二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。お供は犬っぽいナルシストです。

吉瀬

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√ナルニッサ56

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 私とナルさんはリオネット様作の本を持って領地内で2番目の大きさの街に派遣された。
 リオネット様は宿で何かしているらしく、雨情は地元の魔石ハンターを引き連れて森へ。アッシャーは城のある街で本を配ったり、機械を配ったり人助けをする事になった。

「本を配って、人助けをするのが、全ての近道です」

 自信たっぷりのリオネット様に異を唱える者はいない。

 第二の街は、本当に第二なのか?と思う位にこじんまりしていた。ここで人助けって何をすれば……。

「カリン様、先ほど橋が崩れているのが見えました。そちらに参りましょう」

 視察慣れしているナルさんにとりあえずついていく事にする。

 確かに橋は崩れていた。その橋は河を渡る橋ではなく、水道橋の様だ。崩れて久しいのか、瓦礫部分に雑草があちこちから顔を出している。

「あんたら、見ない顔だな、観光客か?ここは見るもんもねぇよぉ」

 牛車を引いている農夫のおじさんが、声をかけてくれた。その牛車には桶が積まれている。

「この水道橋は直さないのか?」

 挨拶とか世間話とか一切ないナルニッサ様。

「あん?これか、瓦礫を撤去したら新たには作ってくれるらしいが、ご覧の通りだ。もうちっと崩れでもせんと、手が出せん」

 水道橋は一部が欠けているのみ。撤去するには爆破して、もっと大規模に崩さなくてはならない。落ちた瓦礫から集め始めると、上から崩落してきて危険な状態になってしまう。

「なるほど。ならば、この橋は撤去が望まれている。違いないか?」
「そうだよ。なんだ、旅の人達、あんたらがやってくれるってのか?ははは」
「ああ」

 冗談で応じた農夫のおじさんの前で、ナルさんは爆破の黒魔法を構築していく……。

「ナルさん、待って、それだと効率悪いよ」
「我が君?」
「私にやらせて!」

 私は思わず手を挙げた。

「わーい!でっかい積み木ー!がしゃーん!」

 アンズを最大サイズにしてみたら、案の定アンズさん大喜び。ニャンニャン言いながら、体当たりして喜んでいる。良きかな。

 崩れたレンガや素材は、そのまま再利用出来そうなもの、素材のリサイクル、廃棄に大雑把に黒魔法で分ける。ナルさんは、騒音で寄ってきた農夫達を色香テンプテーションで誘導し、安全な位置へ。

 農夫達の表情は、まるで御信託を聞いてるような顔になっている。ナルさん教にご入信されるかしら?

 片付けは、ものの30分で終了。アンズさんは大満足で影に戻っていった。

「凄いなぁ、あんたら」
「どういたしまして。ナルさん、水道橋も作る?」
「いえ、治水や街の整備はロイヤルグレイス公の許可が要ります。都市計画を他の領地の貴族が無断で手を出してはいけません」

 貴族の単語を聞いて、周りに集まっていた農夫達の顔色が変わった。

「あ、あんたら貴族じゃないか!」

 逃げようとして腰が抜けた人もいれば、何故かひざまずいて念仏を唱える人もいる。
 念仏……、へっぽこ翻訳機能の意を汲めば、許してもらおうとしている的な?

「すみません、皆さん。ロイヤルグレイス公は気分が優れないそうで、私達の面会は断られました。面会が許されればこちらの水道橋のお話はさせていただきますね。他にもお困りの事ありませんか?」

 私のリオネット様直伝のにこやかな笑顔に、農夫達は怪訝な顔になった。

「どうして、貴族様がそんな事を?」
「貴族とは民を助けるゆえに重んじられる階級だ。貴族がやらず、誰がやる?」

 民とナルさん双方にハテナが飛んでいるのが見てわかる。リオネット様、これを狙ってらっしゃった?

「私達はサンダーランドとマンチェスターの者です。よろしければこちらを」

 ここで本を笑顔で配布です。

「北の領地の者は皆様方と仲良くする事を望んでおります。他にお困りの事はありませんか?」

 その他お手伝いをしながら、話を聞いたところ、ロイヤルグレイス領はあまり豊かではないようだった。肥沃な土地が故に、とりあえず飢えることは無く、税は軽く無いが大きく反乱する程でも無い。他の領地に旅行に行く者は無く、他の領地との遅れも知らない純朴な民達。

 貴族は圧倒的上位で、贅沢は当然。格差が激しすぎて、それ故に怨嗟も起きにくく、更に貴族の出番は少ない。貴族様は雲の上。魔法や高貴なもの、神聖なものに畏怖を抱く民達だった。

 話を聞けば聞くほど、ナルさんの機嫌は悪くなっていく。

「噂では聞いていたが、これほどまでとは」

 農業が主産業でありながら、農耕用水道橋が壊れて放置ってのは確かにあり得ない。それも、第二の都市でコレ。他の地域は察せられる。

 ご好意でお昼に名産をいただいた後、ナルさんは街の庁舎に突撃。熱い民への想いを直訴した。色香マックスで。お役人さんもナルさん教にご入信。

 そこで近隣の街の様子も聞き出し、次の町へ移動。手伝い、本の配布、ナルさん切れて突撃、以下ループ。
 リオネット様の手のひらで転がされてるよ、ナルさん……。

 夜、とっぷりと暮れてから、アンズに乗って帰る途中、ナルさんは自己嫌悪に陥っていた。

「他所の領地に口を出しすぎてしまったかもしれません」
「見ていた感じだと、あくまで私見を述べただけなので良いと思うよ」

 しかしナルさんは、まだしょぼんとしてらっしゃる。

「貴女と初めて二人で出かけたというのに、貴女を振り回してしまった」
「私も色んな場所の色んな方のお話聞けて楽しかったし、何気に採れたて名産品一通りご馳走になれたよね」
「それならば、良いのですが……」

 まだ、ダメか。仕方ない。
 深呼吸して、色んな加護の耐性を総動員する。

「……新婚旅行は普通、領内の視察だと聞きました。その予行演習みたいで、私ずっと嬉しかったですよ?きっとナルさんは領民のためにこうやって頑張るんだろうなぁって。とてもかっこよかったです」
「カリン……」

 ナルさんは私を優しく引き寄せた。



「えー、こちら、僕の背中の上です。もう一度言います。こちらー、僕の背中の上ー」

 
私はナルさんを突き飛ばして、危うく彼を転落させ再起不能にするところだった。

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