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ゲシュタルト崩壊

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 翌日、右手にアンズ、左手に索冥、正面にナルさんの配置で仲直りの儀をさせられました。
 みりんの様な漢方薬の様な少し甘くてアルコールっぽい液体を3回ずつ飲まされる。
 使令の二匹は満足そうで、ナルさんもホッとした様子。私だけよく分かってない。

 そもそも、忠誠を誓うってのが全然分からない。
 アンズを使令にした時は初めから名前も分かっていたので、提案→受諾→宣誓がサラリと流れて行ったし、それに模した様な制度の人間版?位の理解だ。
 アンズがその誓いに反応したからには、何かしら魔法的な契約の様だけれど、具体的にはちんぷんかんぷんの上、恐らくだけど主人側にはほとんど影響を感じられない。

 しもべ側のナルさんは認知の歪み以外にも、信頼とか安心とか色々あるらしい。索冥の説明では犬との信頼関係っぽい感じだったので、二晩寝てなかった時はあんな作戦になったのだ。普通よく知りもしない異性が近くにいたら寝れないだろうし、私の感覚だと主人が側にいたら召使いも熟睡はできなかろうと思う。

「これにて、多少同調率が高まった。カリン様もしもべの気持ちも鑑みてたも」

 と、しもべしもべにやんわり注意を受ける……。しもべがゲシュタルト崩壊。

 使令で召使いでしもべでお友達??多分、元の世界でしっくりくる表現が無いから意味が揺らいで翻訳されている様気がする。

「それで、次の探索の事なんだけど……」

 仲直りの儀式も終わった事なので、これからの予定について話を振った。途端に圧を感じる。これは、アレです。ご飯食べてる時にペットから感じるアレや、暇そうにしてる時のサンポツレテケのアレ。アレをナルさんからガンガンに感じる。

「一緒に行きたいの?でもナルさん忙しいから、またムリして寝なかったりしない?」

 圧に屈してはならぬと心を鬼にして言いたい事は言う。ナルさんは、何故か嬉しそうだ。

「我が君は、私を心配してくださってあの様な事を仰ったのですか?お邪魔と言うわけではなかったのですか?」
「邪魔な訳無いよ。今回凄くお世話になってて、とても助かってる。でも、立場として難しいんじゃないかなって思って。なんだか、それでも人手が欲しいって私が言ったら無理してついて来てくれそうに思えて、そこまで迷惑はかけたく無いの」

 ナルさんは座っていた椅子からおもむろに下りると床に膝をついて、私の手を取った。

「迷惑などあり得ません。しかし、お心遣い心より感謝いたします。私のサンダーランド領の仕事は一両日中にかたがつく予定です。ですから、どうか私めをお側に」

 いやなんかね、アンズの私に対する態度や索冥のナルさんに対する態度と、ナルさんの私に対する態度は大きな隔たりがあると思うんですよ。

「本当に?」
「誓って」
「じゃあ、これからもよろしく」

 これで元通り、よね?と使令2人の方を見ると、

「しからば、我もついて参ろうぞ。王都と領地の外は久しぶりよの、ほっほっほ」
「わーい、これで僕も人型になる可能性が増えるー」

 使令のお二人は脳内の欲求を基本隠そうとはしない。目的はそっちか。

 恐らくリオネット様なら、ナルさんが私にくっついて動く事は予想してるのでは無いかと思う。アッサム様にはリオネット様から説明がいってる……よね?

 和やかな空気を破る様に突然、バタバタと走る音が聞こえ、部屋のドアが忙しなくノックされた。私がいる時には初めて起きる事だ。ナルさんと索冥に緊張が走って、何か緊急に知らせるべき事が起きたのだと分かった。

「失礼いたします!街に怨嗟が、広範囲に!」

 入って来たのはメイドさんでは無く、ローブに紋章入りの帽子、白魔道士の聖職者だった。

「……聖職者達では抑えきれない規模という事か」
「御意にございます。広場を中心に半径1キロ程。また、現地ではマンチェスター家のアッサム様にご助力頂いております」
「アッシャーか、助かる。すぐに行く」

 短い言葉で事足りるのか、聖職者はまた部屋から飛び出して行った。

「私では手伝えない?」
「お気持ちだけ頂きます。城の中は安全ですので、こちらでお待ちください」

 弱いと自分で言っていたくらいに弱い。アッサム様とナルさんの動きの中では、確かに足手まといにしかならない。

「いいえ」
「え?」
「何か今、我が君の心を曇らせた様なことが理由ではありません。あなた様は、人を傷付けない様に制圧する術をご存知ない。強い弱いで無く、訓練を受けてらっしゃらないから知らないだけなのです。そして、万一でも民が我が君を傷をつけた場合、私が民を傷つけてしまいます。民のために、どうかこちらにて」

 そういうと私の手の甲にキスをしてから、ナルさんは空の玄関の方に去っていった。気がつくと索冥もいない。

 ちょっと待て。整理しよう。

 街では大変な事が起きている。私は使えない。私の心の中が、ナルさんにはバレバレ。手にキスされた。

「どういう事か聞いていいかな、アンズさん?」
「えへー」
「笑って誤魔化そうとしてるけど、無駄ですよ?」
「それ!」
「え?」
「同調率が高まってるんだよ。今カリンが僕の事分かったみたいに、ナルニッサもカリンの事が分かったの!」

 それにしては精度高すぎないか?
 ってそれどころじゃない!
 空用の玄関に行き、街の方を見た。空からなら何か出来ない?普通の人間が怨嗟にやられても、それ程の飛び魔法は使えないだろうから、安全に思う。でも、ナルさんの気が散って、その隙を突かれてしまうかもしれない。そもそも何を手伝えるの?!

「ああ!もう!」
「おや、ご乱心ですね」

 のんびりとした声で、リオネット様が街の中心の反対側から空の玄関に降りて来た。ペガサスの様な馬の様な騎獣に乗って。

「リオネット様!」
「何かありましたか?」
「街で怨嗟が、半径1キロ程だそうです。アッサム様とナルさんが戦っているのに、私は足手まといで……」
「簡潔な説明ありがとう。では、カリンには私のお手伝いを頼む事にしましょう」

 リオネット様はにっこりと笑った。
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