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63-2 カナトとの遭遇

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「それとも、この国が初めてですか?」
カナト、ゲーム攻略対象で女神の絶対なる下僕。
この国での身分は高く、女神以外の物に価値を認めてないアブナイ御仁だ。
「遺跡をこんな近くで見るのが初めてで。」
しどろもどろに言い訳した。もしかして女神様の関連施設?
見学もアウト?このまま連行、投獄ですか?

「そうですか。ここは堅固の魔法がかかっていないので、近くでご覧になりたいのでしたらサポートいたします。」
彼は優雅にフワッと手を動かした。多分その堅固なる魔法をかけてくれたっぽい。とりあえず、捕まえる気は無い?
そもそも嫌にフレンドリーだ。おかしい。月子ちゃんにさえ初めは辛辣だったはず。
怪訝な顔をしてしまったのか、はっとした顔をした後目が少し伏せられた。
「申し遅れました。私は貴女様の忠実な下僕、カナトと申します。本来は叩頭すべきことは理解しておりますが、ここで目立つ事は貴女様の不利益になりますれば、後ほど罰をお与えください。」

はぁっ?なんでこの人私を女神だと思ってるの?!

懐の上、マリちゃんに手を当てると『NO』の合図。
明らかな魔法や感知は受けてないと知らせてくれる。

「もしかして、わたくしめを覚えてらっしゃいますか?いえ、そのような事はあるはずが…。」

頭の中でタービンがビュンビュン回る。
私が光の国の人と会った事は?披露宴にカナトは来ていない。その前は?

『盗聴が一つと、聖の力が少し。盗聴は魔の香りがしたのでサタナ殿でしょうね。聖の力はどこで付いたのでしょうか。まぁ、害のある感じではありませんでしたよ。』

ウランさんの声が蘇る。てことはその前か、じゃあ、
「荒野の地」
と呟くと、カナトは膝を折った。慌てて私もしゃがむ。
「まさか、意識を手放してらっしゃったのに?そんな。」
恍惚状態の彼の手を引っ張る。
「目立ちたく無いんです~。立ってください~。」

ビシッと今度は直立した。ちょっと面白い。いやいや。
「すみません。貴方の言葉から類推しただけです。それから、私は女神様ではありませんから。」
「貴女様は大変聡明でらっしゃるんですね。」
うん、そうじゃなくてね?
「私は闇の国の魔女シーマ様の侍女をしておりました、来訪者のえいこと申します。女神様なんて畏れ多い事です。」
はっきりきっぱりビシッと言った。
カナトはキョトンとした後、優しく微笑んだ。
「私は、我が唯一の神であると口にしておりませんが、貴女にはそうだとわかったのでしょう?」

しまったぁぁあぁー!

「しかし、表に出したくないご事情がおありのようなので、そのようにいたします。」

ううむ。誤解を解きたいけど、今は時間が無いしなぁ。それに、この人光の国でかなり高い身分だったはず。勘違いを利用したらカナの祠に行けるかもという悪魔の囁きも聞こえる。。。
いや、『やっぱり嘘でした。』てな事がバレたら瞬殺されるな。

ニコニコしているカナトを前に考えあぐねていたら、
「え、えいこ様、お、お待たせいたしました!」
はふはふ言いながらディナさんが現れた。全速力の彼女は速さは私にとって、シュバっと忍者が現れたレベルだ。
「…、えいこ様の付き人ですか?えいこ様を一人にしてまで何をされていた?」
カナトの声が抑えきれない冷たさを発している。ヤバス。
「違います。彼女は私の大切な友人です。みんなで買い物していた途中なのに、私が一人でこの遺跡を見たいからとワガママ言ったから、慌てて用事を済ませて来てくれたんです。」
ディナさんをぎゅっと抱き寄せて、『ディナさんに手ぇだすなよ、がるる』とカナトを目で威嚇した。
ディナさんは「まぁ、えいこ様ったら。」と、なんか喜んでいる。
「それは大変失礼な物言いをしてしまいました。申し訳ありません。」
カナトの剣呑な空気は霧散し、優しく優雅にディナさんに礼を取った。あの手の甲ににキスの真似をするやつだ。
「私はカナトと申します。お見知り置きください。この国では多少の地位がありますので、ご不自由がありますれば何なりと。」
「ディアナと申します。私は無位の者なので、そのような…」
「いえ、我が君のご友人なれば。」
「我が君?」
「いやいやいや、カナトさん!勘違いですから!またお話する機会がありますので、取り敢えず今日はお引き取りください!」

カナトは突然捨て犬みたいな表情になった。
「お側に控えることは叶わないのですか?」
「今は困ります。後日、必ずお会いしますので!」
十中八九、むしろ十中十でえいこを感知したいとキュラスが言った理由はコイツだろう。みんなの前で堂々と感知してもらえば誤解は解ける、、、と期待だ。

「せめて忠誠を誓う事も?」
「ダメです。」
グイグイ向こうに押しながら、「それではごきげんよう!」と言ってなんとか追い返した。
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