二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。お供は犬っぽいナルシストです。

吉瀬

文字の大きさ
上 下
43 / 64

√ナルニッサ42

しおりを挟む
 そんな、まさか。あの雨情が?

「雨情を……殺したの?」
「いいえ、大事な情報源だ。おとなしくはしてもらったが、まだ死んではいない」
「あなたは、……あなた達はカリンを殺すのね。私を殺して、カリンを殺して、それから雨情も」
「初めから、お前ら異世界の血はこの世界の穢れでしかない」
「じゃあ、なんで呼び出すのよ……」

 私みたいに2回目で来たい人なんて他にはきっといないはずだ。

「人未満であるからこそ、魔王と戦わせられる。貴族や力を持つ民が殺されれば、それだけでこの世界の損失だろう?」

 怖い。完全に正義を確信している目だ。

「女王陛下に逆らうの?」
「あの方の気持ちを慮るのが配下の役目」
「クラリス様はそんな事考えてない!」
「我が君の名を、下賤が口にするな!穢れるわ!」

 エイスは杖を、杖にしていた剣を鞘から抜くと私に構えた。こちらはクナイしか無い。ダガーもマインゴーシュも宿屋のカバンの中だ。クナイも目立たない様に普通の強度。リーチも不利だ。

「くっ?」
『がおーっ。カリンちゃんに剣を抜いたから敵ー!』

 仔熊ちゃんがエイスの左手に噛み付いた。

「危ない!」

 スローモーションの様に見えるのは、何かの加護のおかげだろうか?見えている。どうなるか分かる。なのに、体が追いつかない。

 ざくっ。

『ーーーっ!』

 剣は仔熊ちゃんを貫いて、声にならない叫びがこだまする。

『おのれ』

 熊ちゃんがエイスに飛びかかろうとし、エイスが構えて、今!

「ぎゃあっ!」

 クナイで右手首を引っ掛けて引っ張ると、バランスを崩したエイスの左肩を熊ちゃんは噛みちぎった。

「あ、あぁあ、うぐっ」

 エイスは……、負けを察したのか逃げ出した。あの傷なら普通は失血死する。しかし白魔法が使えるなら命に別状は無い。ただし、左手はここに残しているから片手を失うのは確実だ。
 追いかけてとどめを刺した方が良い?と一瞬逡巡した私を仔熊ちゃんが現実に引き戻してくれた。

『いた、い。さむ、い』
『ああっ!』

 刺された位置は肺。人体絵本だと、白魔法でなんとかできる部位、のはず。
 やるしか無い。やった事無いけど、成功させるしか。方法は学んだ事はある。

「再生」

 ごそっと魔力が抜ける音が聞こえた。体の何かが危険信号をおくってくる。でも、それは同時にはじめての再生の魔法が成功した事も物語っていた。

『いた、くない?痛くないよ!ママ!』

 ぴょこんっと仔熊ちゃんは起き上がった。

『カリン……ありがとう』
『こちらこそ、巻き込んですまなかった。助けてくれてありがとう。仔熊ちゃんも』

 仔熊ちゃんはコロコロ走り回っていて、もう大丈夫そうだ。

『待て、煙の匂いがする』

 喜ぶ暇もなく、熊ちゃんの視線の先を見ると、エイスが逃げていった先から煙が上がっていた。

『森に、火をつけたか!』
『消しに行ってくる』
『カリン、体調が悪そうだが?』
『魔力切れだと思う。魔石を拾いつつ消しに行ってくる。エイスもあの怪我だ。火をつけて、一旦逃げ帰ってからまた捜索するつもりだと思う。熊親子は他の動物を水辺に先導して欲しい』
『分かった。無理はするな。命があれば、この森は諦められる』

 嘘だ。森を無くせばその森に住んだほとんどの生き物は消えるしかない。多少は周りの森林が吸収できるが、それも範囲が狭ければ、だ。吸収した森も勢力が変わり植生が変わり、ただでは済まない。森で生きた数年で、そんな事は私でも知っていた。

 熊さんに気を遣ってもらっちゃった。

 勇者の加護様様だ。痛くない。怖くない。魔力切れの先が何か分かる。でも無理やりでも走れる。落ちている魔石なんかじゃ、もうなんの足しにもならない。拾っている時間は無い。
 火の元に向かうと、まだ広がりは大きくなく、ジャングルの湿度に助けられていた。
 それでも、魔法で点けられた火を自然に消すほどの効果は無い。
 すべき事が分かった。それなら、と念の為影に声をかける。

「チュンチュン、ここに居たら危ないから逃げて。もういいから」

 今になって分かった。チュンチュンはナルさんから魔力を届けてたから、私から離れられなかったんだ。

「もう、魔力は要らないから」

 相変わらずぽやーっとした顔の小鳥は、はて?という顔のまま飛び立っていった。
 あの子からの魔力では足り無い。充分な魔石を拾っていると、火は広がって間に合わない。

 あの子がナルさんに届いて、ナルさんがここに来るまで何日かかるんだろうか。待つ事はできない。

「水流」

 沸き立つ水のイメージ、崩れゆくみずからの体。

 あ、これ、死んだわって思った瞬間、何故かナルさんを思い出した。
 帰らないと、また泣かせてしまうのに。

 火が鎮火するのを見届けて、私の体は地に落ちた。

 地面の冷たさすら感じない。目に光すら感じない。

 違うな、ナルさんを泣かせたく無いから帰りたかったんじゃない。

 私が、ナルさんに会いたいから、帰りたかったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。勇者見習い女子が勇者の義兄を落とす話。

吉瀬
恋愛
 10歳で異世界を訪れたカリン。元の世界に帰されたが、異世界に残した兄を想い16歳で再び異世界に戻った。  しかし、戻った場所は聖女召喚の儀の真っ最中。誤解が誤解を呼んで、男性しかなれない勇者見習いに認定されてしまいました。  ところで私は女です。  兄を探すためにお世話になった家の義兄が勇者候補なんですけど、病んでるっぽいので治そうと思ったらややこしいことになりました。 薄幸の器用貧乏男に幸あれ √アッサム

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...