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使役獣

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 使役獣という制度があるのだとか。

 使令とも言う。普通の獣だけで無く、魔法や魔力を操る聖獣と契約する事で色んなスキルが身につくらしい。

 訓練サーキットトレーニングがひと月程経ち、基礎が安定してきたので使令を得るために王都の側の森までやってきました。

「ウサギ、リス、小鳥、どれになさいますか?」

 リオネット様が目の前に差し出したのはモフモフぬいぐるみ部屋での私のお気に入りNo.1からNo.3。何に使うか分からないけど、チョイスは秀逸。

「これは?」
「使役獣用の形代です。影に潜ませる事もできますが、影に入れるのには少しコツが要ります。なので、子供や初心者は形代に入れて連れ歩くのが一般的です」
「抱っこして歩くのですか?」
「いや、自分で動くぞ」

 アッサム様がリス太郎を彼の影に投げた。あ、てめー、リス太郎投げんな、と思った瞬間、リス太郎はトコトコ走り出した。

「ほら」

 私の手に載せられたリス太郎は完全に生きていた。毛繕いまでしてる!

「俺の初めての使令だ。初めは簡単なの捕まえて、用途によって増やしていける。形代に入れると物運んだりもしやすくなるから便利だ。まぁ、元の形に似たもん選ぶ必要があるが……っておい?」
「はひ?」

 ほっぺがぬいぐるみの時よりふくふくー。幸せー。

 もみしだいていると、ふっとリス太郎は倒れた。黒い影がアッサム様の足元に消えて、リス太郎はぬいぐるみに逆戻り。

「後は自分のでやりやがれ」
「飛ぶ物は小鳥が無難でしょうね。後はリスでもウサギでも好みですが、四つ足で早く走るならこちらでも……」

 取り出されたのは、はじめましてのきつねさん?それともフェネックさんかしら?大きなお目々は離れ気味で大層キュート。

「……では、その仔狐の形代にしましょうか」

 新しいおぬい様を抱き上げる私にリオネット様は苦笑した。
 「ガキかよ」というアッサム様の声もちゃんと拾いましたけど。こちら頂けるならガキでいいです。

 リオネット様が魔法陣を地面に描いてくださり、私は絶賛ご主人様募集中の獣を呼ぶ。やり方は教科書通り。立候補者は無く、寒空の下数十分。

「こねぇな」
「来ないですね」
「……カリン、何となく可愛らしいモフモフが来ればいいとか思ってませんか?」

 ご名答!

「阿呆が。目的とか見返りとかアピールすんだよ。後は波長が合う奴が読み取ってくっから」

 使令の目的、かぁ。特に何か必要に迫られてる訳じゃなし。
 というか、この仔狐ちゃんにぴったりの特定の子を私がすでに想像してるから誰も来ないのかもしれない。
 そもそも、私のもふもふ好きには理由があって、前回こちらに来た時に兄様が怪我した生き物の世話をしていたからだ。もちろん、昔からぬいぐるみは普通に好きだったけれども、小さかったら弱かったりした仔達は私の母性本能にぐりぐりで、メロメロだった。

 しかし、その仔達は野生動物。溺愛してしまうと自然に帰れなくなるから、それ程モフれない。どーしてものどーしてもで一匹だけ自然に戻せない子をモフリまくったものだ。

 ちょうどこの仔にそっくりな。元気かなぁ、アンズ。

「かーりー……」

 ん?

 ずどどどどっと地響きがした。アッサム様はすぐに臨戦態勢に入り、後ろに突き飛ばされた私はリオネット様のローブの中に匿われる。

「なんか、来るぞ!」
「……マナが渦巻いています。災害を纏った何かが王都を狙っている?」

 森の上空遥か遠くから、雷雲の塊が凄いスピードでこちらに突き進んで来た……?あれ?

「アンズ?」
「は?」

 「かーりーんー!」

 フェネックちっくだったのを少し厳つくした獣が私の名前を呼びながらやって来ている。もしかしなくても、アンズ?いや、それにしても……

「かりん!見つけたぁ!」

 ばふぅん、と風圧が起きたらしくアッサム様は飛ばされた。と同時に受け身を取って、体勢を立て直している。私とリオネット様にはシールドが張られているらしく、飛ばされた砂利を浴びる事もなく無風だ。

「ありがとうございます」
「いえ、これは私のシールドではありません」

 じゃあ誰が?と訊こうとして彼を見た。
 じっとりと額に汗をかいているリオネット様の緊張はすぐに私にも伝わる。私を背に隠して、彼は高速の魔法を構築していて……速い。言語最適化されてるはずなのに、速すぎて聞き取れない。
 目の前には虹色のシールドが新たに展開されて、堅牢には見えるけど……
 さっきの見えないシールドの厚さよりは少し薄い。

 「くっ」とリオネット様が呻いた瞬間、シールドは全て霧散し、ひょいっという感じで私の体は持ち上がった。そのまま私は大きな大きな獣の鼻先へ。

「カリンいた!呼んだ?呼んだ?」

 濃い赤と青のオッドアイ。バフバフと振れる尻尾。

「やっぱり、アンズだ?大きくなったねぇ」

 前脚から頭からまでで丁度私の身長程度。尻尾まで入れたら体長は5メートルはありそう。両手を広げて首をワシワシすると、以前と変わらずアンズは目を細めてクンクン鳴いた。体は大きくなったけど、まだ子供なのかな?あんなに小さかったのが、こんなに大きくなっちゃってと感慨が深い。

「会えて嬉しい。元気だった?今ね、使令の契約やってたんだ。それて、アンズの事思い出しちゃって」
「使令?使令いるの?じゃ、僕なるー!」

 眉間の間の臭いを嗅ぐと、相変わらずの何故か杏の甘い香り……やはりぬいぐるみより本物だ。とてもでかいけど。

「……おい。マジか、あれ」
「麒麟に、少し似ていますが……」

 あ、まずい。二人に気がついたアンズは威嚇をしようとしてる。

「アンズ!ストップ!この二人は私の友達!」
「友達?」
「そう、それから、じゃれるのもダメ。優しく、やさしーく、ね?」
「優しく……」
「……形代に寄られては?物理的な能力は制御しやすくなるはずです」

 リオネット様に言われて、使役の契約のやり方を思い出す。アンズは素直にぬいぐるみの中に入った。

 ああ、完璧。幼き日のアンズその物だ。至高のモフモフ。

「カリン、心の声漏れてるー。僕もうちょっと大きかったよ」
「そうだっけ?」
「おい、それ、麒麟か?」

 アッサム様は警戒を解かずに私に近づいて聞いた。キリンってジラフじゃなくてビールの缶の方よね。

「兄様は麒麟とは呼んで無かったと思います。ただ、自動翻訳前の事なので」
「アッシャーの麒麟が特定のあちらの動物の意味を成して聞こえてたなら統合され理解できるはずなので、それは恐らく麒麟では無かったのでしょう」

 リオネット様は警戒を解いていた。怪訝なアッサム様に「私程度では、アレにはどう足掻いても勝てませんので。敵意を見せない事を優先しました」と説いて、アッサム様の警戒も解かれる。良かった、アンズの緊張度もスッと下がった。

 ……と言うか、もしかしなくてもアンズってヤバくない?

「ニーサマは何かの突然変異って言ってたー」
「……そうだ。確か、随行みたいな名前だったような」
「ずいこう?ふむ、心当たりは有りませんね。我らにとっては未知か希少か、兄君のいらっしゃる地域の近くにのみいるのかもしれない。……アンズ殿?問題なければ角の有無を確認しても?」
「いいよー」

 ぶわんっと、本体の姿に戻ったアンズはリオネット様に頭を触らせた。リオネット様とアンズの相性は良さそう。そして、やはり角は無いそうだ。

「ちなみにその、アンズ殿の周りの雷雲は?」
「おもちゃ。ビリビリたのしー」
「……しまっとこっか」
「はーい」

 「散!」の一言でやばそうな黒雲は霧散した。

「反則、だろうが。コレ」

 アッサム様が頭を抱える。
 私もそう思います。私の記憶の何百倍もアンズは進化してるっぽい。アッサム様は明らかに困惑していた。私も実は困惑している。

「流石カリン」

 最終的に微笑むリオネット様が一番動じていなかった。
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