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ファンレター

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 ぬいぐるみ化したアンズは、ただの可愛い生き物なだけでは無かった。使役した動物の能力は、飛ぶみたいな物理的なスキル以外は主人側も使えるようになる事が多い。
 アンズは大抵の黒魔法と一部の白魔法が使えたので、私はそれらの大部分の訓練をする必要が無くなった。なにこれチート。

「こうなると、黒魔道士の加護でなくて良かったと言えますね」

 黒魔法習得に当てていた学習計画を練り直しながら、リオネット様は「流石カリン」と微笑む。何が流石なのか。

 私の実力では無いし、何気にリオネット様はアンズには殿をつけて呼んでいるし、からかってるんだろうけど、だけど。

「これなんですか?」
「ファンレターだな」

 訓練場でアッサム様が広げた包みの中にはオレンジ色の封筒が一山。

「へー、アッサム様、人気あるんですねー」

 粗暴だけど、まぁ、騎士だし顔も綺麗だもんね。

「ちげぇよ、カリンのだ。何で俺が自分のファンレターお前に見せんだよ」
「は?私?」
「『可愛らしい勇者様のお姿、いつも励みにしております!頑張って云々』」

 隣で器用にアンズが封筒を開けて読み上げている……ってお姿?人前に出た覚えは無い。

「あの、私の事って外にはどの程度知られてるんですか?」
王宮うちからはイラスト入り広報紙程度だな」
「それ以外は?」
「真偽の怪しい小説、雑誌、派生二次創作物、グッズ等」
「はぁっ?!」
「大丈夫だ。女とはバレてねぇ」

 そうか、それなら一安心って、いや、大丈夫じゃない!

「わ、私のグッズって……」
「僕、キーホルダー持ってるよ、ほら」

 アンズが見せてくれたのは、ビックリするぐらい脚色無い私の顔が描いたキーホルダーが一、二、三……。

「これ、は?」
「リオネットに貰った!やさしー」
「買収されてんじゃね?」
「没収!」
「にゃー!」

 取り上げるとアンズは猫みたいに鳴いた。え、猫?可愛いけど良心が痛むからやめて……。形代はぬいぐるみなのに、涙目だし。

「にゃー。アッサムだってハッピとか持ってるのにー。いいもん。いっぱい売ってるからまた買ってもらうもん」

 何ですと?

「俺のはアレだ。シャレだ」
「シャレって」
「お前がなんかペナルティ受ける時に着せようと」

 自分の容姿がデザインのハッピ……それは、確かに破壊力最強の罰ゲームだ。

「何で……こんな……」
「世間には娯楽も必要なのです。アンズ殿の様な極秘情報以外は適宜噂程度として流しております」

 リオネット様が先程の三倍はある青色の封筒を一抱え魔法で運んで来た。

「アッシャー、忘れ物です」
「げ、捨てとけよ」
「ご自身で」

 アッサム様は私の顔をチラッと見た。そうか、アッサム様も同じ道を辿ってきた先輩な訳ですね。ファンレターに埋れて困ってる顔はちょっと笑っちゃうけど。

「……俺は手紙は読まねぇんだよ。そう公言してる」

 彼の周りに魔法陣が浮かぶ。ファイア系だ。

「燃やしちゃうんですか?」
「ん?ああ」

 そっかぁ、数も多いし、手紙が苦手なら仕方ない、かも。でも、少し悲しく思った。

「何だよ?」
「えと、書いた人の事を思うとちょっと寂しく思っちゃって。でも、多いし、仕方ないですよね」

 アッサム様は私の顔を見たままで、魔法陣はフッと消えた。

「おや、今日は燃やさないんですか?」
「今ここで燃やす必要はねぇだろ」

 影から犬の様な使役獣を出して、彼ははそれを運ばせた。これは、ちょっと良い人っぽい。

「優しいお師匠様ですね」
「はい。アッサム様ありがとうございます」
「……お前のためじゃねぇし、気まぐれだ」
「アッサム顔あかーい」
「黙れ」

 自分の事が勝手に知られるのはやはり抵抗はあるけれど、私の生活費や訓練のための費用の半分は王宮からで、財源は税金だ。魔王征伐が国の事業でもあるし、世間の心配を薄めるためにある程度は仕方ないのかもしれない。

「師匠でもあり、ライバルでもあるアッシャーとの心温まるエピソード……。流石カリン」

 リオネット様のいつもの微笑……。あ、なんか噂の出所分かった気がする。

「……カリンはオレンジがイメージカラーなんだって。アッサムは青、リオネットはパープルで、何気に封筒の数が一番多……にゃあ!」
「おや、こんな所に大きな毛玉が」

 むんず、とアンズはリオネット様に掴まれて退場して行った。

「え、と。私の使役獣……」
「剣術指南には不要だろ。じゃ、始めるか」

 アッサム様が練習用の剣を投げてよこした。

 剣術の腕は、それこそ流石のスピードで上手くなってきた、と思う。勇者の加護は直接剣の腕が上がるのではなくて、動体視力や筋力、柔軟性などフィジカルな面が上がりやすい様だ。それに回復力とか。

 ヒョロヒョロだった腕がも足も、しっかりしてきたけれど柔軟性は失わずにしなやかで、それ程太くはならない。

「一撃の重さ上げんのは効率が悪い。必要なのは数打ちのスタミナと軽さ、それから、弱点を炙り出せる頭、だな」

 私の打ち込みを軽々片手でいなして行くアッサム様は重さも速さも兼ね備えたオールラウンダーだ。自分に剣の力と知識がつけばつくほど、彼に遠く及ばないのがはっきりしてくる。

「ほらよっ!」

 少し逸れた集中力はやはり筒抜けで、私の剣は大きく弧を描いて飛ばされた。

「まぁ、ひと月半ならまずまず。だが、試合で身を守るには足りねぇな」
「試合、出ない訳にはいかないですよね」
「まぁな。結果は気にすんな。無事に終わりゃなんでも良い」
「でも、あんまりへぼへぼだと、アッサム様の立場が悪くなるのでは?」
「立場が悪くなったって、俺より強いやつがいなけりゃポジションは変わんねぇよ」

 へー。じゃああんまり心配要らないかも。

「手ぇ抜くなよ」
「あは」
「てめぇ、そこに座れ」

 ちまっと正座させられると、アッサム様と私の個体差がありありと感じられる。大きいし……多分、本気の打合いの威圧だと私は動くのもままならないだろう。

「……勇者のポジション争いは下劣だ。魔力関係はペーパーテストもありゃ、魔法規模は数値で測れる。だが、勇者の格付けは相手との相性やメンタル、体調、順位を揺さぶる要因が多い。人生一発逆転狙ってる奴もいる。そいつらみんな男だぞ。意味分かるか?」
「基礎能力値が高くて……、それから妨害もあったり?」
「ああ、潰しにくる奴は棄権も『気がつかなかった』で再起不能狙って叩きにくる。召喚勇者を潰したってだけで、後々旨味があるからな」
「もしかして、女ってバレるとヤバイって仰ってたのって……」
「良い奴だったら、世間に広めて性別で勇者不適合ってもってくだろうが、そうじゃなきゃ試合の前に試合が終わらされる。俺らがなるべく側にはいるが、気は抜くなよ」

 くしゃっと頭を撫でられて、なんだかちょっと感動した。

「アッサム様って実は良い人だったんですね!」
「実はって何だよ!」
「だって、人のこと男だとか女とは認めないとか仰ってたので」
「認めたら大変だろうが……」

 何が?と問おうとした瞬間、ばびゅーんという音がしてアンズが飛んできた。

「見て!カリン!リオネットにもらった!」

 可愛い首輪……だけどよく見たら『カリン様最高』って書いてある。これつけたアンズを本人が連れてたら心の底から痛い人だ。

「可愛い……んだけど、外さない?」
「ダメです。こちらはカリンとアンズ殿の同一性を高める効果を持たせました。何かあった時、アンズ殿を呼ぶのも容易く、アンズ殿もカリンの危機を感じ取りやすい。試合では自身への白魔法と相手への黒魔法、そして使令による攻撃は禁じられていますから、試合中以外での保険にはなります」

 慈愛に満ちたリオネット様の表情……義兄様達はなんて優しい……

「『カリン様最高』ってさいこー。リオネット趣味良いー!」
「……リオネット様、他意はありませんか?」
「流石カリン」

 彼の微笑が日に日に黒く見えてくる。

 後日、『カリン様のちょっとナルシストな痛い所も可愛いです』というファンレターが届いた。総枚数は減った。
 
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