二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬

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 更に数日経ち、私の魔力とアンズの魔力が十分に満ちたと確認されるや否や、リオネット様はアンズを連れて行った。特殊な結界内で行われるそうで、見学不可。索冥とリオネット様がつきっきりで、早くて1週間、恐らく10日はかかると言う試算だそうだ。
 その間はアッシャーやナルさんは体力の調整をして、その後に西へ旅立つ準備をする。私は加護の回復系がゴリゴリ魔力を使うらしく、ひたすら読書と軽いトレーニングを課されるのみ。魔法は禁止。アッシャーとナルさんが市場調査に出る時はついて行っても良いけれど、それ以外の外出も禁止と言われた。

「何があっても、開けてくれるなと聞いているが……、リオンの事だから開けられない様にはしてあるだろうな」

 3人が消えて行ったのは扉がぴっちり閉められた大広間だ。中ではどんな結界が張られているのだろうか。通常、扉の外にも結界の一部があって、それを傷つける事で中止したり、外からの情報を入れられる様になっているはずだが、それすら無い。

「これほどの強固な結界が張れるのは、流石リオネット殿としか言いようがないな」
「あいつ変態だからな。異世界の医学とか物理学とかいうアレコレの知識が半端ねぇんだよ。ここ10年の各専門分野でも名を馳せているしな」
「リオネット様って、やっぱり凄いんですね」

 扉の前で3人並んで感嘆していると、屋敷の外から喧騒が聞こえてきた。

「何事だ?」

 うちの衛兵と聖職者が慌てた様子でアッシャーの前に膝をつく。

「怨嗟がお屋敷の裏手で発生しております!」
「俺が行く。ナルニッサにはカリンを頼む。近隣の諸侯に連絡と、ナナミ殿にも知らせておいてくれ」

 怨嗟が発生するのは想定済みだったのか、アッシャーは冷静に指示を出した。
 そして、私の頭を軽く叩いてから外に出て行った。

「最近貴族街で怨嗟が発生しやすくなっている様です」
「どうしてだろうね。でも貴族街なら聖職者とかの白魔道士も多いから、ある意味助かるんだけど」 

 ナルさんと一緒に屋敷の裏手側に回ると、思った以上に怨嗟が発露している者達が集まっている。

「出られないのが悔しい」
「我が君……」
「貴族の身分を貰ったのに活かせないなんて。ナルさん行ってくる?」
「いえ、お側におります」

 もし離れたとしても、その時間は小一時間程だろう。それでも離れてはいけないのだろうか?ここは屋敷の中なのに。

「ナルさん、私はあの人達を助けたいと思う。でも私は今役立たずだ。ナルさんに行ってはもらえない?」
「我が君……」
「あなたの考えてる事が知りたい」
「……お側におります。あの量の怨嗟ならアッシャーとこちらの白魔道士で問題がありません。更に念の為うちからも出す様になっています。ご心配には及びません」

 その時、サンダーランドからの援軍が到着した。確かに問題は無さそう。

「うん、ありがとう。ちゃんと話聞いて良かった」
「……必ず貴女を守るとアンズ殿と約束しました。より縁の浅い私ですら、割かれる心の痛みは察するに余りある。半身を失ったカリン様はお一人の身体で無い事をもう少し理解していただきたい」
「ごめん」

 大勢が決まった様なので、念のために奥に戻る。万一の万一で流れ玉の魔法にでも当たれば不味い。そんな私達の前に、真っ青な顔の衛兵が膝をついた。

「カリン様!お客様が!」

「お客様が、襲われた?」
「いえ、いらっしゃっております!ご無事です!」

 来客の予定は無いし、無事ならどうしてそこまでおののいているんだろうか?

「お客様って?」
「お客様は女王陛下です!」

 女王陛下……って、クラリス陛下?!

「とりあえず、急ぎましょう」

 なんと?と氷結してしまったけれど、ナルさんに促されて解凍、急いで客間に向かった。召喚された時以来?いや、試合の表情の時にお見かけした以来だ。リオネット様は辛うじて直接話しかけても良い立場だけれど、それ以外は余程の事が無ければ同席すら難しい様な相手。

「な、なにかやらかしたかな?」
「罰するならばご足労はされません。参りましょう」

 客間を開けると、確かにそこには陛下が佇んでいた。

 ナルさんがスッと膝を折って、私も慌てて倣う。一歩後ろにいるナルさんの動きは気配でわかるから、ものすごく助かる。

「表をあげよ」

 命令されて、顔を上げると陛下は私の手を取った。

「時間が無い。わらわと一緒に城へ」
「あのっ。今はちょっと」
「畏れ多くも失礼致します。カリン様は今療養中の身。お屋敷の外へはお連れ致しかねます」

 ナルさんは顔を下げたまま陛下に進言した。

「そうか、ならばより急がねば。サンダーランドのせがれか。カリンの守護をしておるなら、そなたも参られよ」
「……御意」

 これ以上の反発はできないらしく、ナルさんは頭を下げた。とりあえず、私だけ連れ去られる事は避けられたのだから、まだマシなのかもしれない。

 うちの屋敷の前には騎獣の引く馬車があり、陛下と私とナルさんが乗り込んだ。
 それにしても、馭者ぎょしゃはいるとは言え、ほぼ陛下お一人でここまでいらっしゃったらしい。お付きの者がいないなんて、どんな異例な事が起きたのだろうか?

「カリン、頭を低うに。サンダーランドの、名前は?」
「ナルニッサです」
「ナルニッサ、カリンを隠せ」

 ナルが私の頭をナルさんの膝に引き寄せる。膝枕されて、その上にナルさんのマントがかかった。何事?!

「やはり、狙いはカリンか。みろ、外の者達が倒れてゆく。離れれば怨嗟は抜けるらしい」
「怨嗟の者達が……。陛下、これは?」
「城に着けば多少安全だ。そこで」

 全く見えなくて何が起きてるか分からない。
 振動から察するに、城の空の玄関と思しき場所に着いたが、今度はマントに包まれたまま、お姫様抱っこ。そして、マントから外に出された場所は、こちらに呼び出された召喚の場所だった。

「ここはリオネットの術がある。安全であろう」
「陛下、一体何が?」

 陛下は魔法陣をあらためながら私に言った。

「カリン、そなた女だな?」
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