二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬

文字の大きさ
上 下
12 / 61

サンダーランド家

しおりを挟む
 王都より離れた南の地に大森林がある。サンダーランド家もマンチェスター家も、その大森林に接する領地を持つ家だった。比較的他の家の領地より距離が近く、サンダーランドの世継ぎとマンチェスターの次男は共に剣の使い手(と言う事になってる)であり、ライバルでもあったため、交流も多い間柄だ。

 その二つの家は古くより、大森林からの魔獣聖獣の討伐を担ってきた。必要に迫られ強い魔力の血筋との交配を繰り返し、その結果濃くなりすぎた血筋はその子孫の数を減らしていった。マンチェスター家は積極的に召喚や原石の養子を増やしたが、サンダーランド家はその独特の信条により、それらの養子は受け入れなかった。

 サンダーランド家は大森林に接する面積も広くいわゆる辺境伯であり、権限も強かった。そしてその信条は、強く、正しく、美しく。
 圧倒的な強さ、民を想う心、そして、政治を行うセンス。正しい治世は美しい街並みと文化芸術へと繋がる。それらは血統では守られるものではない、と最後のサンダーランド家の女当主は権限全てを自らに仕えていた忠臣に譲渡して100年ほど前についえた。

「現在のサンダーランド家は元のサンダーランド公の血筋ではありません。詳細は省きますが現サンダーランド公はとても特殊な一族です。高い能力を持ちますが、その祖は主人を選定する特性を持った方でした。その特性ゆえ前サンダーランド公の時代の早い頃に忠誠を誓い、長く重用されていた。前サンダーランド公の思想は骨の髄まで染み渡っていて、名前も受け継いでいます。ただその血は時代が下がり、薄まることで最早主人の選定の能力を持つほどの者は現れないだろうと言われていました。ただ、ナルニッサは先祖返りと呼ばれる程能力が高かった。そして、その能力は選定まで行うほどだった、と言うことでしょう」
「イレギュラー過ぎませんか?サンダーランドの方々」

 リオネット様は控え室に使令の虫を放っていたそうで、屋敷に帰るなり先程の補足説明を始めた。
 サンダーランド領では、その立地から圧倒的な強さが求められている。そもそも、貴族はその強さを担保に身分を保っていた。魔獣が暴れたり怨嗟が広まった時に制圧できる力を持つから民の上に立てているのだ。現在は養子を取ったりして生きながらえるような形骸化した領地もあるけれど、元のサンダーランド公としては、守れ無ければ貴族の資格はない!という事らしい。そして、その美学を継いだ……というか継がせても大丈夫と、見込まれた現サンダーランド一族はその思想がより強固になってる、と。

「カリンは現サンダーランド家で過去類を見ない強さとされている世継ぎのナルニッサに勝った。一瞬の判断で観客を守ろうとした精神。そこに虹の目眩し。その美しさにより、カリンを自分の主人と認識したようですね」
「めちゃくちゃです。そして、めっちゃくちゃ迷惑です」

 ただでさえ疲れ切っているのに、げっそりと痩せこけそうだ。

『でもー、勝手に忠誠誓ってたけど、カリン受けちゃったから仕方ないよー』
「アンズ、いつの間に起きてたの?」
『起きたのはさっきー。でも、忠誠受けたの感じたから、そこんとこは覚えてるよ!』

 ぴょこんと小狐に飛び移って、アンズはふるふると伸びをした。激かわ。

「って、忠誠受けた?いつ?そんな覚えは……」
「受けてましたね。完全に」
「ええっ?」
「御事は、自分より尊き貴方様という意味です。今から貴方の下に付きます。つきましてはお名前を教えてください、と。その名を主人であると宣誓して、それをもう一度相手が認める……、主人が自分を格下であり、主人にとっては獣同然と認める事で忠誠は成り立ちますね」
「獣?!」
ナレは罵倒する意味合いのある呼びかけです」
「いや、呼んでない!呼んでないよ!」
「呼んだって言うか、聞き返したって感じー?」
「お作法ですので、決まりに則ってれば意味合いなんてなんのその」

 アンズとリオネット様はなんだか嬉しそうに掛け合いをしている。

「忠誠って何……?」

 百歩譲って受けたとしよう。問題はそれにどんな意味があるか……。

「簡単に言うと人間版使令。召使いになるんだよ。僕と一緒」
「私はアンズを召使いだなんて思ってない」

 小狐アンズは私の膝に乗って口元に擦り寄った。

「知ってる。だから、なったんだもん。ナルニッサも新しいお友達だよ」
「……そうですね。影に潜んだり、全て以心伝心の様な魔獣の使令ではありませんが、頼りになる知人友人だと思えば良いのでは無いでしょうか?こちらで信頼できる相手は多く無いでしょう。その点、裏切る事はまずあり得ない」

 アンズみたいな……友達……?

 って、ナルさんのあの表情!あの個性!ついでにさっきの話だと、下手したらサンダーランドの領民にまで迷惑かけそう。

「リオネット様、また、何か良からぬ企みを?」
「流石カリン」

 ふふふと笑って、それでもリオネット様はその企みは教えてはくれなかった。

 ナルさんの問題は最早もはや彼を避けまくる以外に解決法は無く、少し横に置いておくしか無い。勇者の順位決めだか格付けだかが、なんやかんやで終わった今、これからの予定をリオネット様に聞いた。

「そうですね、しばらくは休暇、ですね」
「休暇ですか?」
「マナはまだ溜まっておらず、聖女は呼び出せない。私とアッサムは新しいマンチェスター家の統合で少し多忙になります。貴方は少し強くなりましたし、独り歩きも大丈夫でしょう。お小遣い差し上げますから、少しこの世界を知ると良いと思います」
「はぁ」
「あまり、おバカな事をすればすぐさま私の耳に届く事はお忘れ無く。……安全のためにも私の手の届く範囲にはいてくださいね」

 優しいんだかなんだか。最後の一押しがいつも優しいから、毒気が抜かれてしまう。なんか私扱い慣れられてる感じがする。不思議な感覚。

 部屋に帰るとファイさんが迎えてくれて、ようやく人心地がつく。今日はいろんなことがありすぎた。
 お風呂から出て、ゆったりとアンズと過ごしているとファイさんがお茶を出してくれながら、ラッピングされた大きな包みを持ってきてくれた。

「こちらが、リオネット様よりいただいた新しい『おぬい様』達でございます」

 中身は好みドンピシャのもふもふ。……手のひらで転がされさせていただきます、リオネット様。

「こちらが、宿題の新しい魔法関連の書籍でございます」

 でも、やっぱりちょっと嫌い。
 新しいぬいぐるみは飾って、本は一応手机の上に置いておく。

「アンズ、寝よっか」

 抱きしめたアンズの甘い香りに包まれて、私は明日の事を考えながら眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。お供は犬っぽいナルシストです。

吉瀬
恋愛
 10歳で異世界を訪れたカリン。元の世界に帰されたが、異世界に残した兄を想い16歳で再び異世界に戻った。  しかし、戻った場所は聖女召喚の儀の真っ最中。誤解が誤解を呼んで、男性しかなれない勇者見習いに認定されてしまいました。  ところで私は女です。  致し方なく出た勇者の格付の大会で、訳あり名門貴族で若干ナルシストのナルさんが下僕になりました。 私は下僕を持つ趣味はありません。 「『この豚野郎』とお呼びください」ってなんだそれ。 ナルさんは豚じゃなくてむしろ犬だ! √ナルニッサ

冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
フィア・リウゼンシュタインは、奔放な噂の多い麗しき女騎士団長だ。真実を煙に巻きながら、その振る舞いで噂をはねのけてきていた。「王都の人間とは絶対に深い仲にならない」と公言していたにもかかわらず……。出立前夜に、片思い相手の第一師団長であり総督の息子、ゼクス・シュレーベンと一夜を共にしてしまう。 宰相娘と婚約関係にあるゼクスとの、たしかな記憶のない一夜に不安を覚えつつも、自国で反乱が起きたとの報告を受け、フィアは帰国を余儀なくされた。リュオクス国と敵対関係にある自国では、テオドールとの束縛婚が始まる。 フィアを溺愛し閉じこめるテオドールは、フィアとの子を求め、ひたすらに愛を注ぐが……。 フィアは抑制剤や抑制魔法により、懐妊を断固拒否! その後、フィアの懐妊が分かるが、テオドールの子ではないのは明らかで……。フィアは子ども逃がすための作戦を開始する。 作戦には大きな見落としがあり、フィアは子どもを護るためにテオドールと取り引きをする。 テオドールが求めたのは、フィアが国を出てから今までの記憶だった――――。 フィアは記憶も王位継承権も奪われてしまうが、ワケアリの子どもは着実に成長していき……。半ば強制的に、「父親」達は育児開始となる。 記憶も継承権も失ったフィアは母国を奪取出来るのか? そして、初恋は実る気配はあるのか? すれ違うゼクスとの思いと、不器用すぎるテオドールとの夫婦関係、そして、怪物たちとの奇妙な親子関係。 母国奪還を目指すフィアの三角育児恋愛関係×あべこべ怪物育児ストーリー♡ ~友愛女王爆誕編~ 第一部:母国帰還編 第二部:王都探索編 第三部:地下国冒険編 第四部:王位奪還編 第四部で友愛女王爆誕編は完結です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...