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59-2 名前すら聞かれなかった

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「俺の拠点だ。」
案の定連れてこられたのは、例のラブホ。拠点がラブホて。
「安心しろ。子供に興味はない。」
残念でしたー。もう二次性徴済んでコレですー。もう成長絶望的ですー。と言って自分で傷を広げる必要はなかろう。
「それは安心です。」
じろっと睨まれた。なんて答えりゃ良かったのよ。

部屋に入ってざっと見回す。日本のラブホとはだいぶ違った。
広いリビングに豪華な装飾。部屋のグレードによるんだろうがセミスイートはありそう。
窓の外を見ると他の建物の屋根がチラホラ見える。
あれ?階段上ってないよね。

宿自体にもエントランスが何箇所かあり、エントランスホールはあるけれど受付が無い。お会計はどうなっているのか分からないけれど、客の出入りを張るのは難しそうな作りだ。
「お尋ね者用のホテルみたい。」
「その通りだが?」
なるほど、ラブホでなくて、訳あり用のホテルってわけね。
私をその場で開放し、セレスはどっかりと目の前のソファに座った。

「あのサタナが骨抜きになる女っていうのに興味はあったんだが、演技か。
護身、それとも俺を釣る餌のつもりか?」
「両方、です。」
セレスは可笑しそうに口元を歪めてた。
「釣られてやったぜ?用件はなんだ。」
「魔法が使えるようになりたいの。何か知ってますか?」
「くくく、やはりお前も器無し、か。」

今、お前『も』って言った!やっぱりこの人も器無しだ。きっと魔力の薄い砂漠以外は器無しだとこの世界に入れないんだ。

「貴方も、ですよね?でも、魔法、使えますね?」
外套をひらひらさせる。こんな嵩張るもの魔法でも無いと出せない。そもそもゲームの中でも、とりあえずめっちゃ強い隠しキャラだったし。

「魔法、ねぇ。魔法っつーのはコレか?」
セレスの掌に小さな火の玉が浮かぶ。
それ!と言おうかと思った瞬間、それがこちらに飛んできた。
「え?」
火の玉は目の前で弾かれる。マリちゃんが服から顔を出して構えていた。
マリちゃんが弾いた?

「へぇぇえ?」
セレスの掌になっていた数発の火の玉は、そのまま握りつぶされた。
危なかった。マリちゃんが弾いてくれなかったら、保護魔法がどうなってたか分からない。怪我をするよりディナさん達にバレる方が困る。

「趣味の良さそうなペットだ」
セレスが呟いた直後マリちゃんが酷く痙攣した。
「マリちゃん!」
『だ、いじょうぶ。感知られてる、だけ。』
慌ててマリちゃんを手で包むと、くたりとしている。
息も荒いが、怪我とかはしてないみたいだ。

「…俺以外の器無し。少し大人しくしてもらって、実験にでも付き合ってもらおうかと思ったが。」

ひー、この人ヒトの話聞く気無さすぎー。

「私逃げませんよ。と言うか、警戒してたらここまで無抵抗で連れてこられません。」
「なるほど?」

少し待ったけど、言葉は続かない。てことは私に続きを促してる、のよね?
「魔法の習得法を教えてくれるなら、このマリスの教育方法、教えても構いません。」
むしろ、それぐらいしか交渉材料ありません。

「……β種とは希少な事だ。月齢は?」
「三ヶ月と少し。」
「半年と少し、と言ったところか」

ちょっと考えているそぶりを見せた。話に乗ってくれる事を祈る。
「お前は良い香り纏ってるな。花が二種類に?もうひとつ毛色が違う……薔薇か。闇の宰相殿でも手玉にとったか?結構、結構。で、器無しをケモノで誤魔化してると。」

話題が唐突に変わり、おまけに的中している。

くっくっくっと喉の奥で笑って、セレスは答えた。
「いいぜ、魔法の習得法教えてやる。」

見事な悪い笑顔だ。美形で悪人ヅラとかタチが悪すぎる。そして、間違いなく痛い目にあう気がするけれど、道がこれしかない。

えいこー、うしろうしろ!とか聞こえそう。

「お願い、するんだろう?」
「お願いします。」頭をぺこりと下げた。
頭下げるのなんてタダだし、いくらでもどうぞ、だ。

「ただし、条件がある。」
頭下げさしてからの、条件提示ですか。しかし、表情には出しません。
「祠、どこ回った?」
「ニアメとボツワ、です。」
「カナの祠に行け。」
どこって?
「お前が行けば俺に分かるようにしておく。古文書の内容を無事手に入れたら、約束通り魔法の使い方を教えてやる。」
「すみません、カナってどの辺りの?」
「光の国の王都の奥だ。」
そこって光の国の規制が厳しくてモートンさんの更新頻度が極端に少ない場所だったような。
「三ヶ月だ。それ以内に出来なけりゃ、諦めろ。」
「そんなに時間かけてられない。」
「強気だな。だが、出来なけりゃ諦めるのは『魔法の習得』だけじゃないぜ?」
「三ヶ月でお願いします。」

くっくっくっと笑ったセレスは「まぁ、死ぬ気で頑張る事だ」と言った。

はっと気がつくと、ホテルの外にいた。外套とスカーフを慌てて脱ぐ。営業中と思われてはたまらない。

悪い魔法使いと契約した気分だった。
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