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 今度はゴーグル自体に宝石の様にキラキラした小石が取り付けられた。「上物やで」と言いながら、ウジョーさんは得意げだ。彼の採った魔石だろうか。

「……どないなっとんねん。これが、加護か?」

 ゴーグル越しでも分かるくらい、眉間に皺が寄った。ウジョーさんの声は若干怒りを含んで聞こえた。

「多分そうだと思います。何が見えたんですか?」
「気分悪いかも知らんけど言うで。これは呪いや。こんなん加護やなんて、ちゃんちゃらおかしい」
「呪い?」
「死恐怖症耐性ってアホか。こんなん、よっぽど本人が望んで、職業柄どうしても要る時ぐらいしか身につけへんぞ。死が怖ない様にするっちゅう事は、なんかあれば死ね言われてる様なもんやろ。カリンの事なんやと思てんねん」
「はぁ」
「色々鈍麻もついてる。ストレス耐性あがっとるやろ。普通なら躊躇する事に気がつかへん。そんなん人格歪めてる様なもんやで」
「そうなんですか?」
「ほら、ショック受けとらへん」

 全く受けてない事はない。ただ、確かに自分でも何か昔の自分とは違うなと思う事はあった。

「まぁ、俺がひっぺがせるもんでもないし、無理矢理外したらどうなるか分からん。他に気になるんは……、内部破壊耐性と再生がほぼカンストしてるんと……、なんで色香テンプテーション耐性まであんねん。サンダーランドの貴族か一部の聖獣くらいしか持っとらへんスキルやん」
「それは、友達のナルさんと言う人がサンダーランド家の人だからかも知れません」
「ああ、なるほど。仲良いんや?」
「それなりに」
「ほーん」

 パッとウジョーさんはゴーグルを外した。さっきの小石は心なしかさっきより小さくなっている。

「まぁ、こんなもんや。あんまりやると宝石これうなってまうし」
「こんな便利な物があるんですね」
「貴族さん達は魔具あんまり使わへんからな。平民は魔具と魔石で魔法の代わりにしとる。魔石は高いから、ここまでのん持っとんのはほんの一部や。魔石うてまで使っとたらすぐ破産になるわ」
「すごーい」
「せやろ?」

 「さってと」と言って、ウジョーさんは立ち上がった。

「さっさと魔石見つけよか。カリンにも数要るし」
「すみません」
「いや、ええねん。魔石言うても売れるんは純度が高い透明なやつや。純度が低いとゴミが出る。魔具の燃料に使えへんし、値段も安い。純度が低い小石は置いといても純度が悪いまま大きいなるだけやねん。カリンが使いまくっても全然オッケーや」

 そして、彼はすぐ横の木を揺らすとバラバラと石が降ってきた。

「コレが魔石」
「そんな簡単に?」
「見てみぃ、全部灰色や。これ全部魔力も少ない。ええか?大きゅうて透明なんあったら、布で掴んで回収するんやで」
「はい」

 試しに手で灰色のに触れると、ポロっと崩れて無くなった。本当に含まれてる量が少ないらしい。
 ウジョーさんは木に登って揺すったり、棒を使って器用に落としていっている。見たところ透明な物はほとんどなく、合っても極小。そっと掴んで袋に入れはするけれど、実入りは良くなさそう。

「最近ええのあんまり無いねん。お陰で危険をおかしてこのテリトリーまで来たわけやけど、ここも減っとるな。カリンがぬしと交渉してくれたさかい、コソコソやらんで済んで助かるわ」

 確かにこんだけ大暴れしてたら、熊にも襲われるだろう。うるさすぎて。
 小さい動物達は迷惑そうに逃げていっている。

『騒がせてすまない。透き通る魔石、純度の高い魔石を探している。見た事はないか?』
『最近は水の中にできる様になった。マナが濃くて重くて沈む。暴れるのは勘弁願う』
『分かった。すまなかった』

 試しに迷惑そうな顔をしているリスっぽい子に聞いてみた。逃げ惑わないこの胆力。小型だけど、やはりただの動物じゃ無くて聖獣の子でしたね。会話がスムーズだった。

「ウジョーさん。純度の高い魔石ですけど!」
「見つかったか?!」
「いえ、そこのリスさんが最近は池の中にできてるって言ってます」

 どしーん、と音を立ててウジョーさんは木から落ちてきた。

「だ、大丈夫ですか?お怪我は?」
「怪我?怪我なんてなんぼのもんじゃい!それよか、カリン、今の話ほんまか?」
「はい、マナが濃くて重くて沈むって」
「行くで!」

 ぴゃっと先程私達が来た方向にウジョーさんは消えていった。え、置いてかれた?熊は大丈夫でも他にも猛獣とかいるんじゃ?

 待ってぇぇえ!

 はぐれるかと思ったが、ウジョーさんはなぎ倒し気味で駆け抜けたらしく、即席の獣道かできていたので簡単に元の池に辿り着けた。そこにはウジョーさんの抜け殻が落ちていて、本体はどうやら池の中。

「とったどー!」

 拳大の宝石の様な魔石をウジョーさんは掲げた。

「うおっと。カリン、パス!」
「はい!」

 水中は流石に素手なので、触っていると溶けていく。投げてよこされ、それを私が布で受け取り収納する。ほいっほいっと投げてこられて、あっという間に袋はぱんぱん。

「大量やー!」

 いくらゴーグルをかけていても、水中でこれほど透明な石なら見つけられない様な気がするが、ウジョーさんには簡単だった様だ。どうなってるんだろう。

「おっしゃ、おっしゃ」

 ザバァっと水から上がると、彼は服を着ていなかった。秘すべき場所とご対面。

「薪とってきます!」
「おう、ありがとさー、ん?」

 見てしまった。いけないものを見てしまった。ウジョーさんは完全に私を男だと思ってるから仕方ないけど!……忘れよう。

 しかし、薪は急いで集める。もう少し山手に行くと雪が積もっている様な気候で、池の水は冷たかった。風邪をひかれては大変だ。

 戻るとウジョーさんもちゃんと服は着ていて、それでも髪はまだ濡れていた。

「火を起こしますね。魔石頂いたので、着火くらいなら問題ないので」
「おおきにー」

 寒いのかフルフル震えながらも、ニンマリ笑っている彼の目にはお金のマークが見える。通貨単位は円ではないが。

「……カリン、このまま俺と手ぇ組まへん?結構ええ生活でけるで?」
「皆が心配しています。それに、やらないといけない事もあるので」
「えー、カリンさーん、命かけて街まで行くのやめよぉやぁ」

 ぶぅぶぅ口を尖らせてもダメです。

「まぁ、真面目な話、あんな呪いかけられたんやし、戻るんはやめた方がええと思うんやけど」
「でも、あれが無ければ魔王は倒せないんじゃないですか?」
「魔王、なぁ。おると思うんか?」
「え?」
「せやから、ほんまに人の心につけ入って怨嗟振り撒く様な魔王、いるんやろか?誰も見た事あらへん。歴代の勇者御一行も力は削いでも対面した事はない。おまけに怨嗟は魔王の専売特許でも無い。俺はあんまり信じてへんのよね」

 魔王は……、いない。そんな事あり得るのだろうか?

「クラリス陛下とお話しして、ですけど、いると、思います」

 クラリス女王陛下の憂いた顔が浮かぶ。本当に魔王がいなければどんなに良いか。

「ただ、もし魔王自体はいなくても魔王討伐に出れば空気中のマナが減って怨嗟が減るのは確かです。自然現象かも知れないけれど、行く価値はあると思います」
「ほーん。ま、そこまで言うなら頑張りよし」

 ウジョーさんは怨嗟にはあまり興味がない様だった。
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