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60-2 初めての契約
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ともかく、サタナさんに止められなくて良かった。
なんだかんだで、仮初めでもサタナさんの主人なわけだし、これなら多少無理目のお願いしても大丈夫かしら?
いやいや、こうしてウランさんやモートンさんみたいな無茶振りご主人様が出来上がるのね。
「それで、黒の旦那に何かされたか?」
いつの間にかサタナさんはベッドに腰掛け直していて、真正面から聞かれた。
一瞬詰まっちゃったから、正直に話す。隠すなら即答しなくてはダメだった。おまけに、標準語ですか。
「魔法で攻撃を受けました。でも、マリちゃんが弾いてくれて、無事でした。その後マリちゃんが感知されたみたいなんですけど、すごく消耗しちゃって今は寝てます。」
「そうか。怪我無くて良かったわ。後でマリちゃん褒めとかなな。ディナはん達にバレんで済んでラッキーやったわ。」
どこか嬉しそうにさえ聞こえる声で返してくれた。
「あとは、マリちゃん寝てもうた時の連絡手段考えとかななぁ。とりあえず、魔力切れの時のためにえいこサンが魔力の結晶持っといた方がええな。」
返答が理想的すぎて、思わずよろめきそうだ。
彼は私が危険を冒す事で私の判断を責めたりしなかった。そして、的確なアドバイス。
「ありがとうございます。サタナさんは、私を一人前に扱ってくれるので嬉しいです。」
闇の国の彼らなら、そんな話を聞くときっと私を籠に閉じ込めたがるだろう。
「えいこサンやったら、今回マズったと思った事あったとしても自分で反省できるし次に活かすやろ。もし、解決策浮かばん時やアドバイス欲しい時は言うてくれると信じる事にしてん。」
信じる事にした。って?
「…実は嬉しゅうて。攻撃受けたんとかサラッと報告してくれたやろ?なんや昨日よりだいぶ信頼してもらえたなーって気がしてな。」
男は頼られると嬉しいもんなんやで、と優しく頭ぽんぽんされた。
そこは、ウインクじゃ無いんだ。
もういっそ私が背負っているもの全てを話してしまいたい。でも、そんな事をしたら後々大変な事になるのが目に見えている、と理性が私を制止する。
私は彼を信頼できない訳ではない。サタナと言うキャラクターは主人に忠実なだけで元々薄情な訳では無いはずだ。昨日ああ言ったのは揺さぶりをかけて自身の人間不信を自覚してもらうのがメインだった訳だし。
実際のサタナさんは考えていた以上に情が厚いのかもしれない。けれど、だからこそ心の支えにしてはいけない。絶対に。
にぱっと笑って「これからもよろしくお願いします。」と頭を下げた。
「いやいや、こちらこそ末永くよろしゅうに。」
ぴらんと見せられた紙に固まる。
それはモートンさんからの命令書で、忠誠を私に捧げるよう命令するものであった。日付は昨日。
「昨夜届いたばっかやで。うちのご主人様は忠誠の証をえいこサンに渡したいにゃと。実際に譲渡はできひんから、言うたら『俺に命令を下す権利』がえいこサンに与えられたって感じやな。ほんでご主人様はこれ以外の命令権を永久に放棄する、と。相変わらず俺とは繋がったままやし、あの人が亡うなったら解除されるんやけど、」
もう一枚紙を取り出した。
「こっちは契約書や。『えいこサンが世界を救う』か『この世界に居なくなる』までは忠誠を誓うって書いてある。読んでみてや。」
確かにそう書いてある。何となくそう読めるという表現でなく、きっちりと条件が示してある。私に不利なことは書いてない。
「そんな、主人側が亡くなった後にまで継続して縛る事なんてできるんですか?」
それが許されるなら、ある一族が他の一族を永遠に従える事が可能だ。
「それは、できない。けど、コレは俺の自由意志で作った契約書だから。」
サタナさんの周りの空気が変わった。気遣いとか優しさとか、取っ払った冷淡な口調。
「俺はモートン様に賭けて下僕になった。あの人の理想に命を賭けて、それは一度も裏切られた事はなかった。その人が賭けると言ってる。だから、俺も賭ける。モートン様の願いが叶う事は俺自身の願いが叶う事だ。そこまでの事をあの人にさせておいて、あんたが逃げる事を俺は許さない。この契約は、えいこサンが『世界を救う』か死ぬまで俺らから逃げられ無いという証でもある。
そんな契約、あんたは俺と結べるか?」
「契約します。」
一瞬よろめいきかけた数分前の私に言いたい。
この人はタヌキの弟子のイタチやでー。
やっぱり信頼されとらへんでー。
契約書に小さな魔力の結晶を置き、左手を乗せる。サタナさんの『忠誠の証』のある側の耳朶に、右手を当てるとパリッと電気が走った。
「これで契約成立や。」
にやっと笑ってサタナさんは自身の耳朶を見せた。
モートンさんの印の横に1センチほどのアルファベットのAの文字が現れていた。
なんだかんだで、仮初めでもサタナさんの主人なわけだし、これなら多少無理目のお願いしても大丈夫かしら?
いやいや、こうしてウランさんやモートンさんみたいな無茶振りご主人様が出来上がるのね。
「それで、黒の旦那に何かされたか?」
いつの間にかサタナさんはベッドに腰掛け直していて、真正面から聞かれた。
一瞬詰まっちゃったから、正直に話す。隠すなら即答しなくてはダメだった。おまけに、標準語ですか。
「魔法で攻撃を受けました。でも、マリちゃんが弾いてくれて、無事でした。その後マリちゃんが感知されたみたいなんですけど、すごく消耗しちゃって今は寝てます。」
「そうか。怪我無くて良かったわ。後でマリちゃん褒めとかなな。ディナはん達にバレんで済んでラッキーやったわ。」
どこか嬉しそうにさえ聞こえる声で返してくれた。
「あとは、マリちゃん寝てもうた時の連絡手段考えとかななぁ。とりあえず、魔力切れの時のためにえいこサンが魔力の結晶持っといた方がええな。」
返答が理想的すぎて、思わずよろめきそうだ。
彼は私が危険を冒す事で私の判断を責めたりしなかった。そして、的確なアドバイス。
「ありがとうございます。サタナさんは、私を一人前に扱ってくれるので嬉しいです。」
闇の国の彼らなら、そんな話を聞くときっと私を籠に閉じ込めたがるだろう。
「えいこサンやったら、今回マズったと思った事あったとしても自分で反省できるし次に活かすやろ。もし、解決策浮かばん時やアドバイス欲しい時は言うてくれると信じる事にしてん。」
信じる事にした。って?
「…実は嬉しゅうて。攻撃受けたんとかサラッと報告してくれたやろ?なんや昨日よりだいぶ信頼してもらえたなーって気がしてな。」
男は頼られると嬉しいもんなんやで、と優しく頭ぽんぽんされた。
そこは、ウインクじゃ無いんだ。
もういっそ私が背負っているもの全てを話してしまいたい。でも、そんな事をしたら後々大変な事になるのが目に見えている、と理性が私を制止する。
私は彼を信頼できない訳ではない。サタナと言うキャラクターは主人に忠実なだけで元々薄情な訳では無いはずだ。昨日ああ言ったのは揺さぶりをかけて自身の人間不信を自覚してもらうのがメインだった訳だし。
実際のサタナさんは考えていた以上に情が厚いのかもしれない。けれど、だからこそ心の支えにしてはいけない。絶対に。
にぱっと笑って「これからもよろしくお願いします。」と頭を下げた。
「いやいや、こちらこそ末永くよろしゅうに。」
ぴらんと見せられた紙に固まる。
それはモートンさんからの命令書で、忠誠を私に捧げるよう命令するものであった。日付は昨日。
「昨夜届いたばっかやで。うちのご主人様は忠誠の証をえいこサンに渡したいにゃと。実際に譲渡はできひんから、言うたら『俺に命令を下す権利』がえいこサンに与えられたって感じやな。ほんでご主人様はこれ以外の命令権を永久に放棄する、と。相変わらず俺とは繋がったままやし、あの人が亡うなったら解除されるんやけど、」
もう一枚紙を取り出した。
「こっちは契約書や。『えいこサンが世界を救う』か『この世界に居なくなる』までは忠誠を誓うって書いてある。読んでみてや。」
確かにそう書いてある。何となくそう読めるという表現でなく、きっちりと条件が示してある。私に不利なことは書いてない。
「そんな、主人側が亡くなった後にまで継続して縛る事なんてできるんですか?」
それが許されるなら、ある一族が他の一族を永遠に従える事が可能だ。
「それは、できない。けど、コレは俺の自由意志で作った契約書だから。」
サタナさんの周りの空気が変わった。気遣いとか優しさとか、取っ払った冷淡な口調。
「俺はモートン様に賭けて下僕になった。あの人の理想に命を賭けて、それは一度も裏切られた事はなかった。その人が賭けると言ってる。だから、俺も賭ける。モートン様の願いが叶う事は俺自身の願いが叶う事だ。そこまでの事をあの人にさせておいて、あんたが逃げる事を俺は許さない。この契約は、えいこサンが『世界を救う』か死ぬまで俺らから逃げられ無いという証でもある。
そんな契約、あんたは俺と結べるか?」
「契約します。」
一瞬よろめいきかけた数分前の私に言いたい。
この人はタヌキの弟子のイタチやでー。
やっぱり信頼されとらへんでー。
契約書に小さな魔力の結晶を置き、左手を乗せる。サタナさんの『忠誠の証』のある側の耳朶に、右手を当てるとパリッと電気が走った。
「これで契約成立や。」
にやっと笑ってサタナさんは自身の耳朶を見せた。
モートンさんの印の横に1センチほどのアルファベットのAの文字が現れていた。
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