同級生の異世界転移に巻き込まれた直後に前世を思い出した結果、乙女ゲームの世界だと判明しました

吉瀬

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94 テルラさん頑張ったの巻

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ニアメとボツワに大した魔獣はいなかった。祠の中に結界が張ってあり、それなりの大きさの結晶があったので回収する。祠の中の結界はサタナさんのもののようだったので、恐らくえいこサン達とナイロに行く際にでも寄ったんだろう。

山と谷の間の地域、何度か俺も討伐に出ているその他で魔獣を狩りまくった。ここら辺にはクマやイノシシ系の魔獣や聖獣がゴロゴロしていた。けれど狩れば狩るほど手応えは無くなる。滞在している村々からは感謝されたが、これじゃダメだ。

数日後、その時滞在していた村から次の村へ移ろうとしていると村の外が騒がしくなった。
宿に村人が駆け込み「勇者様はどなただ!」と村長らしき人が叫ぶ。
勇者と同じ宿だったのか、と思っていると宿の親父が俺を指し示した。
「あんたが勇者様か?」
勇者?俺が?
「いや、多少腕に覚えはあるが…。」
「じゃあ、あんたでいい!頼みがある!」
おおよそ人に物を頼む態度では無いが、困っているようなので話は聞く事にした。
「隣村で、バシリスクが出た!助けて欲しい!」
来た!と思った。世界の終わりが近づくと現れるモンスターの一種だ。正にサンサン達が倒していた敵。
この世界にはまだそこまでのモンスターが湧くほど力が満ちてるとは感じていなかったが、モンスターからするとそうでは無いのかもしれない。
「行こう。」
快諾して、彼らは安堵した。

その隣村は異様に静かだった。けれど感知すると人は一箇所に集まっている。例のシェルターらしい。もう一つ初めて感じる塊が村の北東にいる。
当たりをつけて一人で向かった。今ここでやられる程度なら、俺はきっと何も成し遂げられない。そう確信した。

巨大な八本足のイグアナ。あいつだ。こちらからは見えないが恐らく単眼で石化能力を持つはずだ。
巨大な体躯に似合わず素早いと聞いていたが、それ程までとは思わない。無意識にえいこサンの素早さと比べている自分がいる。

硬化させた剣でバシリスクの脚、付け根の骨と骨の間を狙って突き刺して行く、一本、二本。
三本っと数えた所で、尾で薙ぎ払われて大きく飛ばされた。着地は悪くなかった。けれど、その隙に奴の目がこちらを向いた。身体を捻ったが、左手がズンっと重くなった。石化か。
確認は後だ。身体を低くして懐に飛び込み、下から剣を突き上げた。
手応えを感じて、息の根を止めらように剣を旋回し傷を広げる。バキバキと手応えがして、剣は折れた。
バシリスクが倒れこむ前に後方に跳びのき、右手で氷柱を錬成し数十本飛ばした。

氷柱が敵を襲う瞬間、目があった。
あり得ない、穏やかな瞳。一瞬だけ時が止まって感じる。
直後、肉塊に ガッガッガッと氷柱が刺さる音がした。

やった。と思うと同時に、ズドン、と体の中で音がして鳥肌がが立つ。
正しく天啓が走った。
体の中を魔法の理ことわりが駆け巡り、知識が埋められ理解する。体の魔力がこれまで以上に満たされて、魔力への感覚が研ぎ澄まされる。
石化がなぜ起こるか。どうすれば石化を回避するかが体に書き込まれたと分かる。
試しに雑草に石化をかけたり解いたりしてみた。できる。
「そういう事かよ。」
自分で自分の左手の石化を解いて、起きた事を整理した。

この世界でより強くなる方法が分かった。RPGと同じだ。レベルで格付して、上の奴を倒したらレベルアップ。ついでにスキルごと喰える。

効率的にレベルアップするには感知の方法を変えるべきだ。明確に数値化して、視覚的に誰でも確認できるよう補助する機械を作ればいい。
出来ればスキルも解析できるようプログラムを組んで…魔力の消費があるだろうから、ある程度強くならないと使えないが、応用すれば凶暴化した獣の防災にも使える。
メモにアイディアを走り書きするのに集中して、先ほど感じた違和感のことは忘れてしまった。

シェルターに声をかけると、現れたバシリスクは一体だったと確認が取れた。念のため村を巡回してみたが、建物が、一部損壊している以外の被害は少なさそうだった。

「あんた!よくやってくれた!」
しばらくして、俺を探しに来た村人のおっさんが村に戻ってきた。年若かく見えたが、この村の村長だった。

「バシリスクを退治しちまうたぁ、あんた凄いな!何か礼をしたい。」
「いや、大事なくて良かった。礼、か。そうだな、あのバシリスクを引き取りたいが構わないだろうか?」
「かまわねぇけど、どうやって運ぶ気だ?」
「それを考えるのは、俺じゃねぇんだけどな。」
そう言って、自分に忠誠を誓ってくれた兵士の一人に『通話』した。「悪ぃ。ウランさんと話したい。繋いでくれ。」


「あんた、闇の国の兵隊さんかい?こんな辺鄙な所に珍しいな。名前は?俺はダイだ。良ければ今日は泊まっていけ。」
通話を終えて、村長は珍しそうにしながら話しかけて来た。隠すことも無いだろうと普通に名乗ると平伏された。
「英雄テルラ様とは知らずに大変失礼を!」
「ストップ!そういうのは無しだ。」
無理に立たせて話を聞くと、俺がしてきた獣退治が誇張されて伝わっていた。ウランさんのプロパガンダだ。必要な事とはいえ、一人で動くには面倒くさい。
これからは偽名が要りそうだ。
「しかし、テルラ様がいらっしゃったというのは最早運命でありましょうな。」
多少改まった言葉遣いになった村長は感慨深げだった。

「運命?」
「見ていただきたいものがございます。」

案内された先にあったのは、武器。

「これは…」
促されて手に取った剣は恐ろしく手に馴染んだ。重さも充分だが、気が馴染む。まるで体の一部のようだ。
「これは馴染みの商人が遺跡で見つけたものです。流石でございますな。我々では運ぶのが精一杯でした。」
「 運ぶのが精一杯?片手で振るう事も出来る程度には軽いが。」
ブロードソードよりは長く、ロングソードよりは短い。
「伝説の魔剣であると聞いています。」

魔剣。主人を剣が選ぶ、という。剣は運命の主人に会うべく人の手を渡り歩くとも。
「…来るか?」
そう聞くと鈍く光った。

魔剣はまだ二本あった。レイピアとブロードソード。直感的にウランさんとジェードの顔が浮かんだ。
「しゃあねぇな。運び屋になってやるよ。」
魔剣はふわりと舞って、手に収まった。
「かまわねぇか?」
村長に確認すると、深く頭を下げた。


成果を持って城に帰ると、剣術と馬術、ついでに魔法学を叩き込まれたジェードが涙を浮かべて待っていた。
「筋はええの。」
「思ったより早くお帰りでしたので、基礎しか教えることができませんでしたが。」
モートンさんとディナに礼を言ってジェードに感想を聞くと、「モートン様は飴と鞭が上手くて、でもディナさんは…鬼でした。」
やはり不用意な発言をする奴だ。ディナにもう一揉みされていた。

研究所で魔獣のレベル分けを自動で行う機械の開発を開始した。魔力や聖力自体を測定する小型機械は既にあるので、難しくは無いだろう。

それから数日後には各地の祠にモンスターが目撃されるようにもなった。魔力がモンスターが湧くほど高まっているとは思えない。そして、同時に祠の周辺でえいこサンらしき女の目撃情報もあった。
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