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21 器とはなんぞや

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「①この部屋から出さない
②この国から出さない
③この世界から出さない
……えっと、どれでしょう?」

 数秒固まってのちに恐る恐る大地君にたずねた。

「①だな。今から説明する」

 とりあえず話を聞かなきゃ反論も出来ない。うん。話を聞こう。

「まず、この世界について、だ」

 ゲームプレイに直接関係ない所は正直全然覚えてないし、プレイした範囲でも忘れている所はあるから説明は有難い。私は彼の言葉を少しも漏らさないように集中した。

――――――――――――――――――――――――――

「ほな、馬に乗りながら、魔力のべんきょでもしよか?」

 村で彼女を見送り、食事と荷造りを済ませるとジェードとサタナは馬に乗った。
 始めの一時間ほどはサタナが「ちょー考え事するから、お口チャックな?」と言ったので、ジェードは彼女の事を考えていた。

 彼女は異世界から来たそうだ。来訪者の女性はだいたいが魔女か聖女だと伝えられている。
 彼のいた所、つまり、闇の国の勢力下の人間の村でも魔女は英雄譚の主人公である。特に今は来訪者のテルラ様が武勇知略に優れ、女性のみならず男性にも人気があるため、来訪者の物語も人気だ。
 魔女の旅には心踊る冒険があり、彼女を守る騎士然とした魔人は少年達の憧れだ。
 そんな魔女見習いとお友達になれた。しかも、自分は闇の国から迎えが来るほどの魔人だったらしい。自分が彼女を守る騎士になり、共に冒険に出られるかもしれない。

 それに……彼女は自分が知る同い年の女友達より華奢な体で、闇を思わせる艶やかな黒髪が印象深かった。控えめな目は少女には似つかわしくない落ち着きがあって、思わず目を惹く年齢不詳な容姿なのに、声は可愛らしく、気さくな彼女。年頃の男の子には充分魅力的な存在でもあった。

 照れた顔でニマニマ冒険物語を想像していると、「あちゃー、帰ったら怒られるわー」とサタナが舌打ちした。何があったのかは判らないが、考え事は終わったらしく、その後講義が開始された。

「この世界には聖の力と闇の力があるな?名前は大層やけど、右に引っ張る力と左に引っ張る力みたいに ただ相反するだけで使い方はおんなじ、ただの力や。
ほんで、この世界に生きてるものはみんな、人やら虫やら植物もこの力を持ってて、その力を錬成して魔法を使う。人間やと料理をする時の火種にしたり、陛下、魔王様やと天気を操ったりすんねんな。ここまでええか?」

 ジェードは頷く。人間の村で習った事だった。
 よし、と言ってサタナは続ける。

「持てる力の上限はその人が持つ器で決まんねん。器は力の上限値で、普通は聖の力の器と闇の力の器、両方を持ってんにゃけど、お互いの力が相殺されるし片方は空っぽや。
 実際に使いこなせる力の量は器の量より少のうて、経験やら修行やらで増えていくねん。使いこなせる力は『力の放出をブレーキする力』や。強く放出したんをパッと止めたり、ブレーキ使って出る量を微調整しながら放出したりするんや。ブレーキ力が力を使いこなせる量やな。

 錬成すると力の絶対量が錬成前より減るから、聖魔間の戦いや、魔人同士でも命のやり取りの時はそのままぶつけ合う事が多い。せやから、闇の国では、実際に扱える力の強さであるブレーキ力が強い順で偉い順になっとる。

 基本的なことやけど、闇の器が光の器と比べて圧倒的に大きく、自然回復で闇の器がいっぱいまで回復する者をを魔人、逆を聖人、両方とも器が小さくて自然回復では使いこなせる量までしか回復しないのが人間や。
 せやから魔人や聖人は持ってる魔力がブレーキ力以上にならへんように時々ガス抜きして、暴発せんようにする。
 ちなみに普通の来訪者は光も闇も器がかなり大きゅうて、自然回復では使いこなせる量までしか回復せえへん。ずっこいよなぁ。

 力は全部使うと気絶すんにゃけど、相対する力を受けたことによる減少時は、持っている力がゼロになった後、相対する力の器が満たされていくねん。

 ほんで、器から力が溢れたらバーストや。
 山を登って行って、山頂越したら転げ落ちるみたいに、力が一気に放出されてまう。この時ブレーキ力が充分あるとある程度持ちこたえるけど、意識飛んでたり、ブレーキ力が弱かったら、力がゼロになる瞬間の衝撃で体が壊れる、つまり死、や。

 魔力も聖力も人から人に移したら、その不純物のせいで体にダメージを受ける。ちょっとずつゆっくりやったら、『あったかいなー』とか『こそばいなぁー』くらいやし、自分の力と同じ力ならむしろ力の回復になる。せやけど、大量に受けたら体は壊れてまう。

 例外的に純粋な『魔力の結晶』は不純物あらへんねん。無味無臭や。結構希少品やし、あんまり使えへんけどな」

 ジェードは目をパチクリさせた。
 「いっぺんに言いすぎたから、難しかったか?」とサタナは確認する。

「いえ、なんか、今まで他人と違ってた所や知りたかった事が一気に分かった気がします……」

 こいつ、やっぱり魔力使う適性あるな、とサタナは思った。実感と理解力がある者がブレーキ力があり、潜在的に器も大きい事は経験的に得た知識だ。

「質問してもいいですか?」

 ジェードの学習意欲は旺盛だ。

「器の大きさはどうやってわかるんですか?」

 彼女とおんなじ事聞くんやな、サタナは小さく呟く。

「まず、魔力はな、耳朶で感じるもんや。雑学やけど、人間でも魔人でも聖人でも耳朶に関する儀式がやたらと多いんはこのせいやな。成人したら耳朶隠すんとか。
 で、耳朶で放出力を感じながらブレーキかけたりするんやけど、それ以外に『感知』っていうスキルがある。
 感知は常時オンにもできるけど、感知される側もされてるんわかるから、まぁ失礼やからいつもは切っとくねん」

 ジェードは突然寒気がして身震いした。

「……今のですか?」

「せや、受けた側も相手の強さやら感情をちょっとは分かるやろ?妙齢のお嬢さんなんか感知したら、後、大変やで」

 大変やった、とサタナは非常にシブい顔をしている。

「ほんで、や。感知では 今持っている力の量はわかる。もしゼロになってても、ゼロの事が分かる。せやけど、器の大きさはわからんねん。山登りみたいに、ひたすら修行してると山のてっぺんがそのうち見えるんやって。器までブレーキ力高めた奴は今んとこ知らんけどな。『感知』を得るんは訓練のみや。頑張りや」
「俺の、今のブレーキ力は使えるレベルですか?」
「使えへんなー」

 サタナが即答し、ジェードはガックリ項垂れた。

「わざわざ回収してもらう程の魔人だから、凄いんじゃないかと思ってました」
「いんや、凄いと思うで。回収した時、力、暴発しとったやろ?多分ブレーキ力上限状態で魔力の結晶触ったん違うか?あん時魔力の力の量はテルラ様くらいはあったで。つまり器はかなり大きい。器が大きい奴は鍛えればブレーキ力もすぐ上がるで」
「頑張ります!」

 元気になった子供を、頑張れ頑張れとサタナは煽った。

「それにしても、サタナさん教えるの上手ですね!これからもよろしくお願いします」

 ジェードは頭を下げたが、サタナは表情も口すら動かさずに「あのにぃちゃんの教え方がうまいんちゃうかなー。真似しただけやし」と小さく呟いた。

「すみません、聞き逃しました!」
「いや、ジェードの理解力がええんやなって褒めたんや」

サタナは今度はとびきり慈愛に満ちた笑顔でウインクした。
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