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32 図書室とモートンさん

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翌日から私は図書室の常連になった。
午前中は相変わらず、ウランさんやモートンさんに大地くんと一緒について回り、午後は図書室で調べ物。

ただ、マリちゃんが一緒に遊ぼうと誘ってくる時は一番に優先させた。
マリちゃんは比較的落ち着いていて、
『僕からしたら、ママと同じだけ生きるつもりだったのが短くてショックだった。』という事実は、15年だかろうが1年だろうかは変わらないそうだ。熊先生が200歳以上でママの寿命がその半分以下なのも納得いかないらしい。
あと、パートナーは要らないけど友達と遊ぶのは楽しいらしいので、学校には時々連れて行くことにした。

図書室にはあらゆる本があったけど、β種の寿命を伸ばす方法は多分なさそうだ。というのも、それ関連の本は現在ウランさんが借りきっている状態だからである。

ウランさんといえば、あれ以来、薔薇が暖かく熱を帯びるようになる時がある。不快ではないけど、相談した方が良いのかなーと思いつつ、なんだかウランさんも忙しいのか妙に余所余所しいので聞けないでいる。

置いてある本は大体3種類で、設定資料的なものが元になっている本と、古い文献という設定の『ゲーム中にプレーヤーが見る前提の』本、それと純粋にこちらの人が書いたであろう専門書である。
そして、私が理解できるのは前2つだけ。一見専門書ぽくても内容が理解できるのはどうやら設定資料のようだ。

面白いと思ったのは、生き物以外も有機物はある程度魔力や聖力の影響を受けるという事。ものすごい魔力は食べ物をボロボロにするとか、そういうシーンも想定されていたのかもしれない。
それでいうと、わたしは有機物ですらないんかーい!と突っ込みたくなる。

後、グッドエンドで何人かは現実世界への転生となるんだけど、その方法が載ってた。びっくりだ。

『魂が強く惹きつけ合う場合、その未知エネルギーをうんちゃらかんちゃら。』

要は異世界に心残りなく天寿を全うした状態で、現実世界の人と両思いだと都合良く(年の差とかも上手く同じようになるよう逆算して)転生できるみたいだ。なんて都合の良い設定。

物語の体で聖女と魔女の冒険記も沢山あった。
いくつかを読むと、彼女達もゲーム内で集めなくてはならない古文書の場所に行っているようだ。
先代の聖女の冒険記はかなり分厚く、写真のような挿絵まである。
闇の国の本だからか、当時の闇の国での聖女の事や一緒に冒険に出かけたサンサンやモートンの事が詳しく書いてある。多少の脚色はあるだろうけれど、聖女はかなり気さくにサンサン達と接していたようだ。

最後のページには聖女とサンサン二人の肖像画がでっかく描いてあった。

眼を見張る。それから3度ほど見直す。
そっっっっくり。まるでハンコか本人か。

乾いた笑いすら出る。
コレがフラグがたったというやつか。



そこへモートンさんが入ってきた。

「お懐かしゅうございます。」

涙を浮かべて、私が見ていた本に顔を近づける。
おじーちゃん。顔と鼻水くっついちゃうよ。

「モートンさんも先代の聖女様と一緒に旅に出られたのですね。」

モートンさんはハンカチでゴシゴシ顔を拭く。
「わしは陛下の影でございますからな。世界はもっと荒ぶっておりました。光の国とも良く剣を交えておりましたし、国内もギラギラした野心にまみれていましたぞ。そこに、あの、清らかなひなた様が降り立った日にはもう!」

くぅうっと、目の前で老人が痺れてる。

「なんだか、サンサンやモートンさんの話を聞いていると、ひなた様は女神様のようですね。」
「女神様ですか。…果たして女神様なんて本当におられるのかのぅ?」
モートンさんは髭を手で撫で付けた。

「女神様はいないと?」
「いや、もしかしたら、女神様という存在がいつか現れるのかもしれませんがの。しかし、例えば聖女様が女神様になられるという意味でしたら、ひなた様より女神様に相応しかった方はいないと思いましたのじゃ。それでも、誰も女神様にしようとは思わなかった。来訪者である以上、その方が清らかで素晴らしければ素晴らしいほど、無事にお帰り頂きたいと思うのが人の性というものかもしれませんのぅ。」

ひょひょひょ老いぼれの戯言じゃて捨て置きなされ。と目を細めて笑った。

「この世界の事をこの世界の方が解決する方が健全という意味でしたら、そのように思います。ですがひなた様がもしこちらに残られたいと仰ってたら違いましたでしょう?」

「ふむ、それはテルラ殿がこちらに残られる事をお考えかな?そうでしたら、そう口にされるがよいぞ。間違っても今の言い方は陛下にはなさらぬように。残酷過ぎますでな。」


窓の外を見る。中庭に続いていて、外でも本が読めるようにテラスになっている。

「サンサンは最近疲れているみたいです。何かお力になりたいのですが、ひなた様の声でひなた様が歌った歌を歌うくらいしか出来ません。
ひなた様はどのようにこちらでお過ごしだったのですか?」

そうじゃのう。ぽりぽりと頰をかく。
「普通ですな。平凡と言っても構いませんな。ただ、魔王城でなければ、と言ってもいいがの。朝、陛下が寝坊しているのを叩き起こしたり、朝ごはんをみんなでワイワイ食べたり。歌を歌いながら掃除して、お茶の後は本を読んだりうたた寝したり。そんな過ごし方をされていましたな。」

「こちらの本の通りですね。」
「監修はワシじゃでな。」

ふふふと笑い合った。


「ところで、ひなた様はこちらに来た頃のテルラさんに瓜二つだったと思いますが、サンサンとは何もないですよね?」

肖像画の男前すぎるひなた様の笑みが強くなったように見えた。
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