二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。お供は犬っぽいナルシストです。

吉瀬

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√ナルニッサ61

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 街で異変が起きたのは、それから間も無くであった。
 ロイヤルグレイスのあちこちで、一斉に怨嗟が発露したのだ。それを皮切りに国の東の領地は怨嗟が伝染していった。

「と言うわけで、そろそろ行きますか」

 状況を説明した後、すでに子供とは言え瑞獣を十数匹も使令に加えたリオネット様は伸びをした。

「どうして、そんな事に?」
「女王が私の裏切りに気が付いたんですよ。それで各地域に置いた怨嗟を取り除く装置を外させた。元々女王としては嬉しく無い代物です。それが有れば、好きな時に……カリンをかどわかした時の様に怨嗟を振りまけないので。女王はあの装置が怨嗟を払うのではなく、弾いて他の地域に飛ばす物だと公表しました。ロイヤルグレイス領での貴族の求心力も落ちたのも後押しになった様です」
「ひどい。そんな、弾いて他の地域に飛ばすなんて嘘……」
「それが嘘じゃ無いのが、リオネットの怖えとこだな」

 マジですか。

「キチンと飛ばし先は白魔道士が唸るほどいる王都の貴族街にしてたので、大丈夫ですよ」

 全く大丈夫じゃ無い。

「……そんな目で見ないでください。消し去るには魔力が多く必要で、国中に設置するのは物理的に無理だったんですよ」

 本当か?

「とりあえず、ロイヤルグレイス公は女王命で装置を取り払った。あれは我々が設置した事をロイヤルグレイスの民は知っています。それを取り除いたら怨嗟が広がった。事前に渡した怨嗟を取り除く機械も尽きてくるでしょう。あの期間でも私達を拒絶した思想の者から倒れているはずです。そこに我々が助けに行けば?」

 完全に悪役。

「政治における民意は感情的で瞬間的な物。長く保守的だった土地ほど動き出せば止まらない。一気にひっくり返しますよ。あのお馬鹿さんは震えて眠ってる事でしょう」

 リオネット様はものすごく楽しそうで、完全にロイヤルグレイス公への私怨だった。

 使令にした瑞獣のうち、年嵩の仔は見た目もそこそこ厳つい。その仔に乗って、リオネット様とアッシャーは行ってしまった。

 我々は残った赤ちゃんと子供のお世話です。
 間もなく、ロイヤルグレイス城が落ちた事が使令を介して知らされた。公は旗色が悪くなると早々に王都へ逃げ出したらしい。
 すぐにマンチェスターから怨嗟を弾く装置は運び入れられ、再設置。それによりロイヤルグレイス以外の東の地域の状況は悪化。
 1人が力を求めて怨嗟が発露すれば、それへの恐れにより周りも次々と怨嗟が波及して行く地獄と化す。リオネット様は足元を固めつつ、各地の怨嗟を払った。現れるときは十数匹に瑞獣を引き連れ空から舞い降り、神々しく怨嗟を払う。
 元々女王、貴族などを神々しいと言う理由で敬っていた者達は、実際に見て触れたリオネット様に宗旨を鞍替え。リオネット様自身が人を傷つけられない白魔道士と言うこともあり、「女王陛下に直訴しようとしたら敵と見なされ面会もできない。女陛下と話をしたいだけなんです」と言う言葉に転がされた諸侯もいたようだ。

 遠い森の中で聞く使令による報告は常軌を逸している。

「北は……マンチェスターとサンダーランドの影響が大きいから装置が外されたりし無いのはわかる。でもなぜ東だけこんななの?怨嗟の発露の被害は東に比べると西はずいぶん少ない……」

「それな、魔石ハンターと異世界人の情報網のせいやで」

 突如として雨情、それから索冥や兄様が現れた。

「ただいま戻った」
「おかえりなさい!」
「森の奥に転移させる装置は破壊された。幻覚装置もだ。これで森の奥に敵が生まれることは無い」
「いや、ダイリはん、そんなさっくり言わんといて。それなりに苦労したやんけ」
「そうか」

 雨情と兄様のやりとり見て、索冥は吹き出した。どうやら仲良しになった様で何より。

「それで雨情、ハンターや異世界人の情報網とはどう言うことだ?」
「アレがどんなもんかは、俺から情報回してあんねん。西の者からしたら、弾いて貴族街に落としてるは理に叶っとるやん、でしまいや。ついでに俺の目で見た南の記録もそいつらに流した。西では貴族はお飾りや。街のもんは魔具をそこそこ使使つこてるし、貴族は単なるお金持ってる阿呆みたいなもんや。上の役人もどっちが強いか知っとる。そこに『魔王の寝ぐらに突撃してみた件。魔王はいませんでした。代わりにあったのはまさか女王陛下の?』の映像が広まっとるはず。大規模な魔法陣は誰が作ったか判るヒントがいっぱいやねん。もちろん、それでも女王の命令でなんぼかは装置外されとるけど、外した所にもっかい設置できるようにマンチェスターから装置は融通してもらえる」

 まるで、何かに騙されているような気持ちだ。

「何百年以上も続いた治世が、ほんの一瞬で崩れてしまう、ものなの?」
「それは、カリンの感想では無い。恐らく、女王の心が共鳴して反映している」

 兄様は私を通して女王クラリスを見ているようだった。けれど、その瞳に怒りはなかった。

「壊れゆくのが一瞬の様に見えるのは、その下に積もっていた壊れる要因に気づかなかったからだ。森が限界まで耐えた様に、そちらの国の民も限界まで耐えていた。それが、ただ超えただけだ。コップの水が溢れるのは、気がつかずに水を入れ続けたのみ」

 この世界に馴染みが少ないはずの私が、今一番この世界を見てきた女王の気持ちに共鳴している。この国を慈しむ気持ちは、多分嘘ではなかった。

「女王は愛していたのは本当だと思う。でも、やり方は良くなかった。民を守ろうとしたのに、その民を見てなかった……んだね」

 リオネット様からの使令の一匹知らせを運ぶ。

『残すは王都のみ、全員集合しましょうか?』

 ナルさんは私の手を取った。

「貴女の気持ちを女王陛下に話にいきましょう」
「うん」

 私はその手を握り返した。
 
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