146 / 192
101 谷底の地下牢
しおりを挟む「我が君っ!」
おぉう、カナトだ。
地下牢に閉じ込められていたのは光の国のお偉いさんでした。え、マズくない?セレス、カナトの事知らなかった?
「カナト!どうしてここに?」
「カナの祠にて貴女を探しておりました。そこに怪しげな魔法陣が隠されておりましたので…」
セレスが移動の魔法陣を隠さないはずがない。それを破った?と驚くと同時に思い出した。この人の感知の仕方は特殊だったと。
「心配、かけたよね。ごめんね。でも、私は大丈夫。」
キレてる人のしもべになっちゃったけどね。
「ご無事で、何よりでした。」
本当に、心底安堵した表情をされて流石に良心が痛む。
「カナト、せっかく探しにきてくれたのに本当に悪いんだけど、私ここでやらなくちゃいけない事が出来たの。」
「やるべき事、ですか?」
「うん、詳しくは言えないんだけど。」
困った。何て説明しよう?あっちの国にもそっちの国にも下手に動かれたくない。セレスは煩わしい事が嫌いだろう。女神がいらっしゃる準備で…はダメ。じゃあ、僕もってなるし。うーん。
「私の意思で残りたいの。それと、他の人には私がここにいる事は内緒にして欲しい…。」
我ながら、都合の良すぎるお願いだ。
「分かりました。」
え、いいの?やっぱり女神(仮)のお願いだから聞いてくれる感じかな。
「私も残ります。」
予想外の答えが続いた。
「いや、それはちょっと…」
「我が君が何をなさろうか尊重すべきだと考えておりました。けれど、貴女の命が危険に晒された時私は大きな過ちに気がついたのです。貴女の命より大事な物は、ない。」
すごーく澄み切った、一切の迷いのないカナト。けれど、私女神ちゃいますねん。
ここはセレスの住処だし、そうでなくても女神至上主義な人は側に置きたくありません。女神のためなら死ぬタイプだ。
「ダメ、帰って。そもそも私は女神じゃない。女神は来年の春に来るの。私が置いてきた手紙、読んだよね?」
「いえ、貴女が我らの待ち人です。」
「…だから、側には置けない。私の話は聞かないし…私は女神じゃない。カナトが側にいたいのは女神でしょ?本当に女神じゃないってあなたが理解した時、信頼できない人は側におけないの。それなら、」
言いかけた私の隙をついて、牢屋の格子越しに手が伸びてきて腕が掴まれた。そのまま彼の耳に触れさせられる。
「でしたら、私を下僕にお召しください。決してお邪魔にはなりませんから。」
「人の話を聞…「貴女が世界を救う要でしょう?再び悪の精霊におなりになるのですか?」
決して強くはない語調の、そのセリフは私の思考の一切を奪った。
「…なんで?」
「素直ですね。貴女は危う過ぎます。」
「カマかけたのね。」
脱力して座り込んでしまったけれど、手は離してもらえない。
「適当に申し上げた訳ではありません。我が一族には我が一族で真理に近づくよう努力しております。」
「はぁ、ほんともう嫌になる。だけど、私は、人を側に置きたくないの。私のために貴方は危ない目に遭うのを厭わない。違う?貴方が傷つくのを見るのが嫌なの。分かって?」
「分かりません。もし、しもべにしていただけないならこの場で自死します。」
「え?」
「本懐を遂げられない、不甲斐ない神官は不要です。一族の願い、私の願いを貴方こそ聞いてらっしゃらないのでは?忠誠の証か、もしくは憐憫の情がおありなら永遠の眠りを今お与えください。」
しっかりと握られた手首は頑として解けない。しかもなんか、さらっと自殺から他殺に変わってますけど?!
「なんでそう極論になるのよ!」
「いいじゃねぇか?」
ほぼ絶叫した私の声に背後からの声が答えた。そこには闇しかなかったのに、滲み出るようにセレスが現れた。
「D?」
「男にそこまで言わせるとは、ペットにしちゃ上出来だ。」
セレスは魔力も聖力も切っている。魔力を感じるようになって分かったけれど、これをやられるとかなり存在感が薄くなる。
カナトは一瞬、ペットという単語にピクリと反応したけれど、口は開かなかった。
へたり込んだままの私の顎を掴み上げ、無理やりセレスは自分方に向かせた。
「忠誠、誓わせろ。」
「命令、じゃないんだね。」
「命令はしない。だが、下僕にしないならこいつの命はない。」
「!!」
「俺は身内には優しいが、それ以外は…わかるだろうが?俺が面倒ごとを見逃すとでも?」
姿を見せた時点で解放する気は無いのは分かっていた。雑事が増える事と比べたら、消す事の方が彼には何倍も容易い。
「最低」
手に魔力を送る。マリちゃんと契った時とは違う風が私の中に甘く吹く。この感覚は、知っている。これは多分一度目の感覚じゃない。
それは私が消えればこの証も無かったことにされる事を私に教えてくれていて、少し安心した。
耳朶に私の印が刻まれて、カナトは牢屋から出された。
「カナト、命令以外は自由意思に任せたい。でも、自分の命は大切にして欲しいと思ってる。それから、心の共有は切っておいて。頼りない主人だから苦労をかけるかもしれないけれど。」
「承知いたしました。恐れ多いことにございます。」
マリちゃんとセレスの例から都合良さそうな条件を拾ってぶっ込んでおく。ほとんどしもべの意味無いけど、私は今機嫌が悪いんです。
「それから…彼はD。ダヤンの、と言えば分かるかな。私のご主人様。」
カナトはセレスに礼をとった。
「それが、我が君がこちらにいらっしゃる理由ですか?」
「違う違う。借りがあったのと私の目的と合致してたからだよ。」
「主人の主人は殺れるからな。気に食わなければ遠慮は要らない。俺も遠慮はしないが、な。アキ、倉庫なら好きに使ってもいい。」
倉庫を部屋に使っていいってことかな。セレスはまた闇に溶けていった。
さて、どう説明するか、と悩んでいたら一生懸命挙げている手が視界に入った。
「ハル…。」
「はい!僕ハルちゃん!先にしもべになったの僕だから!だから僕が先輩!」
ふんっふんっと手を挙げて主張している姿は可愛いけれど、カナトは無表情にじーっとマリちゃんを見つめていた。
「…よろしくお願いいたします。ハル先輩。」
カナトは私のご主人様より丁寧な礼をとった。
その横で、3号も手を挙げていた。
なんでこんなキャラ濃縮みたいな現場になっちゃったんだろう。
カナトに諸々を説明して、外では呼び捨てでアキと呼ぶよう言い含めた。そして、カナトはフユと呼ぶ事に。フラグ立ったね。絶対後一名様夏のポジションが来る。
カナトが来た事は大変不本意だったけれど、正直大いに助かった。私の魔法の訓練に目処がついたのだ。更に、闇の国の魔法訓練法もまるっと暗記してくれていたので、苦手分野を潰す方法も分かった。
苦手分野、それは魔力のコントロール。
セレスみたいに元々魔法が使えた人は魔力さえ使令を通して感じられるようになれば普通に使えたらしい。けれど、魔力体感歴が短い私は細かな魔力のコントロールを身につけるため、単純作業の繰り返しが必要で、結果1日の4分の1くらいはセレスの作業場で通信機器を作る内職をすることになった。
まぁ、ね。私のせいで食費等もかかっているわけですし?結晶もボリボリ食べてますし?
失敗や事故も起こすので、セレスが作業場にいる時限定だ。セレスは仕事や買物に外に出る時間もそれなりにあるので、後は家事とホールでの修行に当てている。私の減った家事の割り当て分は、マリちゃんとカナトにしわ寄せだ。
ある程度内職が上手くなって来ると、並列思考の訓練。つまり、セレスとおしゃべりしながらやれ、とカナトからアドバイスが出された。なお、マリちゃん相手は不可。家事に忙しいし、セレスもマリちゃんが作業場のあちこち触るのを嫌がった。
並列でなくてもセレスとおしゃべりってハードル高く無いですか?
0
お気に入りに追加
1,000
あなたにおすすめの小説
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる