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休暇初日
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休暇と急に言われても困る……。なんて事は無く、心置きなく出奔させてもらう。
「リオンはー、手の届く範囲って言ってたーよー」
「でもさ、私の本懐は兄様に会う事だもん」
使令にして早々、アンズには兄様の居場所を聞いた。けれど、私を帰した事に兄様に腹が立って仕方がなく、自由に飛び回れる様になってからは私を探す旅に勝手に出たそうだ。
で、テリトリーを出たら元の場所がわからなくなっちゃったんだと。きっとかなり高度な目眩しの様な結界が張られていたのだろう。
荷物が多いわけでも無く、野営の練習を何度かやったおかげもあり、私達は早速出発する事にした。
「アッサム様は以前、大森林って言ってた。そして大森林はサンダーランドの領地にある。……それに、兄様が見つからなくてまた王都の家に戻るにしても、隣にマンチェスターの領地……我が家の領地がある訳だし、バレても言い訳しやすいしね」
私がここに戻ってくるまでに3年。兄様の元には手のかかる仔達がいたし、多分まだ、間に合う。
結界があるなら私達はあの場所を見つけられないだろう。でも、使令を周りに放つ位はしてると思う。もしくは、昔の仔達に見つけてもらうって手も……。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
「呼んでませんし、主人でもありません」
屋敷の外に出た時、気配というか嫌な予感はしていた。気のせい気のせいと思っていたけれど、王都から出て人が居なくなったから、心置きなくぬいぐるみアンズとおしゃべりしたら、これですよ。サンダーランドの名を口にしたのがいけなかった。
「ナルさん、すみませんが……」
「汝とお呼びく「呼びません」
一瞬彼が怯んだ隙に、一気に言い切る。
「私は忠誠を誓う方法を知りませんでした。汝の意味も知らず聞き返しただけで、決してあなたを呼んだわけではありません。したがって、あれは無効です」
「分かりました」
え、拍子抜けするくらい理解早くて嬉しい。
「では、意味が分かり易いように『この豚野郎』とお呼びください」
「わぁ、1ミリも理解してくれてない」
この人ナルシストじゃなくて、ただの変態さんだ!
「あなたを召使いだとは認めません。忠誠は無効です」
「しかし、忠誠の儀は成りました」
「主人が言う事を否定するの?」
ナルさんはぐっと詰まった。
「だいたい、あなたは私の事を何も知らない。私はあなたの事をほとんど知らない。あなたはそんな知らない人間に自分を与えるの?あなた世継ぎでしょう?それは領民達にとって無責任過ぎる。それに私が主君なら信頼する家臣をそんな言葉で呼ばない。それこそ、美しく無いよ」
うっとりとしていたナルさんの目はまたハッとした様に見開かれた。また何かとんでもないことを言い出すのでは無いかとドキドキしたけど、そのまま沈黙する事約10秒。
「……私はそれならあなたをもっと知りたく存じます。私の意思として。そして我が民達のためにも。サンダーランドが嫡男ナルニッサとして、カリン様の此度の旅の共をする事も叶いませんか?」
苦しそうな切なそうな、そんな哀願する様にナルさんは跪く。何でそんな一生懸命なのよ。
「ねぇねぇ、このままこの人の相手してたら日が暮れるよ」
「それは困るね」
「とりあえず連れて行ったらいいと思うよー」
え。
「邪魔になったら捨てればいいんだよ!」とか言いだすアンズ。
「アンズ、それは」
「うん、リオンが回収できそうな恩は売っとけって!」
私のモフモフが腹黒に染まってゆく……。
「もし、連れてかないって言ったらどうするの?」
深く頭を垂れて、ナルさんは答えた。
「許可いただけるまでここでお待ちしております」
「ここ?」
「はい」
ここはただの道ですが。周りは山の山道です。
やだよもう。この人。
「カリン負けそー」
なんか、やり取りに疲れてきた……。
「……そんなわがままもう言わないなら着いて来て、良いよ……」
ぱあっと明るい笑顔が無邪気すぎて頭が痛い。珍道中決定だよね。
「恐悦至極に存じます」
「私は戦々恐々です」
「なんでーなの?あたらしーお友達だよ」
アンズは、ぽふっとナルさんの肩にのり、頭やら腕やらを走りまわる。
「こちらの御使は……狐でございますか?」
「うーん、私にも分からないの」
「僕も分かんない!」
「私はナルニッサと申します。お名前をお伺いしても?」
ナルさんは手の甲に乗ったアンズを目の高さに持ち上げて、丁寧に挨拶した。
「アンズだよ。よろしく!」
「よろしくお願いいたします」
そして深々と頭を下げる。モフモフ好きとか?
「先程のご配慮、一生の恩に着ます」
ああ、さっき口添えしたので買収されたのか。
「それでどの様にサンダーランドへ?」
「え、えっとアンズに乗って行くつもりなんだけど、ナルさんは……」
「僕、この人乗せるのやだよー」
「私の事はご心配には及びません。使令にて伴走致します。ただ、アンズ殿に乗るとは?」
「伴走、かぁ」
アンズは少し意地悪に笑ってそれから元の姿に変化した。
「走るんじゃなくて、飛ぶんだよ」
街中や街道でやれば大騒ぎだ。圧倒的な大きさと、オーラ。他に無いフォルム。
「っ……」
ってナルさん泣いてるー!
口に手を当ててハラハラと涙を流す彼は怖がってるって言う訳じゃなくて、
「涙を禁じ得ませんでした。この様な素晴らしい使令だなんて、我が君は完璧で美し過ぎるっ」
感涙ってやつですか、そうですか、そろそろ慣れようか。
「しかしご安心ください。我が始祖より賜った一族に伝わる……こちらの使令にて付き従いますので」
そう言ってナルさんが影から出したのは……鹿の様なフォルムでその顔は伝説上のあの生き物だった。
「索冥と呼ばれよ」
白く輝く鬣の穏やかで強い瞳を持った麒麟の声は厳かだった。
ナルさんって実は凄い人かも知れない。
「人に見つからない様に街の外で降りようと思うの。サンダーランドへの案内を頼んでいい?」
「御意」
ひらりと何か纏って、ナルさんと索冥は私達の前を先導してくれる。
少しナルさんについてきてもらう事にして、良かったと思ったその時、
「カリン、あれ、カリンのハッピ」
「ん?何?アンズ?」
「だから、あの人着てるの、カリンのハッピ」
!!
アンズに全速力で追いついてと、私は叫んだ。
「リオンはー、手の届く範囲って言ってたーよー」
「でもさ、私の本懐は兄様に会う事だもん」
使令にして早々、アンズには兄様の居場所を聞いた。けれど、私を帰した事に兄様に腹が立って仕方がなく、自由に飛び回れる様になってからは私を探す旅に勝手に出たそうだ。
で、テリトリーを出たら元の場所がわからなくなっちゃったんだと。きっとかなり高度な目眩しの様な結界が張られていたのだろう。
荷物が多いわけでも無く、野営の練習を何度かやったおかげもあり、私達は早速出発する事にした。
「アッサム様は以前、大森林って言ってた。そして大森林はサンダーランドの領地にある。……それに、兄様が見つからなくてまた王都の家に戻るにしても、隣にマンチェスターの領地……我が家の領地がある訳だし、バレても言い訳しやすいしね」
私がここに戻ってくるまでに3年。兄様の元には手のかかる仔達がいたし、多分まだ、間に合う。
結界があるなら私達はあの場所を見つけられないだろう。でも、使令を周りに放つ位はしてると思う。もしくは、昔の仔達に見つけてもらうって手も……。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
「呼んでませんし、主人でもありません」
屋敷の外に出た時、気配というか嫌な予感はしていた。気のせい気のせいと思っていたけれど、王都から出て人が居なくなったから、心置きなくぬいぐるみアンズとおしゃべりしたら、これですよ。サンダーランドの名を口にしたのがいけなかった。
「ナルさん、すみませんが……」
「汝とお呼びく「呼びません」
一瞬彼が怯んだ隙に、一気に言い切る。
「私は忠誠を誓う方法を知りませんでした。汝の意味も知らず聞き返しただけで、決してあなたを呼んだわけではありません。したがって、あれは無効です」
「分かりました」
え、拍子抜けするくらい理解早くて嬉しい。
「では、意味が分かり易いように『この豚野郎』とお呼びください」
「わぁ、1ミリも理解してくれてない」
この人ナルシストじゃなくて、ただの変態さんだ!
「あなたを召使いだとは認めません。忠誠は無効です」
「しかし、忠誠の儀は成りました」
「主人が言う事を否定するの?」
ナルさんはぐっと詰まった。
「だいたい、あなたは私の事を何も知らない。私はあなたの事をほとんど知らない。あなたはそんな知らない人間に自分を与えるの?あなた世継ぎでしょう?それは領民達にとって無責任過ぎる。それに私が主君なら信頼する家臣をそんな言葉で呼ばない。それこそ、美しく無いよ」
うっとりとしていたナルさんの目はまたハッとした様に見開かれた。また何かとんでもないことを言い出すのでは無いかとドキドキしたけど、そのまま沈黙する事約10秒。
「……私はそれならあなたをもっと知りたく存じます。私の意思として。そして我が民達のためにも。サンダーランドが嫡男ナルニッサとして、カリン様の此度の旅の共をする事も叶いませんか?」
苦しそうな切なそうな、そんな哀願する様にナルさんは跪く。何でそんな一生懸命なのよ。
「ねぇねぇ、このままこの人の相手してたら日が暮れるよ」
「それは困るね」
「とりあえず連れて行ったらいいと思うよー」
え。
「邪魔になったら捨てればいいんだよ!」とか言いだすアンズ。
「アンズ、それは」
「うん、リオンが回収できそうな恩は売っとけって!」
私のモフモフが腹黒に染まってゆく……。
「もし、連れてかないって言ったらどうするの?」
深く頭を垂れて、ナルさんは答えた。
「許可いただけるまでここでお待ちしております」
「ここ?」
「はい」
ここはただの道ですが。周りは山の山道です。
やだよもう。この人。
「カリン負けそー」
なんか、やり取りに疲れてきた……。
「……そんなわがままもう言わないなら着いて来て、良いよ……」
ぱあっと明るい笑顔が無邪気すぎて頭が痛い。珍道中決定だよね。
「恐悦至極に存じます」
「私は戦々恐々です」
「なんでーなの?あたらしーお友達だよ」
アンズは、ぽふっとナルさんの肩にのり、頭やら腕やらを走りまわる。
「こちらの御使は……狐でございますか?」
「うーん、私にも分からないの」
「僕も分かんない!」
「私はナルニッサと申します。お名前をお伺いしても?」
ナルさんは手の甲に乗ったアンズを目の高さに持ち上げて、丁寧に挨拶した。
「アンズだよ。よろしく!」
「よろしくお願いいたします」
そして深々と頭を下げる。モフモフ好きとか?
「先程のご配慮、一生の恩に着ます」
ああ、さっき口添えしたので買収されたのか。
「それでどの様にサンダーランドへ?」
「え、えっとアンズに乗って行くつもりなんだけど、ナルさんは……」
「僕、この人乗せるのやだよー」
「私の事はご心配には及びません。使令にて伴走致します。ただ、アンズ殿に乗るとは?」
「伴走、かぁ」
アンズは少し意地悪に笑ってそれから元の姿に変化した。
「走るんじゃなくて、飛ぶんだよ」
街中や街道でやれば大騒ぎだ。圧倒的な大きさと、オーラ。他に無いフォルム。
「っ……」
ってナルさん泣いてるー!
口に手を当ててハラハラと涙を流す彼は怖がってるって言う訳じゃなくて、
「涙を禁じ得ませんでした。この様な素晴らしい使令だなんて、我が君は完璧で美し過ぎるっ」
感涙ってやつですか、そうですか、そろそろ慣れようか。
「しかしご安心ください。我が始祖より賜った一族に伝わる……こちらの使令にて付き従いますので」
そう言ってナルさんが影から出したのは……鹿の様なフォルムでその顔は伝説上のあの生き物だった。
「索冥と呼ばれよ」
白く輝く鬣の穏やかで強い瞳を持った麒麟の声は厳かだった。
ナルさんって実は凄い人かも知れない。
「人に見つからない様に街の外で降りようと思うの。サンダーランドへの案内を頼んでいい?」
「御意」
ひらりと何か纏って、ナルさんと索冥は私達の前を先導してくれる。
少しナルさんについてきてもらう事にして、良かったと思ったその時、
「カリン、あれ、カリンのハッピ」
「ん?何?アンズ?」
「だから、あの人着てるの、カリンのハッピ」
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アンズに全速力で追いついてと、私は叫んだ。
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