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お邪魔します
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お城の上には、索冥やそれ以外でも乗り入れる人がいるのだろう。空から出入りするために、ぽっかりと玄関の様な入り口があった。
人払いがされているのでお出迎えなどは無かったけれど、通る廊下の手の入れ方からかなりの数の使用人は居そうだった。
案内された客用の部屋と思しき部屋には、真新しい女性物の服や寝巻きや化粧品等がセットされており、手洗いの水は適度な温度に保たれていて、直前まで念入りに準備されていたことが伺える。
「本来でしたら主人の部屋にご案内したく存じますが」
「ううん、ここが良いよ。何から何まで気遣ってくれてありがとう」
またまた目を見張る様な表情になったので、もはやこれはナルさんの癖らしい。
鏡台には白銀の様な素材の仮面が置いてあり、それを装着してみると、つけてない様な軽さだった。シンプルなデザインに、金色の小さな飾りがひとつだけ付いた物で、それでいて美しい造形だった。
「城の者にはカリン様にお声掛けはしない様に、そして全ては見ない物として伝えてあります。ご不便が有ればお申し付け頂ければご準備させて頂きます。それから、万一城の中で名を尋ねられる様な事がありましたら、貴族の印を見せて『ナルニッサの』とお伝え下さい。来客は予定しておりませんが、急な事もありますので」
「凄く助かる。それに凄いね。これ、ありがたい。でも、この髪じゃバレてしまうかも」
仮面は目の辺りだけで口元は覆って居なかった。服を女性物にしても、髪型で怪しさ満点になりそう。
「明朝そちらの問題については対処できるかと思います。それでは私は控えの部屋におりますので、ごゆるりとお寛ぎください」
礼をとって下がろうとするナルさんの襟首を捕まえる。
「控えの部屋って?」
「こちらの部屋の隣に作りつけてある、付き人用の休憩室です」
ちらっと目が泳いだのを私は見逃しませんよ。付き人の部屋なら声を掛ければすぐ聞こえる様な作りになっているハズ。それはちょっと勘弁して欲しい。
件の控えの部屋の戸を開けると、違う意味で驚いた。部屋は意外と広い。声は直接聞こえない様に配慮されていて、ベルで呼べる形になっていた。しかし、それよりなにより、
「わーい!」
アンズが私グッズの山に飛び込んで行った。
等身大私パネル、ぬいぐるみ、ブランケット……。いや、むしろ下の身分を称するなら持ってる方が不遜な様な。
「っ、主人の使令とは言え、乱暴な扱いはっ!」
焦るナルさんの襟首をもう一度捕まえる。
「これはどういう?」
「美しき物を側に置きたいという哀れな下僕の本能でございます」
「その認知の歪みはどうにかならない?」
「とんでもない。我が君はお美しい。仮面を召されている姿もお美しいですが、滞在時はずっと仮面をお召しになるので、やはり本来のお姿で心を潤したく存じます」
忠誠を誓うというのは、げにおそろしや。
「……グッズを手放してもらうのは無理?」
「そんな……」
ナルさんの目が若干潤む……。どうして私が良心を痛めなきゃならないのよ。
「ナルさんの前では仮面を外すし、外してる時はどれだけ見てても怒んないから、とかじゃダメ?」
ナルさんは固まった。
「……それでは、こちらはアンズ殿に差し上げます」
「やったー!」
結果、私が滞在する部屋が私のグッズまみれという地獄に相成りました。
明けて翌日、目覚めと同時にナルさんとご対面。
「え、なんで?え、おはよう?あれ?」
「アンズ殿に許可をいただき、お目覚めのご用意をさせて頂きました。メイドに任せる訳にも参りませんでしたので」
混乱が徐々に収まって、ファイさんとのやりとりが思い出された。
そう言えばのそう言えば、こちらで貴族は朝の支度云々全てをメイドさんに任せる物でした。私は違う世界出身で、リオネット様の計らいで最低限しか手を出さない様にしてもらってるだけだった。
「ありがとうございます。しかし、私は朝の支度は自分でやりたいので、明日からはお気遣い無く……」
「お気遣いなど、女神の安らかなる寝顔はどの様な褒美にも勝ります」
「やっぱり今すぐ自分でさせてもらえるかな?」
両手で押し出す様に部屋からナルさんを排除しようとしたその時、白灰の様な髪色の人がいきなり現れた。長い髪とその髪と同一の長いローブ、けれど肌の色や面立ちは雅な佳人ながら、こちらでは見た事が無かったモンゴロイドの特徴を持っていた。
「急がれますな。まずは御髪を装う事が先でござい」
この声は知ってる。まさかと驚いた私に、その人は鏡を手渡した。
「ご覧なれ」
変わらないベリーショートの髪に、その人がそっと触れ、それから仮面の飾りに触れた。鏡の中の飾りが淡くピンクゴールドに変わると同時に髪の色が白銀に変わり、床につく長さまで伸びた。
「ええ?」
「索冥の術にござい」
「にゃー!」
人の姿になった索冥からの説明に今度はアンズが驚いた。
「なんで?どうして人間の姿なのー?」
「アンズ殿にも可能なはずなれば、おもとを育てた者に教わらなかったのだろうか」
「そんなの知らなかったー。育ててくれたニーサマのとこは途中で家出したのー」
ふむ、とどこから出したのか扇子で口元を押さえて索冥は考え込んだ。
「カリン様が宜しければ、少しアンズ殿をお借り受けしたい。アンズ殿の能力、我が見定めようぞ」
「行く行く行きたい。お願いにゃー」とモフモフが言うのに、私に止めるすべはない。
朝食も部屋に持ってきてもらってるし、そもそもナルさんだって実家ならやる事もあるだろうしで、皆さん部屋からご遠慮頂いた。
さて、服と髪をなんとかしなければ。
部屋に置いてあるあれやこれやで、ナルさんの恋人風乙女でありながら、そのまま森も散策できるファッションを作るのに悪戦苦闘する。
非公式な滞在だから、晩餐会や舞踏会は無くカジュアルで大丈夫と聞いていた。
ズボンの裾をたくし上げる様に折って、その上にドレスを着る。そのドレスも動きやすくかつフォルムは闘技場の時と近い物を選ぶ。元々ホワッとした服が戦闘服なので、そこまで難しくも無かった。
長すぎる髪も編み込んで短めに抑えつつ、縄みたいにはならない様に風を入れて……、やはり索冥の魔法か何からしく、重さはかなり軽く絡まらず、なのにほつれにくいという謎の形状を維持してくれた。ストールをかぶる様にして、全体のフォルムを戦闘時の時に近づけ、ストール中にはダガーとマインゴーシュを忍ばせる。前回の試合で使った物では無く、更に一回り小型でかつ折れにくい物をアッサム様からとファイさんを介して頂いていた。
どうにか日が1番高くなる前に形にできたのだけれど、今度はアンズが帰ってこない。使令はアンズしか居ないし、ナルさんは私の指示通りに仕事をしてるらしく控えの部屋には居なかった。
しばらくご厄介になるんだから、と私は仮面をつけて城を探検する事にした。
人払いがされているのでお出迎えなどは無かったけれど、通る廊下の手の入れ方からかなりの数の使用人は居そうだった。
案内された客用の部屋と思しき部屋には、真新しい女性物の服や寝巻きや化粧品等がセットされており、手洗いの水は適度な温度に保たれていて、直前まで念入りに準備されていたことが伺える。
「本来でしたら主人の部屋にご案内したく存じますが」
「ううん、ここが良いよ。何から何まで気遣ってくれてありがとう」
またまた目を見張る様な表情になったので、もはやこれはナルさんの癖らしい。
鏡台には白銀の様な素材の仮面が置いてあり、それを装着してみると、つけてない様な軽さだった。シンプルなデザインに、金色の小さな飾りがひとつだけ付いた物で、それでいて美しい造形だった。
「城の者にはカリン様にお声掛けはしない様に、そして全ては見ない物として伝えてあります。ご不便が有ればお申し付け頂ければご準備させて頂きます。それから、万一城の中で名を尋ねられる様な事がありましたら、貴族の印を見せて『ナルニッサの』とお伝え下さい。来客は予定しておりませんが、急な事もありますので」
「凄く助かる。それに凄いね。これ、ありがたい。でも、この髪じゃバレてしまうかも」
仮面は目の辺りだけで口元は覆って居なかった。服を女性物にしても、髪型で怪しさ満点になりそう。
「明朝そちらの問題については対処できるかと思います。それでは私は控えの部屋におりますので、ごゆるりとお寛ぎください」
礼をとって下がろうとするナルさんの襟首を捕まえる。
「控えの部屋って?」
「こちらの部屋の隣に作りつけてある、付き人用の休憩室です」
ちらっと目が泳いだのを私は見逃しませんよ。付き人の部屋なら声を掛ければすぐ聞こえる様な作りになっているハズ。それはちょっと勘弁して欲しい。
件の控えの部屋の戸を開けると、違う意味で驚いた。部屋は意外と広い。声は直接聞こえない様に配慮されていて、ベルで呼べる形になっていた。しかし、それよりなにより、
「わーい!」
アンズが私グッズの山に飛び込んで行った。
等身大私パネル、ぬいぐるみ、ブランケット……。いや、むしろ下の身分を称するなら持ってる方が不遜な様な。
「っ、主人の使令とは言え、乱暴な扱いはっ!」
焦るナルさんの襟首をもう一度捕まえる。
「これはどういう?」
「美しき物を側に置きたいという哀れな下僕の本能でございます」
「その認知の歪みはどうにかならない?」
「とんでもない。我が君はお美しい。仮面を召されている姿もお美しいですが、滞在時はずっと仮面をお召しになるので、やはり本来のお姿で心を潤したく存じます」
忠誠を誓うというのは、げにおそろしや。
「……グッズを手放してもらうのは無理?」
「そんな……」
ナルさんの目が若干潤む……。どうして私が良心を痛めなきゃならないのよ。
「ナルさんの前では仮面を外すし、外してる時はどれだけ見てても怒んないから、とかじゃダメ?」
ナルさんは固まった。
「……それでは、こちらはアンズ殿に差し上げます」
「やったー!」
結果、私が滞在する部屋が私のグッズまみれという地獄に相成りました。
明けて翌日、目覚めと同時にナルさんとご対面。
「え、なんで?え、おはよう?あれ?」
「アンズ殿に許可をいただき、お目覚めのご用意をさせて頂きました。メイドに任せる訳にも参りませんでしたので」
混乱が徐々に収まって、ファイさんとのやりとりが思い出された。
そう言えばのそう言えば、こちらで貴族は朝の支度云々全てをメイドさんに任せる物でした。私は違う世界出身で、リオネット様の計らいで最低限しか手を出さない様にしてもらってるだけだった。
「ありがとうございます。しかし、私は朝の支度は自分でやりたいので、明日からはお気遣い無く……」
「お気遣いなど、女神の安らかなる寝顔はどの様な褒美にも勝ります」
「やっぱり今すぐ自分でさせてもらえるかな?」
両手で押し出す様に部屋からナルさんを排除しようとしたその時、白灰の様な髪色の人がいきなり現れた。長い髪とその髪と同一の長いローブ、けれど肌の色や面立ちは雅な佳人ながら、こちらでは見た事が無かったモンゴロイドの特徴を持っていた。
「急がれますな。まずは御髪を装う事が先でござい」
この声は知ってる。まさかと驚いた私に、その人は鏡を手渡した。
「ご覧なれ」
変わらないベリーショートの髪に、その人がそっと触れ、それから仮面の飾りに触れた。鏡の中の飾りが淡くピンクゴールドに変わると同時に髪の色が白銀に変わり、床につく長さまで伸びた。
「ええ?」
「索冥の術にござい」
「にゃー!」
人の姿になった索冥からの説明に今度はアンズが驚いた。
「なんで?どうして人間の姿なのー?」
「アンズ殿にも可能なはずなれば、おもとを育てた者に教わらなかったのだろうか」
「そんなの知らなかったー。育ててくれたニーサマのとこは途中で家出したのー」
ふむ、とどこから出したのか扇子で口元を押さえて索冥は考え込んだ。
「カリン様が宜しければ、少しアンズ殿をお借り受けしたい。アンズ殿の能力、我が見定めようぞ」
「行く行く行きたい。お願いにゃー」とモフモフが言うのに、私に止めるすべはない。
朝食も部屋に持ってきてもらってるし、そもそもナルさんだって実家ならやる事もあるだろうしで、皆さん部屋からご遠慮頂いた。
さて、服と髪をなんとかしなければ。
部屋に置いてあるあれやこれやで、ナルさんの恋人風乙女でありながら、そのまま森も散策できるファッションを作るのに悪戦苦闘する。
非公式な滞在だから、晩餐会や舞踏会は無くカジュアルで大丈夫と聞いていた。
ズボンの裾をたくし上げる様に折って、その上にドレスを着る。そのドレスも動きやすくかつフォルムは闘技場の時と近い物を選ぶ。元々ホワッとした服が戦闘服なので、そこまで難しくも無かった。
長すぎる髪も編み込んで短めに抑えつつ、縄みたいにはならない様に風を入れて……、やはり索冥の魔法か何からしく、重さはかなり軽く絡まらず、なのにほつれにくいという謎の形状を維持してくれた。ストールをかぶる様にして、全体のフォルムを戦闘時の時に近づけ、ストール中にはダガーとマインゴーシュを忍ばせる。前回の試合で使った物では無く、更に一回り小型でかつ折れにくい物をアッサム様からとファイさんを介して頂いていた。
どうにか日が1番高くなる前に形にできたのだけれど、今度はアンズが帰ってこない。使令はアンズしか居ないし、ナルさんは私の指示通りに仕事をしてるらしく控えの部屋には居なかった。
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