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96 話は戻って四ヶ月前

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目を開ける前に意識が戻った。記憶も意外とはっきりしている。羽わんこにカナの祠で攻撃されて意識を失った。けれど今現在、痛みは感じない。
これって数パターンあるよね。

1 実は無事でしたパターン
2 すでに死んじゃっててあの世パターン
3 死にかけで重症すぎて感覚ないパターン

3は嫌だなぁ。目を開けたら自分の内臓とこんにちは、なんてどうしていいかわからない。
勇気を振り絞って手をお腹に当ててみる。うん、大丈夫っぽい。てゆうか、手は動くな。

「起きたなら早く目を開けろ。」
セレスの声がしたので、助けてくれたのかもしれない。恐る恐る目を開けると、ちゃんとした部屋のちゃんとしたベッドに寝かされていた。

意外!助けてもらったとしても、てっきり地べたに転がされてると思ってた!
「あ、あの。助けてくれたんですよね?ありがとうございます。」

セレスは少し離れた所でイスに座っていた。テーブルの上には…
「マリちゃん!!」
「もうすこし、お前が起きるの遅かったら死んでたかもな。」
飛び起きて近づくと、テーブルの上には血まみれでボロボロになったマリちゃんが魔法陣の真ん中に寝かされていた。

どうしようどうしよう。どうしたら助けられる?

「ぅぅう、まーまぁー。」

小さな口から更に小さく漏れる声は私を呼んだ。心臓が締め付けられる。
「これでもお前よかマシな状態だった。延命の魔法陣の中にはいるし、痛みはほぼなくしてやってる。」
私よりマシ?と言うことはその私を治したセレスはマリちゃんも助けられる?
「助けては、もらえませんか?」
なぜマリちゃんを助けてくれなかったのか、こんな姿のままにしているのか問い詰めてもマリちゃんは助からない。機嫌を損ねちゃ、ダメ。

「断る。」
短く答えられて、絶句してしまった。落ち着け、上手く立ち回らないと。私がセレスに取引できる事は?
「だが、助ける方法は教えてやってもいい。」
最低。わたしの反応を楽しむような表情に殺意すら湧く。でも、怒りを表さないように、と自分に言い聞かせた。
「条件は何?何でもするから教えて!」
「浅慮、だな。助かったコレを殺せとか言われたらどうする?」
「貴方はそんな無意味な事しないでしょう?!」

セレスは私を見て、喉の奥でクッと笑った。それから魔力の結晶と魔法陣の書かれた紙を置いた。
「条件は後から言う。この魔法陣と結晶を使って、コレを使令にしろ。この紙の中央に結晶を置いてからここに手を置く、それからマリスに触れば完了だ。この魔法陣は相手の意思関係なく使令にできるスグレモノだぞ?」
コツっと結晶が置かれて、マリちゃんをみる。

マリちゃんの意思関係なく、しもべにしてしまう、それはエゴでは無いだろうか?でも、
「マリちゃん、ごめんね。ママはまだマリちゃんをお空に帰したくないの。」

セレスは何かを狙ってマリちゃんを私の使令にしたいから、マリちゃんをわざわざこのままにしたのだろう。だから、セレスはこれ以上交渉しても普通には治してくれない。
マリちゃんは今辛いだろうから、正常な判断力が無いだろう。
私が私の判断で勝手にマリちゃんをしもべに堕とす事を謝った。

それから椅子に座って、そっとマリちゃんに触れた。



身体の中に風が吹く。マリちゃんは空気に溶けた。けれど、どこに居るかはハッキリ分かる。私の中だ。
異様な渇きを感じる私の前にセレスは小さな魔力の結晶を積み上げた。
「喰え。」
一かけらを口に含むと氷砂糖のように甘く溶けた。
美味しい。パクパク食べる私の前で、セレスは足を組み直した。

「あのマリスは今お前の中で修復中だ。使令を飼うならその分魔力や聖力が要る。器無しは結晶を食うしかない。暫くは養ってやるが、魔法を使えるようになったら自分で何とかするんだな。」
「魔法も、教えてもらえるんですか?」
「使えるようには、な」
なんだろう。親切すぎる。セレスのイメージと違う。そして何より、眼前の彼はかなり悪い笑顔をうかべている。

「ただし、俺が教えるのでは無い。その契約自体でお前の体は魔法は使えるようになったはずだ。」
「えっ?」
「お前の使令は特別、だ。言葉を明確に理解し操れるほどに知能が高く器も大きい。ついでに普通の契約以上に融合率を高めた特別な契約だ。」
「融合率?」
そう聞きながらとりあえず、火を出そうとイメージしてみたけれど、うんともすんともだ。

「そのマリスを使え。憑依なりなんなりして魔力の動きを身体に覚えさせれば良い。そのマリス、魔法も使えるのだろう?」

あれですね。使える体になったけれど、使えるようになるには練習が必要、と。ようやくこちらの世界での市民権を得たとはいえ、超初心者でございます。
身体の中のマリちゃんを感じると、小さな命が懸命に治癒しているのを感じる。まだ、回復には時間はかかりそうだ。
「ありがとう、ございます。」
親切にされすぎて、違和感を感じたけれどお礼は言った。あなたも、こんなキャラじゃなかったよね?パターン?

「礼を言ったことを後悔しなければいいな。」
やっぱり悪い顔で、喉の奥でクッと笑った。
「俺は約束を守った、な?コレを助ける方法を教える代わりは果たして貰う。」

そうでした。それでした。
「何をすれば?」
「下僕になれ。」
げぼく?
「しもべ、だ。忠誠を誓ってもらう。特別、のな。」
「特別、ですか。」
「従属の契約には段階がある。軽ければ『忠誠を誓う』重ければ『使令になる』、だ。相手が人か魔獣かで変わるものではない。」
「私は使令にされるのですか?」
影に溶けちゃうのん?
「いや、使令よりは忠誠を誓うに近い。あまり近づくとプライベートが侵される。それは不快だ。」

プライベートの問題がなければ人を下僕にしようとする、この人のしもべか。嫌だなぁ。でも約束かぁ、約束したしなぁ。さらっと普通の忠誠を誓うよりキツイやつっぽい説明だし。
「ついでに相互に同意のある約束をしておいて、こちらが先に約束を遂行しておくと、反故にするのは難しい。契約魔法の初歩だ。覚えておくといい。」

うげ。拒否権無いのね。道理で義理堅い正確じゃ無いのに『約束だから』断れないと嫌に強く感じる訳か。そういう常識、何で図書室の本に載ってないかなぁ?

「両方の耳朶を晒せ。」
諦めて両方の髪をあげるとセレスは手を伸ばした。
「こっちが無垢の耳朶だな。こっちを貰う。」
ウランさんの証のある側と反対側だな、と思っていると耳が燃えるほどの熱さを感じた。その後すぐ何かが身体の隅々、爪の先から髪の毛一本一本まで広がった。
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