同級生の異世界転移に巻き込まれた直後に前世を思い出した結果、乙女ゲームの世界だと判明しました

74-1 久しぶり！1

犯人は分からずじまいだったけどソバージュのメイドさん他ちょいちょい気になった子は私の周りには居なくなった。ディナさん曰く現在私の周りを固めているのはプロメイド派らしい。プロメイド派の人は、結構前からご立腹派で実力行使する人達を嫌味で牽制していたようだ。下っ端のソフィーさんが実行役にされていたのもその辺りが少しは関係していたと思われる。
ディナさんは多少ピリピリしていたけど、私を暗殺しようという人がいるわけでは無いので、自由にさせて貰っている。私の性格を知っているから引いてくれるディナさんに感謝だ。
キュラスからはヒノトを通して手紙を貰った。王太子就任パーティーの日に見せたいものがあるから中庭に来て欲しいとの事だ。その日は闇の国からも数人客が来るらしいけれど、私は基本外に出てはいけない。 当日にディナさんを借りたいとヒノトからも言われている。何を言われたのかディナさんも受けたいと言ったので、暇人確定だったから予定ができてちょっと安堵した。パーティで賑やかな裏で、予定もなくぼっちは寂しすぎる。

パーティーが開催される日までの間もこれまでとほぼ変わらず過ごしていた。多少変わった事は、見習いメイドはるちゃんとして一人で行動するようになった事と、神殿に図書を持ち込むようになった事。マリちゃんが堂々と勉強するにも、私が知識を纏めるにも多少はノートに書き込んだりしたい。カナト名義で借りて、ノートをとって、そのノートは神殿に預けている。紅茶美味しいし、白い人達も慣れたら特に気にならなくなったし、紅茶美味しいし。

そしてパーティー当日の今、キュラスが来るまで中庭で待っています。夜外に出ると分かる。夏が終わりかけている。
…ていうか、キュラス本当に来れるの？主役でしょ。来れるとしても何時なのよ。

時折パーティー会場の大広間から華やかな雰囲気が伝わる。ああ、ダンスパートに入ったのね。陽気な音楽が少しだけ夜空に溶けるのを聞いて、泣きそうだ。流石に寂しい。よく分からん世界に放り込まれて早四ヶ月か。長かった、短かかった。
月子ちゃんが来るのは、たぶん八ヶ月後だと思う。大地君の証言をまるっと信じたらもう少し後だけど、ゲームで月子ちゃんがあちらからこちらに来た時、季節はズレて無かったはずだ。そして、この夏の終わりを感じる限り、私が来た季節もズレてはいないように思う。大地君は大体一年くらいとか二年くらいって言う意味でゲーム中で話した可能性が高い。
会場から歓声が聞こえて曲調が変わった。ちょっと待ってよ。こんな気分の時にしっとりとした曲なんて、おばちゃん泣いちゃうよ？

「なんちゅう顔してんねん。」
唐突に声をかけられて顔を上げると、サタナさんがいた。正装だけれど、蝶ネクタイは片側外して緩めている。
「こんなとこにおってんな。」
「サタナさん。」
なんや、と言って柔らかく笑われて、何故かさっきより泣きそうになった。
「ここで突っ立ってると、目立つな。」
ひょいと肩に担がれて、木の上に攫われた。ぽやんと一瞬薄く光ったように見えたから、木自体に目隠しの魔法か何かをかけたみたいだ。
「どうして、ここに？」
「ご主人様のご機嫌伺いに来たんや。俺のご主人様は薄情やから、手紙に用件しか書いてよこさへんさかい。」
「サタナさんだってそうでしょ。」
「せやな。」
サタナさんは目つきが結構鋭い。キャラクターとしての柔らかさで誤魔化しているけれど、時々刺すような視線になる。なのに今は温かみがあるのに私の心の奥まで見通すようなそんな目。なんか落ち着かない。
「なんや、痩せたな。」
そうかな。自覚はないけど、そう言えば以前よりは食べる量は減っている。練乳のかかったサラダとかは、はっきり言って食欲が無くなる。
サタナさんの手が伸びてきて、一瞬ビクッとしてしまった。久しぶりで距離感が狂う。けれど、その手は髪に少し触れただけだった。