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√ナルニッサ52

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 命令通りに会に出たは良いが、集まりはいつも通り。出席している女性達も何度か見た事がある姫ばかりで、新しい若い女性は明らかに甥達との見合い相手だった。

 兄上は今更何故この様な会に私を出させたかったのか?これで見つかるなら、すでに10年の間に見つけていると言うものだ。
 大体、姫の親達もサンダーランドの色香で現実を見せて、そこまでの相手と恋仲になるのは難しいと鼻っ柱を折るために出席させている者までいる様な会である。

 解せぬ。

 鏡に映る自分を見て、カリン様が心悩ませ始めたのは、丁度私が髪を切った後であったな。などとどうでも良い事を考えていたら、奴が現れた。
 間違いなく、奴だったが、何故か女装していた。

「リオネ……?」
「しっ。一曲踊りましょう?」

 ルージュを引いても違和感が無いのは、流石にあちらの世界での殻が女性だったからか。女性より体は大きいが、背の高い自分にはむしろ踊りやすい身長なのもあり、驚きで思わず手を取ってしまった。

「……ナルニッサはカリンが好きなのでは無いのですか?」
「急になんだ?」
「この会に出席を快諾した事が気に掛かったので」
「……我が君は、愛する人を探せとお命じになった。私は探したが、見つからなかった。兄にも我が君に命じられたと伝えたので、私の不徳の致すところで見つからなかった事は主人のとがにはあたらない。それで収めるのが最善だろう?」

 この男もその考えに気がつかない訳が無いだろうにと困惑した。

「我が最愛の妹が泣いていたのでね」
「……カリン様は城か?アッシャーの迎えに雨情が出ているのだろう?カリン様がお一人で城にいらっしゃるなら、私が参る」

 待って欲しいと言われてひたすらに耐えて待った。夜も、いつお声がかかっても良い様にと待ち続け、その事に彼女が気がつかない程に悩んでいらっしゃる事に断腸の思いだった。
 思い悩まれてのお願い事が大した事がなく、それを今日クリアすれば流石に何かお話があると思っていた。無ければ、もう待てず、待てない事を謝罪して彼女に話をと思っていたところだった。
 走り出そうとすると、手を無理矢理引かれた。

「待ちなさい。この唐変木とつへんぼく
「……その罵倒は人生で初めて聞いた」

 言うに事欠いて唐変木まぬけとは。

「貴方は、カリンに命令されてここにいるのでしょうが。命令を破るんですか?そもそも待っていて欲しいも、主人の意向のはずです」
「それは……」

 そう言えばそうだ。忠誠を誓った初めの頃は確かに忠誠の縛りを感じていた。最近は……、感じてはいない事もないが……。

「索冥に裏をとってあります。貴方の忠誠は心の忠誠。能力の忠誠でも、ましてや血の忠誠でも無い」
「アンズ殿もそのような事を言っていたが、私はその意味を知らない」

 途中から踊っていた曲が一曲終わって、もう一曲と続ける。

「普通の忠誠、つまり能力の忠誠で使令は魔力を受ける事を褒美に忠誠を誓います。その忠誠は『主人』が求めて『下僕』が応える。しかし、心の忠誠は『下僕』が望んで『主人』が認める。報酬はありません。そもそもの望みが下僕側からの『繋がり』ですから。前サンダーランド公とルシファーの一族、ルシファーの一族と索冥の関係は血の忠誠です。褒美が何かは良くご存知のはずだ。貴方はルシファーの血で心の忠誠を誓っただけに過ぎない」
「違いは、あるのか?」
「自覚がないのが悪いですね。アンズ殿の修行の時の通り、心の忠誠を誓った場合は、『ある程度の期間なら下僕側からいつでも忠誠を切る』事が可能なんですよ。そもそも、主人カリンに触れたいから触れるというのは基本的にしもべに許されている行為ではない。ナルニッサは自分の都合よく忠誠を、ぶちぶち切りまくっている」
「そうだったのか」

 言われれば思い当たる事ばかりだった。彼女に触れたい衝動が勝てば、体の中にあるスイッチが切れる様な感覚はあった。
 だからこそ、森で彼女が倒れている時、魔石を持っていたにも関わらず私は彼女の唇を奪う事ができてしまった。

「何が『そうだったのか』ですか。このあんぽんたん」
「その罵倒も初めて聞いた」

 珍しい。この男が怒っている。からかって交わすより、余程人間らしい可愛げを感じる。

「あんぽんたんに違いない。可愛い妹を泣かせやがって、あたしはまだあんたを認めてない」
「口調が10年ほど前に戻ってるが?」
「いいんだよ、あっちの世界での恋を失したばかりなんだから、今日くらい。それより耳かっぽじって聞きやがれ、カリンを泣かせてるのはお前だ」
「何故?」
「せっかく髪の毛の台の役割が無くなったんだから、ちょっとは頭で考えれば?カリンが泣きながらあんたに恋人を作れって言う理由はなに?」
「私に世継ぎを作るというサンダーランドの役割を果たさせたいのだと」
「どーして微妙にズレるかな?世継ぎを作るのを邪魔したくないんだよ、あの子は!これで分かりなよ!」
「邪魔をされる?カリン様が?」

 あの方は私に慈悲の心で接してくださっている。邪魔をされたら、だと?
 もし、私が他の者と子をなす事を、カリン様が邪魔してくださったとしたら……それは。

「まさか」
「くそあんぽんたん。周りから見たらバレバレ過ぎて、ナギア殿もあんたの心はお見通し。二人が早くくっつくためにこんな発破かけられてるんだよ」
「……何故だ?リオネットもそれに手を貸すなど。お前もカリン様の事を……」
「ええもちろん、画策したけど?無駄だったんだよ。カリンは死ぬほどあんたが好きで、入り込む余地無かった。言わせんんじゃない!ついでに、この城のどっかにカリンを連れてきた。ああ、もう、クソ惨め。全部あんたのせいだ」
「カリン様が……私を……」
「それから!カリンから指輪預かってんだよね?持ってきてるよね?あれは……」

 リオネットは散々悪態をついて、最後に私の足をドレスで隠しながらも蹴り飛ばして帰っていった。
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