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ナルさんの一族は基本的に兄弟姉妹が多い、その血は忌まれる事も多いが魔力は強く、大なり小なり色香のスキルを持っていた。だから、各領主の兄弟姉妹の配偶者となる事は多く、サンダーランドと縁を切って動向が分からない者も含めるとかなりの人数がこの東の地域にもいるらしい。
「今残っている街の有力者や貴族はルシファーの係累が多いでしょうね。そもそも、かの一族は索冥への情報提供は拒まない。そして多産。ルシファーの血が広がっていく事を見越して索冥達も動いていたはずです」
サンダーランドと縁は切ってもルシファーの一族である事は親から子に密やかに伝えられる。森を守る事は伝えられなくても、万一現れるかもしれない索冥については知らぬ者はいないし、索冥が情報を得る方法でもあった。
ロイヤルグレイス領を押さえると怨嗟は弾かれ、周辺の怨嗟の発露は激化する。そこにまた、私達は救いを与えていく。途中で南から帰ってきた雨情と索冥、それと兄様と役割を交代したナルさんも合流したので広範囲でも対応できるようになっていった。南の結界はクラリス失墜によりほぼ機能しておらず、念のために破壊してはおいたが、それはとても容易だったそうだ。
街の復興の資材はマンチェスターと比べて領地の力の強いサンダーランドから運ばれてきた。ナルさんが長く準備してきていたそうで、遅れは全く無い。
いくらサンダーランドが凄い領地であって、準備が入念だったとしても、一領地が国内全てを賄えるはずはない。疑問に思って、北や西の様子を聞くと、怨嗟の発露が激化しているのはほぼ東のみだった。
「北の地域は分かるよ。私達の領地以外もサンダーランドと縁が深いから、いきなり現れた新女王の命令通りに装置を外したりはしないってのは分かる。でも、西もあまり怨嗟が広がってないのはなんでだろう?」
「それな、魔石ハンターと異世界人の情報網のせいやで」
一通り東が落ち着いて、皆で会議をしている時に雨情がそう答えた。
「怨嗟の装置、アレがどんなもんかは、俺から情報回してあんねん。西の者からしたら、弾いて貴族街に落としてるは理に叶っとるやん、でしまいや。ついでに俺の目で見た南の記録もそいつらに流した。西では貴族はお飾りや。街のもんは魔具をそこそこ使使てるし、貴族は単なるお金持ってる阿呆みたいなもん。上の役人もどっちが強いか知っとる。そこに『魔王の寝ぐらに突撃してみた件。魔王はいませんでした。代わりにあったのはまさか女王陛下の?』の映像が広まっとるはず。大規模な魔法陣は誰が作ったか判るヒントがいっぱいやねん。もちろん、それでも新しい女王の命令でなんぼかは装置外されとるけど、外した所にもっかい設置できるようにマンチェスターから装置は融通してもらえる」
「西と北、共にクラリス女王にも新女王にも懐疑的になっていただいています。新女王の事があまり広がる前に、我らは中央を潰さなくてはいけません」
「それは、新女王の情報が手に入ったっつーことか?」
「雨情の人脈は本当に素晴らしい」
つまり、実際のところ西の方面の指揮もリオネット様がとってらしたんですね。そして、情報収集にも余念が無かったと。流石というか、やはりと言うか。
リオネット様は、笑んでいる。これは、やはり難しい戦いになりそうな予感がする。
「新女王は……、我らが愚妹、ソフィア・マンチェスターです」
アッシャーの顔色が変わった。ソフィア・マンチェスター、アッシャーを好いて怨嗟が発露した義理の妹。
「マジか?」
「大マジです。……女王陛下は元々、大それた悪行をするには少し向いていない性格でした。そこを私が何年かかけて揺さぶってはいたのですが、どうやら同じ女性というのを武器にして、檻の中からクラリスと交流を持つ事に成功していた様です。私の性格を良くご存知のソフィアは、それを上手く口止めし、私が城から離れた隙を狙ってクラリスを絡め取った。魔力を手放させ、自分の代わりに檻に閉じ込めて飼っているらしいですよ。我が妹ながら良い趣味です」
女王は確か、仕事抜きで話しがしたいと言っていた。気弱げな事も言っていたし、あれ全てが演技では無かったと言うことか?
「愚妹には国なんて見えていません。民や森の事なんて考えた事もないでしょう。あれが国を陥れたとバレるのは、少し困りますね、今後の事を考えると。というわけで、王都へ参りますか」
朝の会議で決まって、昼には皆で王都に向かった。
各地域を制したという事は、同時に王都のほとんどを制圧したようなものだった。王属の白魔道士黒魔道士はいるが、基本的に軍隊も警察も上層部は各貴族が担っており、その下部組織も領地の者達だ。すでに王都では度重なる怨嗟で疲弊が起きており、魔力は保有している玉に左右される。西では玉は商人が持ち、東の者は王都には送らない。北は説明不要。圧倒的な魔力をソフィアさんが持っていたとしても、それでも城を取り囲む事はできる。
ソフィアさんの魔力がどんなものかまでは分からない。リオネット様の指示で、貴族階級の魔導士達は城を本当に取り囲んだだけだ。後は私達しか近づかないようにした。
何が起こるか分からない。
森の瑞獣仔ども達はリオネット様の使令のうさぎ達に任せてある。勝てなければ、諸共終わる。外の指揮はナギア殿率いるルシファーの一族総出だ。全ての戦力は城へ。
空の玄関から入城すると、メイド達も逃げ出した後なのか、人の気配は無かった。
雨情がその目でソフィアさんを探す。探しながら、彼女の魔力の適正や弱点、強みなどの情報も出さなくてはいけない。
それは、ただ見るだけで無く、それができる能力が雨情にはあるという事だ。
「……おった。空の入口から近い、広間で二重扉の奥。けったいな魔法陣がある部屋や」
「召喚の間だ」
緊張する。攻撃の気配は無く、雨情が確認しながら進み、そして扉を開けると、彼女はソファーでゆったりと座っていた。
「お久しぶり、アッサム兄様。それと、いく人かは、はじめまして、かしら?ナルニッサ様は、お久しぶりになるのですけど、覚えていらっしゃるかしら?」
「ソフィア、私の事はスルーですか?」
「だって大嫌いですから」
「……初めからそう言ってくだされば、もっと好感度は高かったですね」
ソフィアさんは立ち上がった。魔力が渦巻いている。
「あなたの好感度なんて要らないわ。私が欲しいのは、アッサム兄様だけなんだから」
同時に、鋭い氷柱が私目掛けて飛んできた。アッシャーが叩き落とすために構えるより早く、それは粉々に砕ける。
「へいへい、僕のカリンに何してくれちゃってるの?」
アンズが人型で現れた。
「ありがとう、アンズ」
「……、そんな使令、私だって森に行けば手に入るわ」
ソフィアさんから笑顔が消えた。
「……アッサム兄様、私と勝負しましょう?」
「戦わないとダメか?」
「怖い?」
「傷つけたい訳じゃない」
被せる様にソフィアさんは狂った様な笑い声を上げた。それがピタリと止むと、今度は冷たい声を出す。
「今更、そんな事言うの?私のためを思うなら、剣を取って」
アッシャーは構えた。剣士同士の戦いしか見た事は無いが、そうでなくてもソフィアさんは不利に思えた。構えも無く隙だらけ。何か罠を仕掛けているのだろうけど、それっぽい感じもしない。
ジリジリとアッシャーは間を詰めて、その間もアッシャーには隙は無い。
とうとうアッシャーの攻撃範囲に彼女が入った。
「どう言う事だ。俺に殺されたいのか?」
「まさか、アッサム兄様は私のもの。貴方は私を傷つけない」
「引きなさい!アッシャー!」
リオネット様が叫んだ。が、一瞬遅かった。ソフィアさんは無詠唱で、何かの魔法をアッシャーにかけた。それは、まるで加護に似た……。
「一旦引きましょう!アッシャーに今勇者の位が与えられました。ソフィアには聖女の加護があります」
つまり、アッシャーの心がソフィアに持っていかれた?
「やった!やったわ!これで兄様は私のもの!私を恋焦がれる可哀想なアッサム兄様!」
うそ。
「兄様!剣を一旦しまって!」
アッシャーはゆっくりと剣をしまった。
「うそ、だよね。アッシャー?」
「きゃはははは!無駄よ!あんたなんかもう見えないの!兄様は私しか見えないし!私の声以外聞こえない!」
ソフィアさんはアッシャーを抱きしめる。
「いい?兄様。あいつら、皆んな敵なの。殺して。私のために。この世界は全て、残らず、潰して」
「それが、お前の望みならしゃあねぇか」
アッシャーの声は苦しげだった。
「今残っている街の有力者や貴族はルシファーの係累が多いでしょうね。そもそも、かの一族は索冥への情報提供は拒まない。そして多産。ルシファーの血が広がっていく事を見越して索冥達も動いていたはずです」
サンダーランドと縁は切ってもルシファーの一族である事は親から子に密やかに伝えられる。森を守る事は伝えられなくても、万一現れるかもしれない索冥については知らぬ者はいないし、索冥が情報を得る方法でもあった。
ロイヤルグレイス領を押さえると怨嗟は弾かれ、周辺の怨嗟の発露は激化する。そこにまた、私達は救いを与えていく。途中で南から帰ってきた雨情と索冥、それと兄様と役割を交代したナルさんも合流したので広範囲でも対応できるようになっていった。南の結界はクラリス失墜によりほぼ機能しておらず、念のために破壊してはおいたが、それはとても容易だったそうだ。
街の復興の資材はマンチェスターと比べて領地の力の強いサンダーランドから運ばれてきた。ナルさんが長く準備してきていたそうで、遅れは全く無い。
いくらサンダーランドが凄い領地であって、準備が入念だったとしても、一領地が国内全てを賄えるはずはない。疑問に思って、北や西の様子を聞くと、怨嗟の発露が激化しているのはほぼ東のみだった。
「北の地域は分かるよ。私達の領地以外もサンダーランドと縁が深いから、いきなり現れた新女王の命令通りに装置を外したりはしないってのは分かる。でも、西もあまり怨嗟が広がってないのはなんでだろう?」
「それな、魔石ハンターと異世界人の情報網のせいやで」
一通り東が落ち着いて、皆で会議をしている時に雨情がそう答えた。
「怨嗟の装置、アレがどんなもんかは、俺から情報回してあんねん。西の者からしたら、弾いて貴族街に落としてるは理に叶っとるやん、でしまいや。ついでに俺の目で見た南の記録もそいつらに流した。西では貴族はお飾りや。街のもんは魔具をそこそこ使使てるし、貴族は単なるお金持ってる阿呆みたいなもん。上の役人もどっちが強いか知っとる。そこに『魔王の寝ぐらに突撃してみた件。魔王はいませんでした。代わりにあったのはまさか女王陛下の?』の映像が広まっとるはず。大規模な魔法陣は誰が作ったか判るヒントがいっぱいやねん。もちろん、それでも新しい女王の命令でなんぼかは装置外されとるけど、外した所にもっかい設置できるようにマンチェスターから装置は融通してもらえる」
「西と北、共にクラリス女王にも新女王にも懐疑的になっていただいています。新女王の事があまり広がる前に、我らは中央を潰さなくてはいけません」
「それは、新女王の情報が手に入ったっつーことか?」
「雨情の人脈は本当に素晴らしい」
つまり、実際のところ西の方面の指揮もリオネット様がとってらしたんですね。そして、情報収集にも余念が無かったと。流石というか、やはりと言うか。
リオネット様は、笑んでいる。これは、やはり難しい戦いになりそうな予感がする。
「新女王は……、我らが愚妹、ソフィア・マンチェスターです」
アッシャーの顔色が変わった。ソフィア・マンチェスター、アッシャーを好いて怨嗟が発露した義理の妹。
「マジか?」
「大マジです。……女王陛下は元々、大それた悪行をするには少し向いていない性格でした。そこを私が何年かかけて揺さぶってはいたのですが、どうやら同じ女性というのを武器にして、檻の中からクラリスと交流を持つ事に成功していた様です。私の性格を良くご存知のソフィアは、それを上手く口止めし、私が城から離れた隙を狙ってクラリスを絡め取った。魔力を手放させ、自分の代わりに檻に閉じ込めて飼っているらしいですよ。我が妹ながら良い趣味です」
女王は確か、仕事抜きで話しがしたいと言っていた。気弱げな事も言っていたし、あれ全てが演技では無かったと言うことか?
「愚妹には国なんて見えていません。民や森の事なんて考えた事もないでしょう。あれが国を陥れたとバレるのは、少し困りますね、今後の事を考えると。というわけで、王都へ参りますか」
朝の会議で決まって、昼には皆で王都に向かった。
各地域を制したという事は、同時に王都のほとんどを制圧したようなものだった。王属の白魔道士黒魔道士はいるが、基本的に軍隊も警察も上層部は各貴族が担っており、その下部組織も領地の者達だ。すでに王都では度重なる怨嗟で疲弊が起きており、魔力は保有している玉に左右される。西では玉は商人が持ち、東の者は王都には送らない。北は説明不要。圧倒的な魔力をソフィアさんが持っていたとしても、それでも城を取り囲む事はできる。
ソフィアさんの魔力がどんなものかまでは分からない。リオネット様の指示で、貴族階級の魔導士達は城を本当に取り囲んだだけだ。後は私達しか近づかないようにした。
何が起こるか分からない。
森の瑞獣仔ども達はリオネット様の使令のうさぎ達に任せてある。勝てなければ、諸共終わる。外の指揮はナギア殿率いるルシファーの一族総出だ。全ての戦力は城へ。
空の玄関から入城すると、メイド達も逃げ出した後なのか、人の気配は無かった。
雨情がその目でソフィアさんを探す。探しながら、彼女の魔力の適正や弱点、強みなどの情報も出さなくてはいけない。
それは、ただ見るだけで無く、それができる能力が雨情にはあるという事だ。
「……おった。空の入口から近い、広間で二重扉の奥。けったいな魔法陣がある部屋や」
「召喚の間だ」
緊張する。攻撃の気配は無く、雨情が確認しながら進み、そして扉を開けると、彼女はソファーでゆったりと座っていた。
「お久しぶり、アッサム兄様。それと、いく人かは、はじめまして、かしら?ナルニッサ様は、お久しぶりになるのですけど、覚えていらっしゃるかしら?」
「ソフィア、私の事はスルーですか?」
「だって大嫌いですから」
「……初めからそう言ってくだされば、もっと好感度は高かったですね」
ソフィアさんは立ち上がった。魔力が渦巻いている。
「あなたの好感度なんて要らないわ。私が欲しいのは、アッサム兄様だけなんだから」
同時に、鋭い氷柱が私目掛けて飛んできた。アッシャーが叩き落とすために構えるより早く、それは粉々に砕ける。
「へいへい、僕のカリンに何してくれちゃってるの?」
アンズが人型で現れた。
「ありがとう、アンズ」
「……、そんな使令、私だって森に行けば手に入るわ」
ソフィアさんから笑顔が消えた。
「……アッサム兄様、私と勝負しましょう?」
「戦わないとダメか?」
「怖い?」
「傷つけたい訳じゃない」
被せる様にソフィアさんは狂った様な笑い声を上げた。それがピタリと止むと、今度は冷たい声を出す。
「今更、そんな事言うの?私のためを思うなら、剣を取って」
アッシャーは構えた。剣士同士の戦いしか見た事は無いが、そうでなくてもソフィアさんは不利に思えた。構えも無く隙だらけ。何か罠を仕掛けているのだろうけど、それっぽい感じもしない。
ジリジリとアッシャーは間を詰めて、その間もアッシャーには隙は無い。
とうとうアッシャーの攻撃範囲に彼女が入った。
「どう言う事だ。俺に殺されたいのか?」
「まさか、アッサム兄様は私のもの。貴方は私を傷つけない」
「引きなさい!アッシャー!」
リオネット様が叫んだ。が、一瞬遅かった。ソフィアさんは無詠唱で、何かの魔法をアッシャーにかけた。それは、まるで加護に似た……。
「一旦引きましょう!アッシャーに今勇者の位が与えられました。ソフィアには聖女の加護があります」
つまり、アッシャーの心がソフィアに持っていかれた?
「やった!やったわ!これで兄様は私のもの!私を恋焦がれる可哀想なアッサム兄様!」
うそ。
「兄様!剣を一旦しまって!」
アッシャーはゆっくりと剣をしまった。
「うそ、だよね。アッシャー?」
「きゃはははは!無駄よ!あんたなんかもう見えないの!兄様は私しか見えないし!私の声以外聞こえない!」
ソフィアさんはアッシャーを抱きしめる。
「いい?兄様。あいつら、皆んな敵なの。殺して。私のために。この世界は全て、残らず、潰して」
「それが、お前の望みならしゃあねぇか」
アッシャーの声は苦しげだった。
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