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試合その2
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二試合目も作戦B。人数が多少減って、情報が広まる午後からは違う作戦になるかもしれない。
昼食は残った出場者全員で同じ物を食べる。食事前にここでの小細工をした場合のペナルティが読み上げられたけど、お家断絶に永久追放、成功率はかなり低そうだから完全に割に合わないものだった。もちろん過去に試みた人は全て失敗している。
「お前、そんな形で勝ったとかどんだけ運がいいんだ?ああ?」
二回戦まで勝ち上がってテンションも上がっちゃった人に絡まれました。運が良いかどうかはかなり疑問です。
「……場外乱闘は禁止されている。品性を疑わざるを得ない」
売られた喧嘩は私の頭上を華麗にスルーし、お隣の美丈夫が買いました。
「大体、見た目の美醜が勝敗に何の関係が?」
「ああ?!」
……。誰でもいいから絡みたかったテンション上げ上げモヒカンvs全ての発言が自分へと向かってると解釈するナルシストの戦い?
いや、ここは、ナルさんに便乗だ。初めからモヒカンさんは私には話しかけてない。物凄くこっち見てたし、今もこっちチラチラ見てるけども!
ナルさんは歯牙にもかけてませんよ、と言うポーズのせいでこちらを見てはいない。モヒカンさんはそのまま「てめぇ後で覚えておけよ」と矛を収めた。
話しかけた相手(私)は気づかず、違う人が反応したから困っちゃった感じ。そのままナルさんに突き進めば良かったのに。
さて、三回戦はモヒカンさんでした。私に絡んできたのは前哨戦的な威圧だった模様。
「ちゃちぃ武器だな」
私の得物を笑う彼の剣は使い勝手の良さそうなブロードソードだ。盾も小ぶりで何気にバランスが良い。髪型はアレだけど、事前情報でも剣士としての歴は長かったはず。
『作戦はー?』
「Cの……アクア系のにしよっか」
『りょ』
ちゃんとした剣の使い手と同じくブロードソードで手合わせしてみたかったんだけど、致し方あるまい。
打ち込んできたのを避けてみたけど、口の割に私の事を軽くは見ていないらしく、構えは崩さない。
剣は私のダガーを弾こうと狙いを定めている……。
「でりゃあ!」
「わっ」
重い剣を思わず両手の剣をクロスして受けた。力を込めて打ち返して反動で後ろに飛び退く。
「何回持つか?あん?」
腕の力は強くは無いからね。何度も受けたら疲労で負ける。勝っても次の試合があるし。
「もう、終わりだよ」
次の打撃は右手一本で打ち返す。ブロードソードは弧を描いて飛んでいった。
「な」
さっき合わせた時に持ち手から水が湧くようにしておきました。つるっつるに滑りやすく、更にこちらは手抜き緒で補強されている。手を伸ばして振り下ろせば、普通の剣並みには破壊力が出る。
まぁ、こんなもんでしょ。だけど……
呆気に取られている相手を残して、判定後に私はそそくさと闘技場の結界を出た。それから、そろっと相手を振り返るとモヒカンさんは真っ赤になって、それからドス黒く変色している。
「ちょっと、やりすぎたかも」
『そなの?』
「無駄に反感買ってしまった」
もう少しやりあってからドサクサに紛れてやった方が良かったかもしれない。いらない敵を作ってしまった感がある。でも、モヒカンさんの攻撃を何度も受けちゃうとその後が持たなかっただろうし。
とは言え済んでしまった事にやり直しは効かない。以降の二試合は反省を活かし、ヒットアンドウェイを忠実にやりながら、隙を見て剣を落としてもらった。モヒカンさんより格下が当たったのもあり、一人は作戦B、二人目は作戦Cだ。
「くそっ、こんな安物の剣でなければっ!」と負けたパンチパーマ君が自前の剣を折っているのを横目に、私は刀鍛冶さんに心の中で謝っておく。あんだけつるっつるに水が湧けばどんな刀でも大抵滑ります。
ともかく後二試合。つまり一試合さえなんとかすれば後はアッサム大先生が上手く転がしてくれるのだ。
夕食にしては簡素な休憩食は昼食時よりずいぶん人が少なかった。席について、いざお腹を満たそうとしたその時、不意にプレートに影が落ちた。なんだと思って身を起こすとほぼ同時に、プレートは真っ二つ。
「……てめぇ。ゆるさねぇ」
モヒカンさん?なんで、ここにいるの?
慌てて後ろに飛びのいて、その場に更にブロードソードが追ってくる。そのスピードはさっきの試合より段違い早い。
早い!…でも剣筋がめちゃくちゃだ。
グラついたまま振り回されるブロードソードを受け止めて、手が少し痺れた。しかし、この速さでさっきのモヒカンさんの技術だったら、私は受けきれなかったはずだ。彼の目は焦点が合っておらず、明らかに正気を失っている。
『この人なんかおかしくない?僕出ていー?』
「まだっ」
アンズは最後の手段だ。人目が多すぎて、出来れば隠しておきたい。どうしよう?
ひゅんっ
考えが決まらないうちに、突然決着はついた。
「……醜い」
一言言葉を放ったのはナルさんで、何をどうやったのかモヒカンさんはナルさんの足元に沈んでいた。
「あ、あの、ありが……」
「感謝は遠慮する」
状況を飲み込めず、息も上がっている私の言葉をナルさんは遮る。
「勘違いはしないで欲しい。この男を視界に入れておく事に耐えられなかったゆえだ。貴殿の先程の試合は美しく無かった。次試合にあの様な醜態は勘弁願う」
カチリ、と剣が収まる音が響き、そのままナルさんは髪を軽くかき分けてから去って行った。
『なんか、すごい人だったねー』
「うん、どうするんだろう。割と本気で」
次試合まで時間は小一時間はある。ここは控え室。彼が去って行った先はトイレしか無い。そして、皆の視線はトイレへ。
しかし、その後警備の人がやってきた来てひと騒ぎになった隙にナルさんはしれっと戻って来ており、なんとなく自分のせいかと思っていた私は胸を撫で下ろした。
――――――――――――――――――――――――――
後一試合が終われば、決勝だ。どうやらカリンは順調に勝ち進んでいるらしく、カリンの次試合の相手も卑怯とは対極にいるタイプで無事に試合は終われそうだ。
「アッサム兄様」
「何故ここに入ってこれた?」
「兄弟のうち二人も準決勝に出るんですもの。お父様にお願いしたの」
シードの控え室は個室で、その個室にノックも無くソフィアは入ってきた。いくらなんでも警備が手薄過ぎないか。軽く舌打ちをして、うふふと笑いながら抱きついてこようとするソフィアを手で制した。頭痛がする。
「試合が控えている。悪いが気が立っているから、あまり触れるな」
ソフィアは困った様に手を引っ込めた。そして少し寂しそうに俯く。いつもなら、笑って無理やりくっついてくるか、激しく打ちひしがれるかのどちらかで、この反応は予想外だった。
「そう、よね。ごめんなさい」
「どうした。今日はやけに殊勝じゃねぇか」
言いすぎたかと思ったが、ソフィアは少し微笑んだだけだった。ずきんっと頭痛が強まった。
「今日はね。謝ろうと思って来たの。この間の事」
「この間?」
「うん、私、兄様が取られると思って、ひどい事言ってしまったわ。でも、兄様が新しい弟に夢中になっても、だからって私達が小さな頃の出来事が無くなったりはしないって、気がついたから」
その言葉は心に刺さる。養子になったのはリオンより先んじており、平民出で何も分からず孤独だった自分に素直に懐いてくれた妹が救いだった時期は確かにあったのだ。
「アッサム兄様、お顔の色が優れない様だけど、大丈夫?」
「ん、いや」
これはちょっと冗談では済まないレベルの頭痛になって来た。ソフィアから香る香水が、ゆっくりと俺の良心呵責を苛む様だ。
「あの、良かったら、これ。アッサム兄様がリラックス出来るかなって。甘いものを少し食べると、例えば緊張とかの頭痛も良くなるよ」
差し出されたのは小さな砂糖菓子だ。初めて家に入った時にソフィアからもらったものと同じ。
「さんきゅ。貰っておくわ」
「うん。後二試合もがんばって」
ソフィアはそう言って部屋を出ようとした。
「なぁ、……それはお前の本心か?」
「なぁに、アッサム兄様。おかしなの。私、ちゃんと客席で応援しているわ。じゃあ、試合の後で」
ソフィアは昔の様に優しく笑って帰って行った。
彼女が昔の様に戻るなら、それがいい。それが1番だ。名門マンチェスター家に生まれながら、魔具を使わなければ平民並みの魔法も使えず、自身の出生により母に他の兄弟を望めない傷を負わせてしまったと理解する前の、憎悪と怨嗟に溺れてしまう前の無垢な妹に戻れたのなら。
昼食は残った出場者全員で同じ物を食べる。食事前にここでの小細工をした場合のペナルティが読み上げられたけど、お家断絶に永久追放、成功率はかなり低そうだから完全に割に合わないものだった。もちろん過去に試みた人は全て失敗している。
「お前、そんな形で勝ったとかどんだけ運がいいんだ?ああ?」
二回戦まで勝ち上がってテンションも上がっちゃった人に絡まれました。運が良いかどうかはかなり疑問です。
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売られた喧嘩は私の頭上を華麗にスルーし、お隣の美丈夫が買いました。
「大体、見た目の美醜が勝敗に何の関係が?」
「ああ?!」
……。誰でもいいから絡みたかったテンション上げ上げモヒカンvs全ての発言が自分へと向かってると解釈するナルシストの戦い?
いや、ここは、ナルさんに便乗だ。初めからモヒカンさんは私には話しかけてない。物凄くこっち見てたし、今もこっちチラチラ見てるけども!
ナルさんは歯牙にもかけてませんよ、と言うポーズのせいでこちらを見てはいない。モヒカンさんはそのまま「てめぇ後で覚えておけよ」と矛を収めた。
話しかけた相手(私)は気づかず、違う人が反応したから困っちゃった感じ。そのままナルさんに突き進めば良かったのに。
さて、三回戦はモヒカンさんでした。私に絡んできたのは前哨戦的な威圧だった模様。
「ちゃちぃ武器だな」
私の得物を笑う彼の剣は使い勝手の良さそうなブロードソードだ。盾も小ぶりで何気にバランスが良い。髪型はアレだけど、事前情報でも剣士としての歴は長かったはず。
『作戦はー?』
「Cの……アクア系のにしよっか」
『りょ』
ちゃんとした剣の使い手と同じくブロードソードで手合わせしてみたかったんだけど、致し方あるまい。
打ち込んできたのを避けてみたけど、口の割に私の事を軽くは見ていないらしく、構えは崩さない。
剣は私のダガーを弾こうと狙いを定めている……。
「でりゃあ!」
「わっ」
重い剣を思わず両手の剣をクロスして受けた。力を込めて打ち返して反動で後ろに飛び退く。
「何回持つか?あん?」
腕の力は強くは無いからね。何度も受けたら疲労で負ける。勝っても次の試合があるし。
「もう、終わりだよ」
次の打撃は右手一本で打ち返す。ブロードソードは弧を描いて飛んでいった。
「な」
さっき合わせた時に持ち手から水が湧くようにしておきました。つるっつるに滑りやすく、更にこちらは手抜き緒で補強されている。手を伸ばして振り下ろせば、普通の剣並みには破壊力が出る。
まぁ、こんなもんでしょ。だけど……
呆気に取られている相手を残して、判定後に私はそそくさと闘技場の結界を出た。それから、そろっと相手を振り返るとモヒカンさんは真っ赤になって、それからドス黒く変色している。
「ちょっと、やりすぎたかも」
『そなの?』
「無駄に反感買ってしまった」
もう少しやりあってからドサクサに紛れてやった方が良かったかもしれない。いらない敵を作ってしまった感がある。でも、モヒカンさんの攻撃を何度も受けちゃうとその後が持たなかっただろうし。
とは言え済んでしまった事にやり直しは効かない。以降の二試合は反省を活かし、ヒットアンドウェイを忠実にやりながら、隙を見て剣を落としてもらった。モヒカンさんより格下が当たったのもあり、一人は作戦B、二人目は作戦Cだ。
「くそっ、こんな安物の剣でなければっ!」と負けたパンチパーマ君が自前の剣を折っているのを横目に、私は刀鍛冶さんに心の中で謝っておく。あんだけつるっつるに水が湧けばどんな刀でも大抵滑ります。
ともかく後二試合。つまり一試合さえなんとかすれば後はアッサム大先生が上手く転がしてくれるのだ。
夕食にしては簡素な休憩食は昼食時よりずいぶん人が少なかった。席について、いざお腹を満たそうとしたその時、不意にプレートに影が落ちた。なんだと思って身を起こすとほぼ同時に、プレートは真っ二つ。
「……てめぇ。ゆるさねぇ」
モヒカンさん?なんで、ここにいるの?
慌てて後ろに飛びのいて、その場に更にブロードソードが追ってくる。そのスピードはさっきの試合より段違い早い。
早い!…でも剣筋がめちゃくちゃだ。
グラついたまま振り回されるブロードソードを受け止めて、手が少し痺れた。しかし、この速さでさっきのモヒカンさんの技術だったら、私は受けきれなかったはずだ。彼の目は焦点が合っておらず、明らかに正気を失っている。
『この人なんかおかしくない?僕出ていー?』
「まだっ」
アンズは最後の手段だ。人目が多すぎて、出来れば隠しておきたい。どうしよう?
ひゅんっ
考えが決まらないうちに、突然決着はついた。
「……醜い」
一言言葉を放ったのはナルさんで、何をどうやったのかモヒカンさんはナルさんの足元に沈んでいた。
「あ、あの、ありが……」
「感謝は遠慮する」
状況を飲み込めず、息も上がっている私の言葉をナルさんは遮る。
「勘違いはしないで欲しい。この男を視界に入れておく事に耐えられなかったゆえだ。貴殿の先程の試合は美しく無かった。次試合にあの様な醜態は勘弁願う」
カチリ、と剣が収まる音が響き、そのままナルさんは髪を軽くかき分けてから去って行った。
『なんか、すごい人だったねー』
「うん、どうするんだろう。割と本気で」
次試合まで時間は小一時間はある。ここは控え室。彼が去って行った先はトイレしか無い。そして、皆の視線はトイレへ。
しかし、その後警備の人がやってきた来てひと騒ぎになった隙にナルさんはしれっと戻って来ており、なんとなく自分のせいかと思っていた私は胸を撫で下ろした。
――――――――――――――――――――――――――
後一試合が終われば、決勝だ。どうやらカリンは順調に勝ち進んでいるらしく、カリンの次試合の相手も卑怯とは対極にいるタイプで無事に試合は終われそうだ。
「アッサム兄様」
「何故ここに入ってこれた?」
「兄弟のうち二人も準決勝に出るんですもの。お父様にお願いしたの」
シードの控え室は個室で、その個室にノックも無くソフィアは入ってきた。いくらなんでも警備が手薄過ぎないか。軽く舌打ちをして、うふふと笑いながら抱きついてこようとするソフィアを手で制した。頭痛がする。
「試合が控えている。悪いが気が立っているから、あまり触れるな」
ソフィアは困った様に手を引っ込めた。そして少し寂しそうに俯く。いつもなら、笑って無理やりくっついてくるか、激しく打ちひしがれるかのどちらかで、この反応は予想外だった。
「そう、よね。ごめんなさい」
「どうした。今日はやけに殊勝じゃねぇか」
言いすぎたかと思ったが、ソフィアは少し微笑んだだけだった。ずきんっと頭痛が強まった。
「今日はね。謝ろうと思って来たの。この間の事」
「この間?」
「うん、私、兄様が取られると思って、ひどい事言ってしまったわ。でも、兄様が新しい弟に夢中になっても、だからって私達が小さな頃の出来事が無くなったりはしないって、気がついたから」
その言葉は心に刺さる。養子になったのはリオンより先んじており、平民出で何も分からず孤独だった自分に素直に懐いてくれた妹が救いだった時期は確かにあったのだ。
「アッサム兄様、お顔の色が優れない様だけど、大丈夫?」
「ん、いや」
これはちょっと冗談では済まないレベルの頭痛になって来た。ソフィアから香る香水が、ゆっくりと俺の良心呵責を苛む様だ。
「あの、良かったら、これ。アッサム兄様がリラックス出来るかなって。甘いものを少し食べると、例えば緊張とかの頭痛も良くなるよ」
差し出されたのは小さな砂糖菓子だ。初めて家に入った時にソフィアからもらったものと同じ。
「さんきゅ。貰っておくわ」
「うん。後二試合もがんばって」
ソフィアはそう言って部屋を出ようとした。
「なぁ、……それはお前の本心か?」
「なぁに、アッサム兄様。おかしなの。私、ちゃんと客席で応援しているわ。じゃあ、試合の後で」
ソフィアは昔の様に優しく笑って帰って行った。
彼女が昔の様に戻るなら、それがいい。それが1番だ。名門マンチェスター家に生まれながら、魔具を使わなければ平民並みの魔法も使えず、自身の出生により母に他の兄弟を望めない傷を負わせてしまったと理解する前の、憎悪と怨嗟に溺れてしまう前の無垢な妹に戻れたのなら。
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