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ハリセンボン
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アッサム様はサルフォードから少し離れた泉のある森まで連れてきてくれた。そこで顔を洗って、ようやく私はまともに話せる様になった。
「まぁ、でも有意義な再会だったわ。ありがとな」
「私はただ、アッサム様が動じなさすぎで驚愕してます」
「そうか?」
「泣けとは言いませんけど、鋼の心臓過ぎです」
「いや、逆逆」
アッサム様は苦笑して顔の前で手を振った。
「俺は心に綻びがある。んで、それが広がらねぇ様にリオンに手伝ってもらってんだよ。だから、相当鈍くなってるだけだ」
「鈍い?」
トントンと人差し指で指したのは、鳩尾近く。心というより心臓の位置だった。
「心では色んな感情が生まれはするが、それに名前をつけたり分類しない様にしてある。負のエネルギーになられちゃ困るからな」
「それってやっぱり、強い感情はあるじゃ無いですか。私だって涙が悲しいとか、でも逢えて良かった嬉しさとかそう言った分類にできない、わーっとした思いですもん」
「ああ、だからカリンに来てもらって良かった。代わりに表現してくれたんだろ」
「代わりじゃないです。これは私のです」
「ケチだな」
「アッサム様の表現はアッサム様が見つけないと、なんか体に悪そうです」
「違いない」
アッサム様は原っぱに寝っ転がった。
「いや、俺も爆弾抱えたまま魔王退治はマジィなと思ってんだよ。まぁ、糸口は見つけたから、今はカリンが俺の代わりに泣いてくれ」
「私が代わりに泣いたり笑ったりで、それってアッサム様のためになります?」
「なるよ。感情に生で触れられる。リオンはあんなだからな。お前に触れてると、人間の心に触れられる」
どんな生き方してきたんだよ、このひと。
そう思うと、一旦緩んだ涙腺はまた仕事を始める。
貴族の世界で爽やかマンやって、平民の前でも理想的に振る舞って、それが全部人のためとかマジふざけんなと思う。
「~~~!」
「怒るか、泣くか、どっちかの方が良くね?」
「人の心は複雑なんです!」
仕方なく、私はアッサム様の側で座った。空には雲がゆっくり流れていて、日は夕方まであと少しと言う位置だ。
「そうだ、これ、お前に渡しておく」
受け取ったのはアッサム人形。
「私が頂いて良いんですか?」
「守り人形って知ってるか?」
「いいえ」
「本来は母親が子供が産まれた時に、ちっこい魔石を核に身代わりの人形を作るんだよ。うちの地方じゃ魔石なんて手に入らなかったし、本当はリズが作ってくれた人形だけどな。それは、本人が持つんじゃ無くて、家族が家族の無事を願って持つもんだ。俺はリズのを持ってた」
「持ってた?今は?」
そんなのを彼が持っていた覚えは無い。
「原石の関係者は原石の記憶を消される。これは、貴族と繋がりが有れば不正や癒着が起こるのを避けるためだ。だが、それだけじゃ無くて、貴族になった系類に人が群がるのを防ぐ事にもなる」
確かに、もしリズさんがアッサム様の、貴族の息子で勇者候補の実姉と知られていたら、まともな暮らしは出来ない。少なくとも、今の旦那さんと結婚されたりアッシャーちゃんが産まれる事はなかってはずだ。
「この忘却魔法はかなり強力なんだが、リズはかかりが浅かった。何度か解けちまったから、俺が長年念を込めてた人形を形代に使って女王陛下直々に記憶を消してもらったんだ。それでも一部は消えずに、アッサム人形との思い出に書き換えて定着してしまったらしいが」
「それを、そんな大事なのを私が持ってて良いんですか?」
「俺はお前を家族だと思ってるよ。お前にとっちゃ、異世界ではお前の兄貴だけが兄弟かもしれないけどな。もちろんリオンも家族だと思ってる。だが、あいつにこれ渡す勇気は俺には無ぇわ」
仰向けだったアッサム様はゴロンと転がって座り直した。
「お前をちゃんと兄貴に送り届けてやる。でも、その後もし困ったら帰ってくりゃ良いし、困ってたら助けに行ってやるよ。お前は俺の家族だ」
「~~~」
「なんでまた泣くんだよ。忙しい顔だな」
「アッサム様も私の兄様、です」
「OK。じゃ、そろそらその呼び方変えようぜ」
「アッサム様じゃ無くて?」
「そうそう」
「お、おにいちゃん?」
彼の顔が真っ赤になった。
「ダメだ。お兄ちゃんは辞めよう。破壊力がありすぎた」
「破壊力?」
「そうだな、アッサムかアッシャーあたりが妥当か」
「アッシャー?」
「おあっ。これもなかなか。だが、まぁ、慣れ、だな」
「自分で呼べって言ってて、それは無く無い?アッシャー」
「まぁな」
アッシャーは私の頭に軽く手を置くと、顔を赤らめたままそっぽを向いた。
「……今日は満月だ。安全に心をざわつかせる方法が見つかった事だし、上手くいけば色々解決するかもしれねぇ。そしたら、多分カリンを困らせる様な事はもうしねぇよ」
満月。仮面の娘になる日だ。アッシャーも、心の澱に自覚がある。そして、見開きが出来る仮面の娘と向かい合おうとしてる。
それからもう少しだけ日が落ちて私達はマンチェスターの城に帰った。
騎士や剣士でも扱える基礎の白魔法で私の真っ赤な目は元通り。アッシャーにやってもらいました。自己治療は意外と難しい。
城に着くと、待ってましたと言わんばかりにずっと影に入ってたアンズがぬいぐるみに飛び移った。
「僕、ちょっと走ってくる」
森から帰ってからずっと影の中。そりゃ子供には辛かろう。子供じゃないらしいけど。でも、ちょっと拗ねてる様な?
入れ替わりにリオネット様とナルさんが迎えてくれた。
「おかえりなさい、いかがでしたか?」
「まぁ、ぼちぼち、だな」
リオネット様が私達を迎えてる横で、ナルさんは私に一目散。やはり、犬だ。
「おかえりなさいませ。ご無事でしたか?」
「ただいま、町に出かけただけだよ」
「それにしては……、いえ、失礼いたしました」
それ以上は聞かないでね、の意味でじっと見つめると、意を汲んでくれたっぽい!意思疎通が視線でできる日が来るなんて、凄い感動だ。
「我が君のお戻り、心よりお待ちしておりましたが……、私めはしばらく御前を離れてもよろしいですか?」
「どこかお出かけ?」
「いえ、数時間ほど鍛錬で」
「ナルさん、私そこまでナルさんを制限したくないよ。アンズだって今散歩に出てるし」
「ですが、我が君は手を離すとどこかへお隠れになりそうなのです」
そんな糸の切れた凧みたいに思われてたのか。
「行かない。何処かに行く時は声をかけるし、少しでも危なそうな所に行く時はナルさんについてきてもらう。頼りにしてるんだからね。はい、約束」
小指を絡ませて、指切りをするとナルさんは「これは?」と聞いた。
「約束の誓い?みたいなもの。私の故郷でのね。あちらは魔法とかマナとか無いから口約束なんだけど」
「左様ですか」
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます」
さぁっとナルさん真っ青になる。
「これ、は、代償が大きすぎます!」
「定型文定型文、本当に飲ませる訳じゃ無いよ」
うるっとする25歳はちょっとからかいたくなる。
「じゃ、俺は部屋に戻るわ、また明日」
ナルさんとじゃれてるうちに、アッシャー達のお話は終わったらしい。あれ?夕食は?
「待てアッシャー、鍛錬に付き合え」
うるっとしてたナルさんは一瞬でシリアス調に戻れる特技がある。厳しく制する様な声にアッシャーは立ち止まった。
「今からか?」
「今からだ。鍛錬場は押さえてある。行くぞ」
「しゃーねぇな。……さんきゅ」
アッシャーの最後の一言は口が動くかどうかの微かなお礼の言葉だった。
「あれって」
2人が鍛錬場に行ってから、リオネット様に問う。
「ああなんですよ。どうせカリンの前では大人ぶってたんでしょう。食欲を無くす程気力を失ったまま寝る方が、アッシャーには良くないというのに」
「ナルさんもそれが分かってるんですね」
「体力バカ達はああやって頭を空っぽにして、お腹を膨らませて寝るのが一番の対症療法です。相手してやれるのはナルニッサだけなのがネックですが、その辺り彼は聡くて好ましい」
「ナルさんとアッシャーは仲良いですよね。リオネット様とはあまり仲良く無いのかと思っていました」
「私はナルニッサ好きですよ。揶揄いたくなる。少々いじめすぎて嫌われ気味かもしれませんが」
小学生男子みたいな事おっしゃる。でも気持ちは分からんでも無い。
「さて、アッシャーに呼び方が変わりましたね」
「はい、アッシャーにお前は家族だって言ってもらって」
「おや、微笑ましい。仲良くなるのは良い事ですね。少し嫉妬してしまいますが」
「リオネット様も呼び方変えた方が良いですか?」
リオネット様はマジマジと私を見た。
「魅力的な提案ですが、今はまだそのままの方が良いでしょう。いずれまた、その時に」
いずれ?
しかしのこの含み笑い。どうせ聞いても答えてはくれまい。
「それよりも、今日は満月です。アッシャーとお話しなさいますか?」
「します。アッシャーをあのままにはしておけない」
「上々」
そう言ってリオネット様はペンダントを渡した。
「オリジナルで種々の加護も付加しておきました。陛下のものと比べるとお遊びのようなものですが、無いよりはマシでしょう。アッシャーも同じフォルムの物を渡しているので、彼の目につかないように、身につけてください」
「ありがとう」
「満月の夜、これをつけて眠ると同じくペンダントを付けた者のうち、会いたい人に会えるという代物です。つまり、アッシャーに会える。夢の中は現実ではありません。見た目や痛みは想像の中のものでしか無く、簡単に仮面の娘の形を取ることができる。多少の歪みは相手もイメージを補完してくれるので大丈夫です。ただし、夢の中では自らを偽るのは難しい」
「とりあえず、やってみます」
「ええ、それから少し事前情報も」
「カンニングしてるみたいですけど、会話のとっかかりをいただけるのは助かります」
「アッシャーは」
リオネット様の話し出しは、まるで幼き日の昔話を話す様で……
「人を殺しています」
後に続いた文を一瞬理解できなかった。
「まぁ、でも有意義な再会だったわ。ありがとな」
「私はただ、アッサム様が動じなさすぎで驚愕してます」
「そうか?」
「泣けとは言いませんけど、鋼の心臓過ぎです」
「いや、逆逆」
アッサム様は苦笑して顔の前で手を振った。
「俺は心に綻びがある。んで、それが広がらねぇ様にリオンに手伝ってもらってんだよ。だから、相当鈍くなってるだけだ」
「鈍い?」
トントンと人差し指で指したのは、鳩尾近く。心というより心臓の位置だった。
「心では色んな感情が生まれはするが、それに名前をつけたり分類しない様にしてある。負のエネルギーになられちゃ困るからな」
「それってやっぱり、強い感情はあるじゃ無いですか。私だって涙が悲しいとか、でも逢えて良かった嬉しさとかそう言った分類にできない、わーっとした思いですもん」
「ああ、だからカリンに来てもらって良かった。代わりに表現してくれたんだろ」
「代わりじゃないです。これは私のです」
「ケチだな」
「アッサム様の表現はアッサム様が見つけないと、なんか体に悪そうです」
「違いない」
アッサム様は原っぱに寝っ転がった。
「いや、俺も爆弾抱えたまま魔王退治はマジィなと思ってんだよ。まぁ、糸口は見つけたから、今はカリンが俺の代わりに泣いてくれ」
「私が代わりに泣いたり笑ったりで、それってアッサム様のためになります?」
「なるよ。感情に生で触れられる。リオンはあんなだからな。お前に触れてると、人間の心に触れられる」
どんな生き方してきたんだよ、このひと。
そう思うと、一旦緩んだ涙腺はまた仕事を始める。
貴族の世界で爽やかマンやって、平民の前でも理想的に振る舞って、それが全部人のためとかマジふざけんなと思う。
「~~~!」
「怒るか、泣くか、どっちかの方が良くね?」
「人の心は複雑なんです!」
仕方なく、私はアッサム様の側で座った。空には雲がゆっくり流れていて、日は夕方まであと少しと言う位置だ。
「そうだ、これ、お前に渡しておく」
受け取ったのはアッサム人形。
「私が頂いて良いんですか?」
「守り人形って知ってるか?」
「いいえ」
「本来は母親が子供が産まれた時に、ちっこい魔石を核に身代わりの人形を作るんだよ。うちの地方じゃ魔石なんて手に入らなかったし、本当はリズが作ってくれた人形だけどな。それは、本人が持つんじゃ無くて、家族が家族の無事を願って持つもんだ。俺はリズのを持ってた」
「持ってた?今は?」
そんなのを彼が持っていた覚えは無い。
「原石の関係者は原石の記憶を消される。これは、貴族と繋がりが有れば不正や癒着が起こるのを避けるためだ。だが、それだけじゃ無くて、貴族になった系類に人が群がるのを防ぐ事にもなる」
確かに、もしリズさんがアッサム様の、貴族の息子で勇者候補の実姉と知られていたら、まともな暮らしは出来ない。少なくとも、今の旦那さんと結婚されたりアッシャーちゃんが産まれる事はなかってはずだ。
「この忘却魔法はかなり強力なんだが、リズはかかりが浅かった。何度か解けちまったから、俺が長年念を込めてた人形を形代に使って女王陛下直々に記憶を消してもらったんだ。それでも一部は消えずに、アッサム人形との思い出に書き換えて定着してしまったらしいが」
「それを、そんな大事なのを私が持ってて良いんですか?」
「俺はお前を家族だと思ってるよ。お前にとっちゃ、異世界ではお前の兄貴だけが兄弟かもしれないけどな。もちろんリオンも家族だと思ってる。だが、あいつにこれ渡す勇気は俺には無ぇわ」
仰向けだったアッサム様はゴロンと転がって座り直した。
「お前をちゃんと兄貴に送り届けてやる。でも、その後もし困ったら帰ってくりゃ良いし、困ってたら助けに行ってやるよ。お前は俺の家族だ」
「~~~」
「なんでまた泣くんだよ。忙しい顔だな」
「アッサム様も私の兄様、です」
「OK。じゃ、そろそらその呼び方変えようぜ」
「アッサム様じゃ無くて?」
「そうそう」
「お、おにいちゃん?」
彼の顔が真っ赤になった。
「ダメだ。お兄ちゃんは辞めよう。破壊力がありすぎた」
「破壊力?」
「そうだな、アッサムかアッシャーあたりが妥当か」
「アッシャー?」
「おあっ。これもなかなか。だが、まぁ、慣れ、だな」
「自分で呼べって言ってて、それは無く無い?アッシャー」
「まぁな」
アッシャーは私の頭に軽く手を置くと、顔を赤らめたままそっぽを向いた。
「……今日は満月だ。安全に心をざわつかせる方法が見つかった事だし、上手くいけば色々解決するかもしれねぇ。そしたら、多分カリンを困らせる様な事はもうしねぇよ」
満月。仮面の娘になる日だ。アッシャーも、心の澱に自覚がある。そして、見開きが出来る仮面の娘と向かい合おうとしてる。
それからもう少しだけ日が落ちて私達はマンチェスターの城に帰った。
騎士や剣士でも扱える基礎の白魔法で私の真っ赤な目は元通り。アッシャーにやってもらいました。自己治療は意外と難しい。
城に着くと、待ってましたと言わんばかりにずっと影に入ってたアンズがぬいぐるみに飛び移った。
「僕、ちょっと走ってくる」
森から帰ってからずっと影の中。そりゃ子供には辛かろう。子供じゃないらしいけど。でも、ちょっと拗ねてる様な?
入れ替わりにリオネット様とナルさんが迎えてくれた。
「おかえりなさい、いかがでしたか?」
「まぁ、ぼちぼち、だな」
リオネット様が私達を迎えてる横で、ナルさんは私に一目散。やはり、犬だ。
「おかえりなさいませ。ご無事でしたか?」
「ただいま、町に出かけただけだよ」
「それにしては……、いえ、失礼いたしました」
それ以上は聞かないでね、の意味でじっと見つめると、意を汲んでくれたっぽい!意思疎通が視線でできる日が来るなんて、凄い感動だ。
「我が君のお戻り、心よりお待ちしておりましたが……、私めはしばらく御前を離れてもよろしいですか?」
「どこかお出かけ?」
「いえ、数時間ほど鍛錬で」
「ナルさん、私そこまでナルさんを制限したくないよ。アンズだって今散歩に出てるし」
「ですが、我が君は手を離すとどこかへお隠れになりそうなのです」
そんな糸の切れた凧みたいに思われてたのか。
「行かない。何処かに行く時は声をかけるし、少しでも危なそうな所に行く時はナルさんについてきてもらう。頼りにしてるんだからね。はい、約束」
小指を絡ませて、指切りをするとナルさんは「これは?」と聞いた。
「約束の誓い?みたいなもの。私の故郷でのね。あちらは魔法とかマナとか無いから口約束なんだけど」
「左様ですか」
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「定型文定型文、本当に飲ませる訳じゃ無いよ」
うるっとする25歳はちょっとからかいたくなる。
「じゃ、俺は部屋に戻るわ、また明日」
ナルさんとじゃれてるうちに、アッシャー達のお話は終わったらしい。あれ?夕食は?
「待てアッシャー、鍛錬に付き合え」
うるっとしてたナルさんは一瞬でシリアス調に戻れる特技がある。厳しく制する様な声にアッシャーは立ち止まった。
「今からか?」
「今からだ。鍛錬場は押さえてある。行くぞ」
「しゃーねぇな。……さんきゅ」
アッシャーの最後の一言は口が動くかどうかの微かなお礼の言葉だった。
「あれって」
2人が鍛錬場に行ってから、リオネット様に問う。
「ああなんですよ。どうせカリンの前では大人ぶってたんでしょう。食欲を無くす程気力を失ったまま寝る方が、アッシャーには良くないというのに」
「ナルさんもそれが分かってるんですね」
「体力バカ達はああやって頭を空っぽにして、お腹を膨らませて寝るのが一番の対症療法です。相手してやれるのはナルニッサだけなのがネックですが、その辺り彼は聡くて好ましい」
「ナルさんとアッシャーは仲良いですよね。リオネット様とはあまり仲良く無いのかと思っていました」
「私はナルニッサ好きですよ。揶揄いたくなる。少々いじめすぎて嫌われ気味かもしれませんが」
小学生男子みたいな事おっしゃる。でも気持ちは分からんでも無い。
「さて、アッシャーに呼び方が変わりましたね」
「はい、アッシャーにお前は家族だって言ってもらって」
「おや、微笑ましい。仲良くなるのは良い事ですね。少し嫉妬してしまいますが」
「リオネット様も呼び方変えた方が良いですか?」
リオネット様はマジマジと私を見た。
「魅力的な提案ですが、今はまだそのままの方が良いでしょう。いずれまた、その時に」
いずれ?
しかしのこの含み笑い。どうせ聞いても答えてはくれまい。
「それよりも、今日は満月です。アッシャーとお話しなさいますか?」
「します。アッシャーをあのままにはしておけない」
「上々」
そう言ってリオネット様はペンダントを渡した。
「オリジナルで種々の加護も付加しておきました。陛下のものと比べるとお遊びのようなものですが、無いよりはマシでしょう。アッシャーも同じフォルムの物を渡しているので、彼の目につかないように、身につけてください」
「ありがとう」
「満月の夜、これをつけて眠ると同じくペンダントを付けた者のうち、会いたい人に会えるという代物です。つまり、アッシャーに会える。夢の中は現実ではありません。見た目や痛みは想像の中のものでしか無く、簡単に仮面の娘の形を取ることができる。多少の歪みは相手もイメージを補完してくれるので大丈夫です。ただし、夢の中では自らを偽るのは難しい」
「とりあえず、やってみます」
「ええ、それから少し事前情報も」
「カンニングしてるみたいですけど、会話のとっかかりをいただけるのは助かります」
「アッシャーは」
リオネット様の話し出しは、まるで幼き日の昔話を話す様で……
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