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私とハルナツフユ、カークとストラス、それからDのフルメンバーで出陣したけれど、管理者に会えたのは私だけでした。
ある意味予想通りといえばその通りなんだけど、Dのお礼参りをいかに止めるかとか考えてたのよね。不要でした。

荒地の転送円に着いた時点で、『さあ、ここに乗ってね☆』と言わんばかりに光り輝く円が見えた。
最近のパチンコ屋さんですらもうちょっと地味ですよ?という感じで、神々しさゼロ。ここのクリエーターちょっと来い。

「…なんかすごいね。」
「何か見えるの?」

思わず漏れた言葉へのハルの反応から、ハルには見えていない事がわかる。他のみんなを確認したがやはり見えないとのこと。どうやら、私一人が呼ばれているっぽい。

「カークとストラスとの契約時に何か干渉されたんだろう。」

D、殺気をたぎらすのはやめなはれ。管理者死なせたら私が困る。
それぞれに不満やら不安やらがあるみたいだけど、私一人でも行くしかないか。そう思った瞬間、カラフルすぎる円形の範囲が広がって、私はするんと穴に落ちた。


落ちた先は以前もお邪魔した白い部屋。部屋だと言いつつ、広さは20畳くらいありそう。天井もそれなりに高いけれど、ホールというにはやや狭く感じる。中央には光り輝く何がプカプカ浮いていて、それが管理者だと私は知っている。

『随分この時を待ちました。顔を合わせるのは初めましてね。』
光はぐにゃりと歪んで一人の女の人になった。うっすら透けていて、何か投影された映像のように見える。初めまして、と言うことは過去の私もここには来ていないらしい。管理者は声のイメージ通りの綺麗な女の人だった。

『ここに来れば、質問に答えてもらえるんですね?』
『ええ。もちろんよ。秋穂。』

にっこりと笑う顔に邪気はなく、この世界のこんな酷いゲームを作った人とは思えない。

『この世界は貴女が作ったの?』

彼女はキョトンとした真顔になってから、またにっこりとした元の表情に戻った。

『私だけ、では無いわ。カークやストラス達も大事な構成成分だし…でも、企画した、と言うなら私ともう一人の協力者、二人で作ったのよ。』
『正直、これ以上重要人物が増えるとは思わなかったわ。』

ゲームの主要人物ですら多いのに、まだ重要っぽい人が増えそうだ。ほんとやめてほしい。本音がダダ漏れる。

『大丈夫。貴女と彼の人が出会うことは無いから。貴女の記憶、制限しすぎたかしら?不便をかけて申し訳ない思いだわ。』

ふふと笑う姿は可憐で、どこか不自然で読めない。出会う事が無い彼の人、と言うのは実はゲームの登場人物だったりして。

『他に聞くことがあるのではありませんか?』
『私は、上手くやっている?この世界はこのまま大団円を迎える事ができるの?』
『分からないわ。ただ今言えるのは、まだパズルのピースが足りないと言う事だけ。全ての条件が整えば、貴女は決められていた通り元の世界に戻るはずよ。』
『聞きたい事は全て教えてくれるんじゃなかったの?』
『分からない事は分からない、と教えてあげるわ。もう少し埋まれば、残りのピースの数も教えてあげられるのだけれど。残念だわ。』

可愛くてたおやかな女性。なのに何故か妙にズレているように感じる。そしてそれが私の何かを刺激してくる。
危機感の無さ?とても美しくて無邪気に残酷な空気。この人はこの世界に似ている。嫌いというより、なにか薄ら怖い。

それから、私の仕事はまだありそうだ、という事も分かった。

『あなたと、その協力者は何故こんな世界を作ったの?』

その質問を投げると意外にも彼女は悲しげに目を伏せた。

『愛、のためよ、みんな。彼の人は愛する人の死を救うためだと聞いているわ。そのために色々なもの、命や心を犠牲にしている。もちろん、その力も。私は自由を捧げたわ。この世界を見る方も干渉するのも、この何もない部屋から力を通してしかできない。わたしには力がないから…。」

愛?こんな無慈悲な世界が愛のため?なんの冗談ですか?

『誰かへの愛を貫くにはこれが必要だったってこと?』
『身勝手だって事は分かっているわ。それでも、私は終わりが欲しかった。貴女だって、終わらない辛さが分かるのではないの?』
『それは…。そんな愛なんて分からないよ。』

終わらない辛さは分かる。でも、そこまでの愛って何?それは愛じゃなくて執着じゃないかと思う。

『私は神の末席に名を連ねる者だった。父が偉大なる神だったの。神というのは世界を導く資格がある者をいうのよ。世界の道を決める能力がある者。だけど、私には力が無かった。』
彼女は歌うように私に語りかけた。

『私の恋人は人間だった。ただの人間じゃなくて、力を持つ人間だったの。私達は互いが必要で補い合う存在だった。だけど彼は人間の寿命の中でしか生きられない。だから、ずっと追いかけて、その度に彼は私を愛して、彼は力の使い方を誤って、死ぬ。その度に彼の持つ力は強くなっていく。もう、彼を閉じ込めておく世界が必要だった。それが、ここ、よ。』

彼。閉じ込めて置かなくてはならないほどの力を持つ彼。

『彼って、破壊の神?』

彼女はこっくりと頷いた。

『彼ほど民を思う人はいない。彼の従者も私達の協力者よ。』
『破壊神ってもしかしてバース達の王様…?』

バース達が心酔する王。民を思うと言うその王が破壊の神。

『彼の力が抑えきれなくなると彼は目を覚ましてしまう。そして、こちらの世界でいう凶暴化する。』
『じゃあ、世界を分けるというのは?』
『檻を破って、世界と彼を分ける方法よ。彼を解き放つ訳にはいかない。だから、聖女にはその前にやり直ししてもらってるわ。元のゲームとは違う設定だけれどね。』

ちょっと待ってくれ。

『解き放っちゃうと、もしかしなくても他の世界まで影響する?』
『壊す事もあるでしょうね。この世界にもパラレルワールドが存在するわ。「もしも」の世界。彼と私は一体しか存在しないけれど、貴女達はこの世界ごと複数存在する。それぞれには担当の神がいて、解き放たれた彼はそれらの神を食べてしまうかもしれない。他の破壊神と彼は違うから。』

なんだかものすごく嫌な予感しかしない。

『破壊神が他の神を食べるの?それ、どうなるのよ?』
『もちろん担当の世界は滅びるけれど、それは瑣末な事。問題は彼の力が神の力を取り込んで、その分強大になるでしょう。だから、それを止めるため、この一帯の世界は無かったことにされるでしょうね。私がいるから、今は父も手が出せない。でも、手に負えなくなる前には私ごと消されると思う。』

それどこのブラックホール?なんだか、話も大きくなりすぎていないか?これは、誰の何のための物語?

『海里君は破壊神を倒した事、あるよね?』
『エドは力を放出し終えたらまた、眠りにつくわ。海里にはエドの力を使ってもらって、現作通りニューゲームしてもらったのよ。』
エド、と破壊神が名前で呼ばれて元人間だったのという話が真実味を帯びてくる。過去の記録には彼はドラゴンとして書かれていた。

『このゲームの目的は何?私に大団円エンディングのお膳立てをさせたいんだよね?大団円エンディングって、何をするの?どうやって破壊神を守り神にするのよ?』

理解の範疇を超えてる。ゲームの中の世界だと、たかを括っていたがどうやらそんなに単純な世界では無かったらしい。そんな壮大なバックグラウンド、冗談じゃない。

『聖女達にはエドの力を削いでもらいます。眠りにつかないように結界張ってその中でエドを正気に戻すの。それから、私がエドと1つに。そのために私はすでに精製加工済みの魂だけの存在なのよ。莫大な力を持つ肉体に、私という神の能力が吸収される。彼が私の名を呼べば、私達は1つになれるの。名を呼ぶことがこの世界で一番の魔法だから。』

『 アキホ。』

Dの声がどこからか聞こえた。と同時に手足がスゥーっと透け始めて慌てる。

『ほらね。』

そう言って彼女はフワリと私に近づいた。何故か私は無意識に彼女と両手を合わせて指を絡ませた。コツン、とおでこを合わせて何かが私に流れる。私の中の魔法能力がアップデートされたのが分かった。そして、特別な魔法が与えられる。

『今日はお帰りなさい。もう一度くらいは会う事もあるでしょう。』

管理者はまたグニャリと光の玉に戻って、私の視界は霞んだ。その時に、管理者の不自然さの理由が分かった。彼女はまるでゲームのスチルのように立ち絵が数種類しかなかったのだ。
それにしても、新たに与えられた魔法は聖女月子ちゃん専用の物だと思うんだけど、何に使うの?
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