13 / 65
サンダーランド家
しおりを挟む
王都より離れた南の地に大森林がある。サンダーランド家もマンチェスター家も、その大森林に接する領地を持つ家だった。比較的他の家の領地より距離が近く、サンダーランドの世継ぎとマンチェスターの次男は共に剣の使い手(と言う事になってる)であり、ライバルでもあったため、交流も多い間柄だ。
その二つの家は古くより、大森林からの魔獣聖獣の討伐を担ってきた。必要に迫られ強い魔力の血筋との交配を繰り返し、その結果濃くなりすぎた血筋はその子孫の数を減らしていった。マンチェスター家は積極的に召喚や原石の養子を増やしたが、サンダーランド家はその独特の信条により、それらの養子は受け入れなかった。
サンダーランド家は大森林に接する面積も広くいわゆる辺境伯であり、権限も強かった。そしてその信条は、強く、正しく、美しく。
圧倒的な強さ、民を想う心、そして、政治を行うセンス。正しい治世は美しい街並みと文化芸術へと繋がる。それらは血統では守られるものではない、と最後のサンダーランド家の女当主は権限全てを自らに仕えていた忠臣に譲渡して100年ほど前に潰えた。
「現在のサンダーランド家は元のサンダーランド公の血筋ではありません。詳細は省きますが現サンダーランド公はとても特殊な一族です。高い能力を持ちますが、その祖は主人を選定する特性を持った方でした。その特性ゆえ前サンダーランド公の時代の早い頃に忠誠を誓い、長く重用されていた。前サンダーランド公の思想は骨の髄まで染み渡っていて、名前も受け継いでいます。ただその血は時代が下がり、薄まることで最早主人の選定の能力を持つほどの者は現れないだろうと言われていました。ただ、ナルニッサは先祖返りと呼ばれる程能力が高かった。そして、その能力は選定まで行うほどだった、と言うことでしょう」
「イレギュラー過ぎませんか?サンダーランドの方々」
リオネット様は控え室に使令の虫を放っていたそうで、屋敷に帰るなり先程の補足説明を始めた。
サンダーランド領では、その立地から圧倒的な強さが求められている。そもそも、貴族はその強さを担保に身分を保っていた。魔獣が暴れたり怨嗟が広まった時に制圧できる力を持つから民の上に立てているのだ。現在は養子を取ったりして生きながらえるような形骸化した領地もあるけれど、元のサンダーランド公としては、守れ無ければ貴族の資格はない!という事らしい。そして、その美学を継いだ……というか継がせても大丈夫と、見込まれた現サンダーランド一族はその思想がより強固になってる、と。
「カリンは現サンダーランド家で過去類を見ない強さとされている世継ぎのナルニッサに勝った。一瞬の判断で観客を守ろうとした精神。そこに虹の目眩し。その美しさにより、カリンを自分の主人と認識したようですね」
「めちゃくちゃです。そして、めっちゃくちゃ迷惑です」
ただでさえ疲れ切っているのに、げっそりと痩せこけそうだ。
『でもー、勝手に忠誠誓ってたけど、カリン受けちゃったから仕方ないよー』
「アンズ、いつの間に起きてたの?」
『起きたのはさっきー。でも、忠誠受けたの感じたから、そこんとこは覚えてるよ!』
ぴょこんと小狐に飛び移って、アンズはふるふると伸びをした。激かわ。
「って、忠誠受けた?いつ?そんな覚えは……」
「受けてましたね。完全に」
「ええっ?」
「御事は、自分より尊き貴方様という意味です。今から貴方の下に付きます。つきましてはお名前を教えてください、と。その名を主人であると宣誓して、それをもう一度相手が認める……、主人が自分を格下であり、主人にとっては獣同然と認める事で忠誠は成り立ちますね」
「獣?!」
「汝は罵倒する意味合いのある呼びかけです」
「いや、呼んでない!呼んでないよ!」
「呼んだって言うか、聞き返したって感じー?」
「お作法ですので、決まりに則ってれば意味合いなんてなんのその」
アンズとリオネット様はなんだか嬉しそうに掛け合いをしている。
「忠誠って何……?」
百歩譲って受けたとしよう。問題はそれにどんな意味があるか……。
「簡単に言うと人間版使令。召使いになるんだよ。僕と一緒」
「私はアンズを召使いだなんて思ってない」
小狐アンズは私の膝に乗って口元に擦り寄った。
「知ってる。だから、なったんだもん。ナルニッサも新しいお友達だよ」
「……そうですね。影に潜んだり、全て以心伝心の様な魔獣聖獣の使令ではありませんが、頼りになる知人友人だと思えば良いのでは無いでしょうか?こちらで信頼できる相手は多く無いでしょう。その点、裏切る事はまずあり得ない」
アンズみたいな……友達……?
って、ナルさんのあの表情!あの個性!ついでにさっきの話だと、下手したらサンダーランドの領民にまで迷惑かけそう。
「リオネット様、また、何か良からぬ企みを?」
「流石カリン」
ふふふと笑って、それでもリオネット様はその企みは教えてはくれなかった。
ナルさんの問題は最早彼を避けまくる以外に解決法は無く、少し横に置いておくしか無い。勇者の順位決めだか格付けだかが、なんやかんやで終わった今、これからの予定をリオネット様に聞いた。
「そうですね、しばらくは休暇、ですね」
「休暇ですか?」
「マナはまだ溜まっておらず、聖女は呼び出せない。私とアッサムは新しいマンチェスター家の統合で少し多忙になります。貴方は少し強くなりましたし、独り歩きも大丈夫でしょう。お小遣い差し上げますから、少しこの世界を知ると良いと思います」
「はぁ」
「あまり、おバカな事をすればすぐさま私の耳に届く事はお忘れ無く。……安全のためにも私の手の届く範囲にはいてくださいね」
優しいんだかなんだか。最後の一押しがいつも優しいから、毒気が抜かれてしまう。なんか私扱い慣れられてる感じがする。不思議な感覚。
部屋に帰るとファイさんが迎えてくれて、ようやく人心地がつく。今日はいろんなことがありすぎた。
お風呂から出て、ゆったりとアンズと過ごしているとファイさんがお茶を出してくれながら、ラッピングされた大きな包みを持ってきてくれた。
「こちらが、リオネット様よりいただいた新しい『おぬい様』達でございます」
中身は好みドンピシャのもふもふ。……手のひらで転がされさせていただきます、リオネット様。
「こちらが、宿題の新しい魔法関連の書籍でございます」
でも、やっぱりちょっと嫌い。
その二つの家は古くより、大森林からの魔獣聖獣の討伐を担ってきた。必要に迫られ強い魔力の血筋との交配を繰り返し、その結果濃くなりすぎた血筋はその子孫の数を減らしていった。マンチェスター家は積極的に召喚や原石の養子を増やしたが、サンダーランド家はその独特の信条により、それらの養子は受け入れなかった。
サンダーランド家は大森林に接する面積も広くいわゆる辺境伯であり、権限も強かった。そしてその信条は、強く、正しく、美しく。
圧倒的な強さ、民を想う心、そして、政治を行うセンス。正しい治世は美しい街並みと文化芸術へと繋がる。それらは血統では守られるものではない、と最後のサンダーランド家の女当主は権限全てを自らに仕えていた忠臣に譲渡して100年ほど前に潰えた。
「現在のサンダーランド家は元のサンダーランド公の血筋ではありません。詳細は省きますが現サンダーランド公はとても特殊な一族です。高い能力を持ちますが、その祖は主人を選定する特性を持った方でした。その特性ゆえ前サンダーランド公の時代の早い頃に忠誠を誓い、長く重用されていた。前サンダーランド公の思想は骨の髄まで染み渡っていて、名前も受け継いでいます。ただその血は時代が下がり、薄まることで最早主人の選定の能力を持つほどの者は現れないだろうと言われていました。ただ、ナルニッサは先祖返りと呼ばれる程能力が高かった。そして、その能力は選定まで行うほどだった、と言うことでしょう」
「イレギュラー過ぎませんか?サンダーランドの方々」
リオネット様は控え室に使令の虫を放っていたそうで、屋敷に帰るなり先程の補足説明を始めた。
サンダーランド領では、その立地から圧倒的な強さが求められている。そもそも、貴族はその強さを担保に身分を保っていた。魔獣が暴れたり怨嗟が広まった時に制圧できる力を持つから民の上に立てているのだ。現在は養子を取ったりして生きながらえるような形骸化した領地もあるけれど、元のサンダーランド公としては、守れ無ければ貴族の資格はない!という事らしい。そして、その美学を継いだ……というか継がせても大丈夫と、見込まれた現サンダーランド一族はその思想がより強固になってる、と。
「カリンは現サンダーランド家で過去類を見ない強さとされている世継ぎのナルニッサに勝った。一瞬の判断で観客を守ろうとした精神。そこに虹の目眩し。その美しさにより、カリンを自分の主人と認識したようですね」
「めちゃくちゃです。そして、めっちゃくちゃ迷惑です」
ただでさえ疲れ切っているのに、げっそりと痩せこけそうだ。
『でもー、勝手に忠誠誓ってたけど、カリン受けちゃったから仕方ないよー』
「アンズ、いつの間に起きてたの?」
『起きたのはさっきー。でも、忠誠受けたの感じたから、そこんとこは覚えてるよ!』
ぴょこんと小狐に飛び移って、アンズはふるふると伸びをした。激かわ。
「って、忠誠受けた?いつ?そんな覚えは……」
「受けてましたね。完全に」
「ええっ?」
「御事は、自分より尊き貴方様という意味です。今から貴方の下に付きます。つきましてはお名前を教えてください、と。その名を主人であると宣誓して、それをもう一度相手が認める……、主人が自分を格下であり、主人にとっては獣同然と認める事で忠誠は成り立ちますね」
「獣?!」
「汝は罵倒する意味合いのある呼びかけです」
「いや、呼んでない!呼んでないよ!」
「呼んだって言うか、聞き返したって感じー?」
「お作法ですので、決まりに則ってれば意味合いなんてなんのその」
アンズとリオネット様はなんだか嬉しそうに掛け合いをしている。
「忠誠って何……?」
百歩譲って受けたとしよう。問題はそれにどんな意味があるか……。
「簡単に言うと人間版使令。召使いになるんだよ。僕と一緒」
「私はアンズを召使いだなんて思ってない」
小狐アンズは私の膝に乗って口元に擦り寄った。
「知ってる。だから、なったんだもん。ナルニッサも新しいお友達だよ」
「……そうですね。影に潜んだり、全て以心伝心の様な魔獣聖獣の使令ではありませんが、頼りになる知人友人だと思えば良いのでは無いでしょうか?こちらで信頼できる相手は多く無いでしょう。その点、裏切る事はまずあり得ない」
アンズみたいな……友達……?
って、ナルさんのあの表情!あの個性!ついでにさっきの話だと、下手したらサンダーランドの領民にまで迷惑かけそう。
「リオネット様、また、何か良からぬ企みを?」
「流石カリン」
ふふふと笑って、それでもリオネット様はその企みは教えてはくれなかった。
ナルさんの問題は最早彼を避けまくる以外に解決法は無く、少し横に置いておくしか無い。勇者の順位決めだか格付けだかが、なんやかんやで終わった今、これからの予定をリオネット様に聞いた。
「そうですね、しばらくは休暇、ですね」
「休暇ですか?」
「マナはまだ溜まっておらず、聖女は呼び出せない。私とアッサムは新しいマンチェスター家の統合で少し多忙になります。貴方は少し強くなりましたし、独り歩きも大丈夫でしょう。お小遣い差し上げますから、少しこの世界を知ると良いと思います」
「はぁ」
「あまり、おバカな事をすればすぐさま私の耳に届く事はお忘れ無く。……安全のためにも私の手の届く範囲にはいてくださいね」
優しいんだかなんだか。最後の一押しがいつも優しいから、毒気が抜かれてしまう。なんか私扱い慣れられてる感じがする。不思議な感覚。
部屋に帰るとファイさんが迎えてくれて、ようやく人心地がつく。今日はいろんなことがありすぎた。
お風呂から出て、ゆったりとアンズと過ごしているとファイさんがお茶を出してくれながら、ラッピングされた大きな包みを持ってきてくれた。
「こちらが、リオネット様よりいただいた新しい『おぬい様』達でございます」
中身は好みドンピシャのもふもふ。……手のひらで転がされさせていただきます、リオネット様。
「こちらが、宿題の新しい魔法関連の書籍でございます」
でも、やっぱりちょっと嫌い。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる