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初め、拠点は村の宿屋を使っていたのだが、新参者が多くなり過密になったので街の宿屋に移った。人が増えたので需要が伸び、どこもかしこも全てが高騰している。
今の宿屋のご主人は雨情の知り合いだった。以前と変わらない値段で泊めてもらっていて、ご主人は「雨情のお陰でバブル来た!感謝!」という風に言ってはくれていたが、2部屋も借りてるのと万一が有れば迷惑をかけてしまう。そろそろ諦めて明日移動すると決めた日の午後、身なりの良い紳士然とした人が雨情を訪ねて宿屋にやってきた。
「話を聞きたい。マンチェスターの末弟を見かけたのはお前か?」
「まぁ、まずは酒場で話そうや」
雨情が私に目配せをして、宿屋で待てと伝えてくる。
「いや、ここのサロンを借りる」
ドンっと札束が宿屋の主人に押し付けられた。耳には銀のピアス。上の方のお役人だから、宿屋の主人は断れはしない。
「……サロンやのうて、ただの食堂やで?オヤジすまんな」
「気にすんな」
食堂に雨情とエセ紳士が入って、扉は閉められた。
ちょいちょいとご主人がボディランゲージで付いてこいと指示してくる。そして、厨房側のカウンターの下へご案内。サロンじゃなくて食堂なので、当然渡し口があるのです。私はそこで小さくなって待機した。
「ご主人、内々の話ゆえ、退席してもらう」
「茶の一杯だけ出したら、出て行きますよ」
ご主人は私にだけ分かるようにウインクして出て行った。勝手口の鍵も開けておいてくれる分かってる感がイケオジすぎる。
「で、や。俺が会うたんが、マンチェスターの末弟さんとやらやったかは知らん。持ち物やら寄越せ言うから魔石と交換っちゅう話になって、玉のありかを教えてもうただけの間柄や。似顔絵を見る限りは本人やと思うし、俺らも懸賞金は欲しい」
「場所は?」
「口で言うて分かるか?連れてけ言うんやったら案内はするけど、礼次第やな」
「ピアスは?」
「金のん、しとったで」
「ほう」
しばらく沈黙が続いて、緊張感だけが音もなく伝わってきた。
ガタン、と立ち上がる音。多分エセ紳士の方だ。雨情が立ち上がれば、もっとやかましい。
「なにすんねん!」
何された?声が詰まった感じ、首を絞められてるみたいな……、胸ぐらを掴まれた?
「マンチェスターの末弟は原石とはいえあの容姿だ。どう考えても異世界人の穢らわしい血が流れている。元々仲間であったんだろう?吐け!」
「原石が養子になったら記憶無くすんちゃうの?」
「それこそ国家機密。それを知っている事自体が罪を犯したとの告白とみなす」
んな無茶苦茶な。雨情が本気出せば、あんなひょろひょろから逃げ出すことはできるだろう。貴重品はあらかじめ服の中だし、これは外で落ち合う事になるかも。万一が有れば、仔熊ちゃん親子の元で合流となっている。私は先に離脱ということで。
「痛っ!」
そろっと抜け出そうとして、そこに音もなくエセ紳士2号が立っている事に気がついた。
「ユウキ?!」
「ネズミが隠れている事などハナからわかっていた。お前の仲間、アレの仲間だろう?」
不意に捻り上げられて思わず声が出たけど、力量だと多分勝てる。宿の主人に迷惑をかけるけど、これは逃げ出した方が……。
「エイス様、この娘、髪は長いですが、あの男に似ているように思います」
「ピアスは?」
「平民の色です」
ピアスは魔法か何かがかかっていたのか取れなかった。だから、精巧なカバーをつけておきました。ナイス。
「やはり、あの男の身内」
「身内やったらどないやねん」
「お前があの娘を預かったのなら、末弟と繋がりがあるはず。お前は殺さないから安心すれば良い。だが、炙り出しは必要だ。その娘を殺せ」
「待てや!こら!その娘がその末弟本人と繋がってるとか考えへんのか?」
「……情報源は一つあれば十分だ。動きを見れば、お前にその娘が預けられてると考える方が妥当。それより炙り出しに使った方が効率が良い。一足先に縁者を彼岸に送っておいてやるのだから、親切だろう?」
「逃げろ!ユウキ!」
命令された方は殺り慣れてない。緊張が伝わってきて、隙を感知する。今だ。
手を解く方向に宙返りして、怯んだ相手の急所に一発、それから相手のオデコの辺りをクナイで軽く切る。
案の定、戦い慣れてないから出血量に驚いて身を引いた。頭部は少しの怪我で血が沢山出るもんだ。目に入ったら走るのも難しいよ。
開けてもらっていた勝手口から飛び出すと、もう少し使えそうな男が数人待機していた。伝令の指令より早く、街を抜けて獣道へ入る。
『おや、カリン』
『追われている。熊の親子の寝床に行きたい』
『案内しよう』
丁度街近くのテリトリーの主の狸がゴミを漁っていたので、案内を頼んだ。時々ご飯持っていっといて良かった!
熊の親子のテリトリーは知ってる者が全速力で真っ直ぐ駆けて来ても1時間はかかる。恐らく奴らは追ってこれない。
『どうした?』
『敵に見つかった。連れが来るまでしばらく世話になりたい』
『承知した』
まずは魔石を拾って回復魔法が行き渡る様に。それから、仔熊ちゃんと一緒に横になった。雨情が来たら東に行かなくては。私がもっと早く出立しようと言っていれば良かった。
夜に備えて寝た仔熊ちゃんの温もりに包まれて、私はしばしの休息をとった。
目が覚めると周りはとうに暗く、熊さんが見張ってくれていた。
『ありがとう』
『疲労が溜まっていたようだが、体は休めたか?こちらは変わりない。明け方までまだかかる』
『もう大丈夫。助かった』
思ったより長く寝てしまっていたらしい。しかし雨情はまだここに来ていない。笛を吹こうかと思ったが、敵が来ているかもしれない今は吹くわけにもいかない。
雨情にとってここテリトリーは庭みたいなものだ。私は近くまで案内されないと分からないが、雨情なら真っ直ぐここに来るのは難しくないはず。
だから、今ここに来れないのは捕まったと言うことか。
『誰か来る』
『雨情?』
『連れの匂いもするが、血の匂いだ』
怪我をした?小さな音で笛を吹いたら、前方からガサガサと足音が聞こえて来た。
「雨情!」
迎えに行った私の前に現れたのは血飛沫を浴びたエイスだった。
今の宿屋のご主人は雨情の知り合いだった。以前と変わらない値段で泊めてもらっていて、ご主人は「雨情のお陰でバブル来た!感謝!」という風に言ってはくれていたが、2部屋も借りてるのと万一が有れば迷惑をかけてしまう。そろそろ諦めて明日移動すると決めた日の午後、身なりの良い紳士然とした人が雨情を訪ねて宿屋にやってきた。
「話を聞きたい。マンチェスターの末弟を見かけたのはお前か?」
「まぁ、まずは酒場で話そうや」
雨情が私に目配せをして、宿屋で待てと伝えてくる。
「いや、ここのサロンを借りる」
ドンっと札束が宿屋の主人に押し付けられた。耳には銀のピアス。上の方のお役人だから、宿屋の主人は断れはしない。
「……サロンやのうて、ただの食堂やで?オヤジすまんな」
「気にすんな」
食堂に雨情とエセ紳士が入って、扉は閉められた。
ちょいちょいとご主人がボディランゲージで付いてこいと指示してくる。そして、厨房側のカウンターの下へご案内。サロンじゃなくて食堂なので、当然渡し口があるのです。私はそこで小さくなって待機した。
「ご主人、内々の話ゆえ、退席してもらう」
「茶の一杯だけ出したら、出て行きますよ」
ご主人は私にだけ分かるようにウインクして出て行った。勝手口の鍵も開けておいてくれる分かってる感がイケオジすぎる。
「で、や。俺が会うたんが、マンチェスターの末弟さんとやらやったかは知らん。持ち物やら寄越せ言うから魔石と交換っちゅう話になって、玉のありかを教えてもうただけの間柄や。似顔絵を見る限りは本人やと思うし、俺らも懸賞金は欲しい」
「場所は?」
「口で言うて分かるか?連れてけ言うんやったら案内はするけど、礼次第やな」
「ピアスは?」
「金のん、しとったで」
「ほう」
しばらく沈黙が続いて、緊張感だけが音もなく伝わってきた。
ガタン、と立ち上がる音。多分エセ紳士の方だ。雨情が立ち上がれば、もっとやかましい。
「なにすんねん!」
何された?声が詰まった感じ、首を絞められてるみたいな……、胸ぐらを掴まれた?
「マンチェスターの末弟は原石とはいえあの容姿だ。どう考えても異世界人の穢らわしい血が流れている。元々仲間であったんだろう?吐け!」
「原石が養子になったら記憶無くすんちゃうの?」
「それこそ国家機密。それを知っている事自体が罪を犯したとの告白とみなす」
んな無茶苦茶な。雨情が本気出せば、あんなひょろひょろから逃げ出すことはできるだろう。貴重品はあらかじめ服の中だし、これは外で落ち合う事になるかも。万一が有れば、仔熊ちゃん親子の元で合流となっている。私は先に離脱ということで。
「痛っ!」
そろっと抜け出そうとして、そこに音もなくエセ紳士2号が立っている事に気がついた。
「ユウキ?!」
「ネズミが隠れている事などハナからわかっていた。お前の仲間、アレの仲間だろう?」
不意に捻り上げられて思わず声が出たけど、力量だと多分勝てる。宿の主人に迷惑をかけるけど、これは逃げ出した方が……。
「エイス様、この娘、髪は長いですが、あの男に似ているように思います」
「ピアスは?」
「平民の色です」
ピアスは魔法か何かがかかっていたのか取れなかった。だから、精巧なカバーをつけておきました。ナイス。
「やはり、あの男の身内」
「身内やったらどないやねん」
「お前があの娘を預かったのなら、末弟と繋がりがあるはず。お前は殺さないから安心すれば良い。だが、炙り出しは必要だ。その娘を殺せ」
「待てや!こら!その娘がその末弟本人と繋がってるとか考えへんのか?」
「……情報源は一つあれば十分だ。動きを見れば、お前にその娘が預けられてると考える方が妥当。それより炙り出しに使った方が効率が良い。一足先に縁者を彼岸に送っておいてやるのだから、親切だろう?」
「逃げろ!ユウキ!」
命令された方は殺り慣れてない。緊張が伝わってきて、隙を感知する。今だ。
手を解く方向に宙返りして、怯んだ相手の急所に一発、それから相手のオデコの辺りをクナイで軽く切る。
案の定、戦い慣れてないから出血量に驚いて身を引いた。頭部は少しの怪我で血が沢山出るもんだ。目に入ったら走るのも難しいよ。
開けてもらっていた勝手口から飛び出すと、もう少し使えそうな男が数人待機していた。伝令の指令より早く、街を抜けて獣道へ入る。
『おや、カリン』
『追われている。熊の親子の寝床に行きたい』
『案内しよう』
丁度街近くのテリトリーの主の狸がゴミを漁っていたので、案内を頼んだ。時々ご飯持っていっといて良かった!
熊の親子のテリトリーは知ってる者が全速力で真っ直ぐ駆けて来ても1時間はかかる。恐らく奴らは追ってこれない。
『どうした?』
『敵に見つかった。連れが来るまでしばらく世話になりたい』
『承知した』
まずは魔石を拾って回復魔法が行き渡る様に。それから、仔熊ちゃんと一緒に横になった。雨情が来たら東に行かなくては。私がもっと早く出立しようと言っていれば良かった。
夜に備えて寝た仔熊ちゃんの温もりに包まれて、私はしばしの休息をとった。
目が覚めると周りはとうに暗く、熊さんが見張ってくれていた。
『ありがとう』
『疲労が溜まっていたようだが、体は休めたか?こちらは変わりない。明け方までまだかかる』
『もう大丈夫。助かった』
思ったより長く寝てしまっていたらしい。しかし雨情はまだここに来ていない。笛を吹こうかと思ったが、敵が来ているかもしれない今は吹くわけにもいかない。
雨情にとってここテリトリーは庭みたいなものだ。私は近くまで案内されないと分からないが、雨情なら真っ直ぐここに来るのは難しくないはず。
だから、今ここに来れないのは捕まったと言うことか。
『誰か来る』
『雨情?』
『連れの匂いもするが、血の匂いだ』
怪我をした?小さな音で笛を吹いたら、前方からガサガサと足音が聞こえて来た。
「雨情!」
迎えに行った私の前に現れたのは血飛沫を浴びたエイスだった。
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