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52-2 流行りの小説2

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二巻は三分の一も読めなかった。
どう見ても、一巻は女性が書いた話なんだけど、二巻は一巻をヒーロー目線にして男性が書いているようだ。主人公が多少の苦難を、生まれ持った溢れんばかりの才能でバッタバッタ薙ぎ倒す大活躍劇だ。それはいい。いわゆるチート物。問題はヒロインが女子には受け入れづらいタイプに大変貌を遂げている。

髪が黒いところは一緒、しかし、少しタレ目の整った顔。小さくて軽い体なのに出るとこは出てる。頭が良いけど天然で抜けていて、めっちゃモテモテだけど、主人公一筋。控えめで大人しくて貞淑だけど、主人公を海のような心で支えて、何故か所々で発揮されるラッキースケベ的要素。

無いわ。無い無い。無い無い無い無い。

ヒロインが必死に主人公の気を引きたがってアレヤコレヤするけれど、主人公は突然難聴になったり鈍感になったりする。でも、周りの女の子には無意識に素晴らしい気遣いを見せて、周りの女の子もメロメロにさせちゃうのだ。もちろん周りの女の子も美少女ばっかり。

もう、ヒロインが友達ならあの男はやめとけって言いたくなる。あんたにはもっと良い人いるよ、と。

本棚にまだ十巻くらいは並んでるのを見て、本をそっと閉じた。多分、私の表情もディナさんと同じ筈だ。

「お腹すいたー。」とサタナさんとジェード君が一緒に降りて来た。
「えいこサン達、本読めた?俺、一巻がちょっと良く分からなかったから、師匠にあらすじ聞いちゃった。」
大丈夫、私たちも二巻がちょっと良く分からない。

あははと笑うジェード君に私達は二巻で挫折したと伝える。
サタナさんに念のためあらすじを聞いたら、二巻から五巻までが一巻をヒーロー目線で書いたもの、六巻からはヒーロー目線のまま突っ走った感じだ。最新刊でめでたくヒロインと結ばれたそうだ。よかったね。

サタナさんは「商人たるもの流行り物は読んでなあかんねん。」と苦笑いで言っていたからハマっているわけでは無さそうだ。男性には一巻の方が受け付けにくいかもしれない。

「黒髪の乙女が華やかな美人過ぎて、女性は気後れしてしまうお話でしたね。」とディナさんが控えめな感想を述べた。
「ヒロインってそんな美人だったっけ?」
ジェード君が首を傾ける。ふわふわの髪がクルンクルンして可愛い。
「二巻にすごい美少女っていうような事が書いてあったんだよ。」
私が答えると、彼は満面の笑みでこう言った。
「あ、じゃあ、えいこサン大丈夫じゃない?」

時が止まる。

「え、あれ?黒髪の乙女と間違われてトラブルにならないようにって話、サタナさんとマッジさんがしてたから!黒髪の乙女と思われないなら安全でよかったって、あれ?」

「だよね?!」

ディナさんがフルスイングかます前に、ジェード君に抱きつき、バシバシと背中を叩く。ディナさんの方がまだジェード君より強いよね?

「でも、ジェードくん?!女の子に『美少女じゃなくてよかったね!』と言うのは真実でも言っちゃあいけないよ?!むしろ、真実だからダメよ?!」

サタナさんが爆笑してお腹を抱えていたので、ディナさんの行き場の無かった鉄拳制裁が炸裂した。

大丈夫、サタナさんの実力はこの国の二番目くらいだから。大事にはならない。多分。

その日の夕食はとても美味しくいただきました。
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