同級生の異世界転移に巻き込まれた直後に前世を思い出した結果、乙女ゲームの世界だと判明しました

73-1 結局バラした

ゾイ将軍がショックから立ち直った頃に、ちょうどヒノトが戻って来た。
「厨房に、『本日は聖力補給料理を用意する事』との指示書が出されていました。署名はアニーのものでしたが、彼女は本日休みを取っています。配膳室までは料理のトレーに結晶入りとのマーキングされていたそうですが、いつのまにか外されいたそうです。出入りのあった者を現在調査させていますが期待できそうには。」
「えいこを疎ましく思ってるメイド達に目星はついてる？」
「一覧にしてございますが、多ございますよ？」
すでにリストはヒノトの手の中らしい。こう言う事態は想定内ですか。
「むしろ私を気に入ってるメイドさんは居ないでしょ。」
思わず口から本音が漏れた。
「えいこ、君、命狙われたのに呑気すぎない？」
ものすごーくイライラしたキュラスに怒られた。
「しかし、料理に含まれて居た結晶の量は、えいこ様の器からすればそれほど危険とは言い難いので嫌がらせかと。」
ヒノトは多分キュラスを落ち着かせようとしたのだろうけれど、失敗だった。キュラスはヒノトの胸ぐらを掴み上げた。
「危険が無いだと？！」
「キュラス様落ち着いて下さい！私が説明していないせいですから！」
慌てて止める。流血沙汰は勘弁願いたい。本当は隠しておきたかったけど、致し方ない。
「えいこ殿のせいとは、どう言う事ですかな？」
ゾイ将軍はゾイ将軍で良くない想像を駆け巡らせてそう。ジロリと睨まれた。
「実は皆様に嘘をついていた事があります。マリちゃん。」
懐から取り出したマリスを見て、ヒノトとゾイ将軍は驚いた。
「この間えいこが見せた器はそのマリスのものだ。えいこの器は、もっともっと小さいんだ。」
ちっ。と舌打ちをしてキュラスが解説する。うん、それも違うんだ。
「あんなに大きな器のマリス？！いや、しかしそれがもし本当ならえいこ殿の器はかなり小さいと？」
ゾイ将軍が困惑し始めた。
「キュラス様。実はそれも違うのです。あえて訂正致しませんでしたが。」
「どういう事？」
マリちゃんをテーブルの端にのせ、私は反対の端に立つ。
「皆様もう一度、私とマリちゃんをみてください。」
私にはみられているのは分からないけれど、三人の顔に驚きの色がさしたから多分見てもらえたのだと思う。
「これは…」
どの様に聞けば良いか分からないらしく、ヒノトの語尾は消えた。
「ご覧の通りです。私には器がありません。」
「器が無い？そんな事はあり得ませぬぞ。無機物じゃあるまい。」
「でも私には聖力魔力を感じる事が出来ませんし、魔法もほとんど分かりません。聖力魔力の影響を受けませんが、魔法への耐性も無いそうです。」
「だから、隠してたのか。」
キュラスが呆然と見つめた。
「貴女はそんな状態なのに外に出てらっしゃるんですか？！」
今度はヒノトが怒り出した。
「ママにはディナさん達が護りの魔法を施してるし、日常生活は僕がフォローしてるから大丈夫なんですよ。」
伸び上がって私のフォローをするマリちゃんにヒノトもゾイ将軍も驚きを隠さなかった。
「どの様にすればこの様なマリスが？」
「秘密です。」
ゾイ将軍は軍事利用しそうだから、今は教えられない。
「と言うわけで、以前お見せした通り魔力の結晶が私に与える影響が無いのと同様に、聖力の結晶による影響もありません。」
皆がそんな事がと衝撃を受ける中、キュラスは何か考えている様だった。
「ちなみに食事に混ぜられる危険な物って結晶だけですか？毒とかは？」
「毒？口にした直後に死亡するほどの毒なら、物さえ分かれば吸い出せば良いのでは？しかし、結晶以外に刺激も無く、一口で命を落とすほどの毒などありますまい。」
ゾイ将軍はいまいちピンとしていない様だ。この世界では、毒殺知識や技術は発達していないらしい。
「私に器が無いことは他言無用に願います。私は結晶は問題ありませんが、もしその様な毒があれば危ないので。」
ディナさんが頷く。
「えいこ様には魔法防御を施しておりますので、治療魔法や分離魔法も私ども以外が施すことはできません。」
ゾイ将軍は口を真一文字に結んだ。