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√ナルニッサ55
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「ここまで露骨だと笑えるよな」
アッシャーはおかしそうに笑っている。確かに笑っていられる余裕はある。私達の席が特別悪いものでは無いし、リオネット様とナルさんがVIP席に案内されただけ。1番上の、景色が良さそうだけど、皆から見上げられる位置の席がVIPなお席だ。
例え良い席でも、あの席では寛げない。アッシャーも普通に注文していたので、私もビスケットセットを頼んだ。これなら後でアンズにもあげられる。流石に飲食店でモフモフが出てきてはいけないだろう。
「どう言う事だ、店主。私は愛しい婚約者と離されて大変不愉快だ」
聞こえない。聞こえない。なーんにも、聞こえない。あー、紅茶が美味しいなー。
「何を言う?あれほど愛らしい方を下に置く意味が分からない。もしや、我が姫によからぬことを……」
「そろそろ回収に行ってきます」
「おう、大変だな。おつかれ」
VIP席の入り口付近でボーイさんに、あの人呼んで来るか、ここを通すかどっちが良いかと聞きに行った。
「お呼びでございますか?ご主人様」
そして呼びに行くより何より早く、私を見つけると飛んできた、忠犬ナルさん。
「ナルさん、ここにはここのルールがあるの。私もアッシャーもきちんとおもてなし頂いてるので騒がないようにしよう?紅茶美味しいよ?」
「私はカリン様がお側にいないと心が干上がります」
なんか、悪化してないか?この人。
「まぁ、VIP席から降りるのまで止められるのは不本意ですね。私達の席も下に用意してもらいましょう。丁度、あなた方の席は店の中央部。それはそれで面白そうです。……、ナルニッサ、カリンと外でお茶など初めてでしょう。思う存分おやりなさい」
にこーっと笑った顔は、何か考えているに違いが無い。
「リオネット、様?」
「この地域はサブカル小説が私のものしか浸透しませんでした。影響力がまだまだですね。この度、ナルニッサの小説も広める事にしましたので、コマーシャルです」
とうとう隠しもしなくなった。
用意された下の席。そこは地獄と化す。
私を膝に乗せて、私にビスケットやらケーキやらを食べさせるナルさんと、居た堪れなくて死にたい私。
にこやかに笑顔を振り撒き、サインと握手、プロモーションに余念がないリオネット様。
リオネット様に存分に、と言われて色香全開のナルさんのせいで、頭痛で「頭いてぇ」とうめくアッシャー。
ロイヤルグレイスの城の前、一等地のカフェには次から次へと野次馬が入れ替わり立ち替わり。
「これの何がコマーシャルになるんですか?」
「パッとしない小娘が、ナルニッサと私に甘やかされてる姿は色々な物語に繋がるんですよ。虐げられる層の娘を守る強い貴族の男性と言うシチュエーションは、男性にも女性にもウケが良い。特に、カリンが素朴なのがよろしい」
この人つい昨晩のまで、私の事好きとか言ってなかったっけ?
「……それとも、ナルニッサの単品だけで売り出しても良いのですか?」
ナルさんの写真とかをそこら辺の子女が買い求める……。
「それは、嫌です」
「カリン様」
ナルさんの表情が一層華やかに。
「可愛らしい嫉妬をしていただけるなんて、身にあまる光栄」
そして、左手にキスをする。
あ、ナルさんの右斜め奥に立ってたご婦人倒れた。
「痛えよ。ナルニッサ、色香もう少しなんとかなんねぇの?」
「元々、統率のためのスキルですからね、敵陣地に愛する人と仲間を守ると言うシチュエーションだと強く出やすいのだと思いますよ。いいぞ、もっとやれ」
今、最後にリオネット様らしからぬ発言がありました。
どうやら、彼はロイヤルグレイス公にしっかりムカついていた様です。
永遠に続く苦行かと思ったけれど、そこに救世主は現れた!
「茶しばいてただけやんな?なんで疲れきっとんのん?自分ら」
雨情はキョトンとして迎えにきてくれた。
「無事登録も宿の確認もできた様ですね。流石です」
「リオネット様にもろたこの目が役に立ちましたわ。ここはやっぱり、ちょっと俺らにはキビシイ土地ですわ」
雨情も雨情で何かあった様子。しかし、案内してもらった宿は最高級。安全のためという事で、部屋割はリオネット様、アッシャー、雨情で一部屋。私とナルさんで一部屋……。スイートルームなので、寝室はいくつかありはしますが。
いや、アンズがいる。そして、明日からは野営となるはず。乗り切れ私。
翌日、全員寝不足のまま再度城へ突撃。
「主人は本日体調が……」以下略。
リオネット様はまだまだ余裕の笑み。というか、むしろ楽しそうな黒い笑顔。
「本日はこれを配ります」
宿に戻ると、リオネット様達の泊まっていた部屋の主寝室には大量の本と機械と魔石の玉。
「これ、どうしたんですか?」
「魔石は雨情に取りに行かせ、本は私が書きました。読みますか?」
「こっちの怨嗟を取り除く機械は夜中中かけて俺がマンチェスターから持ってきたんだよ」
「公には早々に私達を招き入れなかった事を悔いていただきましょう」
悔やむ側に私達(除くリオネット様)全員組み入れられてるっぽい。
小説は私とナルさんのお話だったけれど、特にいかがわしいものでも無かった。前サンダーランドの信条から、それ故に代替わりした事、サンダーランドは豊かで自由で公平で、それは前サンダーランド統治の時代からである事。それ故に『穢れた血』も重用されてきた事。そして、その力が強いナルニッサは、平々凡々で異世界の血を引くだけで聖女にもなれなかったミソッカスの原石を心で愛した物語……。
私の扱いが、散々だった。
「我が君……」
読み終えた私にナルさんは少し悩んでいる表情だった。
「聞かないよ」
「え?」
「ナルさんの一族どんな意味があったのか、ナルさんが話したくなるまで待ってるから」
よその人に穢れたとか言われる筋合いは無いと思うが、ナルさんは私に説明を避けている。デリケートな問題の様なので、私からは触れない。ナルさんはナルさんで、サンダーランドはサンダーランド、それら全部、私が好きなものだ。
アッシャーはおかしそうに笑っている。確かに笑っていられる余裕はある。私達の席が特別悪いものでは無いし、リオネット様とナルさんがVIP席に案内されただけ。1番上の、景色が良さそうだけど、皆から見上げられる位置の席がVIPなお席だ。
例え良い席でも、あの席では寛げない。アッシャーも普通に注文していたので、私もビスケットセットを頼んだ。これなら後でアンズにもあげられる。流石に飲食店でモフモフが出てきてはいけないだろう。
「どう言う事だ、店主。私は愛しい婚約者と離されて大変不愉快だ」
聞こえない。聞こえない。なーんにも、聞こえない。あー、紅茶が美味しいなー。
「何を言う?あれほど愛らしい方を下に置く意味が分からない。もしや、我が姫によからぬことを……」
「そろそろ回収に行ってきます」
「おう、大変だな。おつかれ」
VIP席の入り口付近でボーイさんに、あの人呼んで来るか、ここを通すかどっちが良いかと聞きに行った。
「お呼びでございますか?ご主人様」
そして呼びに行くより何より早く、私を見つけると飛んできた、忠犬ナルさん。
「ナルさん、ここにはここのルールがあるの。私もアッシャーもきちんとおもてなし頂いてるので騒がないようにしよう?紅茶美味しいよ?」
「私はカリン様がお側にいないと心が干上がります」
なんか、悪化してないか?この人。
「まぁ、VIP席から降りるのまで止められるのは不本意ですね。私達の席も下に用意してもらいましょう。丁度、あなた方の席は店の中央部。それはそれで面白そうです。……、ナルニッサ、カリンと外でお茶など初めてでしょう。思う存分おやりなさい」
にこーっと笑った顔は、何か考えているに違いが無い。
「リオネット、様?」
「この地域はサブカル小説が私のものしか浸透しませんでした。影響力がまだまだですね。この度、ナルニッサの小説も広める事にしましたので、コマーシャルです」
とうとう隠しもしなくなった。
用意された下の席。そこは地獄と化す。
私を膝に乗せて、私にビスケットやらケーキやらを食べさせるナルさんと、居た堪れなくて死にたい私。
にこやかに笑顔を振り撒き、サインと握手、プロモーションに余念がないリオネット様。
リオネット様に存分に、と言われて色香全開のナルさんのせいで、頭痛で「頭いてぇ」とうめくアッシャー。
ロイヤルグレイスの城の前、一等地のカフェには次から次へと野次馬が入れ替わり立ち替わり。
「これの何がコマーシャルになるんですか?」
「パッとしない小娘が、ナルニッサと私に甘やかされてる姿は色々な物語に繋がるんですよ。虐げられる層の娘を守る強い貴族の男性と言うシチュエーションは、男性にも女性にもウケが良い。特に、カリンが素朴なのがよろしい」
この人つい昨晩のまで、私の事好きとか言ってなかったっけ?
「……それとも、ナルニッサの単品だけで売り出しても良いのですか?」
ナルさんの写真とかをそこら辺の子女が買い求める……。
「それは、嫌です」
「カリン様」
ナルさんの表情が一層華やかに。
「可愛らしい嫉妬をしていただけるなんて、身にあまる光栄」
そして、左手にキスをする。
あ、ナルさんの右斜め奥に立ってたご婦人倒れた。
「痛えよ。ナルニッサ、色香もう少しなんとかなんねぇの?」
「元々、統率のためのスキルですからね、敵陣地に愛する人と仲間を守ると言うシチュエーションだと強く出やすいのだと思いますよ。いいぞ、もっとやれ」
今、最後にリオネット様らしからぬ発言がありました。
どうやら、彼はロイヤルグレイス公にしっかりムカついていた様です。
永遠に続く苦行かと思ったけれど、そこに救世主は現れた!
「茶しばいてただけやんな?なんで疲れきっとんのん?自分ら」
雨情はキョトンとして迎えにきてくれた。
「無事登録も宿の確認もできた様ですね。流石です」
「リオネット様にもろたこの目が役に立ちましたわ。ここはやっぱり、ちょっと俺らにはキビシイ土地ですわ」
雨情も雨情で何かあった様子。しかし、案内してもらった宿は最高級。安全のためという事で、部屋割はリオネット様、アッシャー、雨情で一部屋。私とナルさんで一部屋……。スイートルームなので、寝室はいくつかありはしますが。
いや、アンズがいる。そして、明日からは野営となるはず。乗り切れ私。
翌日、全員寝不足のまま再度城へ突撃。
「主人は本日体調が……」以下略。
リオネット様はまだまだ余裕の笑み。というか、むしろ楽しそうな黒い笑顔。
「本日はこれを配ります」
宿に戻ると、リオネット様達の泊まっていた部屋の主寝室には大量の本と機械と魔石の玉。
「これ、どうしたんですか?」
「魔石は雨情に取りに行かせ、本は私が書きました。読みますか?」
「こっちの怨嗟を取り除く機械は夜中中かけて俺がマンチェスターから持ってきたんだよ」
「公には早々に私達を招き入れなかった事を悔いていただきましょう」
悔やむ側に私達(除くリオネット様)全員組み入れられてるっぽい。
小説は私とナルさんのお話だったけれど、特にいかがわしいものでも無かった。前サンダーランドの信条から、それ故に代替わりした事、サンダーランドは豊かで自由で公平で、それは前サンダーランド統治の時代からである事。それ故に『穢れた血』も重用されてきた事。そして、その力が強いナルニッサは、平々凡々で異世界の血を引くだけで聖女にもなれなかったミソッカスの原石を心で愛した物語……。
私の扱いが、散々だった。
「我が君……」
読み終えた私にナルさんは少し悩んでいる表情だった。
「聞かないよ」
「え?」
「ナルさんの一族どんな意味があったのか、ナルさんが話したくなるまで待ってるから」
よその人に穢れたとか言われる筋合いは無いと思うが、ナルさんは私に説明を避けている。デリケートな問題の様なので、私からは触れない。ナルさんはナルさんで、サンダーランドはサンダーランド、それら全部、私が好きなものだ。
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