ずかしい事じゃ無いですよ?スキルのせいなんですから。おまけにナルニッサは主人が見つかって異常な高揚状態でした。事故ですよ」
「何?何が起きたの?」
事故と言いながら、リオネット様は超楽しそう。
「カリンが不用意にナルニッサに近づかない様に、教えてあげたらどうです?」
雨情が灰になりそうだ。たった1日でリオネット様は雨情の弱点を炙り出している……。
「……言うてもうてん」
「え?何?ごめん聞こえなかった」
「……さいって言うて、もうてん」
「さい?」
「抱いてくださいって言うてもうてん!」
……。
「あー」
「ほら!微妙な空気になったやんけ!せやから嫌やってん!」
リオネット様はお腹を押さえて苦しがっているし、雨情は涙目だし、私はなんとも言えないしの地獄。
「っくく。でも、ナルニッサは慣れたもんでしたよ。『すまない、スキルを強め過ぎていた』と雨情に謝っていたので」
「ぎゃー」
雨情が走り去って行った。いっそボケたり突っ込んだりして貰った方が助かる文化の人だから、真面目に返されてダメージ倍倍だったのでしょう。合掌。
「ところで、アンズが見当たらないのですけどどこにいるか知りませんか?」
リオネット様も食べ終わったので、お茶を淹れながら、ずっと気になっていたことを聞く。
「部屋の外で丸まっていますよ?」
「え?なんで?」
「連れてきましょうか?」
「は、はい、お願いします」
リオネット様はパタンとドアを開けて、手だけ部屋の外に伸ばしたかと思うと小狐を掴んで帰ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……アンズ?どうしたの?」
「ごめんにゃさい」
ベッドに置かれた獣がウルウルしながら、丸まっている。
「何が?」
「カリン、気絶させた」
ああ、あれか。
「どうやらアンズはカリンを大事にしたかったのに、泡吹いて伸びさせたのを悔いている様ですよ」
わたし、アンズの背中で泡吹いて伸びたのか。
「もう大丈夫?怒ってない?」
「怒ってないし、元気だよ。助けに来てくれてありがとう」
アンズの表情はパッと明るくなった。久しぶりのアンズだ。ぬいぐるみバージョンのモフモフ。
「……おいでアンズ。なでなでしよ?」
「カリン……」
両手を広げておいでと呼ぶと、アンズが飛び込んで来た。
目の前30センチで人型になって。
ドーンっと押し倒されて、両手でしっかり抱きしめられる。
「カリン!元気になった!嬉しい!大好き!」
すりすりぎゅーっとされてるけど!私が求めてたのはこれじゃ無い!フワフワケモケモの方!
「さて、では私はお暇しましょう。ついでにお皿も持っていきますね」
えと、ありがとうございます?いや、違う!獣に襲われてるんだから、助けてリオネット様!
私の声は届かなかったのか、リオネット様はパタンと扉を閉めて出て行ってしまった。
翌朝、体調は完全に戻ったので、朝一から鍛錬場で身体を動かしてみる。
やはり鈍っているか。得物との馴染みが悪く、けれどクナイのスキルは上がっている感覚が分かる。
小狐なアンズと追っかけっこをやってみると、動体視力は上がってる気はするんだけど……。
アンズさんが以前より早すぎて、いまいち分からない。
「朝早くから、精が出てるじゃねーか」
鍛錬場の入り口で、アッシャーが声をかけてきた。
「おはよ。身体の調子を確認したくて。アッシャーも?」
「いや、俺はもう少ししたら出かける。調子はどうだ?」
「体術の確認やってたんだけど、アンズの能力が伸びてて、そっちに驚いてた所だよ」
「そっか」
アッシャーは私を手招きした。
「アンズの状態だけ教えておくわ」
「いいの?出かけるんじゃ?」
「……しばらく帰らねえからな」
「え?どこに行くの?」
「ちょっと俺の心にケリをつけに行ってくる。ずっと前に言ってたアレだ。ようやく向き合える様になったからな。いつまでもリオネンの魔法で鈍くしてらんねぇし」
アッシャーの心に棲む、あのわだかまった汚泥の様な思いの事だ。アレにアッシャーは今から立ち向かう……?
アッシャーはそれからアンズの状態を説明してくれた。
アンズは魔法関連は魔力の出力をあげられるようになり強い魔法が使いやすくなったが、同時に慣れるまで細かい弱い魔法はミスが多くなっているらしい。
それと成獣ではあるが、獣の形態時の最大の大きさは魔力量に依存して大きくできるようになっているとの事。今なら民家並み迄大きくなれるそうだ。
「つう訳だ。魔法はアンズの力を使ったりしてたろ?コントロール出来る様にしとけよ」
ばいんばいんと飛び跳ねまわっているアンズを、微笑みながらアッシャーはそう言った。
「……うん」
「なんだよ、その顔は。一週間位で帰って来てやるよ。心配すんな」
「うん、アッシャーを信じて待ってる」
「おし」
アッシャーは背中を向けた。
「カリン、一発だけ背中叩いてくんね?」
背中を向けた、アッシャーの手が微かに震えている。その背中を平手で思いっきり叩いた。
「やれるよ、アッシャーなら。大丈夫!」
「おお、さんきゅーな。行ってくるわ」
知ってる。本当は、そんなに強い人じゃ無い。でも、弟子で弟の私に弱音吐ける人でも無い。
私が大丈夫と言ったから、大丈夫にするために戦える、そんな人だ。
私は鍛錬場からアッシャーを見送った。
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