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103 カークリノラース

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ところでいくら食い扶持が増えたといえ、そんなに稼いでどうするのか、と思っていたら居住区を拡張するらしい。ちょうど魔力聖力無効で強度の高い物質を、闇の国の研究所が大量製造方法を開発したとかなんとか。

それにしてもその素材を嫌に沢山購入してきた。
「お前の計画にも、こう言う素材が必要だろうが。」
え?それで買ってくれたの?ご主人様太っ腹!と思ったら違った。
「シェルターがいくつか欲しいんだろ?貸しにしてやるから稼げ。」

私のレポートで萌えたセレスは一通り理論をこねくり回すのと、機械の作成に集中したかったと。家電なんて作って楽しいのかと思うけど、新たな発見が大事だそうです。

と言うわけで魔法がちゃんと使える様になったら、材料の買付と販売も私のお仕事になるそうです。家電のおかげで家事は楽になったけど、マリちゃんとカナトと私の三人いるとはいえ内職忙しいんですけど。

魔法ちゃんと使える様になるまでは、家電の内職。その合間にシェルターづくりの内職も。シェルターの設計図書いてくれただけでセレスには頭が上がりません。手のひらでコロコロされときます。

羽わんこに会うに当たって出来るようになるべき魔法は、移動魔法、防御魔法、それから魔法の基礎になる火の魔法の上位のやつ。火柱10メートルが目標。
使える魔力は結晶山ほど摂っておけばいいし、魔法のイメージもカナト先生のお陰でバッチリ。ひたすら内職でコントロール力を磨いて、時々ホールで火柱上げての繰り返し。

そして、とうとう自主練では紫外線まで出せる光の玉まで作れる様になった。感無量だ。
「日向ぼっこの魔法?」
私が準備していると、くりくりおめめをキラキラさせたマリちゃんがまとわりついてきた。
「まぁ、そんなものかな。」
満を持して、すでにへにゃへにゃになっていた鎮静作用のあるお茶を濃く淹れて、マリちゃんと日光浴した。

買付とかで外に出るなら、最低これは必要よね。カモミールよりも強いブリーチ作用で若干頭皮にダメージがあって痒いけど背に腹はかえられぬ。
「アキの髪がー」ってマリちゃんが泣くくらいには傷んでバサバサの赤茶になった。それを後ろで結ぶと、うん、少年にしか見えないね!もともと低めの女子力が底を突き破ってる。私の女子力はマリちゃんを生み出した時に底を尽きたのです。
一応、油で保湿しとくか…

セレスは私の容姿問題は完全スルーで、原理に食いついた。カナトはマリちゃんを慰めたのみ。つまらん。

殺されかけてからほぼ一月。準備万端で羽わんこに会いに行った。今日ばかりは拝み倒したセレスも出張ってくれている。
相手の機嫌が悪ければ逃げる。怪我しても逃げる。嫌な予感がしても即逃げる、と、とりあえず魔法で逃げられる様にした。死なないのが目標です。

私が死にかけたという例の地点はどえらいことになっていた。絶対アウトだろうというこびりついた血の跡、なんで私生きてんのレベル。これを見てまだ私を探そうとしたカナトの忠義心の厚さにもビビるし、どうやって治したのん、セレス。

ところで羽わんこの気配はない。祠はカナト不在のため閉鎖されてるぽかった。カナトまだ神官じゃないんだよね?父君は何してるんだろう?

「たのもー!」
人間や聖人が来ないなら一安心なので、とりあえず大声で呼んでみた。
「たのもー!」
「あんた、ふざけてんの?」
頭の中で逃げるシミュレーションに忙しく、かつテンション上げるために道場破りの妄想をしていたため、変な呼びかけだった事に後から気づいた。
「すみません。ちょっと緊張してまして。」
自分の遥か上から羽わんこに見下ろされていた。

「せっかく、命拾いしたのに死にに来たの?バカな子。」
「いえ、死ぬ気は無いです。」
圧倒的な強さの前に恐怖もすっ飛び逆に冷静になれた。

「ふぅん?まぁ、いいわ。私今日は機嫌がいいの。そして暇なの。遊んであげる。」

にぃーっと笑われて流石に背筋が凍る。例のセリフが出るまでは攻撃はされない。大丈夫。

「そうそう、何度でも説明しなきゃいけないのよね。『この世界に降りた乙女よ。力を示すが良い。さすれば我が力を与えよう』。さて、何分持つかしら?…え?」
説明が終わった所で最大級の火柱を上げた。目測20メートル級。我ながら頑張った。

「へえええ?やるわね。でも、当てられなきゃ意味ないわよね。」
ひらりとかわされたけれど、これは予定通り。むしろ怪我をしてもらっては困る。機嫌よく交渉について貰いたい。
「じゃあ、あたしの番ね?行くわ「ストップ!!」」
羽わんこが攻撃体制に入る前に静止した。
「何よ。当たらなかったからって逃げる気?」
「いえ、私、力示しましたよね?」
「は?」
「いや、だから、力示しましたよね?殺せとも勝てとも言われてません。あなたが示した約束、守りましたよね?」
「え?」「え?」

約束に魔法的な拘束力があって、それを全知であるあっちから条件出したのだから、当然何らかの反論があると思っていた。けど、見た感じ完全な想定外っぽい。管理者の説明不足、ここに極まれり。

「いや、確かに力、示したって言われてもそうなんだけど、そんなんで私誰かと契約しなきゃダメとか?そんなの聞いてないんですけど。」
羽わんこはめちゃめちゃ不本意そうだったけれど、無視はできないらしい。

「ところで、カークリノラースさんは外に出たくありませんか?」
ぶつぶつ悩んでる羽わんこに呼びかけた。
「外?出たいわよ。大体ここにいるのだって騙し討ちにあったみたいなもんだし。」
「私と期間限定でも契約すれば外に出られますよ?」
恐らくこの感じだと『この世界に降りた乙女』が眼前に現れて力を示したのは私が初めてのようだ。

「あんたバカ?ここって言うのはこの世界ってこと。確かに誰かと契約でもしないとこの祠の奥からは出られないけど、8割くらいは千里眼で見れるの。あんた、世界を救うお手伝い?してるんだっけ?お生憎様。破壊神が現れたら、とりあえず大殺戮は観れるのよ。あんたを助けるメリットあたしになく無い?」

「カークリノラースさんは次の聖女何回も見てますよね。彼女は世界を変えます。」
「無理よ。もう何回もやり直してるのよ、あの子。でもなぁんにも変わんない。何故かいっつも世界を分ける直前でやり直すんだもの。殺戮すら観れなくてつまんない。」
「彼女が何でやり直してるのかは分かりませんし、理由はどうでもいいんですけど、とりあえず彼女達は強くなって条件が揃いました。」
「条件?」
「破壊神をこの世界の神にする条件です。私、よその世界から転移してきたんですけど、その前の記憶、転生前の記憶があるんです。それによると、彼女はそろそろこの世界の神を生み出すのでは、と。因みに彼女は初回は世界の寿命を伸ばしただけ、その後九回ほど色んな相手をパートナーにして世界を分けようとしてませんか?途中で失敗してなければですけど。」
「…だいたいあってるわ。正確には前回は『何か』に失敗したみたいで、今回が十二回目。確かにパートナーも9人いたわ。」
前回?9人攻略した後に大団円を一度失敗している?
「繰り返す間に親密になった仲間は、破壊神が現れる時点でこの世界で最も強くなりうる9人です。彼等と月子ちゃんが器いっぱいの力を使いこなせるようになれば破壊神を神に変えることができるよう、この世界は創られているからです。」

羽わんこは地上に降りた。まだまだピリピリした感覚が体を這う。
「でも、前に一人、破壊神を倒した人いたけど?」
「破壊神の力を飲み込んで理性吹き飛んだんでしょう?そして、やり直し。この世界は新しい神が作られるように進んでいます。それさえ達成されれば役目が終わるので、私達は解放されるはずです。」
「私達?」
「私やあなたみたいに、聖女が来る世界よりも外の世界から来た者達です。」
月子ちゃんが来た世界はまだゲームの中。羽わんこと私以外の知性があるモンスターもソレかもしれない。
はぁっとため息をついた羽わんこから、完全に殺気が消えた。
「あんた、毎回弱いくせに変なことばっかりやってると思ってたら、外から来た人間だったのね。分かった。あんたに乗ってみてもいいわ。どうせここにいてもつまんないし。で、私をいつまで独占したいのかしら?」
「私が返される時、来年の春聖女が来る直前まで、です。」
セレスに作ってもらった契約書を渡すと、ふんっと鼻を鳴らしながらもちゃんと読んでくれた。
「まぁ、いいわ。あたしの右耳、貸してあげる。ほら。」

言われて、手を伸ばした。バリッと来るか、風が吹くかと緊張していたけど、何のことない。ふわりと体から意識が剥がれて、気がついたら真っ白い部屋にいた。
『ここはどこよ…』
『この世界の意思の在る場所。』
自らの声も共鳴していて驚いたし、答えたのが謎の光だしでさらに驚いた。
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