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そんな、まさか。あの雨情が捕まった?
「……雨情は?」
「奴は大事な情報源だ。おとなしくはしてもらったが、まだ死んではいない」
「あなたは、……あなた達はカリンを殺すのね。私を殺して、カリンを殺して、それから雨情も」
「初めから、お前ら異世界の血はこの世界の穢れでしかない」
「じゃあ、なんで呼び出すのよ……」
私みたいに2回目で来たいから来た人なんて他にはきっといないはずだ。
「人未満であるからこそ、魔王と戦わせられる。貴族や力を持つ民が殺されれば、それだけでこの世界の損失だろう?」
怖い。完全に正義を確信している目だ。
「女王陛下に逆らうの?」
「あの方の気持ちを慮るのが配下の役目」
「クラリス様はそんな事考えてない!」
「我が君の名を、下賤が口にするな!穢れるわ!」
エイスは杖を、杖にしていた剣を鞘から抜くと私に構えた。こちらはクナイしか無い。ダガーもマインゴーシュも宿屋のカバンの中だ。クナイも目立たない様に普通の強度。リーチも不利だ。距離を取って逃げなくては。後ろの茂みから沢に降りて……。
気取られない様に構えは崩さずにいると、視界を何かが横切った。
「くっ?」
『がおーっ。カリンちゃんに剣を抜いたから敵ー!』
仔熊ちゃんがエイスの左手に噛み付いた?
「危ない!」
スローモーションの様に見えるのは、何かの加護のおかげだろうか?見えている。どうなるか分かる。なのに、体が追いつかない。
ざくっ。
『ーーーっ!』
剣は仔熊ちゃんを貫いて、声にならない叫びがこだまする。
『おのれ』
熊さんがエイスに飛びかかろうとし、エイスが構えて、今!
「ぎゃあっ!」
クナイで右手首を引っ掛けて引っ張ると、バランスを崩したエイスの左肩を熊さんは噛みちぎった。
「あ、あぁあ、うぐっ」
エイスは……、負けを察したのか逃げ出した。あの傷なら普通は失血死する。しかし白魔法が使えるなら命に別状は無い。ただし、左手はここに残しているから片手を失うのは確実だ。
追いかけてとどめを刺した方が良い?と一瞬逡巡した私を仔熊ちゃんが現実に引き戻してくれた。
『いた、い。さむ、い』
『ああっ!』
刺された位置は肺。人体絵本だと、白魔法でなんとかできる部位、のはず。
やるしか無い。やった事無いけど、成功させるしか。方法は学んだ事はある。
「再生」
ごそっと魔力が抜ける音が聞こえた。体の何かが危険信号を送ってくる。でも、それは同時にはじめての再生の魔法が成功した事も物語っていた。
『いた、くない?痛くないよ!ママ!』
ぴょこんっと仔熊ちゃんは起き上がった。
『カリン……助かった』
『こちらこそ、巻き込んですまなかった。助けてくれてありがとう。仔熊ちゃんも』
仔熊ちゃんはコロコロ走り回っていて、もう大丈夫そうだ。
『待て、煙の匂いがする』
喜ぶ暇もなく、熊さんの視線の先を見ると、エイスが逃げていった先から煙が上がっていた。
『森に、火をつけたか!』
『消しに行ってくる』
『カリン、体調が悪そうだが?』
『魔力切れだと思う。魔石を拾いつつ消しに行ってくる。エイスもあの怪我だ。火をつけて、一旦逃げ帰ってからまた捜索するつもりだと思う。熊親子は他の動物を水辺に先導して欲しい』
『分かった。無理はするな。命があれば、この森は諦められる』
嘘だ。森を無くせばその森に住んだほとんどの生き物は消えるしかない。多少は周りの森林が吸収できるが、それも範囲が狭ければ、だ。吸収した森も勢力が変わり植生が変わり、ただでは済まない。森で生きた数年で、そんな事は私でも知っていた。
熊さんに気を遣ってもらっちゃった。
勇者の加護様様だ。痛くない。怖くない。魔力切れの先が何か分かる。でも無理やりでも走れる。
火の元に向かうと、まだ広がりは大きくなく、ジャングルの湿度に助けられていた。
それでも、魔法で点けられた火を自然に消すほどの効果は無い。魔石を拾っている時間も無い。
すべき事が分かった。それなら、と念の為影に声をかける。
「チュンチュン、ここに居たら危ないから逃げて。もういいから」
今になって分かった。チュンチュンはナルさんから魔力を届けてたから、私から離れられなかったんだ。でも、貰った魔力だけじゃ全然足りない。
「もう、魔力は要らないから」
相変わらずぽやーっとした顔の小鳥は、はて?という顔のまま飛び立っていった。
あの子がナルさん達に届いて、リオネット様達がここに来るまで何日かかるんだろうか。待つ事はできない。目を瞑ると、自分の半身が近くにいる感じがした。勇者の加護は精神を安定させるために幻覚まで見せてくれるのか。
「かーりー……」
とうとう幻聴まで。
「カーリーンー!」
嫌にはっきりと?え?
ばふぅんっと風圧があって、すごい速さで飛んできたソレは目の前に降り立った。
「え、誰?」
「じゃじゃーん!アンズさんでーす!」
目の前にクレーターを作って落ちてきたのはどこからどう見ても同い年位の男の子で、言われれば確かにオッドアイなんだけど……。
「は!それより!火を消さないと!」
「消すの?おっけー!」
嬉しそうに笑った口元に牙が覗く。ブワッと魔力が渦を巻くと、ポポンっとケモ耳と尻尾が生えた。
確かに、アンズっぽい。
彼が軽く右手の親指を立てた瞬間、森の火は一瞬で、消え去った。
「再生!」
そして、握った手を広げる様にすると、焼けた地がどこか分からない位に木々が生い茂る……。こんなの、あり、なの?
「あれ?カリン?」
アンズは不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
きゅるんっとした目は大きくて、顔の造りはむしろ可愛い方だ。身長も変わらない、声も低く無い、なのに男の子だよねぇ……と、マジマジと見ながら考えていると、その顔が近づいてくる。
「魔力少ないよー!危なーい」
そして、ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、ちゅっとキスされた。
「……雨情は?」
「奴は大事な情報源だ。おとなしくはしてもらったが、まだ死んではいない」
「あなたは、……あなた達はカリンを殺すのね。私を殺して、カリンを殺して、それから雨情も」
「初めから、お前ら異世界の血はこの世界の穢れでしかない」
「じゃあ、なんで呼び出すのよ……」
私みたいに2回目で来たいから来た人なんて他にはきっといないはずだ。
「人未満であるからこそ、魔王と戦わせられる。貴族や力を持つ民が殺されれば、それだけでこの世界の損失だろう?」
怖い。完全に正義を確信している目だ。
「女王陛下に逆らうの?」
「あの方の気持ちを慮るのが配下の役目」
「クラリス様はそんな事考えてない!」
「我が君の名を、下賤が口にするな!穢れるわ!」
エイスは杖を、杖にしていた剣を鞘から抜くと私に構えた。こちらはクナイしか無い。ダガーもマインゴーシュも宿屋のカバンの中だ。クナイも目立たない様に普通の強度。リーチも不利だ。距離を取って逃げなくては。後ろの茂みから沢に降りて……。
気取られない様に構えは崩さずにいると、視界を何かが横切った。
「くっ?」
『がおーっ。カリンちゃんに剣を抜いたから敵ー!』
仔熊ちゃんがエイスの左手に噛み付いた?
「危ない!」
スローモーションの様に見えるのは、何かの加護のおかげだろうか?見えている。どうなるか分かる。なのに、体が追いつかない。
ざくっ。
『ーーーっ!』
剣は仔熊ちゃんを貫いて、声にならない叫びがこだまする。
『おのれ』
熊さんがエイスに飛びかかろうとし、エイスが構えて、今!
「ぎゃあっ!」
クナイで右手首を引っ掛けて引っ張ると、バランスを崩したエイスの左肩を熊さんは噛みちぎった。
「あ、あぁあ、うぐっ」
エイスは……、負けを察したのか逃げ出した。あの傷なら普通は失血死する。しかし白魔法が使えるなら命に別状は無い。ただし、左手はここに残しているから片手を失うのは確実だ。
追いかけてとどめを刺した方が良い?と一瞬逡巡した私を仔熊ちゃんが現実に引き戻してくれた。
『いた、い。さむ、い』
『ああっ!』
刺された位置は肺。人体絵本だと、白魔法でなんとかできる部位、のはず。
やるしか無い。やった事無いけど、成功させるしか。方法は学んだ事はある。
「再生」
ごそっと魔力が抜ける音が聞こえた。体の何かが危険信号を送ってくる。でも、それは同時にはじめての再生の魔法が成功した事も物語っていた。
『いた、くない?痛くないよ!ママ!』
ぴょこんっと仔熊ちゃんは起き上がった。
『カリン……助かった』
『こちらこそ、巻き込んですまなかった。助けてくれてありがとう。仔熊ちゃんも』
仔熊ちゃんはコロコロ走り回っていて、もう大丈夫そうだ。
『待て、煙の匂いがする』
喜ぶ暇もなく、熊さんの視線の先を見ると、エイスが逃げていった先から煙が上がっていた。
『森に、火をつけたか!』
『消しに行ってくる』
『カリン、体調が悪そうだが?』
『魔力切れだと思う。魔石を拾いつつ消しに行ってくる。エイスもあの怪我だ。火をつけて、一旦逃げ帰ってからまた捜索するつもりだと思う。熊親子は他の動物を水辺に先導して欲しい』
『分かった。無理はするな。命があれば、この森は諦められる』
嘘だ。森を無くせばその森に住んだほとんどの生き物は消えるしかない。多少は周りの森林が吸収できるが、それも範囲が狭ければ、だ。吸収した森も勢力が変わり植生が変わり、ただでは済まない。森で生きた数年で、そんな事は私でも知っていた。
熊さんに気を遣ってもらっちゃった。
勇者の加護様様だ。痛くない。怖くない。魔力切れの先が何か分かる。でも無理やりでも走れる。
火の元に向かうと、まだ広がりは大きくなく、ジャングルの湿度に助けられていた。
それでも、魔法で点けられた火を自然に消すほどの効果は無い。魔石を拾っている時間も無い。
すべき事が分かった。それなら、と念の為影に声をかける。
「チュンチュン、ここに居たら危ないから逃げて。もういいから」
今になって分かった。チュンチュンはナルさんから魔力を届けてたから、私から離れられなかったんだ。でも、貰った魔力だけじゃ全然足りない。
「もう、魔力は要らないから」
相変わらずぽやーっとした顔の小鳥は、はて?という顔のまま飛び立っていった。
あの子がナルさん達に届いて、リオネット様達がここに来るまで何日かかるんだろうか。待つ事はできない。目を瞑ると、自分の半身が近くにいる感じがした。勇者の加護は精神を安定させるために幻覚まで見せてくれるのか。
「かーりー……」
とうとう幻聴まで。
「カーリーンー!」
嫌にはっきりと?え?
ばふぅんっと風圧があって、すごい速さで飛んできたソレは目の前に降り立った。
「え、誰?」
「じゃじゃーん!アンズさんでーす!」
目の前にクレーターを作って落ちてきたのはどこからどう見ても同い年位の男の子で、言われれば確かにオッドアイなんだけど……。
「は!それより!火を消さないと!」
「消すの?おっけー!」
嬉しそうに笑った口元に牙が覗く。ブワッと魔力が渦を巻くと、ポポンっとケモ耳と尻尾が生えた。
確かに、アンズっぽい。
彼が軽く右手の親指を立てた瞬間、森の火は一瞬で、消え去った。
「再生!」
そして、握った手を広げる様にすると、焼けた地がどこか分からない位に木々が生い茂る……。こんなの、あり、なの?
「あれ?カリン?」
アンズは不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
きゅるんっとした目は大きくて、顔の造りはむしろ可愛い方だ。身長も変わらない、声も低く無い、なのに男の子だよねぇ……と、マジマジと見ながら考えていると、その顔が近づいてくる。
「魔力少ないよー!危なーい」
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