同級生の異世界転移に巻き込まれた直後に前世を思い出した結果、乙女ゲームの世界だと判明しました

吉瀬

文字の大きさ
上 下
135 / 192

90 シャルロッテの視点

しおりを挟む

えいこ様の保護魔法が吹き飛んだ。光の国から彼女が消えたと連絡が入った。そして、サタナ様が重症を負われ、ディナも錯乱しているとも言う。
主人の命を受け転送円で光の国に向かうと、ディナは憔悴し切っていた。

「ディナ。」
「シャル!えいこ様が、えいこ様がぁ。」
えいこ様の部屋に通されてると、ディナはえいこ様の服のようなものを抱きしめてポロポロ泣いていた。
「ディナ、落ち着いて。気が乱れてご主人様にまで良くない気を送ってる。」
「でも、えいこ様が。」
「大丈夫。大丈夫よ。落ち着いて。」
抱きしめても、ぶるぶると震えながらいやいやと顔を振るばかりだ。
「えいこ様…。」
「えいこ様はご無事よ。ううん。少なくともこの世界でお亡くなりにはなってないわ。」
「嘘!だってあんなに血が!」
「えいこ様の血を見たの?」
「…。」
「報告では血溜まりがあったとあるけれど、えいこ様のとは限らないわ。それに、えいこ様がこの世界で亡くなられていたならご主人様には証を通して分かったはず。けれど、ご主人様にはその感覚は無かったと仰ってる。ほら、良く感じて?ご主人様は今えいこ様が亡くなったと感じてらっしゃるかしら?そんな事は無いわよね?」
震えが止まった。
「えいこ様はどちらに?」
「これを読んで。」
えいこ様が城に残されていた手紙を渡すと、ディナは手紙をそっと開いた。多分もうディナは大丈夫だろう。

『シャルさんへ もし私と連絡がつかなくなったらウランさんに渡してください。』
『この手紙を読んでらっしゃると言う事は、私の保護魔法が消えるような事があったのだと思います。ウランさんならそれが私が死んだからかどうかは分かりますね?
まず、シーマ様ですけれど体調悪化の魔女不適格であちらの世界に帰った事にしてください。必要なら代わりに来年の春に聖女が降り立つと予言を残したとしてください。

来年の春に、テルラさんの幼馴染で私の友人である月子ちゃんが聖女として降り立ちます。彼女は素晴らしい器の持ち主です。私はそれを知っていたので彼女が世界を救う下準備をしていました。私が消えたのはそれを全うしたか、志半ばかは分かりませんが、みんなで世界を救って欲しいと思います。

方法は世界を分けると言う方法ではありません。破壊神をこの世界の神に変えるという方法で、月子ちゃんが全ての祠を周り全ての古文書を知れば詳細が分かるはずです。
その為にはみんなの大きなレベルアップが必要で、結界術や魔法学の発展も必要です。だから、光の国と協力して、月子ちゃんが降臨するまでにみんな『強く』なってください。

私の事ですが、死んでしまっていたり、私の役割を全うして帰った以外の場合、また戻るかも知れません。例えばピンチになったとか、偶然帰る条件が揃ったとか神様の予定外で戻された場合は、戻れるよう頑張るのでそのつもりでお願いします。

長々と書きましたが、最後に。
みんなにはとてもお世話になったのでよろしくお伝えください。特に行動を共にしているディナさんは場合によってはとても辛い立場になるかと思います。勝手ながらウランさんにはフォローをお願いします。

それでは、また会える日に。』

手紙を読み終えたのが、ディナは軽く手紙を抱きしめた。
「えいこ様は戻られるかしら…?」
「それは分からないけれど、戻られた時にお力になれるよう準備は必要ですわ。」
「そうですわね。そうですわ。」
ディナの目がいつものディナの目に戻った。ご主人様が原本を渡してくださったことに感謝する。

「ディナ、あなた闇の国に帰りなさい。えいこ様はより強くなる事をお望みです。あちらで新しい訓練法を試してより強くなるのです。私を見て。今筋力弱体化をしているけれど、それを解いても以前のように無駄な筋肉は無くなったわ。体も軽いし、筋トレの時間をより効率よく魔力アップに繋がる時間にできてるの。こちらの事は私が引き継ぐから。」
ディナは頷いて両手を差し出した。その手を取り額と額をくっつけ、タグ付けした記憶について『記憶共有』をする。ディナの記憶が私に流れ込んだ。タグはえいこ様と闇の国を発った日から。

ディナの記憶にある血溜まりは確かに獣のものではなさそうだけど、何も分からない今は何も言わない。

ディナを連れ立って、陛下からの手紙と共にディナの帰郷と私の滞在を願い出た。家政婦長様を通して王太子殿下より許可を得て、こちらの状況を整理した報告書と共にディナをすぐに送り返した。

その際聞いた話だと、ゾイ将軍が一団を率いてカナの祠の調査に行くそうだ。カナト様も神官代理として随行するそうで、万一に備えての準備でみなバタバタしている。

その間を縫うように目的の部屋に向かった。サタナ様は城の診療室に受け入れられていた。
部屋に入ると、サタナ様の側に男の子、ジェードさんがちょこんと座っていた。

「初めまして。私、闇の国で宰相ウラン様の補佐をしておりますメイドのシャルロッテと申します。シャルとお呼びください。失礼ですが、ジェードさんでいらっしゃいますか?」
びくっと驚いて振り向いた彼も悲痛な面持ちで頷いた。
「ディナと仲良くしてくださったようでありがとうございます。彼女は闇の国に戻り、私が入れ替わりでこちらに参りました。」
「ディナさん、戻ったんだ。良かった。」
頑張って笑いかけた顔も悲しげだっとので、彼にもえいこ様が生きてる事を説明した。流石にサタナ様が予断を許さない状態なので大喜び、とまでは行かなかったけれど幾分顔色が良くなった。

「ジェードさん。私はあちらで一通りの治療術も学んで参りました。ですので、サタナ様の事はお引き受けします。」
「でも俺、他にできることも無いから師匠の側に…」
「いえ、ジェードさんにはしていただきたい事があるのです。サタナ様の代わりに結晶の買付をお願いいたします。」
「師匠の代わり?」
「はい。転送円の整備以外にもこれからこちらの国との協力や最近巷に出てきている魔法機械の使用など、結晶の需要が高まっています。」
そう言って、依頼書を渡すとジェードさんは受け取った。
「サタナ様と一緒に仕事をされていたジェードさんにしか出来ない仕事です。お願いします。」
「俺にしか出来ない…。分かった。やるよ。でも一個だけお願いがあって…師匠が元気になったら、師匠の元に戻るよ。まだ覚えなきゃいけない事もいっぱいあるし。師匠は俺のハト持ってるから、意識が戻ったら飛ばしてもらってくれるかな?」
「承知致しました。」
これで任務はあと一つに。

えいこ様の部屋を整えるために戻ると、えいこ様の手紙を見つけた。ディナはこれを見つける事すらままなら無かったようだ。
折良くノックがされて、ヒノト様が現れた。
「失礼いたします。私は王太子殿下の補佐をしておりますヒノトと申します。ディナさんがされていた闇の国との取次を引き継がれているという?」
「はい。シャルロッテと申します。シャルとお呼びください。」
「では、シャルさん。殿下が直接お話をしたいと仰っております。」

そう言われて連れてこられた部屋はキュラス様の私室だった。お会いしたキュラス様はディナの記憶通りで、やはり私が無礼を働いても咎められないような服にわざわざ着替えていらっしゃった。ディナの心象では彼はえいこ様を多少想っていたはずだ。それでもこの状況でこの気遣いができるとは、14歳程度で恐れ入る。
「初めまして。キュラスです。君がディナの後任、という事でいいのかな?」
「はい。シャルロッテと申します。シャルとお呼びください。よろしくお願いいたします。」
「ディナと君はどこか似ているね。」
優しく微笑んでいるが、疲れは流石に隠せていなかった。
「今回えいこが消えた件だけど、公式には落盤事故と凶暴化した聖獣の調査としてしか国は動かせない。その代わり、非公式な部分での協力は惜しまないと決まったんだ。具体的には王家の固有資産の提供や僕の私的な時間を費やすことはできる。誠に申し訳ないと思っているけれど、飲んで欲しい。その旨がハトでそちらに知らされる予定なんだ。」
強い双眸で私を見据えた。
「こちらで動かせる人ははっきり言って少ない。えいこを探すに当たって、そちらの人を借りる事は出来ないだろうか?もちろん滞在費や必要な経費は持つ。早急に進めたいんだ。可能性は低くても、えいこが助かるかもしれないから。」

この人は諦めていないんだな、と思った。同時にできない事とできる事を端的に話す姿は好感が持てた。
「えいこ様はご無事でございます。」
私の言葉に軽く目を見開いたキュラス様に、失礼いたします、と添えてえいこ様の手紙を渡した。中は見ていないが、闇の国に残された手紙と変わらないだろう。

「残念だけど、えいこが元の世界に帰った確証は無いでしょ?」
手紙を読み終えた彼は期待が裏切られたという顔で、手紙をヒノト様に渡した。どうやら、闇の国の手紙に書かれていた前半部は書いていなかったようだ。
「我が国にはえいこ様に愛の証を贈った者がいます。」
ヒノト様が手紙を落として、キュラス様は椅子をガタンと立った。
「その者がえいこ様の死を感じませんでした。それから、今現在の行方も感じられないと申しております。」
キュラス様は口を開くけれど声が出なかったので、代わりにヒノト様が答えた。
「だから、えいこ様は生きている、と。そして恐らくあちらの世界いる、という事ですね。」
私が頷くと、ようやくキュラス様の口から声が漏れた。
「えいこが生きている?また、会える?」
「はい、戻ると彼女が書いている以上、闇の国の者はそのつもりをしています。」
「えいこっ。良かったっ。」
手を顔の前できつく握りしめて、キュラス様は座り込んだ。
「彼女が戻るのを待ちつつ、当面は『強く』なる事が必要かと思います。鍛錬の際に相手が必要でしたら、私をお呼びください。私は現在あちらで上位10位以内に入っております。また、鍛錬法についての知識もありますので。」
「うん…」
流石に衝撃が強かったようなので、今日は退室する。これで、主人から賜った任務がクリアできた。
ふと、キュラス様が勘違いして主人とえいこ様の詮索をしては困るなと思い、部屋を出る時にキュラス様に告げた。
「えいこ様に愛の証を贈った者はありますが、えいこ様から愛の証を贈られた者はありませんので御心配されませんように。」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

処理中です...