上 下
64 / 192

52-1 流行りの小説1

しおりを挟む
今晩泊まる村は村の中心近くにあった。一階は食事やお酒が飲めて旅人が情報交換し合うという、ゲームによくあるタイプの宿らしい。

「サタ!久しいねぇ!」
宿に入るとすぐ、宿の女将さんか、恰幅の良い女性から声がかかった。
「マッジはん、相変わらずべっぴんさんやなぁ!ハトで知らせた通り世話になりますー。」

サタナさんの横で被ってた布を取って頭を下げるディナさんに取り敢えずならっておく。私はこちらの常識が無いからね。

「あっはっは、相変わらずだねぇ。二部屋4人と、夕食だね。準備出来てるよ。あら?」
マッジさんはなぜか、私を見つめる。
「あらら、まあ!黒髪の乙女じゃ無いか!サタの恋人かい?あんたやるねぇ。」
「あほ言わんといてや、おっさんにこんな若い子が当たるかいな。せやけど、黒髪の乙女の話、こんなとこまで広がっとんの?」
「流行ってる流行ってる。あの小説、騎士目指してる若い魔人の男の子が熱狂してるよ。」
小説?
「王都でも最近流行り始めた恋愛小説です。私は一巻だけ読んだことありますが、ヒロインが黒髪の乙女でした。」
不思議そうな顔をしていたからか、ディナさんが教えてくれる。
「あんた、読んだこと無いのかい?あそこに置いてあるから、良かったら読んでみな。サタ、今日の部屋は二階の…」
部屋の壁際には本棚があった。

サタナさんが先にお風呂を勧めてくれたので、食事の前にお風呂に入る。今晩泊まる部屋に荷物を置いて、貴重品は貴重品ボックスに入れた。貴重品ボックスには魔法をかけて開かないようにするけれど、部屋の鍵は普通の鍵だそうだ。火事などがあった時に外から壊して入れるようにする為らしい。お風呂は魔力の結晶でも使えるコインシャワーみたいだった。女性使用中と札を立てて、ディナさんと一緒に入る。中はシャワーの個室がちょうど二つあったので、使い方を教えてもらってから別々に入れて良かった。「困ったら声かけてください。」と言われたけれど、特に問題なく使いこなせて一安心。マリちゃんとディナさんと私がさっぱりして一階に降りたら、マッジさんが話しているのが聞こえた。

「あの子、サタのイロかなんかって事にしないかい?あんたは色んな街で顔が知られてるから、ちょっかいかけられないだろう?お祭りだからねぇ。バカな子が湧くかもしれないし。後、スカーフで隠すとか。」
「イロて、えらい演技力いるで。スカーフ頭に巻く案は採用や。」
苦笑いのサタナさんの隣では、ジェード君が小説を黙々と読んでいる。
「お風呂お先でした。」
「お、ほんなら俺らも入るわ。ジェード、行くで。先風呂出ても、二巻以降は読むなよ。」
「わかってますよ。はい、えいこサン、どうぞ。」
本を私に渡すと、2人は上に上がって行った。ジェード君が「師匠ししょー、あらすじは教えてくださいー。」と言っているのが聞こえる。
「読んでみたら分かるよ。あの子はハマりそうなタイプだしね。若い男の子には毒だよ。」
笑いながらマッジさんが飲み物を二つ出してくれた。私が一巻を読んで、隣でディナさんが二巻を読む。一巻は二巻以降に比べて驚くべき薄さだ。ライトノベル風だったのを、さらに斜め読みしたのであっという間に読み終わる。ヒロインは黒髪以外はあまり容姿の記述はないけれど、まんま月子ちゃんだった。女子が好きな女の子。可愛くって優しくて頑張り屋で、って感じ。月子ちゃんはゲーム通りならこちらに来た時に金髪になっちゃうけどね。

で、ざっくり言うとヒロインに一目惚れしたヒーローが、悪の精霊に捕らわれたヒロインを助け出すっていう話だ。捕らわれちゃったヒロイン目線気味だからか、ファタジーというより恋愛小説っぽくなっている。突然ポエム調になったり。
そして、ヒーローはヒロイン以上に浮世離れしていた。
頭良くって、強くって、イケメンで爽やか。女慣れしていなくて、ヒロイン以外今まで恋愛経験無かったのに突如として現れるヒロイン限定で女心をくすぐるテクニック爆発、みたいな。

いないよ、そんな奴。イケメンで遊んでもないのに、そんなピンポイントで器用な人間。しかも、ヒロインは絶世の美女と言うより、私なんて系だ。無い無い。

と思ったけど、いたわ。心当たりいた。
この人、大地君だ。美化130%テルラさん。

隣でディナさんが、そっと本を置く。読むの早いなと思って顔を見たら、すっごい微妙な表情だ。眉間に皺が寄ってて口はニンマリしている。

「このヒロインの恋人ってテルラ様に似ていましたよね?」
ディナさんが、聞くので相槌をうつと、そっと二巻が手渡された。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...