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 その後仕事の引き継ぎには数日かかり、その間私はちょくちょくリオネット様に色んな仕事を頼まれた。実際作業する様な事もあったけれど、見学も多い。見合いで言った受け売りの内政の話がリオネット様の琴線に触れたのか?内政だけでなく、城のあれやこれやも説明を受けて、メモを取る。

 そして、なぜか衣装はアレ。

 アンズは影の中でも大喜び、アッシャー大爆笑。ナルさんは何かに耐えている。
 いや、皆さん楽しそうだから良いんですけどね。女性の男装風女装って訳わかんない。

「さて、ようやく仕事は終わりましたので王都に戻りましょう。カリンは私の騎獣へ。身体の様子を見ながらゆっくり行きましょう。負担があって他の耐性が上がるのは、今はよろしく無い」
「……構いませんけど、服は元の戦闘服に着替えさせてください。装備が手元にないまま、外出するのはとても不安の気持ちになります」

 それほど必要性は無いと分かってても、何かとても手持ち無沙汰な変な感覚がある。リオネット様は加護によるなんちゃらかもしれない、と呟いた。

 ユニコーンの様な騎獣に乗って、ゆっくりと離陸。ナルさんとアッシャーは一足先に王都に到着し、仕事を片付けるらしい。

「疲れを感じたら、早めにお知らせください。休憩もとりながら行きますので」
「ありがとうございます」

 景色がゆっくり流れて、とても気持ちの良い散歩の様だ。

「……アッシャー、変わりないですね」
「人の気付きや成長を待つだけというのは、中々に苦しい物です。けれど焦ってはいけない。逃げ出す事ができたという大きな成長を、もう少し一緒に見守りましょう」
「うん」

 リオネット様は後ろから、そっと私に寄り添う様に抱きしめた。いつもの様に急では無かったのに、私の心臓が早くなる。

「……そう言えば、おかげさまで 他にも数件入っていたお見合い話は消え去りました」
「思ったんですけど、ファンレターはリオネット様が1番多かったですよね。家の事とか関係なくとも思いを寄せている人は多いのかも……」
「迷惑です」

 冷たく切り捨てられて、私の心臓が凍るかと思った。まるで、私が迷惑な事をしたかの様に。

「好きでもない人に想われるのは苦痛でしかありません。仕事なので愛想良くこなします。尊敬も人気もありがたい。けれど、どうでも良い人間からの、自分の物になって欲しいという欲求は面倒以外の何物でもない」
「……辛辣ですね」
「そうですか?元々私は所有されるのはまっぴらごめんですからね。私が所有したい。そして、少しだけ振り回して欲しい」

 なんとわがままな。

「そんな都合の良い人、いますか?」
「いますよ。私は彼女に夢中です」

 また、だ。心臓がどくんと打つ。今何故か私はショックを受けた?

「カリン?どうかしましたか?」
「え、あ、大丈夫です」

 心配されたのか、リオネット様は耳元で優しく私に尋ねた。
 どくん、とまた音がきこえる。さっきの苦しさとはまた違って、むず痒い様な。

「……お相手は、どんな方なんですか?」
「すごく鈍感です。とても可愛らしく私を振り回して、他の男も振り回す。私は心配で夜も眠れない」

 揶揄からかう時とは違った口調。本当に悩んでいる感じ。朝よく早起きしてるのはその人のせい?

「そ、そうなんですか」
「……声が震えています。お疲れなら休憩をとりましょうか?」
「いえ……、全然」

 分からないけど、今、リオネット様と顔を合わせたくない。

「カリン、少しこちらを向いてください」
「え、と、ちょっと今は」
「仕方ないですね」

 くるんと回す様にリオネット様は私の背中を倒した。落ちかけた私はリオネット様の片手で支えられて、横座りの様になって抱かれる。
 ナルさんやアッシャーの様な騎士では無いリオネット様の腕が思いの外逞しくて、また心臓がうるさい。

「そんな表情をして、誘っているのですか?」
「さっ」
「赤い顔に潤んだ瞳、それから私が話した事で少しショックを受けましたと言わんばかりの眉。自覚がないのが恐ろしい」
「リオネット様?」
「流石に我慢も限界です。カリン、私の物になる気はありますか?」
「は、い?」
「それは是という意味でとらせていただきます」
「いや、ちょっと待ってください」
「待ちませんし、撤回も不可です」
「意味が良くわかりません」

「ああ」

 リオネット様は意地悪く笑った。

「私はあなたにプロポーズしたんですよ」

 は?

「そして、あなたは受けた」
「う、受けてません!」
「ナルニッサの時と同じパターンですね。あなたは隙があり過ぎると忠告もしたのに」
「そんな、ひどっ」
「嫌ですか?」
「え」
「どうしても、絶対に、嫌ですか?」
「そ、そんなことは」
「私が嫌い?」
「いえ、嫌いじゃないです……」
「良い子だ」

 リオネット様は私に唇を重ねた……、それは、今までの触れる様なのではなくて。

 唇の縁をなぞる様に舐められた後、上唇を食まれた。ゾクリとした感覚が背中を這う。
口を食べられるんじゃないかと思うくらいに覆われて、吸われて息が止まる。耳は熱いし目は回る。
 酸素が足りなくなってクラクラし始めた頃、ようやく彼は離れた。

「アンズの修行が終われば、貴女の性別を公表し、正式に婚約しましょう。それまでは秘密ですよ。いいですね?」

 楽しげな彼と正反対に、私はいっぱいいっぱいで倒れそうだった。
 負担、今かけちゃダメだったんじゃないの?

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