二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬

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ナルさんの兄弟

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 とは言え、私に伝言用の使令かいないのはとても不便。で、どうしたかと言えば、ナルさんを借りる事になった。
 使令を使うにあたり使われる魔力はナルさんのを使い、ナルさんが使令として使いやすく育てた、1番可愛いのを強奪。ザ、ジャイアニズム。

 しかし、ナルさん当人は「私の魔力が主人の身体に注がれるなんて」となんか悦んでるし、「ナルニッサは僕より下だから、まぁいいか。連絡用のが無いと、毎回僕がカリンから離れなきゃだもんね」と影で同居するアンズもヤレヤレ顔だけど満更でも無い感じ。
 ナルさんの魔力が私の身体に注がれるんじゃなくて、影に潜ませるんだけどな。

 更に、チュンチュンぬいぐるみにはリオネット様が新しく開発した魔具が埋め込まれていて、必要時のみ形代として具現化する優れ物だった。城に戻ったら、アンズの小狐のにも同じ細工をしてもらえるらしく、非常に喜ばしい。今まで武器を服にしまうのと同じ様にぬいぐるみを拾ってしまって、また出してってやってたので、落とすのでは無いかと結構気を遣っていたのです。

 リオネット様は実は凄い人なのかも知れない。知ってたけど。

 そんな訳で、手ぶらで帰ってきた割に大森林に大人数で出かけて行ったのもあり、帰るとお昼を過ぎていた。
 なのに、サンダーランドのお城に戻ると、慌ただしく騎士の正装の服に着替えさせられて、訳もわからないまま広間に案内される。アンズの背中で召し上がれと、帰りにリオネット様からサンドイッチか配られたのはこのせいか。

 広間にはナルさんよりひと回り半は年上の厳つい男性がいて、こちら側にはリオネット様とアッサム様、それとナルさん、私。
 髪色がナルさんと同じだから、サンダーランドの家の人だろうか。それにしてはナルさんとは顔の作りの系統がだいぶ違うように思う。

「ナギア殿、こちらが新たにマンチェスターに迎えた弟のカリンです」
「お初にお目にかかります。カリン・マンチェスターです」
「ナギア・サンダーランドだ。ナルニッサの主人になられたと聞いている。弟が世話になる」
「お兄様でいらっしゃいましたか。ナルニッサ殿にはこちらがお世話になっています」

 するんと敬称に殿が出た。私の中で何かが上手く調節されている様な感覚。これは加護のおかげか、忠誠のなんちゃらのおかげか。

「カリン、ナギア殿はサンダーランド公のご長男です。これから魔王討伐に際した事柄で領地を不在にする間、我が領の管理をお願いしてあります」
「正しくはナルニッサが受けた仕事をナルニッサの代理として俺がさせてもらう。ナルニッサは敬愛するご主人様とひとときも離れたく無いそうでな」
「え?そうなの?ナルさん?」

 お仕事はお兄さんに丸投げしたのですか。ナルさんは苦笑して顔を振った。

「語弊があります。我が君のお側に侍る事は望みでもありますが、そもそも選定があれば兄上達に我が役割は移ることになっておりました」
「代理だ。代理。継承順位は変わらん。他の兄弟もそのつもりだ」
「ナルさん、ご兄弟いらっしゃったんだね」
「12人、兄がおります」

 兄が12人……。

「そのうち3人からは見えてないとか無い?」
「いえ、その様な事はありませんが?」
「カリン、サンダーランドのご兄弟は皆仲が良いので安心してください。継承順位も能力の強い者がなるべしと一致されていますよ」

 今度はリオネット様は苦笑して説明をしてくれた。魔王討伐やその準備のため、マンチェスターの領地の仕事はナギア殿に、王都での仕事と魔法の最高顧問の儀式などの役割は王都のサンダーランド妃と次男のナナミ殿にお預けするらしい。
 諸侯が治める各領地には土地に浄化装置が設置され、更に人々には隈なく浄化の加護が二重に施されており、以前より仕事が減ったので、とリオネット様は言った。浄化装置に国民全員に浄化の加護?規模でかすぎです。

「それ、リオネット様がなさったんですか?凄いですね」
「カリンに褒められると嬉しいですね。装置の開発は時間がかかりましたが、民に広く特定の呪文を刷り込ませるのが少し厄介だった程度で、それ程難しくは無かったですよ」
「どうやってなさったんですか?」
「少しゴジップの流行を作り、そのグッズや小説に組み込みました」

 我らの個人情報のアレか。

「……、お金の面での対策かと思っていました」
「流石カリン。それもあります。あちらの世界の手法を手本にして、マンチェスターの新たなる産業にも活かしましたよ。おかげさまで我が領地はサブカル文化の発信地として栄えております」

 手広過ぎます。リオネットお兄様。ともかく、義兄達とナルさんはこれで心置きなく好きな事ができると言う訳だ。

「今後のご予定は?武者修行に行くとは聞いているが」

 ナギア様は気安く話を続けた。

「ええ、少し良い使令を探しに西と東の森辺りをと思っております。森の獣達の怨嗟の汚染状況も確認し、魔王の力の様子も見ておきたいですので」

 ふっとリオネット様が私に微笑む。リオネット様……、まさか私のお兄様捜索のために?

「……あっちの地方の流行度も確認しに行くんだろ。サブカルとやらの」

 アッサム様が口を挟んで、感謝の念は秒で消え去る。ええ、そんな事だろうと思ってましたとも。

「さて、サンダーランド当主の代理の代理として、次期当主のナルニッサの主人に内々の話があるのだが、構わないだろうか?」
「兄上?」
「あ、はい。大丈夫です」

 すっと私の前に出たナルさんの腰辺りを掴んで、よいしょと横に置き直す。私が触れるとナルさんの体の抵抗がほぼゼロになるので、意外とヒョイと動かせる。続いて、そのままくるりと回してドアに向けて、軽く背中を押してあげる。

「外で待っててね?」
「……御意」

 バイバイと手をナルさんを振って見送ると、アッサム様やリオネット様も異論は無いらしく、一緒に外に出て行った。

「ふむ、流石ですな。主人というものは」
「あはは」

 なんと言って良いか判りません。

「さて。貴殿に我らの一族より願いがある。我らの一族についてはご存知か?」
「えっと能力が高くて、主人を選定されたり索冥を受け継いだりされてるのですのね?それからサンダーランドは前サンダーランドの領主様より譲り受けたと」
「ああ、違いない。ただ、主人の選定や索冥殿との契りは始祖の血の濃い者にしか現れない。ナルニッサの前は100年ほど前に1人、その前は幾人か現れていた」
「100年も前ですか?」
「血は薄まっている。索冥殿は血の濃い者がいた場合のみ我が一族に現れるのだが、その力は得難いものだ。能力、知識で我が領民は幾度と無く助けられている。なので、我々はナルニッサに子をもうけてもらいたいと切望している。……ずっと能力の、血の濃い者が一族を継いできたが、100年前は子を成さなかった。それまでは一族で同時に索冥殿と通じる者もいたのだが、100年前のあれ以降はずっと索冥殿と通じる事はなかった。一族の中で血の濃い者同士で婚姻を繰り返し、ようやく我が兄弟も13人目で索冥殿を呼べるナルニッサが現れた。ナルニッサは我が一族の希望だ」

 つまり、ナルさんの婚活の話か!

「それは、ナルニッサ殿はご存知なのですね?」
「ああ、ただ、我が一族は政略結婚ができぬ」
「出来ない?」
「始祖の血より、恋しい相手としか結ぶ事が叶わぬ。それでナルニッサも25になってしまった」

 ナルさんはアラサー一歩手前でした。
 勝手にリオネット様位かと思ってた。見た目の若さとあの寂しがりっぷりからは推察無理です。

「そうですか。……私はナルニッサ殿がお相手を見つける邪魔は致しません。彼が必要と判断すれば最大限に尊重したく思っています。ですが、私から彼にそのような事を勧める事も致しかねます」
「……ほう?なにゆえにか?」
「彼が必要だと思う事には最善を尽くすと知っているからです。そこに私が意見を言えば、彼は主人わたしのために心を痛めるだけだと思うからです。……これから危険な事を私はすると思います。けれど、私はナルニッサ殿を道連れにしたくはありません。そうなると、私も彼も無事に帰ってくるしか道はありませんけれど、彼をサンダーランドから取り上げる様な事はしないとお約束します」

 ナルさんは、誰かを好きになって結婚しろって私に言われたら血の涙を流してもやりそうな気がする。

「ふむ」

 ナギア様は顎髭を撫でた。

「良い漢ですな。実はナルニッサが1日で主人の選定を行ったと聞いて、多少不安ではあったが、成る程、なかなか」
「1日って短いのですか?」
「普通は数ヶ月か、数年かかる事の方が多いと聞いていたものでな」

 え。1日というか、一瞬でしたけど。

「内外の強かさと美しさ。ふむ、お相手はいらっしゃるのか?」
「え?」
「婚約者がおらぬならば、従姉妹の娘に強い魔力を持つ者がいる。ナルニッサと似たタイプゆえ、良ければ紹介したい。あやつも貴殿なら恋しく思うだろう」
「いや!今、そんな事まで考えるのはちょっと!」
「はっはっは、まぁ、少し検討しておいてもらいたい」
「は、はぁ」

 いや、無理です。どんなに素敵なお相手でも、私女なんで。

「ともかく、貴殿が女で無くて何よりだ」

 ぎゃー!

「女だと、ダメだったんですか?」

 悟られないように平常心を装っているが、心臓に悪い。

「ああ、100年前は子を残さなかった。それと同じ事が起こる可能性があったのでな。あの時、我らの希望だった者はやはりサンダーランドの女主人に忠誠を捧げ……、そして女主人はそれを愛してしまった。深く敬愛していても、それと恋心は別物。結局結ばれる事は無く、子を成す相手を探す事も許されず、あの血は途絶えた。もし、貴殿が女で有れば、必ずナルニッサを愛してしまうだろうから、心配ではあった」
「あの、必ず愛してしまう、というのは?」

「もちろん、我が一族が美しいゆえだ」

 ナギア様は当然という風に言ってのけた。
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